第12章-9 リオン 評価 暴落(一部急上昇)
「何がどうなっているんだよ!」
宿に戻り部屋に入るなり、リオンがアルバートとカインに掴みかからんばかりの勢いで詰め寄った。
「リオン、あの場で一番力を持っていたのは誰だ?」
「あん? それはテンマだろ?」
リオンの言葉に、コントのような反応を見せるアルバートとカイン。
「リオン、それはないわ……あの場面でいう『力』は権力の事よ。あなたはラッセル市を含むハウスト辺境伯家の次期当主でしょ」
クリスさんの呆れ声の指摘に、リオンは「ああ、そういう事か……で、それが?」と返し、今度はクリスさんが天を仰いだ。
「あの場で、他の領地の貴族である私とカインがギルド長を責め、次期領主であるリオンが仲裁すれば、カノンはリオンに恩を感じて、今後はテンマへの恨みを抑えようとするだろうが!」
「せっかくリオンにいいところを用意する為に、僕とアルバートが悪役を演じたのに……話が変な方向に進んで行っちゃって、もう少しで本当の悪者になるところだったじゃないか!」
ちなみに、ユーリさんもすぐに二人の意図に気がついて話を合わせてきたようだとの事だった。だからリオンが話に加わると、すぐに話がまとまったのか……と、納得した俺だった。ちなみに、クリスさんとレニさんは二人が何か企んでいると気がついていたみたいだ。
「それに、あそこでいいところを見せれば、カノンさんをゲット出来たかもしれないのに」
カインが茶化しながら言うとリオンは、
「カノンさんか……綺麗な人なんだけどな」
と、どこか引っかかっているところがあるような言い方をした。
「何だ? テンマに突っかかった、あの気性が気になるか?」
「いや、普段はそんな事はないと聞いているから、性格面に問題はないと思っている」
「なら、身分が問題? 辺境伯家はエディリアさんの例があるから、大した問題にならないと思うけど?」
「カイン、俺は身分で結婚相手を決めるつもりはないからな」
「それじゃあ、何が……ああ、年齢ね。確かにそれは気にしちゃうかもね。ハーフとは言えエルフだから、人族とは寿命が違うからね。でも、他種族間での婚姻では仕方がない事だし、今は実年齢よりも、見た目の釣り合いや子供が作れるかの方が重要だと言う人もいるくらいだから、そこまで気にする必要はないわよ」
「俺、年齢はあまり気にしないっすね」
「じゃあ、一体リオンは何を気にしているんだ?」
アルバート、カイン、クリスさんの疑問を違うと即答したリオンは、俺の質問には真面目な顔をして、
「胸がな、小さいんだ……他はこれまで出会った中でも、トップクラスなのに」
などと、心底残念そうに言い出した。
「はい、かいさ~ん! 皆さん、本日はお疲れ様でした。夕食の時間までは、自由時間と言う事で」
「そうだな。最低なリオンは放っておくとして、夕食は皆が集まってから決めるとするか」
「そうね。最低なリオンは捨てておいて、私は何かお土産になりそうなものでも探してくるわ」
「あっ! 私もついて行っていいですか? ここにいると、最低なリオン様の視線が怖くて……」
「アウラが行くなら、私もついていこうかしら? ちょっとここに残るのは……」
「私は……大丈夫だと思うけど、リオンが最低だから外に行きたい」
「じゃあ、私も行きますね。お嬢様がいないのに残るのは……ちょっとアレですし、ねぇ?」
カインの解散発言で、それぞれリオンを無視して動き出した。中でも女性陣は、リオンに不快な虫でも見るかのような目を向けながら、距離を取りつつ早足で部屋から出ていった。
「クリス達の様子が少しおかしかったが、何かあったのか?」
クリスさん達と入れ替わりにじいちゃんが帰ってきたのだが、廊下ですれ違った際に違和感を覚えたらしい。
「いや、実はリオンが……」
俺がじいちゃんにリオンの『やらかし』を説明すると、
「そういう事じゃったのか……わしからのアドバイスは、テンマ、アルバート、カイン……リオンの味方と判断されそうな発言は、間違ってもしない事じゃ。同類と思われるぞ」
「「「はいっ!」」」
「えっ……」
じいちゃんのありがたいお言葉に、俺達は大きな声で返事した。
「そして、リオン」
「は、はい!」
「……何事も、あきらめが肝心じゃ。耐え忍ぶ事じゃ」
「そ、そこを何とかっ!」
メンバー中、一番の人生経験を持つじいちゃんでも、今のリオンの状況はどうしようもないらしい。しかし、リオンは何とかアドバイスを貰おうと、じいちゃんの腰にしがみついた。
「離さんか! わしとて出来ぬ事はある! そもそも、わしにそんな男女関係の修正能力があれば、結婚くらいしておるわ!」
「そ、そんな……」
じいちゃんも結婚したいと思った事があったのかな? とか考えながら、リオンに絡みつかれているじいちゃんを見ていると、
「分かった! 少し考えてやるから、離れるのじゃ!」
「本当ですかっ!」
粘り勝ちしたリオンはすぐに離れると、じいちゃんの正面で正座してアドバイスを待った。
「む~……リオン、お主はもう喋るでない! 話しかけられた時のみ、『はい』『いいえ』のような単語で返すのじゃ!」
「あ、ありがとうございます!」
それだけ? と俺は思ったのだが、リオンは額を床につけて礼を言っている。
「まあ、リオンがそれでいいなら、俺がどうのこうの言う事じゃないか」
「テンマ、そこは僕達と言ってね」
「マーリン様の助言は、それなりに効果がありそうだが……それでも、基本的に駄目な方向に向かうのがリオンだからな」
それは幼馴染の経験談であり、彼らより付き合いの短い俺でも頷くしかない話だった。
「それにしても、テンマ。珍しく顔を真っ赤にしていたね?」
「そう言えばそうだな。テンマが、女性関連であそこまで照れているのは初めて見たな」
「何の事だ?」
取り敢えずとぼけてみたが、リオンならともかく、この二人を誤魔化す事は出来ないと自分でも分かっている。
「確かに、あの時のカノンさんは色っぽかったけど……いつものテンマなら多少照れはしても、リオンみたいにはならないでしょ。何か、心境の変化でもあった?」
「確かにテンマは、身近に綺麗どころが集まるというのに、これまで浮いた噂がなかったからな。朴念仁とか、枯れているというわけでもないのに」
「何の話をしておるのじゃ?」
二人相手に追い込まれかけていたら、じいちゃんまで参加してきた。その後ろでは、じいちゃんの教えを守ろうと、口に力を入れて開かないようにしているリオンがいる。
「実は、マーリン様がいない時に……」
カインは、俺が車椅子のせいで動きが制限されているのをいい事に、すぐにじいちゃんにギルドで起こった俺の変化を話し始めた。
「テンマが女性に反応した? 祖父としては喜んでいいのか、悪いのか……ではなく、テンマ」
じいちゃんはカインの話を聞き終わった後で、一瞬俺を弄りかけたが、急に真剣な顔になって、俺を色々な角度から見始めた。
「外見の変化はないみたいじゃな……だとすると、内面に変化が……いや、正常に戻りつつあるのかもしれぬな……」
じいちゃんがブツブツ呟きながら、何か考え込み始めた。
「アルバート、カイン、リオン。テンマに関する重要な話をするから、他の者がこの階へ立ち入るのを制限し、クリス達が帰ってきた時にすぐに知らせるようにと従業員に伝えるのじゃ。あと念の為、施錠をするのじゃ」
「私達は席を外した方がいいですか?」
「いや、アルバート達の意見も聞きたいから、戻ってきてくれ」
「分かりました。すぐに準備します」
「任務、了解」
三人は、じいちゃんの頼みを聞いてすぐに動いた。リオンはじいちゃんの教えを守っているせいで、若干……いや、かなり変な感じになっていたが、本人はいたって真剣な顔をしていた。
「さて、わしが気になっておるのは、テンマの内面の変化じゃ。詳しく言うと、女性への興味が強くなってきたと言う事じゃな」
じいちゃんが真面目な顔で何を言い出すのかと思ったら、全然真面目な話ではなかった。
「マーリン様、確かにこれまでの事を考えたら、確かに変化したと思いますが……年齢を考えたら、至って普通の事ではないですか?」
「テンマ、女、好き、普通」
「リオンはちょっと黙って!」
アルバートの言葉に、リオンが人聞きの悪い事を言い出したが、カインに小突かれて黙った。
「確かに、年相応と言えばそうなのじゃが、変化が急すぎての……というか、それ以前が変だったのではないのかと言う、前々から思っていた疑惑が強くなってのう」
「疑問? テンマ、昔、普通、だった?」
「リオン、口を開くな!」
昔から変だったのではないかと言いたそうなリオンは、今度はアルバートに叩かれて静かになった。
「いや、ククリ村で暮らしている頃は身近に若い女性などおらんかったし、テンマもまだ子供だったから気にしなかったのじゃが、王都で一緒に暮らすようになってからは、若い女性が身近におるというのに、全然反応しなかったからのう。その事で、ふと考えた事があってな」
ククリ村はともかく、王都での暮らしの中で、女性に反応した事は何度かあったのだけど……と言う俺の反論は、全員に無視された。
「わしは、テンマがククリ村のドラゴンゾンビの騒動の時に、何らかの『トラウマ』もしくは、『呪い』のようなものを受けたのではないかと思ったのじゃ」
じいちゃんの考えでは、ドラゴンゾンビに父さんと母さんを殺されたところを目撃してしまったせいで、無意識のうちに『家族』を失うのを恐れてしまい、『新しい家族』を作るのを恐れているのではないかというものと、ドラゴンゾンビと戦った際に、『女性への関心が薄くなる』ような『呪い』をうけてしまったのではないかというものだ。
「『トラウマ』は分かるのですが、そんなピンポイントな『呪い』など存在するのですか?」
「呪いに関しては、伝承レベルの話が多いし、詳しく解明されおるわけではないから、あくまで『呪いのようなもの』といったものじゃが、もしドラゴンゾンビのせいで精力が減退するなど影響を受けた場合、それを『呪い』と呼んでもおかしくはないじゃろう。それに、テンマが村に来るずっと前から、ククリ村の人間は妊娠しづらくなっておった。それもドラゴンゾンビのせいで、村人達が知らぬうちに精力が減退していたからじゃとすれば、あながち間違いとは言えぬのではないか?」
じいちゃんの推理には、納得できるものがあった。もし人間の精力を減退させる『ウイルス』のようなものをドラゴンゾンビが保持していた場合、直接戦った俺はそれに感染していてもおかしくはないからだ。
「ドラゴンゾンビが原因だとして、何故今になってテンマが正常に戻りつつあるのでしょうか?」
「それは……たまたま、ドラゴンゾンビの影響が薄れたのが今じゃったとも考えられるが、わしはテンマが戦ったという『リッチ』と、その時一緒にいた『ジャンヌ』が関係しておるのではないかと思っておる。あのリッチがドラゴンゾンビと同類であり、それを倒した事で呪いが薄れたのか、もしくは、その時に精神的に追い込まれた事で呪いが薄れ、同時に『ジャンヌ』を守らなければならないという気持ちが、テンマを正常な状態に戻しつつあるのではないのかのう? ほれ、生き物が危機的な状況に追い込まれたりすると、子孫を残そうとする本能が働いて、子供が出来やすくなるとか言う話もあるしのう」
「リッチのおかげで、テンマに精力が戻ったと?」
「リッチ、お手柄」
「リオン……間違っても、それを他人の前では言わないでね」
精力、精力と言われるのは、何だか性欲の塊になったみたいに感じるので止めてほしい。だが、リオンはイマイチ分からないが、他の三人は真剣な表情で話し合っている。
「何にせよ、人間である以上、性欲があるのは普通の事じゃし、過剰に身を任せぬ限り悪い事ではあるまい。問題なのは、この話を女性陣には知られぬ方が良いと言う事じゃ。ジャンヌ、アウラは奴隷でメイドであるから、万が一間違いがあったとしても大した問題にはならぬじゃろうが……アムールとクリスは気をつけねばなるまい。アムールも最近は大人しくなってきておるとは言っても、子爵令嬢なのじゃから勢いで関係を持つのはまずいじゃろう。クリスは……色々とまずい。テンマの現状を知ったら、色仕掛けをしてくるかもしれぬ」
「「「あ~……」」」
「姐さん、男日照り、納得」
アムールやクリスさんの事は、すごく簡単に想像ができた。しかしリオンは、じいちゃんの教えを忠実に守っているせいで、前よりひどくなった気がする。
「まあ、テンマの事じゃから、年相応の性欲が戻ったとしても、それに身を任せて溺れる事はないと思うから、過度な心配は無用じゃろう」
「ですね。テンマですし」
「少なくとも、手を出しても問題はない相手ばかりですしね」
「テンマ、ガンバレ!」
「……もう終わった?」
後半は俺をいじって遊んでいるだけだったので、途中からはスラリン達とおやつを食べながら四人のコントを眺めていた。ただ、コントだと思い込もうとしても、たまにムカッとくる時があったせいで、少々おやつを食べ過ぎてしまった。
その日の夕方、食事の時間になってもクリスさん達は宿に戻ってくる事はなく、仕方なく男性陣と女性陣に分かれて食事をする事になったのだが、俺としては変な話題でいじられたせいでどうしても意識してしまうので、その方がありがたかった。
「テンマ、おじ……ギルド長が、ここなら自由にしていいって」
「ありがと、カノン」
俺がいじられた日から数日後、俺はギルドに併設されている鍛冶場に案内された。今日はこの場所を借りて、黒焦げになった『小烏丸』をきれいにするのだ。
カノンは、暴走して直接俺に怒りをぶつけた事で多少気が晴れたのか、俺に対する雰囲気が多少柔らかくなった。しかし、外での出来事だったので、大勢の目撃者を作ってしまった為、仲直りしたと言うアピールも兼ねて、互いに名を呼び捨てにする事にしたのだ。
「ところでテンマ、その……リオン様は?」
カノンは、アルバートとカイン、そしてユーリさんの目論見どおり、リオンに惚れた。あの時、リオンだけがカノンをかばった事で、カノンの目にはリオンが王子様に見えたのかもしれない。
「リオンなら、街の中をぶらついているはずだぞ。出かける前に、「市場を見ておきたい」とか言ってたな」
「ごめん、ちょっと用事ができた」
カノンは俺からリオンの居そうな場所を聞き出すと、早足で鍛冶場から去っていった。まあ、鍛冶に関してはカノンは役に立たないと自分で言っていたので、いなくても別にいいのだが……ギルド職員として、利用者になんの説明もせずにいなくなるのはどうなのだろうか?
「あれ? テンマ君、カノンはどこに行きました?」
入れ違いにユーリさんがやってきたので事の次第を説明すると、ユーリさんはとても複雑そうな顔をした。多分、伯父として姪の恋を応援したいのと同時に、仕事と客をほっぽり出して行ってしまった事を、上司として叱らなければならないからだろう。
「どうしたのじゃ?」
「何かあった?」
ユーリさんが入口で立ち尽くしていると、その後ろからじいちゃんとクリスさんが顔をのぞかせた。三人が入口に集まっているから見えないが、さらにその後ろにはアムールやジャンヌ達もいるみたいだ。
皆、カノンがリオンを追いかけていったと聞くと、「なるほど」と納得していた。それくらい、皆はカノンがリオンに惚れているのを理解している。理解していないのは、惚れられているリオンくらいだ。
「でも、リオンのそばには、いつも一緒の二人がいる……カノン、ドンマイ」
ラッセル市の市場調査に向かったリオンには、いつものようにアルバートとカインが同行している。その為、カノンが恋焦がれるリオンと一緒に街を歩くという事は、カノンが苦手意識を持っている二人と一緒するという事なのだ。
「まあ、あっちのグループの事は置いておくとして……今日は何をするの?」
クリスさんは、後輩に恋人ができる可能性が出てきた事が面白くないのか、早々とリオンとカノンの話を打ち切り、今日の予定を聞いてきた……確かに朝食の時に今日の予定を伝えたはずなのだが、(早めに俺を迎えに来たという体を装い、ちゃっかり朝食に参加した)カノンがリオンにアピールしているのに気を取られ、俺の話は聞いていなかったようだ。
「今日は、リッチ戦で黒焦げになった刀をきれいにしたり、簡単な調整をしたりするだけだから、ここにいてもする事はないと思うよ? 皆も、買い物なんかで時間を潰してきたら?」
体調は大分回復してきているが本調子ではないので、車椅子に座ったままでも出来そうな刀身の煤を落として破損がないかを調べ、今ある予備の鞘を装着できるかを確かめようと思っている。なので、鍛冶場なのに鍛冶作業をする予定はないのだ。それでもギルドの鍛冶場を借りたのは、煤で汚しても問題がない場所で、リオンやユーリさんの権限で自由に使える場所だったからだった。
「ん~……それでも、皆も終わるまで待つみたいだから、私も待つわ」
クリスさんは、俺の作業がそこまで時間のかかるものではないと判断したようで、皆と一緒に終わるのを待つとの事だった。
「まあ、皆がそれでいいならいいけど……文句は言わないでね。特に、クリスさん」
「言わないわよ!」
自分で選択した事なのに、俺に文句を言いそうなクリスさんに念を押すと、クリスさんは文句を言いつつ椅子をどこからか引っ張ってきて座った。
「それでは、私は仕事がありますので、何かあったら……職員の誰かに声をかけてください」
本来ならば、そういった事はカノンの仕事だったのだろうが、カノンがいないのでユーリさんは一瞬、「カノン」と言いかけていない事を思い出し、言葉をつまらせていた。
ユーリさんが出て行った後で、俺は刀をきれいにする為の道具を取り出して机の上に並べ、作業に取り掛かった。
「石鹸作り用の重曹が残っていて良かったな。まずはこれをふりかけって……っと」
小烏丸に重曹をふりかけ、水で湿らせて布で拭いていくと、小烏丸にふりかけた重曹が徐々に黒ずんできた。
「ん? なんか、おかしい」
小烏丸を磨いていくうちに、何となく違和感があった。最初はその違和感に気がつかなかったのだが、布を広げて見てみると、違和感の正体が分かった。
「あまり煤が落ちてない?」
真っ黒になると思っていた重曹が、思っていたほど黒くなっていなかったのだ。そこで一度水で小烏丸を丸洗いにして重曹を落としてみたのだが、
「黒いまま……いや、煤自体は落ちているな。という事は、小烏丸の色が濃くなったのか?」
試しに、白い布で何度も刀身を拭いてみたが、布に煤が付く事はなかった。何故、小烏丸の色が濃くなったのかは詳しくは分からないが、おそらくは『タケミカヅチ』の直撃が関係していると思われる。
「詳しくは、ガンツ親方かケリーに聞くしかないか……」
汚れの問題が解決したので柄の装着や試し切りもしてみたが、こちらも予想外な事が起きた。
まずは柄の装着だが、前に使っていたものと同じ大きさで同じ形のものなのに、サイズが合わなかったのだ。ミリ単位ではあるが小烏丸小さくなったみたいで、柄との間に少しだけ隙間が出来てしまい、がたついていた。それ自体は、『タケミカヅチ』が原因で茎(柄にはめる部分)が削れたりして縮んだと考えれば納得だが、ぐらついたままの刀を振るうのは危険なので、今の状態に合う柄を作るまでは、小烏丸の使用は出来ないという事になった。
そして試し切りだが、かなり落ちていると思っていた切れ味は、あまり問題にならなかった。まあ、親方やケリーに研いでもらった直後に比べれば、確かに切れ味は落ちてはいるのだが、普段俺が使っている時より「多少切れ味が落ちたかな?」といった感じなのだ。ワイバーンの群れやリッチと戦った事を考えれば、普通に使う分には問題がないレベルなのは少しおかしかった。特に、リッチの時には『タケミカヅチ』の直撃を受けているので、切れ味が落ちるどころか、刃こぼれがあってもおかしくはないと思っていたのに、だ。
「とにかく、今の俺に出来る事はあまりなさそうだな。武器はアダマンティンの剣か、ショートソードを使えばいいか」
俺は最初、切れ味はなくても使い慣れたものがいいと思っていたのだが、その使い慣れた小烏丸が使えないという事で、大物相手に使用しているアダマンティンの剣か前にタニカゼの残骸で作ったショートソードを、小烏丸を修復するまでの主武器に使う事にした。
「さて、思いがけず時間が余ったけど……これからどうしよ?」
二時間くらいかかりそうだと思っていたのが、実際にはほんの三十分ほどで終わってしまったので、取り敢えず皆にたずねてみたのだった。