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第13章-1 到着前夜

「よっと……これで、十勝二敗三分ですね」

「……もっと負けてくれてもいいんじゃない? 万全の状態じゃないとか言ってるくせに、可愛げがなさすぎよ」


 グンジョー市までゆっくり進んであと半日くらいというところで、俺達は野営をしていた。

 ここまで予定よりも三日早い移動だったので、グンジョー市に入る時に疲れを残さないようにと、早めの休息をとったのだ。まあ、これだけ早く移動できたのは、リオンに追いつかれないようにと張り切ったクリスさんとアルバートとカインが、御者を頑張ったからである。

 何故三人が頑張ったかというと、ラッセル市で迷惑をかけられた事への仕返しと、『もしリオンがグンジョー市に到着した時に、自分達の用事が終わって次の旅に入っていたら、リオンはさぞかし面白い反応を見せる事だろう』という理由からだった。

 先程の模擬戦は、実戦形式の試合で体の調子を確かめようとクリスさんに提案され、ラッセル市を出てから野営をするたびに数回行っていたものだ。

 模擬戦の結果は、始めの野営で俺の二連敗からの一分、次の野営で二分からの一勝。そして、勝ちが付いてからは連勝中だ。これは、体調が完全に戻ったわけではなく、今の体の動かし方に慣れたのと、戦い方を変えていったからだ。

 連敗した時は普通の感覚で戦い、引き分けの時は防御主体で戦い、現在はカウンター狙いの戦ったのだ。それと連勝中は、相手をクリスさんではなくディンさんと想定する事で、体を動かすと同時に頭をフル回転させたのだった。そのおかげで、成績の割に精神的にはあまり余裕がない状態だった。


「対策を取ろうにも、試合を重ねるごとに調子を取り戻すもんだから、一歩及ばない状態が続くのよね……テンマ君、とってもイヤらしいわね」


「誤解されるような発言はやめてくださいね。余りにもひどいと、ついポロっと愚痴をこぼしてしまいそうですから……マリア様の目の前で」


「……言うじゃないの」



「テンマ、次は私と!」


 クリスさんと睨み合っていると、アムールが立候補してきたが、流石にアムールの力任せの戦い方とでは、現状ではまともな戦いができそうにないので、何度目かのお断りをする事になった。


「それじゃあ、僕と……って言いたいところだけど、僕じゃあクリス先輩の代わりはできそうにないね」


 カインがアムールの流れに乗って立候補したが、クリスさん程与えられるものがないと自分で判断し、自虐気味な事を言いながら苦笑していた。


「そんな事よりも、もうすぐご飯ができるみたいだから、汗を流してきたら?」


 カインの言葉でそろそろ夕食の時間だと気が付き、クリスさんに先を譲った。最初の時、レディーファーストみたいな感じで言ったらクリスさんが、


「えっ! 私の後がいいの? そんな趣味があるのね」


 とかふざけたので、初日に限りクリスさんを無視して俺が先に入り、夕食ができるギリギリまで風呂を占領してからは、クリスさんはそんな事を言わなくなった。流石に汗臭いままで夕食を食べるのが嫌で、夕食を後回しにして風呂に入ったのに、上がった頃には夕食のほとんど食べ尽くされていて、一人寂しく黒パンと干し肉を齧るのはもう嫌だという事らしい。

 ただ、クリスさんが入った後で風呂に入ろうとすると、アムール、アウラ、ジャンヌの三人がすぐに風呂掃除をするので、俺が入るまでに少し時間がかかってしまう。まあ、新しい湯に入れるのは気持ちがいいので好きにさせているが、どうしても夕食の時間ギリギリになってしまうので、調理の時間とクリスさん次第では、席に着くのが遅れてしまう事もある。


「それで、グンジョー市にはどれくらい滞在する予定?」

「五日くらいかな……あそこには知り合いも多いし、行こうと思ったらいつでも行けるところだから、もっと短くてもいいとは思うけど、プリメラとアルバートはそうでもないだろ?」


 プリメラはグンジョー市騎士団の所属だから、そう簡単に離れる事は出来ないだろうし、アルバートも基本的に王都にいなければならないので、二人が会う機会はあまりないはずだ。


「うん、まあ……そうだね」


 期待したような答えではなかったらしく、カインは気の抜けたような言葉を返してきた。まあ、カインとしては、俺がプリメラと会いたいからとかいうのを期待したのだろうが、ようやく女性との接し方に慣れてきたところなので、そんな軽口をたたく余裕はないし、俺はそんな事をすらっと言えるようなキャラではない。


「それはそうと、リオンは今頃どうしているかな?」


「ああ、うん……多分、辺境伯様の手紙が届いた頃じゃない? 手紙が届いたと仮定して、ラッセル市を出発するのは、明日か明後日くらいかな? そう考えると、僕達とリオンがグンジョー市で合流するのは難しいかもね」


 明らかに話題を変えた俺に不満げな顔を見たがその表情はすぐに戻り、リオンの行動の予測を始めた。そして、最後の方はリオンが慌てる様子を思い浮かべたのか、とても楽しそうに話していた。


「テンマ様、もう少ししたら、クリスさんがお風呂から上がるようです。アムールがブラシを持って待機しているので、間違いありません……ところで、ラッセル市やグンジョー市の、()って何ですか?」


 しばらくカインと話していると、アウラがクリスさんの風呂上がりのタイミングを知らせに来ると同時に、()の意味を聞いてきた。どうやら、ジャンヌ達との会話の中で出てきたみたいだが、アウラはその意味がわからなかったようだ。なので、俺に報告すると同時にこっそりと聞きに来たようで、しきりにジャンヌとレニさんの方を気にしている。


「今は『()』という呼び方をしているけど、昔は『(いち)』と言ってたそうだ。今のラッセル市やグンジョー市は、元々町や村が発展してできたものではなくて、周辺の町や村の農作物や手芸品、狩人の狩った獲物なんかを売る市場があったらしく、市場の規模が大きくなるに連れて商人や冒険者が参加し、それらを目当てにした宿屋や食堂ができて、一つの街に発展した。それに伴い、呼び方も売り買いをする為の場所の『(いち)』から、賑やかな所を意味する『()』に変わったと言われているな」


「ほえ~……そんな意味があったんですね」


 グンジョー市に住んでいた頃に調べた事を思い出しながら話すと、アウラは間の抜けた様な声を出しながら感心していた。


「流石にテンマは住んでいただけあって、よく知っているね。市場から変化したくらいの事を知っている人は結構いるけど、そこまで詳しく説明できる人はあまりいないね」


「はっ! もしかして、アムールが早々と掃除の準備をしたのは、市の意味を分かっていなかったからじゃ?」


 馬車の中でクリスさんの風呂上りを待っているアムールを見る事は出来ないが、多分アウラの言う通りだろう。

 クリスさんが髪の毛を拭きながら馬車から出てくると、そのあとに続いてアムールも出てきた。クリスさんが着替えている間に掃除を終えたのだろうが、ここ数日で確実に時間が短縮されおり、馬車の風呂掃除に限って言えば、アムールの実力はアイナに次ぐだろう。


「それじゃあ、風呂に入ってくるか」


 レニさんが合流してからアムールの突撃がないので、安心して風呂に入る事が出来るのが嬉しいところだ。むしろ心配なのは、アムールよりもアウラだったりする。別にアウラがスケベ心で突撃してくるのではなく、いつも通りのうっかりで風呂場や着替え中の馬車に入ってきたりするので、その度にクリスさんとアムールに怒られている。ジャンヌに至っては、アウラが風呂場にうっかりした回数をメモっているらしく、この旅から戻ったらメモをアイナに提出するつもりなのだろう。


 風呂から上がると食事の用意が出来ており、時間ギリギリのところで間に合ったようだ。今日はメインが焼肉だったので、もし間に合わなかったらメインなしの食事になっていたかもしれない。

 食事が終わると早めの就寝だが、今回はなるべく早めにグンジョー市に入りたいとの事で、見張りをスラリン、シロウマル、ソロモンに任せ、さらにスラリンには十体のゴーレムを指揮させる事にした。それに加え、男性陣は馬車の外にテントを張って寝る事で、何かあればすぐに対応できるようにしたのだ。

 

「それじゃあ、明日は日が昇ると同時に出発して、昼前にはグンジョー市に入るようにしよう。じゃあ、解散!」


 俺の合図で、それぞれが自分達の寝床に向かっていった。まあ、馬車で寝る女性陣はともかく、男性陣は自分達の寝床になるテントを張らないといけないので、これから作業に入らないといけないのだ。


 テントを張り終えると汗をかいてしまうが、馬車の中は女性陣のエリアなので風呂に入れるわけもなく、水で濡らした布で体を拭いて、朝女性陣が起きるまで我慢しなければならない。一応、俺かじいちゃんの魔法でお湯を用意し、この場で湯浴みするという方法もあるが……以前それをやっている最中に、タイミングを見計らったかのように馬車から出てきたアウラに悲鳴を挙げられるという事故が起こってからは、よっぽどの事がない限りは自粛している。ちなみに、その時裸を見られたのはじいちゃんとリオンで、しかも調子に乗って真っ裸でポージングをしているところを正面から見られるという事故であった。流石にこの時ばかりは、うっかりのアウラは皆から同情され、逆に見られた二人は批難された。まあ、二人のフル〇ンポージングは同性からしても見苦しかったので、いい気味だと笑ってやった。


 そういった理由から汗を拭くだけで我慢しているが、朝は朝で女性陣が先に風呂場を使うので、どうしても男性陣の風呂は遅くなってしまう。しかも、明日は昼前にはグンジョー市に到着する予定なので、ゆっくりと汗を流す時間はないかもしれない。


「時間との勝負だな……」


 そんな事を呟きながら、眠りについたのだが……


「何でこんな事になるのかなぁ……」


 夜中にスラリンに起こされてしまった。起こしたスラリンは、申し訳なさそうにしている。

 俺が起こされた理由は、シロウマルとソロモンにある。こいつら、俺達が寝静まった後に周辺の見張りを開始したらしいが、その途中で猪の群れを発見して壊滅させたのだそうだ。壊滅はどうかと思うが、この辺りでは猪は害獣として駆除が推奨されているし、実際に猪の農作物への被害は洒落にならないので、そこはあまり問題ではない。問題なのは壊滅させた猪の群れが複数だった事と、壊滅させた際に出た血の匂いに釣られ、多くの狼が近づいてきてしまった事だった。

 こちらにはシロウマルがいるので、狼達は今は遠巻きにこちらを伺っているだけだが、襲いかかろうとするのは時間の問題だろう。


「取り敢えず、ゴーレムの数を増やして周囲の警備を警戒を強めて、猪はマジックバッグに回収っと。ソロモン、スラリン、猪が何頭か入ったバッグを預けるから、遠く離れたところに置いてきてくれ。置いてくる時に、猪の腹を割いて匂いを拡散させるんだ。わざわざ危険を冒してまで俺達を襲わなくても、安全に餌にありつけるなら、そっちに向かうのがいるはずだ。それで大分数は減るはずだけど、向かってくる奴には遠慮せずに叩きのめせ!」

 

 俺が指示を出すと、スラリンはバッグを受け取ってソロモンに乗った。そして宙に舞い上がったソロモンは狼達の上空を旋回した後、誘導するように猪をぶら下げてどこかへ飛び去っていった。


「やっぱり、何頭か釣られて離れていったな……シロウマル、先手必勝だ! あいつらの中に飛び込んで、思う存分蹴散らして来い!」


「ウォン!」


 先程まで、反省するかのように腹を見せて寝っ転がっていたシロウマルは俺の命令を聞き、汚名返上とばかりに張り切って狼達へと突進していった。


「猪もだけど、狼も数が多すぎないか?」


 蹴散らされる狼を見ながらそんな事を考えていると、じいちゃんがテントから出てきた。


「もう戦闘は終わりそうかのう?」


 じいちゃんは、最初の方で狼達に気がついていたそうだが、俺が対応していたのでゆっくりと準備をして出てきたらしい。


「起きていたなら、早く出てくればよかったのに」


「わしが急いで出て行っても、やる事はなかったじゃろうが。ぼーっと見ているくらいなら、ゆっくりしてからでも問題はなかろうが」


「まあ、その通りなんだけどね。それに、働いたのはスラリン達とゴーレムだから、俺もぼーっと見ていたみたいなもんだけど……そうだ!」


 狼のほとんどが逃げ始めていたので、俺はじいちゃんにシロウマルの事を頼み、今のうちに風呂場を建設(・・)する事にした。


「最初からこうすれば良かったんだ」


 土魔法で壁を三つ作り、最後の一面は暖簾を掛けて壁の代わりにした。そして中の空間には、以前浴槽代わりに使っていた酒樽を置いて、お湯を満たして風呂場を作った。そして、すぐに服を脱いで風呂に入った。


「ぬおっ! わしに雑用をさせている間に自分だけ風呂に入るとは、ずるいぞい!」


「流石に二人同時に入れないから、じいちゃんは俺が上がるまでがまんしてね」


「ぬぅ……ならば、わしが入る前に、お湯を温め直しておくのじゃぞ!」


「了解! あっ! それと、スラリンが戻ってきたら、倒した猪の残りと狼を一箇所に集めるように言っておいてね」


「人使いが荒いのう……まあ、風呂代と考えればいいか。それと、アルバートとカインにも声をかけておくからのう。あやつらだけ風呂なしは可哀想じゃからの」


 そう言ってじいちゃんは、二人を起こしにテントへと向かって行った。多分、あの二人が可哀想というのは半分以上嘘で、本当は猪や狼を集める手伝いをさせる為だろう。もしかしたら、簡単な仕分けもさせるつもりかも知れない。



「アルバート、上がったよ!」

「ようやくか……ちょっと時間を過ぎてるぞ」


 じいちゃんに起こされた二人は、風呂に入れると聞いて最初は喜んだが、入る為の条件が猪と狼の回収作業と聞かされて、すごく嫌な顔をしていた。まあ、いきなり起こされて、生臭い仕事をさせられたのだ。寝起きには辛いだろう。


「まあ、ゴーレムの持ってくるものを、サイズごとにマジックバッグに分けるだけだから楽なんだが、流石に血の匂いはきついな。服にも匂いが付いてる」


 アルバートは、自分の服についた匂いに顔をしかめながら、風呂場に向かっていった。


「取り敢えず、これで仕事は終わりだよね?」


 カインが心配そうに訪ねてくるが、実のところまだ猪は残っていたりする。しかし、


「残りはスラリン達とやっておくから、テントに戻ってもいいぞ」


 流石に、風呂上がりにもう一度回収作業に戻れというのは酷だし、猪の残りもあと数頭というところだ。風呂上りの後で匂いがつくのは俺も嫌だが、残っている猪は選別せずに一緒くたに入れておいても問題はない。何せ残りの猪は、俺達の食事に使うつもりなのだ。


「それにしても、猪が七十行かないくらいか。しかも、普通の猪とダッシュボアの混合の群れか……初めて聞くけど、同じ様な生き物だから、そんな事もあるのかもな。それで、狼の方が三十くらいだな。大半が逃げるか離れるかしたから、全部合わせたら百くらいいたかもな」


 『探索』を広げて狼の行方を探ったが、既にかなり遠くまで逃げているようで、『探索』に引っかかったのは数頭の群れが一つだけだった。


「もしかしたら、『大老の森』の異変がここまで影響しているのかな?」


 『大老の森』からはかなり離れているので考え過ぎかもしれないが、思い当たる原因がそれしかなかったので、グンジョー市では念の為ギルドに報告しておこうと決めた。


「ふぅ……いい湯だった」


 そんな事を考えながら、猪や狼の処理の為に出したゴーレムを回収していると、アルバートが満足そうな顔をしながら風呂から上がってきた。


「アルバートが上がったなら、最後の仕事をしないとな」


「ん? まだ何かやる事があるのか?」


 最後の仕事に巻き込まれると思ったのか、アルバートがゆっくりと後退りをして、俺との距離を取りながら聞いてきたが……


「別に手伝ってもらわなくても大丈夫だぞ。最後の仕事っているのは、シロウマルとソロモンの体を拭くだけだから」


「それじゃあ、私はいなくても大丈夫だな」


 自分に出来る事はなさそうだと、安堵の表情を浮かべたアルバートは、俺の気が変わらないうちにといった感じで、そそくさと自分のテントへと戻っていった。

 なお、俺の次に風呂に入ったじいちゃんは、風呂から上がるなりコップになみなみと注いだ酒を一気飲みし、いち早くテントでいびきをかいている。


 狩りの後で、そのまま見張りに戻ったシロウマルとソロモンを呼び寄せると、ソロモンは素直にやってきたが、洗われると感じたらしいシロウマルは、一目散に反対方向へ逃げ出そうとして……スラリンに収納さ(たべら)れた。最も、俺の目の前で吐き出されたシロウマルは、体を濡れタオルで拭かれているだけのソロモンを見て、大人しくしていた。俺としても、シロウマルを丸洗いしてやりたいが、夜中にそれをやると朝までかかってしまうので、グンジョー市まで我慢する事にしているのだ。その妥協点として、今回はシロウマルを濡れタオルで拭くだけにした。


 案の定、シロウマルは普段の汚れに加え、猪や狼の血に、狩りで暴れた際に着いた泥や草で汚れており、一度では汚れは落ず、十回近くタオルを洗って拭いて、ようやく表面の汚れが目立たなくなったほどだ。なので、臭いまでは落なかった。


「スラリン、グンジョー市で時間が出来たら、ジャンヌとアウラにも手伝わせて、シロウマルをきれいにするぞ」


 拭かれ終わったシロウマルが俺から離れるのを見ながら、小さな声でスラリンに決意を語るのだった。そしてその日の早朝、


「おは……ねぇ、テンマ君。あれ、何?」


 挨拶を途中でやめたクリスさんの指差す方を見てみると、そこには湯中に壊し忘れた風呂場があった。


「ふ~ん……朝早くから出発するって言ってたくせに、夜中に、男達だけで、露天風呂を、楽しんでたんだ」


 簡易的な風呂場なので、露天風呂と言うほどいいものではないが、クリスさんにとっては夜空を見ながら風呂に入れれば、それは露天風呂で入る価値のあるものなのだろう。だが……


「クリス……せめて、街中で露出癖を出すのは止めて」


 アムールに呆れられていた。しかし、その考えはアムールだけでなく、クリスさん以外の女性陣の総意でもあるらしく、懇願するように全員でクリスさんを見ていた。


「そんな性癖あるわけないじゃない!」

「でもクリス、ちょっと風が吹いただけで中が丸見えになりそうなお風呂場を、しかも男性陣が近くにいる状況で使いたかったみたいな事を言ったら、変な趣味でもあるのかと疑われても仕方がないですよ」


 レニさんの指摘でクリスさんは考え込み、もう一度アムール達の顔を見て、


「私は、単純に開放感のあるところでお風呂に入りたかっただけなんだから!」


 と叫んだ。そしてそのすぐ後、アムールに「やっぱり、露出癖がある!」と言われ、ふてくされて馬車の風呂場に引きこもった。


「まあ、クリスさんの性癖は置いといて……さっさと出発しようか? 食事は作り置きの物になるけど、その分グンジョー市についたら、美味しいものを食べると言う事で」


 という感じで、俺達は野営地を出発した。もちろん、風呂場は暖簾と風呂桶代わりの酒樽を回収して、土壁は破壊してある。そうでもしないと、変な輩に悪用されるかもしれないし、魔物の寝床になってしまうかもしれないからだ。

 予定より少しだけ遅くなったが許容範囲だろうと皆と話し、御者のアルバート以外で朝食を食べたのだが、その間もクリスさんは引きこもりを続け、最終的にはレニさんに説得されて出てきた。

 引きこもりを止めたクリスさんは、出てくる時に先ほどの発言について色々と弁明していたので、俺達は何も言わずに聞いていただけだった。何か変な事を言って、また風呂場とトイレを占領されたらたまらないし。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前に馬車とは別の風呂使ってたと思う。 スリングショットの時もだけど、持ち主から取り上げて独占出来なさそうになったら睨んだり凄んだり…… ネタ的に怒らせたら怖いキャラ、恐妻キャラはちゃ…
[気になる点] スラリンにシロウマルを綺麗にしてもらったほうが早いと思う。
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