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第12章-10 暗黒面

「ご飯!」

「「お買い物!」」


「リオンかカノンを探し出す!」


 俺の質問に、アムールはご飯、ジャンヌとアウラは買い物、そしてクリスさんはリオンかカノンを探すと提案してきた。クリスさんの提案に関しては、『二人に用がある』のではなく、『リオンとカノンの邪魔をしたい』だけだと分かりきっていたので、誰も相手にしなかった。


「それじゃあ、街をブラブラしつつ、気になる店があったら入るという感じでいいかな?」


 結局、いつものように皆で街ブラする事になった。いつもは別行動をする事の多いじいちゃんも、昼食をとると言う事で一緒に街ブラするそうだ。



「なんか、昨日より街が騒がしいね」

「そうじゃな」


 街ブラを開始して十数分、明らかに昨日にはなかった騒がしさを感じた。


「何か、催し物でもやっているのかしら?」

「大規模なお見合いかも……クリス、参加したら?」

「そんなわけないでしょ! ……チッ」

 

「お見合いじゃなくて、お祭りじゃない?」 

「でも、ギルドの人は何も言わなかったわよ?」


 アムールに茶化されたクリスさんは、アムールにゲンコツをお見舞いしようとしたがよけられてしまった。そんな二人を見ながらも、いつもの事と無視しているジャンヌとアウラは、何か変わった出店でも出ていないかと周囲を見回している。


「きっと、リオン様が視察に出ているのが騒ぎの原因ではないでしょうか? それに、リオン様に加えて、アルバート様とカイン様もいますし。あのお三方は何かと目立ちますから、街中が騒がしくなってもおかしくありません」


 レニさんの考えに、俺達は納得して街ブラを再開しようとしたが……俺達に向かって走ってくる人がいたので、足を止めて警戒しながら待ち構えた……が、すぐにギルド職員だと分かったので、警戒を解いて迎えた。



「こんなに騒がしいのはじいちゃんのせいと言う事か……」

「いや、どちらかと言うと、テンマのせいじゃろう」


「どう考えても、二人のせいですから」


「ほんの少しだけ、クリスのせいでもある」


「その理屈だと、お嬢様のせいでもありますね」


 ギルド職員の話だと、この騒がしさの原因は俺達だった。要は、武闘大会で活躍した選手が揃っている為に、このような騒ぎになっているそうだ。ただ、露骨に近づいて来る者がいないのは、俺やじいちゃん(ククリ村の住人)に対する負い目があるのと、俺の不評を買うと、いつの間にか存在を消されてしまうと言う都市伝説(・・・・)のせいらしい。


「ふむ、嘘をつくときは、多少の真実を混ぜると効果的というわけじゃな」

「多少じゃない! 半分は入っている!」


「いや、半分も入っていないからな」


 アムールのボケに、反射的にツッコミを入れてしまったのだが、何故だかアムールはとても嬉しそうにしていた。

 ラッセル市には数日前から滞在しているのに、何故今頃になって騒ぎになったのかと言うと、シロウマルとソロモンが関係していた。シロウマルは数日前にカノンを運ぶ時に外に出したが、その時の目撃者達は、『もしかしたら?』程度の認識だったそうだ。だが、昨日行ったカノンのリハビリ(と称した、ユーリさんのいたずら)の為、ギルドの奥でソロモンとのふれあい会を開催した話が街中を駆け巡り、このような騒ぎになったのだそうだ。ちなみにふれあい会は、カノンだけの予定だったのだがユーリさんが、「伯父として、ギルド長として、安全を確認しなければならない!」とか言い出したせいで、カノンだけの予定からギルド職員の参加が可能になり、ついでにふれあい会のメンバーにシロウマルも追加される事になった。なお、ふれあい会は短時間の開催だったのだがギルド職員の満足度がとても高かったとの事で、ユーリさんから二匹に二頭分の猪肉が報酬として送られたのだった。


「でも、半分くらいはユーリさんとギルド職員のせいじゃない?」


「そうじゃな。ふれあい会はギルド職員以外の立ち入りができないところで開催したのじゃから、ユーリか職員の誰かが外部に漏らさなければ、広まる事は考えられないからのう」


 俺とじいちゃんの会話を聞いていたギルド職員は、滝のように汗を流しながら頭を下げていた。


「ん? ああ、お主は気にせんでもいいぞ。職員にも責任があるとは言っても、最後の最後は全てユーリの責任じゃ。責任者は、こういった時の為におるのじゃ……と言う訳で、テンマ。ちょっとわしは、今からユーリをからかってくる」


 じいちゃんはそう言うと、職員を引き連れてギルドへと戻っていった。食事はどうするのかと聞くと、「ユーリに用意させるから、わしに構わず楽しんで来るといい」との事だった。この時、じいちゃんが『全てユーリの責任』といった瞬間、ギルド職員は安堵の表情を浮かべていた。


「それじゃあ、じいちゃんの事はユーリさんに任せて、俺達は街ブラを再開しようか? スラリン、車椅子を……って、無理か。シロウマル、引っ張ってくれ」


 先程まで車椅子を押してくれていたじいちゃんがいなくなったので、スラリンに頼もうかと思ったが、流石に無理だと気付き、シロウマルに頼む事にした。シロウマルなら、犬ぞりの要領で行けると思ったからだ。


「シロウマルに頼まなくても、私が押してあげるわよ」

「私がやる!」


 シロウマルに頼んだのを冗談だと思ったのか、クリスさんが笑いながら車椅子を押そうとし、アムールがそれに張り合った。


「いや、シロウマルに頼もうとしたのは、ラッセル市の人達への紹介の意味もあったからで、頼まなくても自分で移動できるから」


 この世界の車椅子の仕組みは、前世のものと性能は段違いだが構造自体は大きく変わらないので、自分で動かす事は可能だ。ただ、ものすごく疲れるという欠点があるだけで……


「遠慮しなくていいわよ」

「クリスが嫌なら、私がやるから!」


 アムールがクリスさんより先に車椅子に手を掛けようとしたが、俺は思わず車椅子を前進させて躱してしまった。


「何故?」


「いや、突然の事だったし……」


 躱した事を疑問に思ったアムールに、ついそう言った言葉を返すと、今度は「今から押す!」と宣言された。絶体絶命の大ピンチ! ……というわけではないが、覚悟を決めるしかないかと精神を集中させて、アムールの接近に備えた時、


「あっ! ここにいた! ちょっとテンマを借りますね!」


 カインが脇道から現れて、車椅子を押し始めた。


「泥棒!」


 アムールがカインを泥棒呼ばわりしたが、カインは、「人聞きの悪い事言わないで~」と返しただけで、足を止める事はなかった。



「ちょっと! どこまで行く気なのよ!」


 しばらくカインの暴走に付き合っていると、何も聞かされずに走らされている事にしびれを切らしたクリスさんが、カインに強い口調で尋ねたところ、


「あと少し……見えた! あそこです!」


「ちょっ! 急に、あっ……んぐっ!」


 急に止まったカインに反応できず、クリスさんは前のめりになって倒れかけたが、寸前のところでアムールに助けられた。まあ、腰のところを急に掴まれたせいで少々苦しそうだったが、顔から地面に突っ込むよりはましだっただろう。


「一体何が……って、アルバート。こんなところに隠れて、何しているんだ?」

「来たか、テンマ。あれ(・・)をどうにか出来ないか? というより、頼むからあれ(・・)をどうにかしてくれ!」


 物陰に隠れているアルバートの指差す方向を見てみると、そこにはリオンと、そのそばに寄り添って店先の商品を見ているカノンがいた。


「クソっ! 手遅れだったか!」 


「あれがどうしたんだ? 仲が良さそうにしか見えないんだけど?」


 悔しがるクリスさんを無視してそう答えると、アルバートとカインは揃って首を横に振った。そこで、二人の事をよく見てみると、


「リオン、そっけないな。あれじゃあ、流石にカノンがかわいそうだ」


 二人をよく見て気がついたのは、カノンが色々と話しかけているのに、リオンはそっけない態度で接し、何度も周囲をキョロキョロと見回している事だった。


「もしかしてあれ、アルバートとカインを探しているんじゃないか?」


「かもしれないけど……下手に付き合って、馬に蹴られたくないし」

「そうでなくとも、女性に恨まれたくはないしな」


 二人はカッコよさげな事を言ってはいるが、真相はカノンが怖かったのだろう。その事に気がついたのは俺だけではなく……というより、女性陣の方が早く気がついたようだ。特にクリスさんとアムールは二人を怪しんでおり、今にも尋問……が、たった今始まった。そしてものの数秒で、二人は素直に白状した。「「合流した時のカノンは、自分達を排除すると決めた目をしていた」」と……


「これは、もうリオンに覚悟してもらうしかないわね……とても腹立たしいけど。このままだと、カノンがどういった行動に出るか火を見るより明らかだわ……死ねばいいのに」


 クリスさんは、本音と建前の区別が付いていないようで物騒な事も口にしていたが、その建前の部分にはこの場の全員が頷いていた。

 俺に敵意むき出しだったカノンの気性を考えれば、このままだとヤンデレ、もしくはメンヘラ化してしまうかもしれない。それはそれでおもしろそうだとカインは思っていそうだが、実際にカノンがそうなってしてしまった場合、アルバートやカインにも被害が及ぶ可能性があるので、二人も真剣に対策を練らなくてはならないのだ。

 しかし、対策と言ってもリオンがその気にならなければ意味がない。そういった事から、特にいい案は誰からも出ず、終いにはクリスさんが、「いっその事、リオンを酒に酔わせて、カノンと同じベッドに放り込もうかしら?」とか言い出したが、それをやると報復で同じ事をやられても文句は言えないので、「「「絶対にやりません!」」」と、俺とアルバートとカインで却下した。


「取り敢えず、リオンは見失ったという事で、このまま二人っきりにしておこう。二人の仲が発展するかどうかは、カノンの努力次第という事で」


「「よし、そうしよう!」」


 真っ先に賛成したアルバートとカインは、リオンに気取られないようにしながら、急いで俺の車椅子を押してその場から離れていった。見て見ぬふりをするという結論しか出せない俺達だったが、それ以外に考えが出てこなかったので、誰も何も言わなかった。

 リオン達からだいぶ離れたところまで移動してから、アルバートとカインは何事もなかったかのように、これからの予定を話し始めた。



「じゃあ、まずは食事と言う事で決まりだね」

「それなら、いいところを知っている」


 何度かラッセル市に訪れた事のある二人のおすすめの場所で食事にする事に決めたが、二人が知っていると言う事はリオンも知っている可能性が高いので、そこのところはどうなのかと聞くと、その店は別料金で利用できる個室があり、それを目当てにした貴族も来店する事が多いらしく、店員の教育もしっかりしており、例え俺達の知り合い(リオン)が聞いたとしても情報を漏らす事はないそうだ。


「それに、入口と出口が複数用意されているから、よっぽどの事がない限り、鉢会う事はないはずだよ。少なくともラッセル市では、一番情報が漏れにくい店だろうね」


 それでも、数を集めて全ての出入り口を見張っていれば誰が利用していたのか知る事は可能だが、今回警戒するべき相手はリオンとカノンなので、そこまで心配する必要はない。




「王都の料理と比べても、遜色のないレベルね」

「うまかった!」

「やっぱり、南部とは味付けが違いますね……お嬢様、口調」

「……美味しゅうございました」


「美味しかったけれど……」

「テンマ様の料理の方がいいですね!」


「まあ、テンマの料理は王室が認めた味だからね」

「それと、テンマの料理の方が、珍しいと言うのもあるのだろう。ここの料理は美味いが、他に比較できる味があるからな」


「そういうものなのかな? 俺としてはここの料理は十分美味しいと思ったし、本職が作った料理だけに、技術は完全にここの方が上なんだけどな……ちょっと待て、近くにリオンがいる」


 店を出て、それぞれが料理の感想を述べている最中に、ふと要注意人物の気配を感じて警戒するように言うと皆一斉に静かになり、俺の指示に従って近くの脇道に隠れた。


「本当にいるね」

「しかも、あそこから出てきたという事は、我々と同じ店にいた可能性が高いという事だな」


 アルバートが言うには、リオンとカノンが出てきた小道の先には、俺達が先程まで利用していた店の出口の一つがあるそうで、リオンの満足したような表情から、同じところで食事をしていた可能性が高いと考えたようだ。


「行き先は……街の中心部か? それなら、俺達はギルドに戻らないか? このまま買い物をしていたら、どこかであの二人と鉢合いそうだ」


「それもそうね。どうせあと数日はラッセル市に滞在する予定なんだし、買い物のチャンスはまだあるわ。それよりも、あの二人と不意に出会ってしまったら……反射的にリオンをどうにかしてしまいそうだし」


 その発言を聞いて、買い物に行きたそうだったジャンヌとアウラはクリスさんを恐れたのか、気配を消しながら俺の後ろに隠れた。


「ギルドに戻るのはいいが、何をするんだ?」


「そろそろ、本格的にリハビリを開始しようと思ってね。いい機会だし、今日から始めようかな……と」


 体調もある程度戻ってきたのでそろそろ体を動かし始めないと、このままでは筋力が落ちていく一方なのだ。


「皆それでいいみたいだし、それじゃあ早速行こうか」


 カインはそう言うと、早足で車椅子を押して進み始めた。リオン達は反対方向へと向かっていったので、別に急がなくてもいいだろうと言ったのだが、リオンの勘が働いて戻ってこないとも限らないとの答えが返ってきたせいで、それを聞いた皆も自然と早足になっていた。



「それで、リハビリという事だが、どういった事をするつもりなんだ?」

「組手なら任せて!」

「いや、リハビリの第一段階で、いきなり組手はないよ」


「まあ、当たり前よね。最初は柔軟からかしら?」 


 アムールがやる気を見せたのだが、カインによってすぐに窘められた。クリスさんも、アムールと同じ考えなのかと思ったら、流石に近衛隊に所属しているだけあって、リハビリの意味を理解していた。


「何か、失礼なことでも考えてる?」


 クリスさんの野生の勘が働いたのか、俺を見る目が鋭くなったが、すぐに否定して事なきを得た。そんな俺と同じく、アルバートとカインとアムールも首を横に振っていたが、運のいい事にクリスさんの視界には入らなかったようで、三人が追及される事はなかった。


「まあ、今日は柔軟を中心にやって、どのくらい歩けるか少し試してみるくらいだね。アルバート、カイン、悪いけど手伝ってくれ」


 クリスさんに予定を話すと、クリスさんとアムールが手を挙げる前に同性の二人を相手に指名した。流石に柔軟では体を密着させる事もあるので、女性が相手だと思いっきり体をほぐす事は不可能だと考えたからだ。

 俺の意図に気づいたアルバートとカインは、すぐに動きやすいように上着を脱いで裾まくりをし、クリスさんは仕方がないといった感じでアムールの首根っこを押さえていた。


「アムールには申し訳ないが、こういうのは同性の方が気兼ねなくできるからな」

「でも、本格的な柔軟を知っているわけではないから、指示は出してね」


 二人にやってほしい事を簡単に説明してから柔軟を始めたのだが、思った以上に体が固くなっていて驚いた。安静にしてはいたが、それなりに動いていたと思っていたので、ここまで苦労するのは予想外だったのだ。



「テンマ、一度休憩にしようか?」

「そうだな。いつの間にかギャラリーも増えているし」


 苦戦しながら柔軟を続けていると、いつの間にかラッセル市で活動している冒険者達が見学に来ていた。まあ、いま利用しているところはギルドの訓練施設なので、俺達に見学を咎める権利はないのだが、流石に苦労しているところが見世物になるのは嫌なので、切りのいいところで休憩となったのだ。

 俺が柔軟をやめた事で、見学していた冒険者のほとんどは施設から出て行ったが、自分の訓練をしているフリや、数人で固まって話しながら俺達の様子を伺っているやつが何人か残っていた。


「あの、固まって話している奴らは、なんか嫌な感じだね」

「そうだな。ああいった、いかにも(・・・・)な奴らは久々に見るな。恐らく、今のテンマならなんとかなるとでも思っているのだろう」

「まあ、実際に今の俺は、普段の十分の一も動けてないわけだけどね」


 固まって話している奴らの雰囲気からして、俺を倒して名を上げようとでも考えているのだろう。


「と言うか、テンマが受けないとは考えないのかねぇ?」

「その前に、この状態のテンマに負けるとは考えないのかが不思議だな。私ならリオンとカインが一緒に戦う条件だとしても、絶対にやらないけどな」


「それは、あなたがテンマの事をよく知っているからでしょう。まあ、私もやらないけどね。だって、満足に動けない状態だとしても、テンマくんにはまだ魔法があるし……」

「スラリン達もいる!」

「ゴーレムもあるんですよね?」

「テンマ、サソリを使う? 脅しにはちょうどいいと思うけど?」

「二号も必要ですか?」


 ジャンヌとアウラはこういった対応に慣れてきたのか、サソリ型ゴーレムをいつでも出せるようにしていた。サソリ一体でもかなりの過剰戦力ではあるが、人が弱っているところを狙って複数で来るような奴らなら、ゴーレムで叩き潰しても別にいいかもしれないけれど、魔法で瞬殺した方が色々と楽でいいかな? とか考えていると、


「グルルルルゥ……」


 バッグから飛び出してきたシロウマルが、本来の大きさな姿で唸り声を上げた。シロウマルの視線は、固まって話していた奴らに向いている。


「あっ! 逃げた」

「テンマ、怒られないかな? 一応、あいつらはまだ何もやっていないんだし」


「シロウマルは、ただ唸っただけだ。それ以上でも、それ以下でもない。あいつらは、勝手に驚いて出て行っただけだ! ……という事にしておこう」


 かなり強引ではあるが、実際にシロウマルは飛びかかったりしたわけではないので、何とかギルド職員には分かってもらえるはずだ……もし難色を示すようならば、もう一度ふれあい会を開催する必要があるかも知れない。

 

「それにしても、シロウマルはいいタイミングで飛び出してきたな……って、スラリンの指示か」


 いい仕事をしたシロウマルを褒めようとしたところ、シロウマルは俺達に背を向けて尻尾を振り、スラリンからご褒美のおやつを貰っていた。


「多分、あいつらがテンマ君に叩き潰されて、再起不能になる未来を回避する為だったんでしょうね」

「スラリン、偉い! お手柄!」


「テンマは、敵には容赦しないしね」 

「まあ、その分味方には甘いところがあるが……時折、リオンの付き添いで跡を付けていた時に、問答無用で攻撃されなくて良かったと思ってしまうな」


 スラリンを褒めていたと思ったら、自然な流れで俺の話に変わっていった。終いには、何故かクリスさんが俺と出会った頃の話を始め、かなり事実とかけ離れた話をしていた。


「お~い! こんなところにいたのか! 何か受付のところで、シロウマルをけしかけられたとかいう奴らが騒いでいたぞ!」


「ちっ! 戻ってきやがったか!」


 クリスさんを無視して、アルバートとカインに手伝ってもらって歩行訓練をやっていると、入口の方から馬鹿でかい声でリオンがやってきた。その隣には、どこか嫌そうなカノンがいる。そして、そんな二人を見た瞬間、クリスさんが暗黒面に片足を突っ込んだ。


「もう少し、二人で買い物でもしてくればよかったのに」

「そうだぞ。せっかく機会だし、ゆっくりと街を視察してこい。私達とでは、見る事のできない面が見えるだろう」

「しっかしな……お前らがいないと、何か物足りないんだよな」


 リオンの危険な発言に、アルバートとカインはゆっくりと後退りで距離をとった。

「おい、カイン。俺を盾にするな」

「ごめん。テンマはターゲットになってないと思うから、少し我慢して。僕の為に!」


 俺を盾にして後退るカインは、普段見る事がないくらい真剣な顔をしていた。

 アルバートは、「その手があったか!」とかいう表情をしていたが、俺の後ろは一杯だったのでクリスさんの後ろに隠れようとしたら、「私はあんたが隠れるほど太くはない!」と蹴り飛ばされていた。二人共、程よく混乱しているようだ。

 

 リオンの隣にいるカノンは、そんな混乱している二人を睨みながら、リオンの袖を掴んでいる。しかしリオンは、女性(カノン)に袖を掴まれ、密着しそうなくらいの距離にいるのに、全く気にしたような様子を見せない。


「死ねばいいのに……」


 そんな二人を見てクリスさんは、先程よりも深く暗黒面に落ちていった。

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