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第11章-11 ロックオン

2/14に漫画版の『異世界転生の冒険者』が発売されます。巻末にはおまけ漫画と、プリメラが描かれております。

発売日に行きつけの書店に見に行きたいところなのですが……住んでいる地域では基本二日遅れの発売となっているのが悲しいです。



「全く、親父ときたら……んで、話は変わるが、明日はどうするつもりだ?」


 食事が終わった後で俺はリオンに誘われて、リオンの部屋でボードゲームをやっていた。そしていつの間にかじいちゃんを除く男性陣で、総当たり戦が始まったのだ。ちなみにじいちゃんはというと、部屋で辺境伯領で造られたお酒を楽しんでいる。

 今やっている対戦種目はリバーシ。これは前世と形も遊び方も同じものだ。開発者はわからないそうだが、ほぼ確実に転生者が関わっているだろう。

 そしてボードゲームはリバーシの他にも、将棋やチェス、すごろくに人〇ゲームのような物まであった。それらで遊んでいる中で分かった事と言えば、四人の中だと俺は将棋やチェスが弱い方だという事だった。まあ弱いというか、アルバートとカインに全く歯が立たないので、同じく二人に負け続けているリオンと最下位争いをしているという形なのだが……

 そんな俺でもリバーシならマシという事で、先程からリバーシ大会をやっているのだが、本当にマシというだけであり、勝率は良くなかった。

 先ほどのリオンのセリフは、そんな最下位決定戦での発言だった。


「まあ、とりあえずは観光だろうな。ついでに冒険者ギルドで、ハウスト辺境伯領ではどんな依頼があるのか見ておきたい」


 冒険者ギルドに行く理由は、手っ取り早く俺と辺境伯家の仲は悪くないとアピールする為なので、積極的に依頼を受けるつもりはない。ただ、手持ちの素材を収めるだけで済むような依頼があれば、いくつか受けようとかと思っている。それは金や冒険者ギルドの為ではなく、単に依頼を受ければギルドの記録に俺の名前が残るので、より強くアピール出来ると思うからだ。まあ、それだけでは辺境伯家との仲が良好だという証拠にならないだろうが、悪くはないという証明の助けにはなるだろう。


「よし! 勝った!」

「くそっ! 負けた!」


 話しながら続けていたリバーシは、俺の勝利で決着した。これによりリオンは将棋とチェスに続き、リバーシを加えた逆三冠王の称号を得る事となった。


「リオン、おめでとう!」

「あっ! おいカイン、俺の部屋でゴミを撒き散らすな!」

「ゴミじゃないよ。お祝いの紙吹雪だよ!」

「俺にとってはゴミだ!」

 

 先程からカインがこそこそと何かを作っていたのは気づいていたが、まさかこんな物を用意する為だったとは思わなかった。しかもかなりの量がある……正直言って、紙がもったいない。


「しかし、テンマが将棋やチェスが不得手だったとは思いもよらなかった」

「そうだよね。まさかリオンといい勝負だとは、僕も思わなかったよ」

「俺といい勝負って事は、平均かそれよりちょい上くらいだな」


「カードゲームだったら、もう少しまともな勝負になると思うんだけどな……」


 自分でも何故なのか分からないが、盤上の戦局を先読みする事ができないのだ。一応、一手二手先を予測する事は出来ているのだが、さらにその先を読んで駒を動かすアルバートとカインには叶わず、二人とやった対戦で敗戦率十割を記録し、続くリバーシでも八割を記録したのだった。ちなみにリオンは全てで敗戦率十割だった。なお、俺との対戦ではほぼ互角で、毎回泥仕合を演じている。


「もしかしてだけどさ。テンマの場合、全く同じ能力同士で戦うのが駄目なんじゃない? それと、ほとんどソロの冒険者として活動しているのも原因の一つかも?」


「どういう意味だ?」


「つまり、テンマ自身の能力が高すぎるせいで、指揮官的な能力が低いって事だよ。将棋やチェスって、軍人が指揮能力を高める為にやったりするでしょ。でも、テンマはソロ活動している冒険者だから、指揮能力なんて必要ないし、パーティーを組んだとしても少数な上、実力の高い人達ばかりか、いざとなったらテンマが助ける事のできる人数しかいないわけだから、必然的に先を読む能力が伸びなかったんじゃないかな?」


 カインは疑問形で言っているが、自分の推測に自信があるようだ。俺自身、カインの考えに納得できるところもあるが、それを素直に認める事ができないところもあった。なぜなら、


「だとすると、テンマの本質は脳筋寄りって事か!」


 と、言われると思ったからである。しかし、この中で一番の脳筋であるリオンに言われるのは腹が立つ……とか思っていたら、


「まあ、古代龍のゾンビを倒した脳筋と、ワイバーンに殺されかけた脳筋では、レベルが違いすぎて比べようがないがな」


 アルバートが呆れた様な顔を作ってそんな事を言っていた。


「例え脳筋だったとしても古代龍のゾンビを倒したんだから、テンマは間違いなく歴史的な英雄だと後世まで語り継がれるけどね。それに対して、ワイバーンに殺されかけたリオンは……良くて『まあ、頑張ったね』くらいかな? 下手すると、英雄(テンマ)の足を引張ったお荷物って語り継がれるかも?」


「そもそも、テンマは指揮官としての能力を求められていないのだから、その能力が多少低くても脳筋とは言えないだろう」


 とカインの言葉に続けてアルバートも俺の擁護に回った。そんな敵だらけの状況でリオンは勢いを無くしながらも、「ワイバーンに殺されかけたのは、お前達も一緒だろ!」と言ったが、「「私(僕)達は、リオンと違って、将棋もチェスも強いし」」と言って反論した。リオンの言葉に対して、少し見当違いの答えじゃないかと俺は思ったが、リオンはその答えで崩れ落ちた。 


「さて、あれは放っておいて、他のゲームでもするか」


「そだね。ボードゲームは飽きてきたし時間もかかるから、トランプでもやろうか」


 という事になり、せっかくだからとジャンヌ達も誘う事になった。


「それじゃあ、リオン。敗者の罰ゲームとして、女性陣に声をかけて来い」

「ババ抜きとか簡単なやつだし罰ゲームなんか無いからって、ちゃんと伝えるんだよ!」


 二人の命令で女性陣を呼びに行く事になったリオンだったが、先ほどのショックが残っているのか、ゾンビの様におぼつかない足取りをしていた。

 リオンが出て行ってすぐに、俺は先ほどのカインの言葉に違和感があったので聞いてみたところ、


「実はリオン、僕達が学生の時に同じように同級生の女子をカードゲームに誘った事があるんだけど、誘った全員に『何か裏があるんじゃないか』って疑われて、誰も来てくれなかった恥ずかしい過去があるんだ」


「よっぽどその時のリオンは、やらしい顔をしていた様に見えたんだろうな。まあ、私達にもそういった邪な考えがなかったとは言い切れないが、あれはそんな考えが顔に出やすいやつだからな。しかも、言葉足らずなところもあるし」


 との事だった。それを聞いて、一抹の不安を感じた俺だったが、あの頃からリオンも多少は成長しているし、見知った相手にそうそう失敗はしないだろうという二人の言葉を信じる事にした。


 しかし数分後、部屋にやってきたのは怯えた様子のジャンヌとアウラに、憤怒の表情をしたクリスさん、そんなクリスさんに襟首を掴まれて引きずられているリオンとアムールだった。

 その様子を見た瞬間、「あっ……リオンの奴、何かやらかした……」と、俺達はリオンを一人で行かせた事を後悔したのだった。


「アルバート、カイン、テンマ君……ババア抜きで楽しもうって、どういう事かしら?」


 俺達は一瞬、クリスさんが何を言っているのか分からず、固まってしまった。再起動できたのは、憤怒の表情のクリスさんが、リオンとアムールの首根っこを掴んだまま、一歩足を踏み出した時だった。

 このままではまずいと感じた俺達は、必死になって弁明を始めた。その結果……


「じゃあ、始めましょうか! ほらカイン、さっさと配る!」


 なんとかクリスさんの誤解を解く事に成功したのだった。ただそれは俺達三人への誤解であって、リオンとアムールが許されたわけではない。

 許されていない二人はというと、廊下で正座させられている。しかも、開け放ったドアから見える位置に座らされているので、こっそりと足を崩す事ができないのだ。

 ちなみにクリスさんが怒っていた理由はというと、リオンがアムールに「ババ抜きで勝負だ!」と言い、アムールが「ババ抜き……じゃあクリス、ちょっと行ってくるね」と言ったところ、リオンが「そのババじゃねえよ!」と大笑いしたからだそうだ。実に馬鹿としか言いようのない理由であった。

 なお、ババ抜きは縁起が悪いとの事で、ルールをジジ抜きに変えて勝負する事になった。


「はいどうぞっと……それにしてもクリス先輩。最近、アムールに強いですね?」


 カードを配り終えたカインは、自分の札を整えながらクリスさんに話しかけていた。確かに、わがままなところのあるアムールが、比較的クリスさんの言う事は聞いている気がする……まあ、あくまで『比較的』なので、抑えきれていない事の方が多いが、それでも言う事を聞かせれるだけすごいと思う。なお、王都にいる中でアムールが一番言う事を聞くのはじいちゃんで、ついでマリア様、クリスさんと続いている。


「ああ、それは簡単な事よ。アムールが調子に乗り出したら一言、『ハナさんに言いつけるわよ』って耳打ちするだけよ。ハナさんとは武闘大会でペアを組んでから、今後手紙のやり取りをしようって話になってね。その話の中で、「もしアムールが悪さをしたら知らせてちょうだい。おいたが過ぎるようなら、南部に連れ戻す事も考えないといけないから」って言われてるのよ。まあ、私も鬼じゃないから、犯罪に手を染めない限りは知らせるつもりはなかったんだけど……私の手に余るようだったら、ハナさんに知らせないと……ねぇ?」


「ごめんなさい、クリス様。お母さんには知らせないでください」


 クリスさんが最後の方でチラリとアムールに目をやると、アムールは即座に土下座で謝罪を始めた。そんなに南部に連れ戻されるのが嫌ならば、クリスさんをからかわなければいいのに。


「条件反射って怖い……」


 どうやらアムールには、クリスさんをからかわなければいけない遺伝子でも組み込まれているみたいだ。その答えにクリスさんは呆れたようで、アムールの正座は延長される事になった。ちなみに、二人のやりとりの間、リオンは全くの無言だった。その理由は、『足がしびれて口を開く余裕がなかった』から、だそうだ。

 

「まあ、あの二人を気にしてもしょうがないわ。早く始めましょう」


 クリスさんがそう言うのでジジ抜きがスタートしたのだが、その間もクリスさんの監視の目は、廊下の二人に向けられている。それに気がつかないリオンは、時折足の位置をずらそうと動くのだが、その度にクリスさんに睨まれていた。アムールはリオンに比べて余裕があるようだが、それでも長時間の正座は辛いようで、


「うふゃい!」

「リオン、うるさい!」


 リオンを生贄にして、自分の足を楽にする瞬間を作り出していた。ちなみにその方法はと言うと、アムールが尻尾でリオンの足を叩いたり、くすぐったりして作るのだ。まあ、何度目かの時にクリスさんにバレて、げんこつを食らっていたが。



「一抜けじゃ!」


 数度のジジ抜きを経て、今度は大富豪大会を開催していた。発端はドアを開け放っていたせいで声が廊下に響き、それを聞いたじいちゃんがやってきたからだ。

 じいちゃんが来た事でクリスさんが「ジジ抜きはやめて他のにしましょう」と提案し、プレイ人数を五人にして平民が交代すると言うルールで行う事になったのだ。


「富豪に上がりました!」


 大富豪はチェスや将棋などと違って、『革命』や『八切り』といった逆転可能なルールを適用したので、ボードゲームが苦手だと言っていたジャンヌやアウラでも上位を狙う事が出来た。ちなみに、じいちゃんが先程から大富豪か富豪に居座り、アウラは何故か貧民が富豪しかにしかならないので、この二人は一度も交代していない。


「あの~……俺達はいつまで正座を……」

「あっ! カイン、革命使うのが遅いわよ!」

「すいませ~ん。テンマ、交代だね」

 

 こんな感じで、クリスさんとカインは先程からリオンの質問を無視している。なお、アムールは尻尾でお尻を支えたりする事で、長時間の正座を楽にするという方法を編み出したみたいだ。現在、苦しむリオンのとなりで、静かに眠っている。


「うむ? そろそろお開きにした方が良さそうじゃの。ジャンヌが限界みたいじゃ」


 じいちゃんの言う通り、交代待ちだったジャンヌが船を漕いでいた。


「ああ、もうそんな時間なのね。じゃあ解散にしましょうか? アウラ、ジャンヌを連れて行って。アムール、起きなさい」


 女性陣は先に戻ると言うので、男性陣で簡単にリオンの部屋を片付けてから戻る事になった。片付けている最中に、「アムール! あんたの部屋はそっちじゃないでしょ!」という声が聞こえてきた。アムールが寝ぼけたふりでもして、俺の部屋に忍び込もうとしたからだろう。


「おっ、おうふぅ! アルバート、カイン……助けてくれ、立てん……」


 クリスさんが居なくなった事で解放されたリオンだったが、足がしびれて立つ事ができないらしく、変な声を上げながら二人に助けを求めていた。


「仕方がない。カイン、そっちを持て。二人で運ぶぞ」

「りょ~か~い」


「すまん助かる……って、ちょっと待て! 引きずるな! 足がやばいんだって! あががががぁーーー!」


 二人はリオンの脇を抱える様にして、勢いよくベッドまで引きずっていった。リオンは、痺れた足が床の段差や椅子などに当たり、その度に悲鳴を上げていた。その声の大きさは、帰ったはずのクリスさんが戻ってきて三人を叱る程だった。クリスさんのそういうところが、エディリアさんに目をつけられるところなのだと思う。現に、クリスさんが三人を叱っている間にエディリアさんがやってきて、こっそりと三人を叱るクリスさんを見ながら何度も頷いていた。

 

「あっ! テンマ君、シロウマルを貸してちょうだい!」


 三人を怒った後で、クリスさんは思い出したようにシロウマルを貸してくれと言い出した。シロウマル自身、クリスさんには懐いているのでかまわないのだが、何の為なのかがイマイチ分からなかった。


「抱き枕代わりですか?」

「それもあるけど、これはテンマ君の為でもあるのよ」


 冗談半分で抱き枕と言ったのに、即座に肯定されて少し驚いたが、それ以上に俺の為と言われて、疑問の方が勝った。


「ほら、私が寝入っている間にアムールがテンマ君の部屋に忍び込まないとは言い切れないでしょ。流石に鍵を壊してまで入る事はないと思いたいけど、アムールは時に思いもよらない行動を起こす事があるから……その対策に、シロウマルを部屋に連れて行きたいのよ」


 例え野性的な動きをするアムールとて、本物の動物(まもの)にはかなわないだろうとの判断だそうだ。最も、今のシロウマルにアムールを凌駕する野性的な部分(・・・・・・)がどれだけ残っているのか不安ではあるのだが……俺の部屋にはスラリンもいるから、もしシロウマルが期待に応える事が出来なくても大丈夫だろう。


「ありがと。じゃあ行くわよ、シロウマル!」

「ウォフッ」


「あれ? どこ行くの、シロウマル? ……ああ、おトイレか。寝る前に済ませとかないとね」


 バッグから呼び出したシロウマルは、クリスさんの後に続いて廊下に出たかと思うと、そのまま窓から外に飛び出ていった。一瞬、焦った声を出したクリスさんだったが、シロウマルの行動を見て納得していた。


「取り敢えず、水をぶっかけてっと。シロウマル、アムールの見張りは頼んだぞ」

「ウォン!」


 本当にわかっているのか不明だが、シロウマルはひと吠えすると、今度はちゃんとクリスさんについて行った。


「それじゃあ、おやすみ」


 じいちゃん達に挨拶を済ませた俺は、トイレに行ってから自分の部屋に戻った。これで鍵をしっかりとして、スラリンにもアムールの対策を頼めば、後は朝まで寝るだけだ。


「ソロモン。間違ってもおやつに釣られて、鍵を開けるんじゃないぞ」

「キュッ!」


 「心外な!」、という感じのソロモンの抗議の鳴き声を聞きながら、布団にもぐった俺だった。

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