表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/318

第13章-3 アルバート、ダウン

10/12(土)に、漫画版『異世界転生の冒険者 2巻』が発売されます。

漫画版もよろしくお願いします。


 フルートさんに続いてギルドに足を踏み入れると、そこは俺が昔活動していた時よりも人が多くて賑やかだった。そして一つ気がついた点が、


「フルートさん、若い冒険者が多くないですか?」


 俺よりも若い冒険者、恐らくは冒険者に成り立ての新人が、かなりの数を占めていた。そのせいか掲示板の前では、新人でも受ける事ができるような簡単な依頼の取り合いが起こっているようだった。


「いいんですか、あれ?」


「大丈夫ですよ。行き過ぎたら、職員か指導員として雇っているベテラン冒険者が止めますし、そういった普段の態度も、ランクアップの時の参考になるようにしましたから」


 フルートさんはそう言うと、依頼の取り合いをしている新人をじっと見ている職員の方に目を向けた。


「前より厳しくなったんですね」


「まあ、テンマさんの時は特例でもありましたが、確かにあの頃よりは厳しくなっています。ちなみに、その理由はテンマさんにも関係していますよ」


 フルートさんが言うには、グンジョー市の冒険者ギルドはこの国で今一番若い英雄……つまり、俺が冒険者活動を正式に始めた、いわば『聖地』のような場所と呼ばれており、冒険者を目指している若者達が、ここを冒険者デビューの地に選ぶというのが最近多いのだそうだ。人が多くなったせいで、ランクアップの水準が少し上がったとの事だが、それでも験を担ぎたがる新人は後を絶たないらしい。


「それにしても、誰も近寄ってきませんね? ベテランの冒険者の中には、俺に気がついて嫌そうな顔をしたり、軽く手を振ってる人もいるのに」


「新人ですから、周囲に気を配れないのでしょう。そういった意味では、今ここにいる新人の中には、現時点でめぼしい人はいないと言う事でもありますが」


 やはり数が多くなるにつれて、ピンも増えるがキリはもっと増えるという事なのだろう。もしくは実力のある新人は、仕事が少ないこの場所をデビューの地に選ばなかったという事も考えられる。


「それはそうと、テンマと関係のある()はどこ?」


 フルートさんと話していると、アムールが俺達の間に割り込むようにしてフルートさんに尋ねた。『関係のある人』しかフルートさんは言っていないのに、アムール……どころかうちの女性陣は、その人が女性だと確信しているようだ。


「あそこにいますよ」


 フルートさんが苦笑しながら指差した先には、受付に座って一人の冒険者と話している女性……セルナさんがいた。セルナさんは、話している冒険者と仲がいいのか、見た事のないくらいのにこやかな顔をしていた。


あれ(・・)がテンマと……」

「先に言っておきますと、今話している男性は、彼女の恋人(・・)です」

あの人(・・・)がテンマと……仲良くなれそう!」


 アムールはセルナさんに恋人がいると知った瞬間、態度を百八十度変化させた。


「セルナさんにも挨拶したいところだけど……恋人の後ろにも、かなりの数の冒険者が並んでいるな」


「彼女、人気がありますから」


「あっ! 彼氏、後ろから殴られた!」


「よくある事です。まあ、やりすぎたら職員が注意に向かいますけど、今のは彼も長い間カウンターを占領していましたからね。ギリギリ許容範囲でしょう」


 アムールの言い方は少し大げさで、実際にはセルナさんの恋人は、その後ろに並んでいた冒険者に脇腹を軽く叩かれた程度だった。まあ、ちょっとばかり『軽く』の範疇を超えていたようにも見えたが、順番を待っているというのに目の前でいちゃつかれたら、注意の仕方も少々乱暴になるのだろう。

 後ろの冒険者に注意された恋人は、すぐに謝罪して場所を譲った。そして、恥ずかしそうに少し離れた席へと移動し、移動先でも他の冒険者に『軽く』叩かれていた。セルナさんも、恋人を注意した冒険者にからかわれて顔を真っ赤にしていたが、すぐに仕事を再開していた。

 そんな二人の様子をみて、挨拶は後回しにしてギルド長室へと向かい、フルートさん達と話をする事にした。



「つまり、フルートさんに子供が出来た事で、ギルド長が真面目になった……と」


「ええ、最初はこのギルドでもテンマさん達のように、『偽物だ!』って言う騒ぎになりましたね」


「本当に失礼な奴らだよな。俺はただ、真面目に仕事をやっていただけなのに……まあ、あいつらの場合はテンマと違って、殴って静める事が出来たがな」


 引退してかなり経つとは言え、そこは元Aランクの冒険者と言う事らしく、C・Dの冒険者では相手にならないと胸を張っていた。


「まあ、たまたま来ていたBランクの冒険者が出てきた時には、私に説明させていましたけどね」


「最低ね」

「最低だね」

「最低じゃな」

「サイテー」


 順に、クリスさん、カイン、じいちゃん、アムールだ。ジャンヌやプリメラ達は、口には出していないが、同じ様な事を思っているようだ。そして、


「ギルド長……めちゃくちゃ最低ですね。流石です!」


 最後にもう一度、俺が皆の思いを総括するかのように親指を立ててギルド長を褒めると、ギルド長はよほど嬉しかったのか、涙目になりながらソファーに深く腰を下ろしていた。


「一応俺、ギルドのお偉いさんなんだがな……」


「いや、ここにはギルド長より偉い人がいますし、グンジョー市で活動していた二年の間に、ギルド長が働いているのを見た事ないですから。最初の頃は、フルートさんがギルド長だと思っていたくらいですもん。そして、フルートさんの半分も仕事が出来ない人がトップだと知って、めちゃくちゃ驚きましたもん」


 俺の言葉を聞いて、フルートさんは満足そうに、プリメラは自分も同じだとでも言うように頷いた。


「そもそも何でギルド長は、グンジョー市のギルド長になれたんだろうか? 何か知っているか、プリメラ?」


「いえ、私は何も……」


「あっ! 僕が知っているよ! また聞きだけど、前にサンガ公爵様から聞いたという話を、父さんから聞いた事があるから!」


 プリメラは知らなかったが、カインがまた聞きで聞いたという話だったので説明してもらうと、


「要は、上が駄目でも下がしっかりしていれば、組織は回るというわけか。しかもギルド長は、権力を得たからといってそれを誇示する性格でもないから、神輿には丁度いいのか」


「それと、何かあった時に首を切りやすいから……とも言ってたよ」


 カインの衝撃の言葉に、一人を除いた皆が驚いた顔をしていた。ちなみに、驚いていなかったのはフルートさんだ。恐らく、サンガ公爵からそういった話を聞いていたのだろう。


「俺、もっと真面目に仕事しよう……」


「最悪、面倒見ますけど?」


「流石に子供が産まれるのに、父親がヒモじゃカッコがつかん」


「まあ、そういった気持ちはわかるが、これまでがこれまでなのじゃから、いきなり張り切り過ぎると下が混乱するし、逆に上手く回らんくなる事も考えられるから、ほどほどにの」


「はい……」


 ギルド長がこれからも真面目に過ごすと決心したそのすぐ後に、じいちゃんからやんわりと止まられるという、かわいそうな出来事が起こった。そしてフルートさんからも、「その方がギルドの為になる」と言われ、最終的にギルド長は涙を流していた。


「テンマさん、セルナさんは仕事が立て込んでいて手が離せないそうなので、仕事が終わった後で挨拶に行くそうです」


「それだったら、夕食の時間帯くらいに『満腹亭』に来てくださいと伝えてください。多分、夜は遅くまでそこにいると思うので。それと、フルートさんとギルド長も、時間があったら来てください」


 カウンターの様子を見に行ったフルートさんがそう言うので、セルナさんに伝言してもらう事にした。そして、二人にも参加を頼んだところ、ギルド長は未だに項垂れたままではあったが、二人で来てくれるとフルートさんが約束してくれた。



「思ったより早く終わったな……時間ができたし、議会本部の方に行ってみようか? もしかしたらアルバートがまだいるかもしれないし、議会にも挨拶しておきたい人がいるから」


 という感じで議会本部の方までやって来たのだが、アルバートはすれ違いでギルドに向かったとの事だった。アルバートはいなかったが、議会での目的の人はセルナさんの叔父のマルクスさんなので、受付で要件を言って呼んで貰う事にしたのだが……


「マルクスさんもいないのか……仕方がないか」


 マルクスさんはここのところ忙しそうに走り回っているとの事だったので、「夜に時間があるのなら満腹亭に来て欲しい」という伝言を頼んだ。


「取り敢えず、ギルドに一度戻るか。アルバートも、動くとしたら俺達と合流しようとするだろうしな。それで駄目だったら、アルバートが言っていた館に行こう」


 最初、グンジョー市で泊まるなら、満腹亭にしようかという意見も出たのだが、満腹亭は人気の宿で人数分の部屋が取れるかわからなかったのと、グンジョー市にはサンガ公爵家が視察の時に使う館があるとの事だったので、そちらの世話になる事にしたのだ。ちなみに、プリメラはグンジョー市に住んでいるのに、サンガ公爵家の館には住んでおらず、騎士団の寮を利用している。その理由として、プリメラは将来的に独立して名誉爵を得ようと思っているからだそうで、早くから一人暮らしに(寮なので、一人暮らしとは少し違うが)慣れたいのだそうだ。後、館は広すぎて、家族がいないと落ち着かない(さみしい)からとの事だった。


 そんな話をしながらギルドに戻ってくると、何だか騒がしかった。最初は俺やじいちゃんが来ていた事に、新人達が気がついたからかと思ったのだが、どうもそういった雰囲気ではない。


「中でフルートさんに聞けばいいか……」


 そう思ってフルートさんを探そうとしたが、その前にアルバートの護衛について行ったはずの騎士がやってきて、ギルド長室へと連れて行かれた。ギルド長室の中では、


「まだギルド長は、項垂れているんですか? それと、アルバートは何で顔を赤くしているんだ?」


 ギルド長室では、先程よりも深く項垂れるギルド長と、恥ずかしそうにしているアルバート、苦笑いのフルートさんに、どうしていいのか分からないといった感じの護衛の騎士達がいた。


「フルートさん、何があったんですか?」


「まあ、簡単に言うと、アルバート様もテンマさん達と同じ事をしました。しかもアルバート様の場合、ギルドの中で騒いでしまった為、それを見ていた冒険者達が悪乗りしてしまい、異様な雰囲気に……と言うか、お祭り騒ぎになりまして」


 その中心にいたアルバートは、冒険者達が面白がりながら騒ぎ始めたのを見て、自分の思い違いに気がついたらしく、フルートさんにギルド長室に案内される少し前からこの調子なのだそうだ。


「アルバート……あれは仕方のない事だったんだ。俺やクリスさんにカインも同じ様な事してしまったし、気にするな……は無理でも、不幸な事故として切り替える努力をしよう。まずは、館に向かおうか?」


 俺の提案に、素直に頷くアルバート。これまでにもこんな恥ずかしい思いはしただろうが、もしかすると一人だけでという経験はないのかもしれない。そう考えると、鈍感なところがあり、立ち直りも早いリオンは、三人の中で一番精神力が強いのかもしれないな。それが普段の生活に生かされているのかどうかは別として。


「シロウマル、先導を頼む。騎士達はさりげなくでいいから、アルバートを囲むように移動。あとは適当に……って、そうだった! フルートさん、シロウマル達の鑑札は……」

「用意してます」

「ありがとうございます。では、また夜に」


 シロウマルの首に鑑札のついた紐を掛け、先頭にしてギルド長室を出ると、それまで騒がしかったギルドが、ピタリと静まった。特に俺の事を知っている冒険者達は、分かりやすく顔まで背けており、中には面倒を見ているのであろう新人冒険者の顔を、力尽くで背けさせている者もいた。


「この反応を見るだけで、テンマがどれだけ暴れまわっていたのかが分かるのう……」


 じいちゃんが、周囲の冒険者を見ながらそんな事を言っているが、別に俺から突っかかっていったわけではなく、全て返り討ちにした結果なので俺は悪くない……はずだ。


「ほら皆、早く行くぞ!」


 冒険者達を見ていた皆を急かして、少しでも早くギルドから出ようとしたのだが、ついて来たのはアルバートと、その護衛に付いている騎士達だけだった。


「本当に置いていくからな!」


 ギルドのドアまで行って叫ぶと、ようやく皆の足が動き始めた。


「話には聞いていたけど……テンマ君、相当な問題児だったのね」


 追いついて来たクリスさんが茶化してくるので、ついポロっと、


「そんなんだから、クリスさんはモテないんですよ」


 漏らしてはいけない本音を口にしてしまった。言ってから「しまった!」と気づいたが時既に遅く、クリスさんの手が俺の肩を握りつぶそうとしていた。


「どういう意味かしら、それ?」


 クリスさんは笑顔で問い質してきたが、その目は笑っていなかった。


「クリスさんは学生時代に問題があったから、男性が寄ってこないんでしょ? グンジョー市で色々とやらかした俺に人が寄ってこないのと、どんな違いがあるんですか?」


 ここで謝ってはいけないと思い、ちょっと強気になって質問に対して質問を返すと、クリスさんはそんな質問が返ってくるとは思っていなかったらしく、肩に置かれた手から力が抜けた。

 その瞬間を見逃さずにクリスさんから距離を取ると、クリスさんは「しまった!」と言いながらもう一度俺に手を伸ばしていたが、俺達の間にアムールが割り込み、


「テンマ。テンマは間違っている。やらかしは一緒でも、テンマには私がいる! あと、ジャンヌとプリメラと……ルナも? だけど、クリスには誰もいない。唯一可能性のあったリオンも、今はストーカーにまとわりつかれて、どうなるか分からない。可愛そうだけど、本当に誰も……」


 自分を売り込みながら、クリスさんをディスった。アムールに名前を挙げられたジャンヌとプリメラは、驚いた顔でアムールを見ていて、ジャンヌの横に居たアウラは、『私は?』みたいな顔でアムールとジャンヌの顔を交互に見ていた。


「アムール……待ちなさい!」


 そして始まるお約束……クリスさんとアムールは、人ごみの中へと消えていった。


「……よしっ! 館に行こうか!」


 アムールはどう反応していいのか分からない雰囲気を作るだけ作って、無責任にもクリスさんと共に消えてしまったので、一度全てをリセットするつもりで大きな声を出した。だが、


「テンマ……妹を頼ん、ごふっ!」


 アルバートはアムールの作った雰囲気に乗った。そして、襲撃を受けた……自分の妹から。


「プリメラ、お前……がはっ!」

「ぬぅ……見事じゃな」


 アルバートは、次の言葉を発する前に顔を真っ赤にしたプリメラから、二発目の渾身のボディーブローを食らわされて静かになった。流石に普段から鍛えているだけあって、人体への効率的な攻撃が身についているようだ。しかも、一発目で苦しませ、二発目で的確に意識を刈り取る一連の動きは、じいちゃんも唸るほど見事なものだった。


「テンマさん……何か聞こえましたか?」

「いえ、何も聞こえませんでした! プリメラさん!」


 思わず、『プリメラさん』と言ってしまった俺だったが、それは仕方のない事だろう。何せ、アルバートに続こうと口を開きかけていたカインも、プリメラの迫力に驚き、素早い動きで口を押さえて反対方向を向いていた……焦った顔をして。


「そうですか、それは良かったです。それと、どうやら兄様は旅の疲れが出たらしいので、ここからは私が案内します。あなた達、これ(・・)を運びなさい!」


 いつもとは違う雰囲気のプリメラに驚いていたのは俺達だけではなく、部下の騎士達も同じだったようで、プリメラの命令に一瞬驚いた顔をした後、すぐにアルバートを担いでプリメラの後ろに整列した……サンガ公爵家の次期当主に対し、酔っぱらいを支えるかのように左右から肩を貸して運ぶのはどうかと思うが、それだけプリメラの迫力が凄かったという事で、この件にはこれ以上触れないでおこうと決めた。



「ここがサンガ公爵家が所有する屋敷です。一年で一回使うかどうかといったところですが、掃除等の管理はしっかりさせていますので、問題は無いはずです。それと、私は一度騎士団本部に戻って、諸々の手続きと私物を取ってきますので、少しの間失礼します」


 屋敷について早々、プリメラは一度騎士団本部に戻る事になった。口調や雰囲気こそ、いつものプリメラに戻りつつあるが、実の兄に対してはまだ怒っているようで、アルバートを連れてきた騎士に対し、「それ(・・)は、物置にでも置いておきなさい!」と言っていた。まあ、プリメラが見えなくなってから、アルバートをどうしたらいいのか迷っていた騎士からじいちゃんが預かり、適当な部屋に連れて行く事になった。流石に怒っている状態のプリメラでも、じいちゃんが間に入れば文句は言わないだろうという判断だ。


「シロウマル、ソロモン、庭で遊ぶのは構わないけど、塀に近寄ったり外に行ったりするなよ。スラリン、二匹の監督を頼む」


 シロウマルやソロモン目当てと思われる人が何人か外から見ていたが、流石にサンガ公爵家所有の屋敷に侵入する事はないだろうと思い、二匹を遊ばせる事にした。もしも二匹目当ての侵入者がいたとしても、Aランク以上の魔物に適う奴はそうそういないだろうし、仮にいたとして逆に殺してしまっても、殺した事よりも先に公爵家の敷地内への不法侵入が適用されるので、罪にはならない。それでもスラリンを監督につけたのは、二匹が誤って外へとでないようにするのと、もし無謀な挑戦者(しんにゅうしゃ)がいた場合、スラリンなら殺す事なく捕獲が可能だからだ。別に殺しても問題がない相手だったとしても、二匹の評判が不当に下がるのは避けたいからな。

 一応、ゴルとジルも外に出るか聞いてみたが、二匹とも知らないところを探検するよりも、我が家同然のディメンションバッグでくつろぐ方がいいらしく、餌の催促だけして、出入り口に近寄ろうとはしなかった。


「まあ、いつもどおりか……ほら、餌はここに置いておくぞ……って、また糸が集まったのか。ありがと」


 餌を回収に来たゴルが、餌と引き換えに糸玉を渡してきた。糸の質自体は二匹の基準で高級品(上から二番目くらい)だが、一般的に流通している最高級品の糸を上回る品質なので、いくらあっても困る事はない。


「とは言っても、大分在庫が増えてきたな……どこかで放出するか」


 基本的にゴルとジルの糸は知り合いにしか売らないので、順番待ちをしている人達は高級品ではなく、最高級品を待っている状態だ。しかも、順番の管理はマリア様がしているので、最高級品を待っている間に高級品を求めたりしたら、順番を後回しにされるかもしれない。なので、販路のない高級品はマジックバッグに保存され、余り気味になっていたりする。


「さて、あの二匹はスラリンに任せておけば大丈夫だし、あとはライデンを馬小屋に……って、分かったから、そんなに怒るな」


 ライデンを馬小屋に連れて行ったところ、馬小屋のような狭いところ(公爵家の馬小屋が狭いのではなく、ライデンがでかいだけ)にいるのを嫌がったライデンが、前足で地面を蹴って抗議した。なので、暴れない、全力で走らない、物を壊さないを条件に、シロウマル達と同じように庭に離す事にした。

 その条件を飲んだライデンは、取り敢えず敷地内を一周するつもりなのか、門のところからゆっくりと歩き出した。ちなみに、ライデンに出した条件をスラリン達に伝えに行こうと三匹を探したところ、早速シロウマルが木を倒したらしく、スラリンに説教されていた。


「……いつもどおりの光景か。あのままスラリンに任せておけば、問題はないだろうな」


 いつものようにスラリンに主としての仕事を取られた俺だったが、いつも通り過ぎて、『手間が省けた。楽できる』という感想しか出てこなかった。普通のテイマーなら問題かもしれないが、これでうまく回っているのだから、俺達はこれが一番いい形なのだろう……という事にして、屋敷で使う部屋の確保に向かった。


「確保に行くのはいいんだけど……アルバートもプリメラもいないから、どの部屋を使っていいのかわからないな」


 取り敢えず適当に選んで、プリメラが来てから再度部屋を選ぶか思い屋敷の中をうろついていたところ、ある一室で数人の気配が固まっているのに気がついたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ