第12章-5 骨
令和元年おめでとうございます。
新しい時代も、『異世界転生の冒険者』をよろしくお願いします。
マーリンSIDE
「テンマは、もう寝たようじゃな」
「みたいです。テンマ君、馬車から降りてすぐに、大あくびをしていましたから」
野営にちょうど良い場所を見つけ、早めの夕食を皆でとったのじゃが、テンマは食事の間もあくびを何度もしていた。
「風呂で寝て、出てきたあとも寝とったのに……よっぽど疲れておったのじゃな」
「そうですね。それに、武闘大会に辺境伯領のワイバーン退治、おまけに砦まで作ったんですから、常人なら働き過ぎでだいぶ前に倒れてますよ。それに加えてククリ村の事ですから……」
クリスはそう言って、テンマが寝ているテントを心配そうに見ておった。
「今のテンマをククリ村に連れて行っていいのか心配ではあるが、ここまで来て引き返すのはテンマの望む事ではなかろう」
「私もそう思います。明日の朝、いつも通りの時間帯に出発すれば、昼過ぎにはククリ村に着くような距離ですし……それにククリ村には、リカルドさんとシーリアさんのお墓が残っているんですよね?」
「うむ。あの事件の後、ドラゴンゾンビに挑んだテンマの帰りを待ちはしたが、けが人の様子や皆の精神状態から早めに街に移動する必要があったし、いつまでも亡骸を放置するわけにはいかんかったからのう……それに亡くなった村人のほとんどはリカルドやシーリアを含め、ククリ村で生まれ育ったか、生まれ育った者の伴侶じゃったからのう。幾人かは亡くなった家族の遺骨を持って行ったが、二人の遺骨はシロウマルの両親の墓の近くに埋葬したのじゃ」
本当はわしも二人の遺骨を持って行きたかったが、怪我の具合がひどくてそういった判断ができなかったし、マークやマーサも二人の死に加え、テンマが居なくなった事で混乱しておったから、仕方がないと言えばそうなのじゃが……その事はわしの中で、未だに悔いとして残っておる。
「テンマ君も、思うところはいろいろあるでしょうけど……乗り越えられるといいですね」
「そうじゃな。わし達にできる事は少ないかもしれぬが、まずはテンマの強さを信じる事からじゃな」
今のククリ村が、テンマにどういった変化をもたらすのかは分からぬが、わしはテンマに対し、自分が出来うる限りの事をしようと決心したのじゃった。
マーリンSIDE 了
「じいちゃん、前方に冒険者がいる。ククリ村方面から来たみたい」
昨日、俺は野営の準備が終わるなり寝落ちしてしまい、気がついたら朝になっていた。夜間の見張りは俺以外で回したそうで、その代わりとして朝から御者をやっているのだ。
野営地を出発してから、あと二~三時間くらいでククリ村に着くというところで、ククリ村から反対の方へ向かっている数人の冒険者パーティーを発見したのだ。
「シェルハイドからここまでやって来て、他の冒険者と会うのは初めてじゃな」
「そうだね。取り敢えず、辺境伯との約束もあるし、声をかけてみるよ」
その冒険者達のいる方角に馬車を進めると、すぐに相手方も俺達に気がついたようだ。近づくにつれて、冒険者達が警戒しているのがわかったが、馬車相手に逃げ出してもすぐに追いつかれるか、怪しまれるだけだと思っているのか、ライデンに気がついた場所から動かずにこちらをじっと見ている。冒険者は五人組で、全員俺より年下のようだった。多分、『大老の森』で薬草でも集めに来たのだろう。
「俺達は『シェルハイド』から来たのだが、君達はククリ村からの帰りなのか?」
あまり警戒させすぎないように、冒険者達から少し離れた場所で馬車を停止させて声をかけると、冒険者の一人が「そうだ」と答えた。
「俺達は辺境伯から、ククリ村付近で活動する冒険者に注意をするように頼まれている」
辺境伯から頼まれたと言った時、流石に信じられなかったらしく冒険者達が警戒を強めたが、俺の後ろからリオンが辺境伯家の家紋が入った旗を見せた事で、怪しみながらも話くらいは聞こうと思ったようだ。
「そういう訳で、なるべくククリ村には近づかない方がいい」
最近、ククリ村付近で行方不明者が増えているという事を話すと、冒険者達は顔を青ざめながら、「やっぱり」とか、「変な気配がしていたんだよな」とか仲間内で話し始めた。
「やっぱりってどういう事だ?」
「俺達は全員、ククリ村のように森がすぐそばにある村で育ったんだ。だから、冒険者としては新人だけど、森に関しては自信があるんだ。だから、『大老の森』の薬草が高値で引き取られていると知って採集に来たんだけど……なんだか気味が悪かったから引き返してきたんだ」
話を聞くと、彼らは夜中のうちにククリ村の近くまで移動して休憩を取り、朝早くから『大老の森』で薬草を探そうと計画していたそうだ。そして、太陽が昇る少しくらい前から予定通り『大老の森』で薬草集めを開始したところ、普通の森とは違う嫌な気配がした為、採集を途中で切り上げて引き返してきたらしい。
「それはいい判断だと思うけど、俺達はここに来るまでにゴブリンの群れに二回、オークの群れに一回遭遇している。君達の行く方角に魔物の群れがいるとは限らないが、帰りも用心した方がいい」
俺の忠告を聞いて、冒険者達の顔は青ざめていた。戦闘に自信のあるパーティーではないみたいなので、襲われた時の事でも想像したのだろう。
その後、じいちゃんが知っていた比較的安全と思われるルート(ただし、だいぶ昔の事なので、気休め程度ではあるが)と、最近のククリ村の情報を交換して冒険者達と別れた。冒険者達は、日が暮れる前になるべくククリ村から距離をとりたいのか、この場から足早に去っていった。
「これは、『大老の森』で異変があったと考えた方がいいじゃろうな」
「そうだね。軽く話しただけだけど、あの冒険者達は森の事には結構詳しいみたいだったから、変な気配を感じたというのは本当かも知れないし、ここに来るまで魔物の群れに三度も遭遇したというのも気になるしね」
取り敢えず、冒険者達から聞いた情報を元に、今日の野営地を当初予定していたククリ村の中ではなく、その外にある『砦』にする事に決めた。砦は昔ゾンビと戦う際に籠城したものが跡地として残っていて、塀などはかなり壊れているが堀は残っているそうで、ククリ村を訪れた冒険者が、よく野営地として利用しているそうだ。
「ようやく着いたね」
「そうじゃな」
あの新人冒険者達と出会ったあとは他の冒険者や魔物に遭遇する事なく、予定通りククリ村に到着した。いや、ククリ村のあった場所と言った方がいいだろう。
俺の記憶にあるククリ村の建物は、そのほとんどがあの騒動の時のゾンビの侵攻や、俺達の魔法で壊れており、唯一石造りだった教会が残っているだけだった。最も、残っているとは言っても屋根などはなく半壊状態なので、野営に使うどころか中に入るのも危ないだろう。
「あれが、俺の家があった場所だよね? その隣がおじさんとおばさんの家で、あそこがよく村の皆で宴会をしていたところ」
他にも、じいちゃんが寝泊りに使っていた家や、初めて魔法を使った場所など、色々な記憶が蘇ってきた。ただ、俺が指さしたところにあったはずの思い出の場所は今や見る影もなくなり、僅かに残っていた柱や床板、花壇の跡などでかろうじて判別できる程度にしか残っていなかった。
「そして、ここが俺の部屋……」
ゆっくりと変わり果てた村を見ながら、自宅があった場所にたどり着いた俺は、昔を思い出しながら玄関のあった場所から家の中には入り、自分の部屋までやってきた。
「本当に、何もなくなったなぁ……」
もしかしたら、昔使っていたものがあるかもと期待したのだが、何も残っていなかった。
「この焼けかすは、もしかしたらベッドだったのかな? だとするとあれは椅子で、あれが机か?」
仮に、ゾンビとの戦いで残ったものがあったとしても、その後にやってきた冒険者達に、金になりそうなものは全て持って行かれただろう。
「テンマ。そろそろ、シーリアとリカルドの墓に行こうか?」
「そうだね」
昔を懐かしんでいると、じいちゃんが声をかけてきた。この場にいるのは俺とじいちゃん、それにスラリン達だけだ。他の皆は、俺達に遠慮したらしく、砦の方で野営の準備をしてくれている。
「あそこじゃ。あそこで二人は、犠牲になった村の者達と一緒に眠っておる」
自宅のあった場所から移動した俺達は、しばらく村の中を歩いて目的の場所へと到着した。
「この場所って、シロウマルの両親のお墓の近くじゃない?」
焼け野原になっているが、ここから少し歩いたところにシロウマルの両親の墓がある。
「うむ、そうじゃ。この場所は、元々木々が立っておったが、テンマの魔法で焼けて平地となってのう。それに犠牲となった者を埋めるのに十分な広さがあったことから、この場所が選ばれたそうじゃ」
その時じいちゃんは、怪我の具合が悪く動ける状態ではなかったそうで、生き残った人達でこの場所にお墓を作ったそうだ。それでもククリ村を離れる際には、マークおじさんに力を借りながら墓参りをしたらしい。
「ここじゃな。この石が、シーリアとリカルドの墓石じゃ」
じいちゃんが立ち止まったところに、四十cm程の大きさの石が置かれてあり、その石に父さんと母さんの名前が掘られていた。
「久しぶり、父さん、母さん……」
俺は、ドラゴンゾンビを倒したあとの事を二人に聞かせるように手を合わせ、最後にこの日の為に作っていたものを取り出した。それは、二人の名前の後ろに、オオトリの姓が刻まれた墓石だ。
「二人も、喜んでおるじゃろう」
「だといいね」
父さんと母さんの墓参りを終えたあと、俺とじいちゃんは他の村人の墓にも手を合わせ、一つ一つきれいにしていった。流石に数が多かったせいで、墓掃除の途中でクリスさんたちが探しにやってきたが、俺達のやっている事を見て、皆も掃除に参加してくれた。
掃除を終え、野営地にしている砦に行くと、途中で会った冒険者達の言っていた通り、塀はあの時の戦闘と風化により大部分が壊れており、堀も崩れた塀や草などでうもれていた。
「取り敢えず、あの場所で野営をしようと思って、準備をしたわ」
クリスさんが野営に選んだのは、砦の中で他の冒険者が利用していたと思われる場所だった。前に利用した冒険者が作ったと思われる竈や、風よけの土壁などもあり、あまり手を入れなくてもよかったのだそうだ。
「食事はジャンヌとアウラが作ったし、あとしておく事は見張りの順番を決めるくらいね」
「その前にだけど、明日の朝にククリ村を出発しようと思う」
前々からククリ村には数日留まるとしていたので、俺の発言にはじいちゃんも驚いていた。
「今のククリ村で、何かはわからないけど、おかしな事があるのは間違いないと思う。それは、ククリ村周辺での行方不明者の増加もそうだし、来る時に会った冒険者が感じたという気配の事もある。本当は、今から引き返してもいいとは思うけど、俺達自身が原因の一端かおかしな気配を感じない事には、ギルドにも報告のしようがない」
幸い、今この場には、各方面に影響力のある者ばかりなので、俺達の誰かが実体験として報告すれば、調査の為に軍を編成して送り込む事も可能である。
「それも一理あるのう」
「まあ、このまま帰って報告だけしても、ギルドは信じてくれないでしょうね。むしろ、臆病者だと思われるかも?」
行方不明者が出ているとしても、ギルドは冒険者を派遣する事で金銭が発生し、組織運営ができているところがあるので、かもしれない程度では報告として認めない可能性が高い。
「俺は構わないぞ。俺としても、ククリ村で何が起こっているのか知りたいしな」
じいちゃんとクリスさんが納得し、リオンが賛成した事で、残りの皆も頷いた。元々、俺とじいちゃん以外はククリ村に思い入れがあるわけでは無いので、滞在期間が短くなる事に反対する理由がなかったとも言える。
「それで、見張りの順番だけど、最初の組がクリスさん、アルバート、カイン。二番目の組が、じいちゃん、リオン、アムール、レニさん。最後の組が、俺、ジャンヌ、アウラでどうかな?」
最初の組に関しては、クリスさんが指揮を取ればアルバートとカインは命令を忠実にこなすだろう。二番目の組は経験豊富なじいちゃんが入れば安心だし、リオンとレニさんを一緒にするのは若干の不安が残るが、じいちゃんとアムールの二人がいれば問題は起こらないと思う。最後の組は、ジャンヌとアウラがいざという時に戦力不足にはなるが、俺がいるとおまけも付いてくるので、実は一番戦力が充実している。
順番に関しては、二番目と三番目を入れ替えても良かったのだが、朝食の準備やライデンの支度などを考えた場合、俺が三番目にいた方がいいと考えた結果だった。
一応その事まで説明したが、言う前に皆納得してくれた。ただ、リオンとレニさんの心配点に関しては、じいちゃんとアムールのみに伝え、それとなく気をつけておいて貰う事にした。なお、クリスさんをアルバートとカインの組に入れた理由は、三人とも言わなくても分かっているようだった。
それから全員で交代の時間や緊急時の対応の打ち合わせをし、その後各々の組で話し合ってから、夕食まで自由時間という事になった。ただ、何があるのかわからないので単独での行動は控え、『大老の森』にはなるべく近づかないという事を決めた。
ジャンヌSIDE
「それじゃあ、おやすみなさい」
「はい、おやすみ。しっかり寝て、美味しい朝ごはんをお願いね」
本格的に見張りの準備に入ったクリスさん達に挨拶をしてから、女性用の宿泊場所になっている馬車に乗り込んだ。先に寝ているアムールとレニさんを起こさないように気をつけながら自分の布団に潜り込むと、少し前に馬車に入ったアウラは、もう寝入っているみたいだった。
(そう言えば、今日もテンマは眠るのが早かったな)
ククリ村に近づくにつれて、テンマは私から見ても落ち着かない時間が増えていた。私ですら気がついていたのだから、アウラ以外の皆はテンマの様子がいつもとは違う事は、とっくに気が付いているだろう。
(久々にテンマと一緒の見張り時間だけど、私とアウラはいざという時の戦力にはならないだろうし、スラリン達もいるから、ゴーレムだけ出してすぐに皆を起こして馬車の中に逃げないと)
横になって目を瞑りながら、見張りの時にしなければいけない事の確認を頭の中で何度もしたのだった。
「寒い……」
いつの間にか眠っていた私は、急に感じた寒気で目を覚ました。取り敢えず寒さを凌ごうと、椅子にかけていた上着を羽織る事にした。上着のポケットに入れっぱなしにしていたものが、羽織る時にカチャカチャと音を立てていたけれど、寝ぼけていたせいで取り出すのが面倒だった。
「お水……」
喉の渇きを感じた私は、テーブルに置いてあったはずの水差しを求めて布団からでた。
馬車に入った時に寝ていたアムールとレニさんの姿はなく、代わりにクリスさんが横になっていたので、見張りは二番目の組が担当している事がわかった。
「あと、どれくらいで交代なんだろう?」
交代までの残り時間によっては、このまま起きていた方が楽かもしれない。
そう思いながら、暗さで判断しようと窓から外を見てみると……
「テンマ?」
フラフラと、森の方へと歩いていくテンマの姿が見えた。
「なんで誰も止めないの!」
明らかに様子のおかしいテンマを追いかけようと思ったけど、先にクリスさんを起こした方がいいと判断してクリスさんの体を揺すった。だけど一向に目を覚ます気配がなく、それならアウラをと思って頬を何度か叩いたけれど、アウラもクリスさんと同様に目を覚まさなかった。
「なんで!」
二人共ちゃんと呼吸はしていたから死んではいないけれど、とても普通の状態であるとは思えなかった。
「外の皆は?」
急いで馬車から飛び出して、見張りをしている皆のところに走ったけれど、皆座ったままの状態で眠っている。
「マーリン様! テンマが!」
一番頼りになると思っていたマーリン様も、クリスさんやアウラと同じで、いくら体を揺すっても起きる事はなかった。
そうこうしている間に、テンマはだいぶ離れたところまで行ってしまい、自分一人で追いかけようと決めた時には、すでに森の中へ入り込んでいた。
「確かにこっちの方に歩いていたけど」
私は森に入って早々に、テンマを見失ってしまった。追いかけ始めた時は、『距離はあるけど、テンマは寝ぼけているみたいにフラフラだし、走れば追いつけるはず!』と思っていたのに、いざ森に入ってみると、思っていた以上に森の中は走りにくい上に、慣れてない森の中だったせいで何度も転んでしまったのだ。
「テンマ、どこ……」
テンマを見失ってしまったし、薄暗く不気味な夜の森で、いつ魔物が襲いかかってくるかわからない状況は、私にとって恐怖でしかなかった。だけど、テンマを放っておく事は出来ないし、何より帰り道も確かではない。だから私は、テンマが歩いて行ったと思われる方向を、ひたすら進むしかなかったのだ。
「テンマ……いた!」
そのまま森の中を彷徨っていると、少し開けた場所へと出た。そこに出た時、周囲を見回してみると、私の場所からだいぶ離れたところにテンマがいた。テンマも私とほぼ同時に、この場所へと出てきたみたいだった。場所が離れているのは、テンマを追いかけているうちに少しずつ違う方向へ向かっていたからだろう。この場所でテンマを見つける事ができたのは、ものすごく運のいい事だ。なにせ、この時この場所に出る事ができなければ、私はそのまま見当違いの方向に進んでしまい、遭難してしまっていただろう。
「テンマ! 何でこんな……ひいっ!」
私はテンマを捕まえようと駆け寄った瞬間、テンマが目指していたものを見てしまった。テンマの目指していたもの、それは、全身をフードで隠した不気味な化物だった。
離れている上に、全身をフードで隠しているので、不気味な化物と判断するのはおかしいかもしれないけれど、そうとしか言いようのない雰囲気をしていた。何より、テンマに伸ばしていた手は骨だった。細くて骨のような……とかいう比喩ではなく、そのままの意味で。
直感的にテンマをあの化物に近づけてはいけないと感じ、魔法を使おうかと思ったけれど、私のコントロールではテンマに当たってしまう可能性が高かった。
「どうしたら……あれだ!」
魔法がダメなら石をと思ったけれど、私の力では届くわけがないと躊躇した瞬間、テンマにもらった『スリングショット』を思い出した。
それは上着を羽織った時にポケットに入れっぱなしになっていたものだった。あの時に取り出さなかった私を褒めたいくらいの好プレーだ。
「これで……いけっ!」
足元に転がっていた小石をスリングショットにセットして、力いっぱい引き絞って化物目掛けて飛ばした。小石は私の思惑通り、化物目掛けて一直線に飛んでいった……途中までは……
急に上へと進路を変えた小石は、化物の上に伸びていた木の枝に当たって再び進路を変え、テンマを直撃した。
何かが自分の方へ飛んできた事に気がついた化物は、その犯人が私だという事に気がつき、私の方へ手を突き出してきた。
私に対して、明らかに何らかの魔法を行使しようとしているというのに、私は一歩も動く事ができなかった。それは、とっさの出来事だったというのもあるけれど、何よりも化物の顔を正面から見てしまったからだ。化物の顔、それは手を見た時から想像していた通り人間のものではなく、人間の頭蓋骨だったのだ。
立ちすくむ私に向かって化物が一歩踏み出した次の瞬間、化物は後方に吹き飛ばされていった。魔法を放ったのはもちろん……
「ジャンヌ、無事か!」
テンマだった。
ジャンヌSIDE 了
書籍版『異世界転生の冒険者』の6巻が5/10発売です。
そちらの方もよろしくお願いします。