第11章ー7 スパイ捕縛
「来たか」
「夜分遅くに失礼します」
そろそろ日付が変わろうかという時間に、俺は副団長のテントを訪れた。
「思ったより人がいますね」
テントの中には副団長の他に、騎士と思われる男女が五人いた。彼らは武装こそしていないが、明らかに俺を警戒している。思ったよりとはいったものの、軍の責任者がいるところに思惑のわからない冒険者が夜遅くに訪れるという事を考えれば、五人しかいないと表現するのが正しいのかもしれない。
「大丈夫だ。この子らは信用できる者達だ。何せ、私の子達だからな」
「子沢山なんですね」
「他も、辺境伯の近くに五人程残してきたがな」
全部で十人と言う事か……何というか、すごいな。色々な意味で。
「それで、そんな話をする為に、わざわざ人目を避けて来たわけでは無いのだろ?」
そう言って副団長は、一枚の紙切れをポケットから取り出した。その紙切れは、俺がここに来た時に副団長と握手した際に、周りにバレないように渡したものだ。内容は、『今の状況を打破する為の策を話し合いたいので、日が変わる頃に確実に信用できる者だけで待っていて欲しい』というものだ。
「こんな回りくどい事をしなくても、あの場で提案すればよかったものを……あの時の態度のせいで、余計な敵を作ったかも知れんぞ」
「別に知らない人に嫌われてもどうという事はありませんし、そもそも辺境伯軍の関係者だけでもゆうに千を越え、今もなお増え続けているというのに、確実に信用できるのが五人という事は、副団長も俺と同じ心配をしているんでしょ?」
「スパイの事か……」
副団長は苦々しい声で呟いた。これだけの規模の軍勢なら、むしろいないと考える方がおかしいくらいだ。
「ほぼこちらが有利な状況になりつつあるというのに、相手に何も動きがないのは少し変ですから、スパイがいて一発逆転の機会を伺っていると考えて行動した方がいいでしょう」
「それで嫌々協力しているといった態度をとっておいて、こっそりと会いに来たわけか……で、どうするつもりだ?」
ここまで話すと、副団長についてきていた五人は、警戒を俺から周囲へと向け始めた。
「やる事自体は単純です。まずは、あちらの望んでいる一発逆転の機会を潰します。次に、こちらの気勢をあげて、最後に武威を示します」
「確かに単純だが、問題はどうやってそれを行うかという事だが……どれも方法を一つ間違えたら、敵が雪崩込んでくるぞ」
副団長の隣に座っていた男性の疑問も最もだった。敵の帝国兵は、国境ギリギリのところまではやってくるそうだが、まだ一度も自国の領土から出ていないのでこちらから攻めるわけにはいかず、もしも攻撃準備などしたりしたら、帝国の領地に侵略しようとしているなどといって逆に防衛目的の為などといって攻め入ってくる可能性もあるそうだ。
「それで勝ったら王国の領地を削り取り、負けて攻め入られれば、『あれは一部隊の暴走であって帝国の意思ではない。既に主だった者は処分したので領地を返還して欲しい』ですか?」
俺の言葉を聞いて、副団長と男性が頷いた。そうなったら、なるべくなら帝国と事を構えたくない王国としては、嘘だとわかっていても切り取った土地を返還しなくてはならないだろう。
「まあ、そうなるだろうな。もしそうなったら、こちらとしては大損だ。軍の維持費に冒険者達への支払いで、今ですら赤字だというのに」
敵とにらみ合っているのに辺境伯軍の懐事情の心配をするのは、女性らしい考え方だと思った。
「これまでに消費したものはどうにもなりませんが、もし俺の策が成功すれば、長い目で見ればプラスになるかもしれませんよ」
「ほう……だが、その代わり高いのだろう? 君への支払いが」
口ではそんな事を言っているが、副団長は俺の作戦に興味があるようだ。
「格安にしておきますよ。まあ、これから辺境伯家には、何かと無茶を言ってしまうかもしれませんが」
「それはリオン様に任せるとしよう」
「では、交渉成立という事で」
即決でリオンを俺に売った副団長は、早くその策を話せとばかりに身を乗り出した。
「俺の作戦はですね……」
副団長SIDE
「上手くいくと思いますか?」
「まあ、大丈夫だろう」
私の秘書をしている息子が、心配そうにしていた。よく見ると、他の四人も同じ様な感じだ。
「作戦の第一段階と似た様な事を、彼は過去に行っているそうだからな。第二段階はいつもやっている事を、少し大げさにするだけだし、第三段階に至っては、我々が普段やっている仕事だからな」
テンマの言った作戦は、確かに単純だった。だが、成功すれば効果は高いし、長い目で見れば得すると言えるだろう。
「まあ、日が昇れば分かるだろう。明日……いや、今日か。忙しくなるから、もう寝ておけ」
息子達にはそう言ったものの、私自身本心からテンマを信じれているわけではない。心の中では、「もしかしたら、本当は昔の事を許しておらず、わざと失敗するのではないか……」といった不安があったのは事は確かだ。そのせいで……
「朝早くから騒がしいな……少しばかり寝たりない……」
本当は少しどころではないが、誰が見ているか分からないところで、組織のトップが体調が悪いなどという姿を見せるわけにはいかない。
そういう思いで自室代わりのテントから出て、胸を張って周囲を見回したところで……
「ははは……これは目が覚めるわ……」
昨日まで……いや、寝る前までなかったものが、私達の陣地を囲んでいた。
「本当に、赤字を取り戻したかもしれないな……」
副団長SIDE 了
「こんな感じでどうですかね?」
夜明け前にひと仕事を終えて馬車で仮眠をとっていた俺は、聞こえてくる驚きの声で目を覚まし、眠気覚ましの散歩中に副団長を見つけて声をかけた。
「へあっ!」
副団長はよほど俺が作ったものに気を取られていたのか、声をかけた瞬間、変な声を上げて驚いていた。
「あ、ああ、上出来どころの話じゃない! これを数時間で作ったなんて工兵達に知れ渡ったら、仕事がなくなるかもしれないと夜も眠れなくなるぞ!」
興奮気味の副団長は、まくし立てる様に絶賛している。
「それで、これはどうやったんだ!」
勢いのままに、副団長は俺がした方法を聞き出そうとしていたが……
「副団長! そこまでだ!」
息を切らしながら走ってきたリオンに止められ、そこで初めて周囲に人が集まってきている事に気が付いた様だ。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……副団長、傍からするとハウスト辺境伯軍の幹部が、一冒険者から利権を奪おうとしているとも見られかねんぞ。少なくとも、こんなところでする話じゃない」
「それに、もしこの事がマリア様にバレたりしたら、俺の首が飛ぶだろうが!」
「そう! 俺の首が……って、カイン、俺の後ろで何を言ってるんだ!」
リオンが副団長を叱っている後ろで、こっそりと近づいてきたカインがリオンのモノマネを披露した。リオンにしては貴族らしい事を言うと思ったら、そんな心配があってこその発言だったのか……まあ、薄々気が付いてはいた。だって、リオンだし。
「取り敢えず、副団長のテントに入ってはどうじゃ。ここでそういった話をしたいのなら止めはしないが……わしも何を言うか分からんのでのう……互の為にも、ここでの話し合いはまずいじゃろう?」
リオンとカインが騒ぎ、副団長がこのまま話を続けていいのか戸惑っていると、二人を追いかけてきたじいちゃんが俺の横で副団長を牽制し始めた。どうもじいちゃんは、副団長に対して少し怒っている様だ。
「申し訳ありませんでした。つい我を忘れてしまい……正式に謝罪もしたいので、私のテントへお越し下さい」
じいちゃんの怒りに気付いた副団長は、俺とじいちゃんに頭を下げて謝罪すると、謝罪を理由に自分のテントへ招こうとした。ただ、招くと言っても拒否権を使わせる気はないらしく、言い終わると同時にしっかりと俺の腕を掴んで、強制的にエスコートしようとしている。
「そうですね。俺も話したい事があるのでお邪魔させていただきます」
振りほどこうと思えば簡単に振りほどけるが、ここでそんな事をすればせっかく築き上げた辺境伯家との友好関係が崩れたと周囲に見なされる可能性があるし、何より事前にリオンから副団長の性格についての話を聞いているので、これくらいの事はするのではないかと予想していたのだ。なので、副団長の提案を受ける事にしたのだった。
俺の返事を聞いた副団長は、ニッコリと笑うとそのまま俺の腕を引いて歩き出した。了承の言葉を聞いても、テントに入るまで腕を放すつもりはないみたいだ。
「よかったねリオン。斬首を回避できて」
「……うるせぇ。カインも弟の方がやらかさない事を祈るんだな」
「うっ……」
俺と副団長の様子に安堵していたリオンは、カインの言葉にイラっときたようで、ゲイリーを使って反撃していた。カインはリオンの意外な反撃に、苦虫を噛み潰したような顔をして言葉を詰まらせていた。
そんな俺達に興味を持って近づこうとしていた冒険者達に対して、
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止よ。故意に近づこうとする行為は、貴族に対して危害を与えようとしていると判断されても仕方がないからね!」
「テンマ様は怒ったら怖いので、ここから先は行かないようにしてくださ~い」
「本当に怖いので、下がってくださ~い」
「ガルッ!」
「そこ! 下がる! これ以上近づいたら、テンマに指先一つでひでぶされる! だから下がる!」
「アムールが何言ってるか私には分からないが、テンマを怒らせれば間違いなく痛い目にあうぞ! あとついでに、サンガ公爵家とサモンス侯爵家とハウスト辺境伯家に睨まれたくないのであれば、ここから先には近づかない事だ」
と、他の面々が遠ざけていた。近衛隊の鎧を身につけているクリスさんや、冒険者の中でも名が売れているアムールにひと目で貴族と分かるアルバートは当然として、メイドの格好をしているジャンヌとアウラに対しても、その後ろで目を光らせているシロウマルがいる為、冒険者達は俺や副団長に近づく事が出来ずにいた。
そうしているうちに騎士達が集まってきて、クリスさん達から冒険者達を遠ざける仕事を引き継いでいる。
「スパイがいる可能性がある以上、これくらい厳重なのは仕方がないか」
「その事に関しても、報告したい事があります」
副団長の独り言に俺が答えると、副団長は一瞬驚いた顔をして、すぐにその報告がスパイに関する事だと気付たようで、少しだけ歩く速度が上がった。
テントの中では、騒ぎを聞きつけてやってきた昨日の五人がすでに待機しており、会談の為の席をセッティングを終えている。
なお、副団長以外でテントの中に入るのは、俺とじいちゃんと三馬鹿で、ジャンヌとアウラはメイドという身分から、アムールは堅苦しい話を嫌がり、クリスさんとスラリン達はジャンヌ達の護衛兼お目付役で外で待つ事になった。
「先程は興奮してしまい、申し訳ない事をした。それで、我らの陣営を囲んでいる壁について教えてもらいたい」
よほど壁が気になるのか、副団長は謝罪もそこそこに話を切り出した。
「副団長……」
「リオン、いいから……でも、詳しくは話せませんよ?」
「それでも構わない!」
副団長の態度に呆れた様子のリオンに声をかけてから返事をすると、副団長は待ちきれない感じで身を乗り出して頷いた。
「壁は昔ククリ村で使った方法を応用して作ったものです。肝心のところは秘密ですけど、簡単に言うと魔法で堀を作り、その時に出た土で壁を作ったんです」
俺の答えに副団長は、「何当たり前の事言ってんだ、こいつ?」みたいな顔をしているが、実際に、ゴーレムの核を地面に埋め込み、それを同時に起動させて堀になるところを作り、ゴーレムを並べて壁にしたので、簡単に説明するとああいった説明になってしまうのだ。ちなみに、ゴーレムを埋め込んだのはスラリンで、壁から核を回収したのもスラリンだ。隠密行動に優れているスラリンのおかげで、壁が出来上がる瞬間を目撃した者がいたとしても、突然地面から土が盛り上がって壁になった様にしか見えなかっただろう。
「まあ、強度に難がありますけど、それは後で補強すれば問題ないでしょう」
「あ、ああ、確かにそうだ、問題はない。例え脆くとも、いきなり壁が出来たというインパクトを相手に与えられたのは、非常に大きい……それで、スパイについての報告とはどういう事だ?」
副団長は先程までの興奮した様子とは打って変わって、今度は真剣な顔になって俺を見つめてきた。
「まず最初に言っておくと、私に人を見ただけでスパイかどうかなど判断できる様な能力はありません」
と一度言葉を切って副団長を見ると、副団長は黙って頷いた。その代わり、リオンを始めとした俺の連れ達は、揃って首をかしげている。
「その上でスパイと判断したものを、勝手ながら拘束させていただいています。もちろん、スパイと思われる行動をしていた者達のみですが」
「この状況で怪しい行動をした者を拘束する事に問題はない。最も、私を納得させるだけの理由があればの話だが」
副団長は、チラリとリオンに目を向けた後で、俺へと鋭い眼光を飛ばしてきた。
「それはごもっともです。まずは拘束した者の確認をお願いします」
そう言って俺は、拘束している者達を捉えているディメンションバッグの口を開けて、副団長に中を確認する様に言った。
「うむ……えっ!」
「副団長、いったい誰がそこに……なっ!」
副団長と前回もその隣に座っていた男性が驚くのも無理はないだろう。なにせ、ディメンションバッグに拘束されているのは、六名の冒険者に四名の辺境伯軍の制服または鎧を着た者達だ。
二人共、辺境伯軍の者の中にスパイがいるだろうとは予測していたようだが、それでも驚いてしまう人物がバッグの中に囚われていた。その人物とは……
「何故、我が軍の部隊長がここに入れられているのだ!」
真っ先に俺に食ってかかったのは、副団長の隣に座っていた男だった。男は俺に詰め寄ろうとしたが、副団長に肩を押さえられて強引に椅子に座り直させられた。
「この者達がスパイだと判断したのは、どのような理由があっての事だ? リオン様の様子からすると、リオン様が納得するだけの根拠があったわけなのだろう?」
「ええ、その通りです。まず先に、この冒険者達ですが、この者達は壁が出来るとすぐに外部と連絡を取ろうとしていました。まずこいつですが、こいつはテイマーの様で、小型の鳥の魔物の足に手紙をくくりつけ、敵陣の方角へ放ちました。飛び立ったところで、私の眷属が魔物を捉えました。その手紙がこちらです。そしてその横の男は壁をよじ登り、鏡を使って何らかの合図を敵陣の方角に送ろうとしていました。この二人はリオン立会いのもと、尋問を行い自白させています」
その他の冒険者は時間の都合上尋問できなかったが、壁の出現に驚く他の冒険者達を尻目に、慌てた様子で陣地を離れようとしていたのを捕まえたのだ。もしかしたらスパイではないのかもしれないが、そのような疑われても仕方のない行動を取っていたのだ。スパイだと判断されて捕まっても仕方がない。
「そしてこちらの軍人達ですが……尋問した冒険者の口から名が挙がった者達です。こちらは確実にスパイだとは言い切れませんが、念の為捕縛しました。一応任意の同行を求めましたが、全員拒否した為このように縛っております」
捕まえた冒険者が適当に知っている名前を出しただけという可能性も捨てきれないが、次期辺境伯であるリオンの要請を拒否したのだ、十分すぎるほどスパイだと疑う理由になる。
「それともう一人、部隊長の口からスパイとして名前が挙がっている人物がいます……あなたの事ですよ、秘書さん」
「何を言っているのだ! この子がスパイなわけ……なあ、おいっ!」
副団長は俺の言葉を否定したが、リオンの沈痛な面持ちを見て勢いをなくし、最後に秘書である自分の息子を見た。そして、俺が言っている事が本当なのだと理解した様だ。
「なぜ……」
「副団長、疑問はもっともだが、まずはその男を捕縛させてもらうぞ」
リオンのその言葉で俺が男に近づくと、意外にも男は大人しく捕まった。抵抗されると思っていた俺としては、少々拍子抜けした感じだが、まずは男を捕縛してから考える事にした。
自分の息子がスパイだったという事で、リオンの判断で副団長の潔白が証明されるまで軟禁する事になり、一時的に指揮官不在となってしまう事となった辺境伯軍は、その事が外部に漏れない様に気を付けながら、表向きは副団長が体調を崩した為、回復までの間リオンが臨時の指揮官に就任すると発表する事になった。
「これでほとんど依頼を達成できたと思うけど……ついでだから、地形を変えておこうか。リオン、ちょっとした混乱が起きるかもしれないから対応を頼む」
「は?」
副団長の軟禁が決まると同時に、残りの息子達の行動も制限される事が決定し、その事の言い訳と業務の分担をどうするかをリオンがアルバートとカイン達に相談している(二人は臨時で辺境伯軍に雇われる事が決定した。肩書は、これから援軍でやってくる予定の公爵軍と侯爵軍の代表代理。ついでに、臨時の相談役として、クリスさんとじいちゃんも参加が決定)最中に俺がそんな事を言ったので、何を言っているのか理解できなかった様だ。
「事前に仕込みはしてあるから、ちょっと行ってすぐ終わらせて来る」
土壁を作るのと同時にある仕掛けを壁の向こう側に施してきたので、ちゃっちゃと用事を済ませてこようと思ったのだ。相手の動きを止めた分だけ、リオン達に余裕が生まれるので、俺なりの援護という感じだ。
「ちょっと待て、俺もいくぞ! 知らないところでとんでもない事をやられては、たまったもんじゃないからな!」
「そうだね。これからは、テンマがやらかした事の責任は、そのままリオンの責任になっちゃうし、もしかすると、僕達の責任にもなるかもしれないからね」
カインの言葉を聞いてアルバートも慌てて席を立ち、リオン達の後ろに続くようにして俺を追いかけてきた。
「来てもいいけど、本当にすぐ終わるぞ」
じいちゃんとクリスさんは来る気がない様で、他の四人を監視しながらお茶を飲み、俺の出したお菓子を頬張っていた。お菓子の中にはせんべいみたいなものも混じっているので、もう少ししたらアムールとシロウマルが音と匂いに気付いて突撃してくるだろう。
そんな事を考えながら、俺は三人を引き連れて塀の上へ移動した。塀の近くには冒険者達が集まっていたが騎士達が厳しく監視していた為、塀に上がろうとする者はいなかった。まあ、最初の内にそういった事をした者は捕縛すると告知していた事も関係しているのだろう。
なので、最初俺が塀の上に魔法で飛び上がろうとしたところ、近くにいた騎士に捕まりそうになってしまった。そのせいで三人(特にリオン)が、いつもの仕返しとばかりに大笑いしながらいじってきたので、近いうちにこの借りは絶対に返そうと決めた。
「それで、テンマはここで何をする気? あと、謝るから仕返しは僕以外にお願い。あの二人に僕の分の仕返しを上乗せしていいから」
カインが塀の上に移動した目的を聞いて来た。ついでに他の二人に聞こえない様に、こっそりと謝罪ついでに他の二人を売っていた。カインは念を入れて小さな声で話しかけてきているが、他の二人はスラリンによって順番に塀の上へと釣り上げられている最中なので、俺とカインが話しているところを見ても、気にする余裕はないだろう。
「いや、仕返しの時は三人一緒だからな。俺の中だと、三人揃ってこその三馬鹿だから。そんな事より、かなり揺れると思うから、三人はスラリンにしっかりとしがみついとけよ」
「ちょっと! 三人一緒って……揺れる?」
カインは仲間を売っても助からないという事に抗議しようとしたせいか、一瞬俺の言っている意味が理解できなかった様で反応が遅れていたが、他の二人は瞬時にスラリンにしがみつき、準備OKといった感じで握りこぶしを作って俺に向けている。
「それじゃあ、行くか!」
「ちょっと待ってーーー! 僕の準備がまだだからーーー!」
俺はカインの悲鳴を聞きながら、地形を変える為に精神集中を始めたのだった。