第11章-5 君の名は?(大爆笑)
「この後は国境線での協力の予定だけど……今、どういう状況なんだろう?」
ワイバーンの群れを討伐した後は、国境線で警戒しているハウスト辺境伯軍に協力する予定なのだが、今どこでどういう状況なのかが分からないと動きようがなかった。
「近くの街までいけば、うちの軍の誰かが詰めていると思うんだが……」
「じゃあ、行きましょう!」
リオンのどこか自信なさげな言葉に、何故かクリスさんが決定を下した。リオンが「リーダーはテンマなのに……」とか言っているが、完全に無視されていた。
「まあ、行くしかないんだけど……どうしたの?」
クリスさんの態度に疑問を覚え、一応聞いてみる事にしたのだが、クリスさんは言葉を濁してごまかそうとしている。するとアムールが、
「クリスは服を忘れた。下着も含めて、着た切り雀!」
「ちょっ!」
「すずめ? そんな可愛いもんじゃないだろ、姐さんは」
「へぇ……じゃあ、なんならぴったりなのかしら?」
余計な事を言ったリオンは、クリスさんの笑顔に追い詰められている。
「ええっと……孔雀! そう、姐さんには孔雀がふさわしいです!」
リオンがいい鳥を思いついたといった感じに、自信満々に言い切ったが……
「確か孔雀ってかなりの『悪食』で『気性が荒く』、綺麗なのは『オス』だけじゃなかったっけ? メスはけっこう『地味』だった様な?」
リオンのドヤ顔を見たカインが、意地の悪そうな顔をしながら質問する様な口調でリオンに話しかけた。当然、クリスさんに聞こえる様に。
「リオン、あんたが私をどう思っているのかが、よぉく分かったわ……」
「ちょっ! 姐さん、誤解ですって! カイン、てめぇ!」
「問答無用!」
クリスさんに鉄拳制裁されるリオン。この光景を見ていると、リオンが孔雀と称したのは、あながち間違いではないと思えてくる。間違っても口には出さないが。
「取り敢えず、あの二人は放っておくとして……その国境から近い町はどこだろう? 規模は小さくてもいいけど、最低でもクリスさんの着替えを買えるといいんだけど」
「ここからだと、馬車で六時間くらい進んだところにあるそうだ。普通の馬車での話だから、ライデンだとその半分もかからないくらいだろう……と、リオンが言っていたな」
アルバートは事前に、この辺りの情報をリオンから仕入れていたそうだ。こうなる事を明確に予測しての事ではないらしいが、リオンとの長い付き合いでの経験上、こういった可能性は充分にあり得ると思っての情報収集だったらしい。ちなみに、本来ならその情報を俺に伝えなければならないはずのリオンは、クリスさんの顎への一撃で気を失っている。
「本来なら、不敬罪で死刑もありえる光景なんだけどな……」
「別にいいんじゃない? そもそもリオンへの鉄拳制裁を、リオンの父親は黙認しているみたいだし……父さんが昔聞いた話だと、わざわざ出向いて躾をしなくて済むのはありがたいって言っていたそうだから」
「ふ~ん……で、そもそも、協力ってどういうのをすればいいんだろう?」
俺のあからさまな方向修正に、カインは苦笑していたが、リオンの話を続けても仕方がないと思ったのか腕を組んで考え出した。
「そういうのはマーリン様やクリス先輩の方が詳しいと思うけど……考えられるのは二種類。直接的な協力と間接的な協力かな?」
カインの言う直接的とは、簡単に言えば辺境伯軍に戦力として加わって、有事の際に武力を行使する事で、一番効果がわかりやすいものだそうだ。
対して間接的とは物資を運んだりといったもので、輜重隊と同じような事をやったり予備兵力として待機、もしくは雑用をする事らしい。
「じゃあ、やるなら間接的な方だな」
「言うと思ったけど、確かにそっちの方がいいだろうね。こう言ってはなんだけど、クリス先輩以外は軍隊行動が出来るとは思えないからね」
クリスさんは軍属だからそういった訓練をしているだろうけど、俺やじいちゃん、アムールといった特に一人や少人数のパーティーで行動する事が多い冒険者が、軍隊の様な集団行動に向いているとは思えない。三馬鹿にしても、ある程度なら軍人として行動出来るだろうが、どちらかというと三人は命令する立場なので、下手に混じって行動するよりは離れて大人しくしている方が、『高位貴族(の子息)の参加で命令系統が混乱した』……なんて起こる事はないだろうし、危険度も低くてすむ。
「それじゃあ、そんな感じでやってみようか? 皆、行くよ。シロウマル、リオンを持ってきて」
「ウォン!」
取り敢えず、国境線に近いところにあるという町へと行く事にし、休息をとっていた皆に声をかけた。ただ、リオンはまだ伸びたままだったので、たまたまリオンの近くにいたシロウマルに運んでくる様に言うと、シロウマルは短く吠えてリオンの足を咥えて引きずってきた。
クリスさんの折檻とシロウマルの引きずりにより傷だらけとなったリオンだったが、見慣れた光景だったので誰一人として心配する者はいなかった。
「おい、起きろリオン。あれが目的の街じゃないのか?」
「……ん? あれ? えっ?」
リオンが気絶してからおよそ二時間、俺達は目的の街を視認できる位置まで来ていた。確認の為リオンを起こすと、目を覚ましたリオンは突然周囲の風景が変わっている事に混乱している様で、辺りをきょろきょろと見回していた。
「んあ……え~っと……その通り……みたいだ。取り敢えず、門番に話を聞いてみよう」
寝起きで頭が働いていないせいかはっきりと言い切れなかったみたいだが、確認の為に門番に話してみる事になった。
それに、あちらも俺達が近づいてきているのに気がついており、警戒の為なのか武器を持った兵士が数人待機している。
「じゃあ、よろしく」
門番との話には誰か一人が行けばいいし、街に入る為の許可も取らなければならないので、一番早く許可が下りそうなリオンを向かわせる事にした。
「おう、任せろ! 俺が行けば一発だ!」
「リオン、さっさと行って来なさい! お店が閉まっちゃうでしょ!」
「はい……」
出番が来たとばかりに張り切るリオンだったが、替えの服が必要なクリスさんの一喝により意気消沈し、駆け足で門番のところへと向かっていった。
「まあ、すぐに許可が下りるでしょうから、まずは衣類を売っている店を探しましょうか?」
「ありがとう、テンマ君……って、リオンが門番と揉めているみたいよ」
クリスさんの言うとおり、リオンは何故か門番と口論していた。魔法で感覚を強化して耳を傾けてみると、どうやら門番は、相手がハウスト辺境伯家のリオンだと分かっていない様だった。
「どうやら、辺境伯家の息子だと気が付いていないみたいですね。むしろリオンの事を、敵国のスパイではないかと疑っている様です」
「何それ?」
俺も、何がどうしてそうなってしまったのか分からないが、このままではリオンが捕縛されてしまう事になる。それはそれで面白そうだが、そうなると門番の首が物理的に飛びかねないので、クリスさんを伴ってリオンの手助けに行く事にした。
「申し訳ありませんでした!」
クリスさんと俺が門番と話したところ、ようやく自分達の間違いに気がついた門番達が一斉に頭を下げてリオンに謝罪した。
「はは……いや、もういいから……」
門番達に自分が領主の息子だと理解されなかったリオンは、遠い目をしながら馬車へと戻っていった。あれだけ自信満々に出て行ったのに、自分の顔が知られていないどころか偽物と疑われた上、あと少しで捕縛されてしまいそうになったのだから仕方がないのかもしれない。
ちなみに、何故リオンだと気がつかなかったのかと言うと、そもそもリオンがこの街に来たのは十年以上前の事であり、その時は辺境伯の視察の付き添いといった形で目立たなかったのと、話に聞いていたリオンの容姿に違いがあった為との事だ。
ちなみに、話に聞いていたリオンの容姿とは、背が高く細めの筋肉質で、野性味のあるイケメン……というものだった。その情報の中で実際のリオンと一致するのは、背の高さだけなので仕方が無かったのかもしれない。なお、俺の判定では野性味のあるイケメンはギリギリ三角の判定だったが、女性陣の判定では完全にバツの判定というものだった。
「ヤバイ……お腹が……お腹が!」
「リオン……お前は俺達を殺すつもりなのか! 抱腹死なんて、ある意味歴史に名を残すぞ!」
カインとアルバートは、リオンが門番に許可を貰えなかった事と、正体を疑われて捕縛されかけた事を馬車から見ていて、腹を抱えて大笑いしていた。その笑いは三人と知り合ってから見たものの中で一番激しく、カインは笑い過ぎで腹筋がつっているのに笑いが収まらず、今も笑いながら苦しそうに床に転がっているし、アルバートはカイン程ではないが、笑い過ぎで頭の血管が切れるかと思ったそうだ。
「うるさい……いつかお前達も、俺と同じ様な目に遭うんだ……」
リオンはどう反論しても不利だと思ったのかいつもの様に声を荒げる事はせず、代わりに不吉な言葉を二人に向けて放った。
リオンの言う『同じ様な目』とは、今回のリオンの容姿の情報が、王都の学園で流行った腐女子作の三人を主役にした妄想本が原因だからだ。
そのリオンをモデルにした登場人物が、この街に届くまでにリオン本人の容姿という事になり、今回の騒動へと繋がったのだ。なお、その本の内容までは伝わらなかったそうだが、この様子では他の街には内容まで届いている可能性がある……実際のリオン達が本と同じ様な仲だという事になって……
「よし! 領地に戻ったら、すぐにその本の撲滅に努めよう!」
「僕のところは、サモンス家を貶める為に作られた悪しき内容の本として禁書に指定して、所持する事すら罰則の対象になるという法律を作るよ!」
明日は我が身と考えた二人は、自分達の持つ権力を使って本の撲滅を目指す様だ。
「ふっ……もう手遅れかもな」
悟りを開いた様なリオンの言葉を無視し、二人は今後の作戦を話し合っている。
「二人共わかってないわね……そんな事をしたら、二人の知らないところで盛り上がるだけでしょうに」
「バレなきゃいいだけ。むしろ、裏で作者と読者の絆が強まるだけ」
クリスさんとアムールの言葉を聞いたジャンヌとアウラは、静かに頷いて肯定した。まあ、江戸時代の日本でも、贅沢禁止令に反対する絵師達があれやこれやと抜け道を探して盛り上がったという事例があるのだから、この世界でもないとは言えない……と言うか、以前よりもすごい盛り上がりになりそうな気がする。何せ、そういった話を作っているのが主に貴族令嬢なのだ。貴族としての権力は二人に大きく劣るとしても、自分の領地に戻ればどうにでもなるのである。
「目をつけられた時点で手遅れなのだから、諦めが肝心なのに……本当に三馬鹿ときたら分かってないのよね」
その点、俺は幸運だったと思うべきだろう。聞いた話では俺を使った妄想本も存在するそうだが、マリア様が認めたもの以外は全て事実とは異なる内容だという流れを作ってくれたおかげで、三人の様に俺がその本の内容と同じ性癖を持つ者ではないと思われているそうなのだ。それに、マリア様に睨まれる事を恐れたらしい腐女子達は、俺をモデルにした話を作る事に躊躇しているのだとか。まあ、そのせいで三人への妄想が加速している可能性もあるが……あくまでも可能性の話だ。俺の関知するところではない。
「まあ、三人の事は置いといて……クリスさん、早く服を買いに行ったら? そろそろ閉まる店が出てくる時間帯じゃない?」
「やばっ! ちょっと行ってくるわ! 宿の部屋割りは任せるから。あと、シロウマルを借りていくわね。行くわよ、シロウマル」
「ウォン!」
クリスさんはこのまま店を数件見て回るつもりらしい。シロウマルを連れて行く理由は、シロウマルの鼻を頼りに俺達を探す為だそうだ。
俺はシロウマルの首に目印の布を巻き、クリスさんを見送った。ジャンヌ達も一緒に行かないかと声を掛けられていたが、クリスさんと違い服はちゃんと持ってきているし、ゆっくりと買い物をするには時間が足りないという理由で断っていた。
「クリスに合わせていたら、ゆっくりと見て回れない」
アムールがそう言っていたので、服に興味を持つのは珍しいなと思っていたら、ゆっくりと回る事ができないのは食べ物を扱う屋台との事だそうだ。
「確かに、服は王都の方が種類はあるはずですから、わざわざこの街で見る必要はないですね。むしろメイドとしては、どんな食材があってどういった調理をするのかという方に興味があります!」
アウラがわざわざメイドという部分を強調してそう主張するので、宿を探す傍らで屋台を覗いてみる事にした。
数件の屋台を除いて分かった事は、屋台で出されているものの種類や味自体は王都とあまり変わりがないが、料金はかなり安いという事だった。王都と同じ位の量なのに、最大で半額近く安いのには驚いたが、リオンに言わせると王都や大都市以外ではこれぐらいが当たり前なのだそうだ。
「ああ、場所代や税金が安いのか。後は、地方の方が物価も安いからかな?」
「正解! 地方で当たり前というだけでその理由に思い当たるのは、流石テンマというところだね。リオンがその理由に気がついたのは、恐らく最近の事だと思うよ」
引き合いに出されたリオンは不満げな顔をしていたが、何割かは当たっているのか文句を言う事はなかった。
「テンマ、この先にある宿が目的のところだって」
屋台の人から宿の場所を聞いたらしいジャンヌが、ドライフルーツが入った篭を抱えながら走ってやってきた。ちなみに今俺達は馬車ではなく徒歩で移動している。理由は街の人々がライデンを怖がるからだ。しかもライデンは面白がっているのか威嚇しているのか知らないが、街の人と目が合う度に嘶くので、うるさいし申し訳ないしでディメンションバッグで待機させる事にした為だ。
「これ、イチジクかな? 結構うまいな」
ジャンヌが抱えていた篭の中から適当につまんで口に入れると、思っていたよりうまかった。
「この辺はイチジクの生産が有名だからな。まあ、他にも色々な果物を作ってはいるが」
昔からこの辺りは果物で有名なのだそうだ。中でもイチジクが一番作られているのだとか。
「他には……」
「リオン、その前にお客みたいだぞ」
「んあ?」
リオンの言葉を遮って、俺はこちらに向かって来ている一団を指差した。
「ああ、間違いなくうちの兵達だな。先頭の奴は騎士団の部隊長だ」
リオンの言葉が終わると同時に、ハウスト辺境伯騎士団の部隊長だと言われた男が俺達の前に到着し、リオンに向かって敬礼した。
「リオン様、お迎えが遅れて申し訳ございません」
「いや、いい。それよりも、現在の戦況が知りたい」
いつもとは違う雰囲気のリオンがそう言うと、すぐに騎士達が利用している宿舎へと向かうという事になった。
「じゃあ、俺達は先に宿に行ってからな。後で話を聞かせてくれ」
俺の言葉にリオンは驚いた表情を見せたが、リオン以外は全員俺と同じ行動を取ろうとしていた。
「テンマは依頼できてるんだから、俺と一緒に来ないといけないんじゃないのか!」
「いや正確には、『ワイバーンの群れの討伐』が俺の受けた依頼だからな。一応、『国境線での協力』はまだ受けていない事になっているから」
一応俺が正式に受けた依頼はワイバーン討伐なので、そのおまけである国境線の防衛に関する話し合いに、今参加する必要は無いはずなのだ。
「と言うわけだから、俺達が騎士達の話に混じっていたらおかしいだろ?」
と、リオンを言いくるめて宿屋へと向かった。本当はこの時点で協力体制に入ったと判断してもいいのだが、到着したばかりでゆっくりしたかったので面倒事から逃げる事にしたのだった。
ちなみに、俺の考えはリオン以外の全員が気がついていたみたいだが、誰も指摘する者はいなかった。リオン以外のメンバーは俺と同じく面倒事から逃げたいという気持ちだったからみたいだが、騎士団の方はただ単に俺に対して何も言えなかったのだろう。
部隊長は当たり前として、リオンを迎えに来たという事はある程度上の地位にいる騎士という事だろうから、昔あったククリ村での出来事は普通の人よりも詳しく知っているだろう。なので、部下や同僚が犯した事に対して負い目を感じているのかもしれない。
「今回の件が終わったら、ハウスト辺境伯家とは仲良くやっていくという事になるのじゃから、その前に多少弱みにつけこむくらいの事をやってもバチは当たらないじゃろう」
「疲れるのはリオン達だけでいい。私達は楽して美味しいところを貰っていくだけ」
楽できるかは分からないが、なるべく労を少なくして利益を上げるのは冒険者として当たり前の事だろう。
アムールの言葉に俺達は頷き、そそくさとその場を離れた。
「いや~これで今夜は気持ちよく寝れるわ!」
宿で合流したクリスさんは、納得の買い物が出来た様でご機嫌だった。一応リオンがいない理由を説明したが、「あっそ」の一言で終わった。
「それじゃあ、私とアムール、ジャンヌとアウラ、テンマ君とマーリン様とシロウマル達、三馬鹿で分かれるわけね。部屋は男性陣が三階、女性陣が二階でいいのね?」
今回の旅ではお馴染みとなった組み合わせで部屋割りをし、食事の時間を決めてそれぞれの部屋へと向かっていった。
「早速お風呂にしましょうかね。ジャンヌ達も一緒に入りましょ」
クリスさんは、俺が今回の旅用に作った風呂が入れられているディメンションバッグを片手に持ちながら、ジャンヌとアウラに声をかけた。ちなみにバッグを持っていない方の手には、アムールの腕をしっかりと掴んでいる。これはクリスさんが風呂に入っている間に俺のところへとアムールが行かないようにする為であり、マリア様の(アムールをむやみに俺に近づけない様にという)命令なのだそうだ。
なお、クリスさんが持っているバッグの中には、ぽつんと大きな湯船が設置されているだけのものであり、風呂のない宿に泊まった時に使えるようにと移動中に即席で作ったものだ。即席なので出来は良くないがかなり便利なので、王都に戻ったら本格的に作ってみようかと考えている。
「それじゃあ、わしらも風呂にするかの」
「ワイバーンとの戦闘で、結構砂を被ったしね。二人も入るだろ?」
「「もちろん!」」
念には念を入れてアムール対策をしないと、何が起こるかわからないからな。流石のアムールも、じいちゃんやアルバートとカインが入っているところに侵入する事はしないだろう……と、思っていたのだが、それは見通しが甘かった……
「とうっ!」
「んなっ!」
「うわっ! タオル、タオル!」
「カイン! 邪魔だ!」
「若いのう……」
タイミングを見計らったかの様な乱入に、じいちゃんを除いた俺達は驚き慌てた。
乱入者の登場に、俺は後ろを向いて湯船に深く潜り、カインは目をそらしながら自分のタオルをアムールに投げようとし、アルバートは股間を隠しながら湯船に飛び込んだ。
「お主ら、少しは落ち着かんか。アムールは裸で来たわけではないのじゃぞ。カイン、タオルは自分のを隠すのに使え。わしの方から丸見えじゃ。アルバート、湯船に飛び込むでない。酒とつまみが台無しになるところだったじゃろうが」
こんなに俺達が慌てているのに、じいちゃんはのんびりと酒を飲んでいる。
「よく見てみろ、アムールは水着じゃぞ」
「テンマのエッチ……アルバートとカインはスケベ、変態、覗き魔」
「「テンマとの扱いが違いすぎる!」」
じいちゃんに言われて反射的にアムールを見てしまったのだが、確かにアムールは水着だった。アムールは俺と目が合うと、わざとらしく両手で体を隠し、照れた演技をしたが、アルバートとカインに対しては辛辣な言葉を投げつけた。
「アムール~~~~~!」
アムールの扱いをどうしようかと思っていると、突然乱入者その二が男湯の方に現れた。
「あんた、男部屋には行くなってあれ程言ったでしょうが! ちょっと目を離した隙に男湯に侵入して! バレたら私がマリア様に怒られるでしょうが!」
クリスさんが鬼の形相でアムールの腕を捕まえた。しかし……
「クリスの露出狂~。兵隊さん、ここに露出狂がいますよ~」
アムールは全く反省していなかった。それどころか、火に油を注ぐ様な事を言っている。何せ今のクリスさんの格好は……
「クリス……流石に嫁入り前の娘が、タオルを巻いたままの格好で宿の中を移動するのはどうかと思うんじゃが……」
「へっ? ……きゃああああ~~~~~~!」
自分の格好に気づいたクリスさんは間抜けな声を出した後で、宿を揺るがす様な悲鳴をあげたのだった。