第13章-11 結婚式当日
マグコミで掲載中の漫画版にて、ナミタロウが二度目の登場です。それと最後の方に、山猫姫の三人も初登場しています。良ければ一度、覗いてみてください。
「それじゃあ、始めましょうか」
俺の合図で、結婚式の会場となっている満腹亭のカーテンが一斉に引かれ、会場が真っ暗になった。その間に俺とプリメラは司会者用の席に移動した。移動が終わると、じいちゃんが『ライト』の魔法を使って俺とプリメラを照らした。
「ただいまより、冒険者アンリ、冒険者ギルド職員セルナの結婚式を行います」
いつもとは違う俺の話し方が面白かったのか、客席から小さな笑い声が聞こえてきたが、プリメラが口を開こうとすると、すぐに静かになった。
「初めに、特別ゲストの紹介です」
プリメラから、アルバート、カイン、リオンの紹介が行われた。普通、こういった形でゲストの紹介をする事はないそうだが、公爵、侯爵、辺境伯の次期当主が紹介された事で、参列客の雰囲気が変わった。緊張感が強いみたいだが、これでこの結婚式が特別なものだと認識してくれればいい。
「それでは、本日の主役の入場です」
俺がそういうと、入り口付近に控えていたプリメラの部下によってドアが開かれた。ドアが開かれると同時に魔法が消され、式場はセルナさんとアンリの背後から差す光のみとなり、二人の影を浮かび上がらせていた。
ドアが閉じられて会場が再び暗くなると、すぐにじいちゃんの魔法が歩き出した二人を照らした。光の中を歩くアンリは会場の雰囲気のおかげか、いつもより男前に見えた。そしてセルナさんは、ドレスに使われているゴルとジルの糸が歩くたびに煌めき、とても神秘的で魅力的だった。その姿は、男性はもちろんの事、女性の参列客も感嘆の息を漏らすほどだった。
俺は、二人が一番前まで進んだのを見計らってからその前に進み、
「不肖、このテンマ・オオトリが、皆様を代表いたしまして、二人に夫婦の誓いを問わせていただきます」
俺がこの役をやっていいのかと思ったが、貴族の結婚式でも神官や自分達より身分の高い人や上司に頼んだり、一般人だと知人や友人に頼んだりする事があるので、特におかしな事ではないらしい。
「新郎アンリ。あなたは新婦セルナを、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います!」
「新婦セルナ。あなたは新郎アンリを、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
アンリは緊張からかかなり大きな声になっていたが、練習の時よりも力強く答え、セルナさんは涙ぐみながら静かに答えた。
「続いて、指輪の交換をお願いします」
俺が目配せすると、プリメラが指輪のが入った小箱を持って俺の横に並んだ、そしてアンリに指輪をセルナさんの指にはめるようにこっそりと合図を出したのだが……あろう事かアンリは、自分用の指輪を手に取った。その瞬間、客席で見守っていたフェルトからアンリに向けて、殺気にも近いプレッシャーが向けられた。そのせいで、手伝いに入っていたプリメラの部下やニコラス達リオンの護衛の騎士、それに冒険者達が反応して動きかけたが、すぐに理由に気が付いたようで警戒しつつ見守っていた。かなりきわどい事になりかけたが、フェルトのおかげアンリはすぐに間違いに気が付いてセルナさん用の指輪に持ち替え、セルナさんの指にはめた。
そしてセルナさんの方はというと、少し手が震えてはいたものの、アンリ程のトラブルもなく練習通り指輪の交換を終えていた。
「それでは、誓いのキスを」
前世であれば、カメラのフラッシュが雨あられのように二人を照らすだろうが、今世ではそんなものは存在していないので、代わりに俺とじいちゃんの魔法で二人を照らした。
「ただいまの誓いをもって、この二人を夫婦と認めます。証人はここにいるすべての人であり、お二人はここで誓いを見守った人々に恥じぬ人生を送ってください」
「「はい!」」
二人が返事をすると、参列客から盛大な拍手と歓声が挙がった。まあ、中には興奮したのか、数人の冒険者がアンリを胴上げし、そのままどこかに捨てに行こうとしていたが……女性の冒険者達に怒られて未遂に終わった。
「それでは、お食事の方に……プリメラ、お客さんみたいだ」
そろそろ食事を開始しようとした時、外を見張っていたスラリンが赤い旗を上げていた。プリメラもスラリンの旗を確認し、扉の近くに控えていた部下に合図を出した。そして、
「何を勝手、にぃいいいっ!」
スラリンが旗を振り下ろすと同時に、扉が乱暴に開かれてアンリの父親が姿を見せた……が、全てを言い切る前に、数人のプリメラの部下に剣を向けられて尻餅をついていた。
「いきなり何をするんだ! 我々はアンリの身内だぞ!」
尻餅をついている父親に代わり、ファルマンが抗議した。父親はここにやってきた目的を思い出したらしく、
「貴様ら! 我々が誰だかわかってやっているのか!」
父親はアビス子爵を意識しながらそんな事を叫んでいたが、当の子爵は父親を無視してその場に膝をついた。
「お久しぶりでございます、アルバート様、プリメラ様」
アビス子爵の行動に、父親は訳が分からないといった顔をしていたが、ファルマンの方は慌てた感じを出しながらも、アビス子爵と同じように膝をついた。
「久しぶりだな、アビス子爵。それで、この目出度き日に、いったい何用だ?」
アルバートがアビス子爵を責めるような口調で要件を聞き、アビス子爵は頭を下げたままで答えた。その間に父親はファルマンに無理やり跪かされ、小声でアルバートの正体を聞かされて絶句していた。
「急にきて申し訳ないが、我々の席も用意してもらえないだろうか?」
アビス子爵はアルバートと少し話した後で、俺に結婚式への参加の許可を求めてきた。
「二人と関係があり、心から祝おうと思っている人ならば問題ありません。ただ、子爵様お一人分の席は前の方に用意できると思うのですが、その他の方は後ろの方になります」
俺の言葉にアビス子爵は頷いたが、父親の方は納得がいかない様子だった。
「ふざけるな! なぜ私が後ろに座らなければならないんだ! そこら辺の冒険者を後ろにやればいいだろうが!」
父親の言葉に、それまで大人しくしていた冒険者達がキレかけて、腰を浮かせかけていた。それに気が付かない父親は続けて、
「そもそも貴様の態度はなんだ! 平民の分際で、私に後ろに行けなどと、何様のつもりだ!」
などと言い出した。この言葉を聞いて、キレかけていた冒険者達は椅子に座り直した。
「平民と言いますが、あなたは貴族様ですか? もし貴族籍を持っていないのならば、あなたも平民ですよね? それに、父親と言っていますが、あなたがアンリを勘当した以上、親子の縁は切れていますよね? なぜ他人の結婚式に乱入してきた平民に、特等席を用意しなければならないのですか? 一番後ろとはいえ、席を用意するだけ感謝してください」
俺の挑発に父親は顔を真っ赤にし、今にも爆発しそうな雰囲気だったが、
「いい加減にしないか! 先程から大人しく聞いていれば勝手な事ばかり言いおって!」
「アビス子爵、なぜこの者を連れてきたのだ。こやつのせいで、せっかくの結婚式が台無しではないか」
「勘当したとはいえ、息子の結婚式でこのような真似をするとは思いもよらず……何にせよ、私がいればこういった事は起きないだろうと軽く見ていたのは確かです。まことに申し訳ありません」
アビス子爵に怒鳴られた父親は、驚き固まっていた。そして、アルバートと参列客に謝罪したアビス子爵に睨まれて、顔を真っ青にしていた。そして最後に、
「先程お前が平民と馬鹿にしていたのは、『龍殺し』と呼ばれているテンマ・オオトリ殿だ。平民と言えば平民ではあるが、オオトリ家は下手な貴族より気を使わなければならないというのは、この国の貴族にとって今や常識だ」
俺の正体を知った瞬間、父親は気を失って倒れた。
「これくらいで気を失うなんて……色々考えていたのが無駄になったな」
ファルマンは、気を失った父親を見下ろしながらそんな事を呟き、会場の参列客に向かって謝罪していた。いきなり態度の変わったファルマンを見て、参列客のほとんどが怪しんでいたが、アルバートが俺が父親を潰す為の作戦に協力していたと言うと、一転して盛大な拍手を送っていた。
「それでは一段落着いたところで、食事の時間にしたいと思います……お酒も出ますが、『酒は飲んでも飲まれるな』を合言葉に楽しんでください」
酒が出ると聞いて酒飲み達が歓声を上げたが、最後の方で軽く殺気を飛ばすと静かになった。これくらいやっておけば、酒場でやるような馬鹿騒ぎは起こさないだろう。
食事を開始しようとしたところ、ファルマンが父親を連れて帰ろうとしたがアンリとセルナさんに引き留められ、父親を後ろに寝かせて前の席で食事をする事になった。
「まずは前菜から」
まずはおやじさん特製の鶏ハムや角ウサギを使ったスープ、タイラントサーモンのマリネといった軽めのものを続け、
「角ウサギのシチューとサーモンの塩焼きです」
ちょっとボリュームのあるものを出した。参列客はごく普通のシチューと塩焼きだと思っていたみたいだが、実際に出てきたのはパイで蓋をして焼いた『シチューのパイ包み焼き』と、周りを塩で固めて焼いた『タイラントサーモンの塩釜焼き』だったので、想定外の料理に皆驚いていた。
「塩焼きの方はここで切り分けますので、少々お待ちください」
シチューを先に配り、塩釜焼きはおやじさんに皆の前で塩釜を割ってから切り分けてもらった。本来なら、一品ずつ出すのが正しいのだろうけど、今回はアンリの父親に見せつける意味もあった為、二つ同時に出す事にしたのだ。まあ、父親は気絶しているので、同時に出す意味はなくなってしまったが……皆が喜んでいるので構わないだろう。
口休めのシャーベットを出した時に参列客の様子を確認したが、皆まだまだおなかに余裕がありそうだった。この様子だと、メインも楽しんでもらえそうだ。
「次の料理です。次は、ワイバーンの肉を使った料理の盛り合わせとなっております」
ワイバーンの肉を使った料理を、小分けにして盛り合わせたものを用意したのだ。ローストワイバーンにハンバーグ、カツにから揚げに串焼きといったもので、自信作ばかりを集めたような一皿になっている。実際に素材の珍しさもあって、参列客からはこれまでで一番の盛り上がりを見せていた。
「サラダの後は、本日の目玉料理の登場です」
ワイバーンの肉が一番だと思っていたらしい参列客の間から、それ以上の料理が出るのかといった驚きの声が聞こえてきた。
その声に反応するように明かりを消し、食堂の方からアムール、ジャンヌ、アウラ、レニさん、山猫姫の三人の手で、高さ一m程ある五段重ねのウエディングケーキが運ばれてきた。
「新郎新婦による初めての共同作業を、皆様の前で行ってもらいます」
ケーキが会場の中央のテーブルに置かれたところで二人を呼び、
「それでは、お願いします」
プリメラの合図で、二人は息を合わせてケーキにナイフを入れた。その瞬間、打ち合わせ通りにアルバート達が拍手をすると、二人を見ていただけだった参列客も、アルバート達に合わせて拍手を送った。
ケーキはその場でおやじさんにより、下の四段が切り分けられたが一番上は切らずに取り外され、セルナさんとアンリの前へと運ばれた。
「まずは新郎新婦に、食べていただきます。どうぞ」
切り分けられたケーキが全員に生き渡ったのを見て、最初に主役の二人に口にしてもらう事にした。これは事前に打ち合わせていたのだがアンリは緊張から、互いに食べさせ合わなければならないところを、自分の口に運ぼうとしてしまった。だが、セルナさんがすかさずアンリの口の前にケーキを持って行った事で、口に入れる寸前で気が付き、何とかセルナさんの口元にケーキを持って行く事ができた。
「それでは皆さん、お食べください」
二人が食べたのを見て、参列客に合図を出したところ……見事に二通りの食べ方に分かれた。一つはセルナさん達と同じようにカップルで食べさせ合う方法と、それを見ながら自分一人で食べる方法で、前者の代表格はフルートさんとギルド長で、後者の代表格はリオンだ。
食事が終わった事で予定の大半が終わり、後は終了時刻まで各々気楽に過ごすだけという時に、ファルマンが父親を連れて帰ると言い出した。なんでも、気を失ってから大分時間が経っているので、いつ目を覚ますかわからないし、この場よりも二人だけのところで起きてくれた方が計画を進めやすいからとの事だった。
「それは分かったが……間違っても殺すなよ。縁が切れているとは言え父親殺され、その犯人が新郎の兄とか、二人にとってマイナスにしかならないからな」
強く念押しするとファルマンは笑って頷き、「そんな事は絶対にしない」と確約した。ファルマンはセルナさんとアンリに気が付かれないように父親を馬車に運び、そのまま満腹亭を後にした。
「テンマさん! 本当に、本当にありがとうございますーーー!」
「おわっ!」
ファルマンを見送り、自分の席に戻ろうと振り向いた瞬間、号泣しているマルクスさんに抱きつかれた。
「こんな、こんな素晴らしい結婚式を! セルナが幸せそうな姿を! 姉にも見せたかった!」
「ちょっと、マルクスさん。いったん離れてください」
マルクスさんはかなり酔っぱらっているようで、俺の話を聞いていなかった。はっきりと聞き取れたのは最初のお礼の言葉だけで、後は断片的なものばかりだった。そのほとんどがセルナさんの殺された母親や父親の事ばかりだったので、他の参列客に聞かれないように会場の隅に連れて行ったのだが、マルクスさんの声が大きくてあまり意味がなかった。もっとも、参列客のほとんどがセルナさんの事情を知っている者だった為、わざと大きな声を出して聞いていないふりをしたり、事情を知らない客の気をそらそうと話しかけたりしていた。
「テンマ、わしが代わろう」
マルクスさんと何とか会話を成立させようとしていると、じいちゃんが来て代わってくれた。一瞬、マルクスさんは俺に話を聞いてもらいたくて来たのだろうから、このまま俺が話を聞いた方がいいのではないかと思ったが、このままではまともに話ができそうにないので、じいちゃんの年の功に任せてみる事にした。
しばらく離れて二人を見守ってみたが、俺の判断は間違っていなかったようで、しばらくするとマルクスさんは大分落ち着いたらしく、じいちゃんの話を聞いていた。
「セルナさん、おめでとうございます」
「ありがとうございます、テンマさん。こんな立派な結婚式……なんといっていいか……」
セルナさんは、涙ぐみながら俺にお礼を言い、プリメラに背中を撫でられていた。その役目は新郎のアンリのものだと思ったら、当のアンリは冒険者の先輩や仲間達に囲まれて身動きが取れない状態だった。
セルナさんやアンリのところに、友人や同僚が次々と集まって来ていたので場所を譲り、ダニエルの様子を見に行こうとしたのだが……ダニエルは酔い潰れているようで、テーブルに突っ伏していた。
「オオトリ殿、結婚式の参加を許可していただき、本当に感謝している」
アビス子爵は、わざわざ俺のところまで礼を言いに来た。
「それはセルナさんとアンリに言ってください」
「いや、今回のような場合は、参加者を決めるのは基本的に主催者だ。私はアンリの知り合いであるものの、オオトリ殿とは全く面識がなかったし、厄介者も連れていた。断られてもおかしくない」
そういいながら、アビス子爵は壁に飾られている四つの旗に視線をやった。その四つの旗には、オオトリ家、サンガ家、サモンス家、ハウスト辺境伯家の家紋が入っている。
「あれは私を利用して、アンリとセルナさんに力を見せつけるつもりだったのだろうが……正直言って、あれが私を担ごうとする前に退場してくれて助かった。この四家にたった一つの子爵家で対抗しようなど、笑い話にしかならない。担がれても参加を断られても、どちらにしろ恥をかくだけだっただろう」
なので、父親がアビス子爵の名前を出す前に、飛び入りという形で参加の許可が下りたのはありがたかったという事らしい。
「そろそろ、私も行くとしよう」
この後アビス子爵は、ファルマンの手伝いに行くそうだ。あの二人より先に会場を出る予定だったらしいが、俺と話す為に残っていたそうで時間的にはギリギリとの事だった。
「アルバート様達ほど役に立てるか分らぬが、何かあれば手を貸そう。それと、プリメラ様を頼むぞ」
「ありがとうございま……は?」
どういう意味なのか問い質そうとしたが、アビス子爵は足早に満腹亭を出て行ってしまった。
「何で早とちりしたがるのかな……」
「だといいですね」
アビス子爵の勘違いにため息をついていると、背後からフルートさんが声をかけてきた。
「まあ、その事は置いておいて……すごい結婚式でしたね。流石は『龍殺し』の本気という所ですか?」
フルートさんはからかうように笑っていた。その横にはギルド長はおらず、俺の視線に気が付いたフルートさんが指で居場所を教えてくれた。ギルド長がいる場所は……
「あの人なら、いの一番にアンリさんをからかいに行きました」
アンリを囲んでいる輪の一番内側に……と言うかアンリの隣に、ギルド長がいた。ギルド長は酔っているのか、アンリにしつこく絡んでいた。
「あれ、放っておいていいんですか?」
「お説教は帰ってからにします。いまだと、場を白けさせるだけですから」
しっかりと尻に敷いているんだな……と思っていると、
「それよりテンマさん、彼女をほったらかしにしていいんですか? 何か困っているみたいですけど」
フルートさんに言われて視線を向けると、プリメラが酔っぱらいに絡まれていた……クリスと言う名の酔っぱらいに……
「ちょっと行ってきます」
フルートさんに断りを入れて、プリメラとクリスさんのところに行くと、クリスさんがプリメラに文字通り絡んでいた。
「クリスさん、プリメラが困ってるよ。だから、離れて、離れて」
「え~、やぁ~よ~」
プリメラに絡まっていたクリスさんを引き離して椅子に座らせると、すぐにレニさんがやって来てクリスさんをどこかに連れて行った。
「助かりました……」
「災難だったな。ああなったクリスさんは、ウザいからな……それにしても、酔っぱらいが増えてきたな。そろそろ一度お開きにして、二次会に突入させるか」
このままだと、アンリや参列客はともかく、ウエディングドレスを着ているセルナさんがきつそうなので、一度仕切り直しをする事にした。
その旨を皆に伝えると、セルナさんは明らかにほっとした顔をして、着替える為に二階に上がっていった。ただ、アンリはそれでも解放されなかったので、そのままギルド長達の相手をさせる事にした。
「それでは、主賓のお色直しも終わったところで……二次会に突入します! 料理も飲み物も色々用意しているので、心行くまでお楽しみください! ただし、常識の範囲でお願いします。でないと……怒ります」
『料理も飲み物も』のところで参列客が大いに沸いたが、最後に『怒ります』と付け足したとたんに静かになった。まあ、実際に料理が運ばれてきた瞬間に、もう一度騒がしくなったが……どう考えても駄目だろうという苦情が来ない限りは、多少羽目を外すのは仕方がないだろう。ちなみに、運ばれてきた料理はコースで出したものの余りや簡単に作れるものにパンなどで、それぞれ好きにとって食べるバイキング方式にしてみた。もっとも、それだけだと皿ごと持って行く馬鹿も現れるはずなので、一人につき一皿配り、一度に取れるのは皿に乗せれる分だけとし、それを食べきってからでないとお代わりできないというルールを作った。
そのルールが功を奏したのかセルナさんの同僚のギルド職員達も、冒険者達に交じってもちゃんと料理を食べる事ができていた……もっとも、料理がなくなった頃を見計らって出したお菓子類に関しては、女性陣が結託してお菓子のほとんどを確保し、それぞれでシェアして食べていたので男性陣の多くが食べ損ねていた。
「お菓子にもルールを作るべきだったか……」
「いや、これは予想……できていたな」
「そうだね。ほらあそこ、警備を同僚(男性騎士)に押し付けて、プリメラの部下(女性騎士)も参加してるよ」
「まあ、テンマの事だから、お菓子の予備を確保しているんだろう? それを出してくれよ」
アルバート達とお菓子を食べる女性陣を眺めながら話していると、リオンが余計な事を言った。そのせいで自然と俺に視線が集中し、中には「あるなら出せよ……」という声が聞こえそうなほど強いものもあった。
お菓子への執着心が強すぎるせいで、いくら「持っていない」と言っても、なかなか信じてもらう事ができなかった。
「お菓子の執着心がすごすぎて怖い……」
軽くトラウマになりそうになった俺だった。なお、その後二次会は無事終了し、そのまま飲んで騒ぐだけの三次会へと突入し、何度目かの〇次会を経て、会場は酔い潰れた参列客だらけになったのだった。