第12章-1 泥沼の主
「なあ、リオン。ククリ村までは、あとどれくらいで着く予定だ?」
「ええっと……地図通りに来ているなら、二日から三日くらいじゃないか? 流石にうちの領地だと言っても、隅々まで正確に把握しているわけではないからな。それに俺、ククリ村に行った事がないし」
リオンが言うには、今いるところはシェルハイドからククリ村までの道のりを半分くらい過ぎた辺りで、周囲に街や村がない場所なのだそうだ。
「それにしても、見渡す限りの範囲には誰もいないな」
今現在、草原を通り抜けている最中なので、馬車の半径数km先まで見渡せるのだが、人の姿は影も形も見えなかった。
「まあ、この辺りは大したものはないからな。春から夏くらいだったら、伸びた草を刈りに来るのがちらほらいるくらいだろうな」
その刈られた草は馬や牛といった家畜の餌になるらしく、経験が浅く稼ぎの少ない新人冒険者の貴重な収入源になるのだとか。最も、十kgで百Gを少し超えるくらいの値段だそうで、例え百kgを集めても売ったとしても、その日の宿代と食事代でほとんど消えてしまうのだとか。
「それでも、安宿を利用したりして効率よくやれば、安全でそこそこの儲けが出るみたいでな。それで貯めた金で少し上のランクの武器や防具を買ってから、討伐系の依頼を受けて経験を積む……というのが、この辺りで活動する新人冒険者にとっての基本だな。それと草刈りの最中に、たまに角ウサギみたいな弱くてそこそこの収入になる魔物も現れるからな。それと、草刈りの依頼を一定回数受けた冒険者は、辺境伯領内でそれなりに優遇されるようになっているし」
儲けは少なくとも臨時収入や経験を積める依頼であり、馬が特産物になっているシェルハイドにとっても冒険者にとっても、なくてはならない依頼なのだそうだ。ちなみに受けられる優遇とは、次回の草刈りの依頼でもらえる報酬が少し上がったり、ギルドや辺境伯家が経営する宿や食堂の料金が、少し安くなったりするのだそうだ。
「収入の少ない新人にとっては、かなりありがたい話だな」
それくらいの恩恵があるから、この依頼が新人冒険者の基本となっているのだろう。そうでなければ、王都やダンジョン都市のような、仕事が溢れている場所を活動拠点にするだろう。
「最も、宿屋や食堂の割引は、ククリ村の事件の後に追加されたんだけどな」
少しでも冒険者の流出を防ぎ、出ていった冒険者を呼び戻す目的もあったそうだが、それでも即戦力になるような冒険者は戻ってこなかったそうだ。まあ、即戦力になるような冒険者は、草刈りのような依頼は受けないだろうし、それくらいの優遇では別に辺境伯領に移らずに、今のところで活動したほうが儲けが出るからだろう。
「まあ、この先の戦力の確保という意味では、意味のある政策だと思うけどな」
「ああ、育った戦力を逃がさなければな」
それはどこの領でも抱えている問題なので、成長するまでにどれだけ愛着を持ってくれるかだろう。もしくは、出て行っても戻ってきてくれるだけの魅力のあるところにしなければならないと思う。
「そこは、将来の辺境伯の仕事だな」
「ああ、頑張るぜ!」
「テンマ、そろそろ代わるよ」
リオンと話していると、カインが交代を申し出てくれたのでありがたく受け入れる事にした。
「それじゃあ、アルバート。こっちも交代してくれ」
リオンも俺に合わせて交代しようとアルバートに声をかけたが、
「リオンは駄目だよ。道案内がいなくなったら、迷っちゃうじゃないか!」
カインによって阻まれていた。その後、「まっすぐ突っ切るだけなのに、道案内なんかあるか!」というリオンの声が聞こえたが、再度アルバートを呼ぶ声が聞こえなかったので、カインに言い含められたのだと思う。
「ねえテンマ、マーリン様」
しばらく何もないまま進んでいたのだが、突然カインが窓を開けて声をかけてきた。
「この先に、リオンが聞いた事のない沼みたいなのがあるんだけど」
カインが言うには、今いる場所から五十m程先にある窪地に、沼のような泥水が溜まっているとの事だった。
じいちゃんと一緒に馬車を降りて確認してみると、確かに泥水が溜まった沼のようなものが確認できるが、明らかに怪しかった。
「じいちゃん、どう見てもあの沼、作られたものだよね?」
「そうじゃ。恐らく、『カエル』が潜んでおるぞ」
じいちゃんは、沼を作った主に心当たりがあるようだ。一応、『鑑定』で沼を見てみたが、沼の中に『マッドポイズンフロッグ』という魔物が数匹潜んでいた。数がはっきりしないのは少し距離があるせいか、カエルが『隠蔽』を持っているせいなのかは分からないが、どちらにしろそんなに多くはなさそうだ。
馬車の中にいた皆もカエルの魔物がいると聞いて、興味深そうに外に出てきた。
「沼の中にいるのは、ほぼ間違いなく『マッドポイズンフロッグ』と言ってな、冬が近づくと複数の個体が寄り添って、冬眠用の寝床を作り出すのじゃ。通常は森や林と言った場所に作るのじゃが、たまに草原のような開けた場所に作る時もあるのじゃ。まあ、草原で寝床を作っても、風を遮るものがないせいで、ほとんどの場合が凍死してしまうのじゃがな」
カエルと聞いて侮って挑んだ冒険者がよく返り討ちにあい、冬眠の為の栄養にされる事があるのだとか。
「カエルと言っても、大きさは数mはあるからのう。わしが昔見た奴は、五m近くあったぞ。しかも毒ガエルという名前から敬遠されがちじゃが、肉はなかなかうまい。それに、素材としても使い勝手がいいのじゃ」
肉は鳥肉に近い味で皮は伸縮性があり、筋は弓のつるなどに使われるそうだ。ただ、素材としても食料としても旨味の多い獲物ではあるが、その分厄介なところもあり、
「まず、打撃が効きにくい。カエルの皮と肉が衝撃を吸収するせいで、ハンマーのような打撃武器は効果が薄い。刃物は普通に通じるのじゃが、カエルの皮の表面に毒があるからのう……肉を捨てるのなら、武器として使えるぞい。ただ、接近戦はあまりおすすめしないがのう」
カエルの特徴といえば、『周囲に合わせて自分の色を変える』『舌を伸ばして獲物を捕らえる』『高い跳躍力』などが思い浮かぶが、『マッドポイズンフロッグ』にも当てはまるそうだ。
「つまり、接近する前にカエルの舌が襲い掛かり、近づいても自慢の跳躍力で離れていく。打撃は効きにくく、斬撃は素材をダメにするのじゃ。つまり、効率よく倒すなら魔法。しかも、凍らせるか痺れさすのがベストじゃな。そのせいで、魔物自体の強さはC~Bといったところじゃが、素材目当てならAランクの難易度じゃな」
ちなみにじいちゃんが倒した時は、素材目当てではなかったので風魔法で首を落とし、毒が肉に回る前に皮をはいで、後ろ足の部分だけを食べたそうだ。その為、肉は多くは処分する事になったが、皮は綺麗な状態だったので、卸先のギルドに喜ばれたのだとか。
「それじゃあ、俺一人で行った方がいいかな?」
「そうじゃの。わしは一緒に行くよりも、テンマの魔法から逃れて馬車に向かってきた場合に備えていた方がいいじゃろ」
打撃や斬撃が効きにくいという事で、リオンとアムールの前衛組は少しがっかりした様子だったが、それよりも美味しい肉が手に入ると言う事で、期待するような目で俺を見ていた。その後ろには、シロウマルとソロモンの食いしん坊組も同じような目で見ていたので、合計で四組の目で見つめられた俺は、絶対に失敗はできないと気合を入れたのだった。
「まずはゴーレムを出して……っと、前進!」
沼に近づく前に、ゴーレムでカエルをおびき出した方がいいとのじいちゃんのアドバイスで、俺は人と同じくらいの大きさのゴーレムを五体程出した。素材は足元にある土なので、カエルの一撃で簡単に破壊されるだろうが、ゴーレムの核を破壊されなければいいし、何より囮なので壊されるのは問題ない。
命令を受けたゴーレム達は、横並びになって沼に接近した。そして、
「かかった! ……って、危なっ!」
沼に接近したゴーレムのうち、四体がカエルの攻撃を受けたのだが、想像以上にカエルの攻撃が凄かった。想像以上とは、カエルの攻撃速度と威力だ。
ゴーレムが沼まで十mというところまで近づいた時、接近に気づいたカエルが沼の中から姿を現したので、ゴーレムの後ろを隠れるように歩いていた俺は、カエルの攻撃に対して雷魔法を食らわせようとしたのだが、俺が魔法を放つより先にゴーレムが爆散した。それも、四体同時に。そのゴーレムのかけらがすごい勢いで飛んできたので、俺は慌てて後ろに飛び退いたのだ。
「本体の動きは遅いのに、舌の速度は弾丸並だな。まあ、ここは射程外みたいだけど……なっ!」
俺が飛び退いた位置はカエルの舌が届かないみたいで、俺に向かってゆっくりと近づこうとしていた。ただ、油断していると跳んで来るかもしれないので、その前に雷魔法の『スタン』で仕留めた。
流石に弾丸並の速度を出す舌を持っていても、射程外ではどうする事も出来なかったようで、『マッドポイズンフロッグ』は揃ってその場にひっくり返った。
「沼の中には、もういないみたいだな。取り敢えず、埋めておくか」
唯一生き残ったゴーレムに、破壊されたゴーレムの核の回収と沼の埋め立てを命令して、俺は倒したカエルの表面を水魔法で洗浄する事にした。
「ゴーレムが破壊された時は焦ったが、無事に終わったようじゃの」
カエルの討伐が終わったのを確認したじいちゃん達が、揃って俺のところまでやってきた。
「うわぁ……小さい奴は可愛らしいけど、ここまで大きいと気持ち悪いね」
「私は気持ち悪いよりは、怖いという感じかな」
「どっちにしろ、俺の倍以上もあるカエルはあまり相手にしたくはないな。特にあのゴーレムのやられ方を見たあとだとな」
リオンの言葉で、皆一斉にやられたゴーレムの方を見た。破壊され飛び散ったゴーレムの体は、生き残ったゴーレムに核を回収された後で次々に沼の中へと放り込まれ、埋め立ての材料の一部となっているところだった。
「お嬢様がカエルの相手をしていたら、ああなっていたかもしれないんですね」
「アムールだけじゃなく、リオンもだね」
レニさんの言葉にアムールが顔を青くし、カインの言葉にリオンが顔を引きつらせていた。まあこの二人は、じいちゃんの説明がなかったら真っ先に向かって行っただろうから、その可能性は高かっただろう。ちなみに、リオンが向かっていった場合、そのサポートに向かったであろうアルバートと、リオンを止める為に沼に近づくいたかもしれないクリスさんも、若干顔を青くしていた。
「ジャンヌ。これから外に出る時は、テンマ様に貰ったゴーレムをいつでも出せるように気をつけておきましょう……」
「そうね……」
過去に攫われて危機に陥った二人も、今更ながらゴーレムの確認をしていた。
「皆が改めて危機感を持ったのが、一番の収穫じゃな。それはそうと、テンマ。カエルのさばき方は知っておるのか?」
じいちゃんの質問に、「普通サイズのカエルならさばいた事があるけど、このサイズは流石にない」と答えると、休憩の時に教えてくれるとの事だった。
「リオン。この近くに、水場はあるか?」
「ここから一番近いところだと、十kmくらい先に川が流れていたはずだ。そんなに大きな川ではないが、この周辺で休憩するならそこがいいと思う。それと、その川を遡ったところに小さな村があるが、目的地からはさらに二~三十km先になるぞ」
十kmくらいなら、ライデンで三十分もあれば余裕で着く距離だ。さらに先の村でも、二時間もあれば着きそうだ。
「それじゃあ、川のほとりで休憩しよう。そして今日の宿泊は、その先の村かその近くの場所を借りようか」
そのまま、川を遡った先にある村に直接向かっても問題はないだろうが、カエルを捌いたりする事を考えれば、村のそばでは迷惑になるかもしれないしな。
という訳で、リオンが最初に言った川のほとりを目指す事にした。丁度行き先を決める頃には、ゴーレムが沼の埋め立てをほとんど終えていたので、そのゴーレムの核も回収して馬車に乗り込んだ。
「着いたぞ!」
予定より少し早く川についた俺達は、手分けして休憩の準備に入った。まあ、いつも通り馬車の近くに椅子などを出したり、軽く周辺を見回るだけなので大した時間はかからなかった。そして、休憩で一番大事と言える食事の用意だが、今回はレニさんが担当してくれる事になった。いつもは俺を中心に、ジャンヌとアウラが手伝う感じなので、俺の時間が少し空いた形だ。
「じいちゃん。待っている間に、カエルのさばき方を教えてくれない?」
「いいぞ。まあ、テンマならすぐに覚えるじゃろう。それと、手が空いておって興味がある者も、ついてくるといいじゃろう。ちょっと変わったやり方じゃから、いい経験になるじゃろう」
じいちゃんに言われて、クリスさんにアルバート達三人が参加する事になった。アムールも参加しようとしたが、レニさんに捕まって料理の方に連れて行かれたので、生徒は俺を含めて五人だった。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるから、スラリン達は周囲の警戒を頼むな」
周辺に脅威になりそうな生き物はいないみたいだが、念の為にスラリン達に警戒を頼んで、俺達は川へと向かった。
「まずカエルのさばき方じゃが、大きく分けて三つじゃ。一つ目は、普通に皮をはいで切り分けていく方法。二つ目は、カエルを木などに吊るしてさばく方法。三つ目は、少し凍らせてからさばく方法じゃ。一つ目の方法は、カエルの皮を抑える役目の者がおらぬときれいに解体できぬが、一番基本的なさばき方じゃな。二つ目の方法は、カエルを吊るせるだけの大きさのものがないとできぬし、それに吊るせるだけの力がないといかぬが、慣れれば地面に寝かせてするよりも身をきれいに分ける事が出来るようになる。そして最後の方法じゃが、完全に凍らない状態にしなければならぬので、その分だけ魔法の技術と魔力を必要とするが、肉などの鮮度を保ちつつ、皮も楽に剥ぐ事が出来る方法じゃ」
なので、クリスさん達は一つ目と二つ目の方法で、俺は三つ目の方法でカエルをさばく事になった。まあ、個人的には二つ目の方法が『アンコウの吊るし切り』みたいで興味があるが、試すのは先に三つ目の方法を成功させてからだ。
「あと、カエルをさばく時は、さばく前に念入りに表面を洗うのじゃぞ。カエルの表面には毒がある事が多いし、何より汚いからのう。それと、今回のカエルは肩甲骨の近くに毒袋をもっておるから、先に取り除くのじゃぞ」
毒といっても、基本的に人を殺す程の強さはないそうで、大体の場合が痺れて動きが鈍くなるくらいだそうだ。それでも子供や老人、免疫力の弱い者などには危険だし、成人でも誤って多量に摂取すればショック死したり、目に入れば失明する事もあるので、気をつける必要があるそうだ。
「昔はこういった毒を使って漁をしていたところもあったのじゃが、たまに捕まえた魚から毒が抜けきらなかったり、小さな川のような狭い範囲じゃと根こそぎ取り尽くして全滅させてしまう恐れもあって、今では禁止されているところが多いのじゃ」
なので、カエルの毒を川の中で洗い流す事はせずに、バケツなどで水をくんでから、川から少し離れたところできれいにするように気をつけた。
「一気に行くぞ! せいやっ!」
「こっちは結んだぞ! カインの方はどうだ?」
「こっちも大丈夫!」
三人はじいちゃんが魔法で作った二つの土壁に、カエルをどうにか吊るそうと奮闘している。多分、吊るしてから、カエルを洗うのだろう。
「うぅ……ヌメヌメ、ブニョブニョしてる」
クリスさんは一番小さなカエル(小さいと言っても、一m半は余裕で超えている)を、たわしを使って一人で洗っていた。
「皆は大変そうだな」
俺は、二体のゴーレムにカエルを抱えさせて、水魔法を高圧洗浄機のように使って汚れと滑りを取っていた。
洗浄中、背後から視線を感じたので振り返ってみると、クリスさんがじっと俺を見ていた。そして、無言で差し出される手。
「お手ですか? いや、冗談です」
軽くボケてみたが、クリスさんが無言で足元に溜まっていた滑りを両手ですくい始めたので、急いで中型ゴーレムの核を二つ渡した。
ゴーレムを使い始めたクリスさんの作業速度は格段に上がり、すぐに俺やアルバート達を追い抜いていった。まあ、そもそもが一番小さなカエルだったのに対し、作業員が三人(しかも、嫌な作業を文句も言わずする労働力が二人分)に増えたのだから、当然といえば当然だった。
そんなクリスさんを見ていたアルバート達も、当然のようにゴーレムを使いたがったが、すでにゴーレムが一番必要なカエルを吊るす作業が終わっている以上、人数の揃っているアルバート達には、逆にゴーレムは邪魔になるので使う必要はなかった。
「それぞれ綺麗にできたみたいじゃの。後は他の動物を解体するように、内蔵を取り出して皮を剥ぎ、手頃な大きさに解体するだけじゃ」
滑りと汚れを取ったら後は普通の手順だったので、特に難しい事はなかった。強いて言えば、吊るして解体していたアルバート達が、一番やりやすそうだったというだけだ。
「身は綺麗な色だな。見た目も弾力も鳥肉に近い感じだから、同じような料理に使えそうだ」
身を少しだけ切りとり、軽く焼いてから試食してみたが、思ったとおり鶏肉に近い味だった。
「美味しいけれど……カエルを思い浮かべながら食べると、何だか複雑ね。思い浮かべるだけで、美味しさが少し落ちたような気がするわ」
「そんなもんですかね? 俺は気になりませんけど」
「私はクリス先輩の気持ちがわかるな。このカエルは、確実に見た目で損をしている」
「まあ、知らないで食べたら気にならないから、切り分けた肉の状態なら何も問題はないね」
と、揃って味だけは絶賛していた。やはり、食べ物は見た目も大事という事だろう。
「肉はこの旅の間の食料にするとして、素材の方は俺の総取りでいいんだな?」
「問題はないわね。テンマ君がやらなかったら、ほぼ確実にリオンは大変な事になっていただろうし、他の面々も、マーリン様を除いて大怪我をしていた可能性があるわ」
ある意味あのカエルは、初見殺し的な性質を持った魔物だったのかもしれない。カエルを倒す為に近づいたら舌の攻撃がくるし、防御しようにもあの威力は危なすぎる。
「このカエルの存在は、村に寄った時にでも広めた方がいいじゃろう。この辺りが新人にとって基本の場所ならば、このカエルは余りにも危険すぎる。こやつらがどこから来たのかは分からぬが、実際にこの場所に潜んでいた以上、もう一度やってこないとは言い切れんからのう」
じいちゃんの忠告に、リオンは真剣な表情で頷いていた。まあ、新人に経験を積ませる場所で、こんな危険な魔物が潜んでいたら、この場所を活動拠点にする冒険者がいなくなってしまう可能性もある。そうならない為にも、辺境伯家の依頼という形でベテラン冒険者に調査を出してもいいかもしれない。
「なんにせよ、面白そうな素材が手に入った俺としては、ありがたい事だ。肉も旨いみたいだし、この素材を使った道具も、いくつか作ってみたいしな」
今のところカエルの素材で使えないのは内臓だけだった。それは、こういった泥の中に潜む生き物の中では、内臓が臭かったり雑菌だらけだったりするそうだ。薬にならない事もないらしいのだが、その為の処理が大変で、しかもあまり値段がつかないと言うので、穴を掘って焼却処分した。
その他の素材で一番面白そうだと思ったのは、舌の筋肉だ。軽く調べた限りでは、ゴムに近い性質を持っているようで、これがゴムの代用品になるならば、色々なものに使えるだろう。ただ、舌の筋肉は実験に使える程の量は取れなかったので、代用品の代用品として、カエルの皮や筋で色々と試す事になるだろう。
何個かの設計図を頭に思い浮かべながら、俺達は食事の準備が終わっているであろう馬車のところへと戻っていった。