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第12章-11 おいてけぼり

 クリスさんが暗黒面に落ちてから数日後。俺のリハビリは順調に進み、普段の生活ではほぼ支障のないくらいまで体力は回復していた。ただ、俺の回復に比例するように、クリスさんの情緒は不安定になっていた。

 その原因はカノンだ。カノンがリオンを狙うのはかまわないのだが、二人の気安いやりとりを見たカノンが、「クリスはリオンに気があるのでは?」もしくは、「その逆もありえるのでは?」 という考えに行き着いたようで、事あるごとにクリスさんに張り合うのだ。時にはリオンとの仲(カノンがリオンに触れたり、世話を焼いたり)を見せつけるのだが、その度にクリスさんの暗黒面が強くなってしまうのだ。

 一応、クリスさん以外の女性陣が、カノンにクリスさんとリオンの関係を説明してはいるものの、今のところ効果は薄いようだ。


「じいちゃん、クリスさんが色々とヤバイ。あとついでに、リオンとカノンも」

「あの二人はついでか……まあ、仕方がないのう」


「うちのカノンが申し訳ありません……」


 俺の感覚からすればクリスさんは被害者で、カノンは加害者である。リオンは元凶の悪人だ。ただ、普段のクリスさんの行動を見ていれば、カノンの勘違いも理解できるところがあるので、カノンだけを責める事はできないと思ってもいる。なので、リオンが一番の悪だ。

 なのでユーリさんは、そこまで気にしなくていいと思う。全てはリオンが悪いのだ。


「それでは、どうするかのう……」

「いっその事、リオンを置いていこうか? ユーリさん、辺境伯の返事が来た時にリオンさえ(・・)いれば、特に困る事はないですよね?」


「ええ、テンマ君の話も聞けましたし、後は辺境伯様の指示に従うだけですので……正直言って、せっかく修復できたテンマ君との関係が、カノンのせいでまた悪くなってしまうと、立場上カノンに厳しい罰を与えなくてはなりません。それに、私の体が持ちませんし……」

 

 ユーリさんはそう言いながら、胃の辺りを押さえていた。

 もし仮に俺との関係悪化が原因でユーリさんが倒れたとなると、カノンに対する世間の風当たりはかなり厳しいものになるだろう。もしかすると、辺境伯領からの追放もあるかもしれない。

 追放は少し大げさかもしれないが、ハウスト辺境伯領は俺との関係悪化のせいで経済が悪化し苦しい日々が続いた過去があるのだ。辺境伯自身ではなく、その周りが過剰反応してもおかしくはない。


「つまり、俺達……正確には、クリスさんがラッセル市からいなくなるのが、一番手っ取り早いというわけか……じゃあ、リオンだけを残して、俺達は次に進もうか? 予定表だけ渡しておけば、リオンも後から追いかけてくるだろうし」


 皆の幸せを考えたら、リオンが割を食うのは仕方がないだろう。そもそも、リオンがしっかりとしていれば、こんな心配をする事はなかったのだ。


「リオンの幸せはよいのか?」

「リオン一人の幸せと、リオン以外の幸せ+クリスさんの機嫌+ユーリさんの胃袋なら、俺はリオンを犠牲にする」

「カッコ良さそうな事を言ってはいるが、要はリオンに丸投げと言うわけじゃな」

「だって、リオンの責任だし……それでとばっちりを受けたら、たまったもんじゃないからね」

「まあ、人様の恋愛に関わるは色々と面倒じゃしな……そうするのが一番じゃな」


 という結論が出たので、早速リオン以外のメンバーに知らせる事になった。ちなみに、俺とじいちゃんとユーリさん以外は、現在リオンとカノンのそばにアルバートとカインが付き、クリスさんに女性陣が付いている。

 カノンには、アルバートかカインがリオンの隙を見てクリスさんとの関係を説明し、女性陣はクリスさんの精神を安定させる為に、気晴らしを兼ねて街を観光しているのだ。なお、クリスさんの気晴らしにかかる代金は、男性陣の折半となっている。何でも、女性陣がクリスさんの手当で苦労する代わりに、男性陣はその代金を負担しろと言う事だった。まあ、クリスさんの手当と言いながら、自分達も思いっきり楽しむつもりだろう。最も、リオン以外が負担する代金は後でこっそりと辺境伯家に請求するつもりなので、最終的にはリオン一人の負担になるのだ。元はといえば、リオンがしっかりとしていればこんな事は起こらなかった(と思う)ので、これくらいの罰は受けてもらおうという男性陣|(リオン除く)の満場一致で決まった。



「そうね! それが一番だわ!」


 アルバートとカインはじいちゃんに任せて、俺は女性陣を『探索』を使って探して説明したところ、クリスさんがかぶせ気味に賛成した。やはりと言うか、カノンのせいでストレスが溜まっていたクリスさんは、リオンを犠牲にする事に戸惑いはないようだ。その顔には、リオンに恋人ができるかもしれないのを邪魔しようとしていた時の事を、全く覚えていないようだった。


「ほぼ確実にリオンがどうのこうの言うだろうけど、次の目的地の『グンジョー市』にいるプリメラから緊急の連絡があったとか言えば、説得するのは簡単だと思う。問題は、辺境伯からの返事が俺達の出発前に届いてしまった場合、この作戦は失敗すると言う事だ」

「なら、今日の夜にでも出発するわよ!」


「クリス、流石に今日は無理」

「そうだよ。それに、カノンにはリオンとクリスさんの事をちゃんと(・・・・)説明しないといけないから、早くても明日の早朝になるね」


 俺の言葉を聞いたクリスさんは、「リオンとカノンの事は放っておけばいい!」と言っていた。だが、今後の事を考えれば、説明だけはきちんとしておいた方がいいと思うのだ。この考えは、じいちゃんとユーリさんとの話し合いの中で決めた事だった。


「その説明は、リオンを除いた男性陣で行い、カノンには無理矢理にでも納得してもらうつもり。もしそれでも効果が見られないようなら……俺達がカノンと会う事は二度とないかもしれない」


 俺の言葉を聞いて、女性陣は驚いた、もしくは怯えたような顔をしていた。何か誤解があるようなので、詳しく説明したところ、皆納得してくれた。

 会う事が二度とないというのは、要はカノンをどんな手を使ってでも俺達やリオンに関わらせないようにするという事であり、殺すという事ではない。これは場合によっては、王様の力も借りる事も考えている。

 個人的な事を言えば、リオンが誰と付き合っても構わないとは思ってはいるが、その相手が今のカノンだった場合、問題が出てこないとは言えないからだ。今は、『リオンに気があるかもしれない』というクリスさんに嫉妬を向けているだけだが、もしカノンがリオンと結婚て辺境伯夫人となり、その嫉妬心が強くなっていた場合、リオンと友好関係にある女性に猜疑心を向ける可能性もあるからだ。

 猜疑心を向けられた相手が無力な一般人であれば、言い方は悪いがどうとでもなる。だが、もしその相手がリオンの力でも無かった事にできない相手……例えば同クラスの貴族だったり、それ以上の貴族だった場合、自分の派閥を巻き込んだ争いや、国を揺るがすような争いにならないとも限らないのだ。

 考えすぎだと言われればそれまでだが、ハウスト辺境伯家は地理的に隣国の侵攻を防ぐような役割も持っている為、家中や貴族間のトラブルが起きては困るのだ。なので、最悪の場合は王様に進言して、対策を取って貰う事になるかもしれない。


「パーティーなんかでは貴族に限らず、知り合いのパートナーと踊ったり、談笑したりする事ぐらい普通でしょ? それを見て相手に危害を加えかねないと思えるほどの嫉妬をするようじゃ、貴族の奥さんは務まらないと思うしね」


 俺の考えを聞いたクリスさんは、少し考えてから頷いた。クリスさんは近衛兵であり、貴族でもあるので、国が混乱するかもしれないという可能性と、早くカノンから離れたいという自分の気持ちを天秤にかけて結論を出したのだろう。


「テンマ君の言う事は理解できたわ。ただ、私はこの件には関わらないし関わる義務もないから、明日の朝までに、私の知らないところで教育してね」


 クリスさんは、カノンには完全に関わらないと言った上に、さりげなく期限を明日の朝までと決めた。つまり、明日にはラッセル市を出発するという事だ。

 この態度を見る限りでは、このままカノンを説得できなければ、クリスさんとリオンの関係も壊れてしまうかもしれない。そうなると、二人の共通の知り合いである俺やアルバートにカインも何かと困る事になる。ここはひとつ、リオンの教育もしなければならないが……俺やアルバート達だと効果が薄いかも知れないので、じいちゃんに丸投げしよう。リオンも、じいちゃんの話なら素直に聞く事ができると思う。


「え~っと……レニさん、お金を渡しときますので、皆で美味しいものでも食べてきてください」


 俺が目の前にいる女性陣を見て考えた結果、クリスさんのフォローはレニさんに頼む事にした。この事に、クリスさんとアムールが抗議の声を上げたが、「クリスさんの慰安の為の資金だから、クリスさん以外で(・・・)金銭に強いレニさんに任せる事にした」とクリスさんに言い、「アムールは、レニさん以上にお金を上手く管理できるのか?」とアムールに聞いたところ、二人はちゃんと納得してくれた。まあ、片方は俺のよいしょで気分をよくしたのかにこやかな顔で、もう片方は完全に論破されて少し不機嫌そうだったが……レニさんが、「美味しいって評判のお店は……」とか言いだしたら、すぐに自分の意見を言い出していたので、特に気にしなくていいだろう。


「それじゃあ、俺は向こうに合流するから……あまり遅くならないようにね」


 クリスさんの一言で、明日の朝に出発が決まった事と、カノンの教育の話し合いをする為に、俺は女性陣と分かれてじいちゃんから話を聞いているであろうアルバート達のところへと向かった。



「まあ、それが一番いいかな?」

「プリメラを利用するのは少し気が引けるが、ラッセル市だけに時間をかける訳にもいかないからな……あと、クリス先輩の機嫌が悪くなると、色々と面倒だしな」


「それじゃあ、今日の夜にでもカノンの教育をするとして、出発は明日の昼前くらいでいいな。ところで、二人の説明でカノンに何か変化はあったか?」


 俺の質問に、二人は首を横に振った。カノンは、一応話を聞いて納得したような返事はするそうだが、あまり信じてはいないみたいらしい。


「だとすると時間もないし、少々手荒な事をしないと、カノンを矯正する事はできないね」


 じいちゃんがいるにも関わらずいちゃつこうとするカノン(リオンにはあまり効果がないようだ)を遠目に覗き見ると、アルバートとカインも同感だと頷いた。


「大筋の流れとしては、ユーリさんにカノンをギルド長室に呼び出してもらって、俺とアルバートとカインとユーリさんで説得……と言うか、説教をする。その間じいちゃんにはリオンを注意してもらって、女性陣にはクリスさんの機嫌を取ってもらう……って感じでいいと思う」


「それでいいと思うけど、マーリン様がリオンを担当するのは、僕達よりマーリン様の言う事の方が素直に聞くと思ったからだよね? だとしたら、テンマもそっちに行った方がいいと思う」


「と言うよりは、カノンの事は私とカインに任せて欲しい」


 二人に、「言いだしっぺだから、俺も最後まで付き合うぞ」と言ったのだが、


「これは、貴族の仕事だしね」

「そうだ。カノンは少々、貴族というものを舐めているように見えるからな。その場にテンマがいると、ややこしくなりそうだから、今回はリオンの方に回って欲しい」


 との事だった。二人は、自分達の忠告に耳を貸さないカノンに、かなり腹を立てているようだ。しかし、


「舐めていると言えば、俺もかなり舐めているように見えると思うんだが……そこのところはどうなんだ?」


 そう言うと二人は、少し困ったような呆れたような顔をして、


「「テンマとカノンじゃ、信頼度も重要度も違うから」」


 と言われた。


「テンマの場合、王国への貢献度や知名度の高さもあるし、下手な貴族を軽く上回る程の軍事力も持っているから、カノンと同じ平民という括りではあるけど、実際には天と地ほど価値に差があるからね」


「誤解しないでほしいが、そもそも私達三人は、どんな身分であろうと友人とはバカ騒ぎをするし、度を過ぎなければ無礼な態度だとしても何も言わない。だがそれは、相手が友人である事が条件であり、カノンはそれに含まれない」


 ちなみに、ジャンヌやアウラ、アムールは二人にとって『友人』の範囲に入るそうで(アムールはともかく、ジャンヌとアウラがどう思っているかは別だが)、レニさんは友人かどうかは微妙なところだそうだが、基本的にレニさんは礼儀正しく、自分達を立てるように接してくるので、そういった人には少々の事で頭に来たりはしないそうだ。 


「そういう事なら任せるけど……やりすぎるなよ」


「大丈夫、大丈夫。こういった事はたまにあるから慣れてるし」

「私達は、テンマ程やりすぎたりはしないさ」


 「どう言う意味だよ!」と、アルバートに問うと、「グンジョー市でのレギルと、王都でのポドロの例をを見るだけでも、やりすぎという言葉はテンマにぴったりだと思うがな?」との事だった。

 心当たりがある懐かしい名前を聞かされ、少し怯んでしまったが、「敵対してきたやつを撃退しただけだ!」と反論すると、「普通、平民が貴族を撃退して、その一家の取り潰しに直接関わったりはしないって。やっても、その貴族と敵対している貴族に情報を流すくらいだよ」と、カインから返された。しかもカインの後ろでは、アルバートが真剣な表情で何度も頷いている。


「そこまで言うなら、二人に任せるぞ。俺はじいちゃんとリオンの足止めと注意を頑張るとするか」


「テンマ……頑張りすぎないでね?」

「リオンのことだから、少々の事ではダメにならないと思うが……あれでも辺境伯家の跡取りなのだから、五体無事に返してやってくれ」


 反応してはダメだと思い、黙ってじいちゃんと合流しようとしたが……気がついたら、アルバートの頭を脇に抱え込み、カインの後ろ襟を反対の手で捕まえているところだった。


「そ、そこまで素早く動けるなら、この先の旅に何の心配もないね……ごめん、謝るから許して」

「ギ、ギブ……アップ……ち、力の方も、戻ったみたいだな……ゴホッ」


 後ろ襟を掴まれただけのカインは大した痛みはなかったようだが、ヘッドロックもどきをくらったアルバートは、かなり辛そうにしていた。


「無意識の行動というのは怖いな……」

「無意識で二人の男の行動を封じるなんて、本当に怖いね」

「本当に無意識だったらの話だがな」


 アルバートの言う通り、本当は無意識などではないが……特に訂正しなくてもいいかと思い、二人に対してはニコリと笑いかけるだけで何も言わなかった。二人共、少し表情が強ばっていたが、すぐにユーリさんと話し合う為にギルド長室に向かっていった。



「リオン、ここにいたのか。今日の夜は俺とじいちゃんとリオン以外は用事があるとかで、三人で晩飯をする事になったから、そのつもりでな。あと、その時に大切な話があるから、申し訳ないけどカノンは遠慮してくれ」


 『探索』でリオンを探し出し、すぐに要件を話した。そして、相変わらずリオンのそばにいたカノンには、強い口調で同席はさせないと告げた。

 少々厳しい口調で言ったせいか、カノンは何か言いたそうにしてはいたが、結局何も言わずに頷いていた。

 その夜、


「リオン、カノンの事はどうするのじゃ?」

「はぁ、カノンですか?」


 リオンを軽く酔わせてから、じいちゃんがカノンとの事を切り出した。


「カノンがお主に気があるのは、流石に気付いておろう。それを放ったらかしにしたせいで、クリスやアルバート、カインに迷惑が掛かっておるのを分かっているのか?」


「一応分かってはいるんですけど……どうしたらいいのかが分からないん」


 リオンの言い分は、三人に迷惑が掛かっているのは理解しているが、どうやって解決すればいいのか、方法が分からないそうだ。


「手っ取り早いのは、カノンとの縁を切る事じゃ。お主が強く拒絶すれば、カノンも諦めるじゃろう。それをせずに中途半端な態度を取っておるせいで、カノンはまだ望みがあると思っているのじゃ」


 至極真面目に説教するじいちゃんに、素直な態度で聞いているリオン。俺は二人の隣に座っているのだが、話に入り込む隙がないので、静かに話を聞きながら、時折空になったふたりのコップに酒を注いでいる。しばらくすると、


「そもそも、胸が小さいから付き合えないとはなんじゃ! 男なら、自分が大きくしてやるくらいの事を言わんか! 人間誰しも欠点の一つや二つは持っているものじゃ! クリスを見てみろ! 胸は小さく気は荒い! なのに男の理想が高くて選り好みをする! それに比べれば、カノンは優良物件じゃろうが!」


「確かに! 姐さんは理想が高すぎる上にカッコつけたがりだから、年下の同性には持てますけど、男性から声を掛けられているところは見た事がありませんね!」


 じいちゃんが、かなりやばい事を口にし始めた。少々、調子に乗ってお酒を飲ませすぎたかもしれない。俺自身があまり酔わないものだから、二人の代わりに注文した時に強めのお酒を頼んだのが失敗だったようだ。幸い、前にアルバートとカインに案内してもらった店の個室なので防音がしっかりしており、他の客に聞かれるといった事は起きてはいないが……もしもこの場が一般的な飲み屋だった場合、俺はこの二人を引きずって逃走しているだろう。それくらい、今の状況は他人に見せられないものだった。


「話がそれているみたいだが、結局のところリオンは、カノンの事を真剣に考えるという事でいいんだな?」


「おう! これ以上、皆に迷惑はかけられないからな!」


「そうか、男に二言はないな? それと、皆……特にクリスさんとアルバートとカインには念入りに謝っておけよ」


「おう! わかってるって?」


「よし分かった! じゃあ、飲め! じいちゃんも、どんどん飲んで!」


 面倒になった俺は、言質だけとって良い潰す事にした。ついでにじいちゃんも。これ以上、この二人の話を聞き続けたら、俺の精神がどうにかなってしまいそうだったからだ。

 そして一時間後、


「ようやく潰れた……」

 

 やっと二人が静かになった。なので、


「料理の追加お願いします」


 店員を呼んで、ゆっくりと食事にする事にした。ちなみにここの代金は、リオン(泥酔状態)が奢ると言っていたので、潰れる前に財布を預かっておいた……まあ、リオンの財布だけでは足りないと思うので、ちゃんとじいちゃん(泥酔状態)からも財布を預かっている。さらに、


「スラリン、シロウマル、ソロモン、ゴル、ジル、許可が出たから出てきていいぞ。ただし、暴れたりするなよ」


 こうして、俺と眷属達による宴会は、夜遅くまで続いたのだった……それにしても、ゴルとジルはディメンションバッグのから出てこないくせに、メニューの中でも高いものから順に頼んでいくという、一番容赦のない方法でリオンとじいちゃんの財布を攻めていた。

 そして次の日……


「テンマ、俺の財布の中身がないんだけど」

「わしのもじゃ」


「なに言ってんの、二人共? あれだけ調子に乗って高価な酒を頼み続けたら、そうなるに決まってるじゃん。それに、自分達が払うからって言って、譲らなかったんじゃん。それなのに忘れるなんいて……連れて帰るの大変だったんだからね! 二人共、正気を失くす程酒を飲むのはやめなよ。体に悪いから」


 財布の中身に気づいた二人だったが、俺がそう言うと少し考え込み……二日酔いの頭痛で思考が纏まらず、すぐにベッドに横たわった。


「ねえ、ジャンヌ……テンマ様の言っている事、本当だと思う?」

「しっ! それ以上は駄目よ」

「アウラ。賄賂を受け取った以上、私達はテンマの共犯」

「ですね。思っても口に出してはいけません」

「そうよ。マーリン様には申し訳ないけど、リオンは私にさんざん迷惑をかけたんだから、これくらいじゃ足りないくらいよ」


 女性陣は、昨日店を出る前に頼んだ持ち帰り用の料理を賄賂として渡してあるので、俺の共犯(なかま)である。なので、おかしな点があっても、それを指摘するような事はしない。なお、アルバートとカインには酒を買ってきて渡している。

 二人は昨日俺がリオンを酔い潰しているあいだ、カノンを説教(というよりも、内容的には脅しに近かったらしい)したせいでストレスを溜めてしまったので、昨日は賄賂の酒を朝方まで飲んでいたそうで、未だに眠っていた。


「それにしても、アルバートとカインはまだ寝ているの? さっさと出発したいから、リオン……は死んでいるわね。テンマ君、ちょっと起こしてきて頂戴」


 流石にジャンヌ達を、貴族であるアルバートとカインが寝ている部屋に入れるのは不味いとの事で、俺がパシらされる事になった。まあ、パシリに使われる俺よりも、精神的に疲れて寝ているのにたたき起こされる二人の方がかわいそうだと思ったから、俺は何も言わずにクリスさんの命令を聞いた。


「それじゃあ、リオンには置き手紙をしたし、ギルド長に頼んでいるから心配する必要はないわね……じゃあ、出発よ!」


 クリスさんの号令で、俺達はラッセル市を出発する事になった。

 見送りには、疲れた様子のユーリさん、怯えた様子のカノン、シロウマルとソロモンとの別れを惜しむギルド職員達が来てくれた。

 カノンは、クリスさんを見るなり深々と頭を下げて謝罪し、クリスさんもそれを受け入れたので表面上は和解した形だが……傍から見ると、クリスさんが脅して謝らせているようにも見えるのは、少し問題があるかもしれない。


「それじゃあ、ユーリさん。リオンを頼みます。あいつはいま、宿で寝ていますので、起きて誰もいないと気がついたら、真っ先にギルドに突撃すると思いますので」

「任せてください……一応、リオン様には、先に行く事を伝えているのですよね?」


 伝えていると答えると、ユーリさんは安心していた。事前に知らされている事ならば、リオンの混乱は一時的なものだと思ったのだろう。まあ、伝えたのは昨日泥酔している時なので、本人は覚えていないと思うが……伝えた事は確かなので、覚えていないのは本人の責任だろう。


「テンマ君! さっさと出発するわよ! いつまでもここにいたら、リオンが気がついちゃうかもしれないじゃない!」


 クリスさんの言葉を聞いて、ユーリさんが「えっ?」と声を漏らしていたので、バレる前に馬車に乗り込んで出発するように御者席のジャンヌに命令(・・)した。

 次の目的地であるグンジョー市までは、寄り道をしても十日かからずに到着できるだろう。この調子なら、雪が降る前に王都に帰る事が出来るかも知れない。

 そんな事を思いながら、何か叫んでいるユーリさんを無視して、俺達はラッセル市をあとにした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ナミタロウはどうしたんだろう? あと数年たったけどステータスはもう飽きましたか?
[良い点] 前半は楽しめました。 [気になる点] 12章はクリスの言動の表現が極端?と、話の展開が雑?に感じられる。説明調の文章も多く 全体的に グダグダかなぁ。 [一言] 軽快なテンポが、重くなって…
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