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第11章-3 道程

ネタが思いつかなかったり、書籍版の五巻の作業で間が空きました。

移動中の話ということで、短めになっております。


「この馬車を経験すると、これまでみたいな普通の馬車での旅に戻るのはきついだろうね」


 カインの発言に、黙って頷くアルバートとリオン。少し前にクリスさんも同じ事を言っていたので、やはりライデンとディメンションバッグ(ディメンションボックス?)と化した馬車は反則級の組み合わせなのだろう。


「それにしても姐さん、『女の子が馬車を使うから、あんた達は外で寝なさい』って、こっちには持ち主のテンマがいるのにな。しかも、あの年で自分の事を『女の子』だなんて」


 リオンはクリスさんいない事を確認した上で、日頃の鬱憤を晴らすかの様に文句をいっていた。馬車云々は思うところがないわけでもないが、下手に婚約者のいるアルバートとカインが未婚女性(クリスさん)と一緒の空間で寝たと敵対勢力に知れたら、何を言われるかわかったものではない(ジャンヌとアウラは一応奴隷の身分なので、最悪一夜限りの出来事だったでごまかす事が可能)。その為アルバートとカインの二人は黙ってクリスさんの指示に従い、大人しく外で寝る事を選んだのだ。まあ、婚約者のいないリオンなら問題はないだろうがクリスさんが嫌がると思われるので、アルバートとリオンは黙ってクリスさんの意を汲んだと思われる。媚を売ったとも言えそうだが。

 そして、俺の場合もリオン同様問題はないと思われる。しかし、ジャンヌとアウラはこれまでも同じ様な状況で同じ空間で寝た事もあるが、流石にクリスさんと同じところで寝るのは躊躇われた。だって、最近のクリスさんは危ない雰囲気を漂わせている時があるし……


「君子危うきに近寄らずって言うしな」

「リオンを『君子』と言っていいかわからないけどね」

「いや、言わんだろう」


 俺の言葉に対し、まるで打ち合わせでもしていたかの様な連携を見せるアルバートとカイン。リオンは『君子』の意味は分からなかった様だが、馬鹿にされたのは理解したらしく文句を言おうとしていたが、カインの「君子の意味分かる?」の一言で立ち上がり、俺達に背を向けてスクワットを始めた。恐らくどうにかごまかそうと立ち上がったのはいいが、いいごまかし方が思い浮かばず、取り敢えずスクワットを始めたのだと思われる。


「テンマ、この後はどういう進路で進む予定だ?」


「この後は、できる限りの村や町を通っていくつもりだ。ワイバーンの情報を収集しつつ、どの村や町がワイバーン被害の最前線になっているかを確かめながら行きたい」


 最初にもらった情報のところまで直行して、もしワイバーンの群れがその場所から移動していたら、その分だけ被害が大きくなってしまうからだ。その為、少し移動速度は落ちてしまうが、鮮度の高い情報を集めながら行くのが最善だと判断した。今のところ俺の『探索』の範囲内にはワイバーンを確認出来ていないが、集めた情報を元に大まかな方向を決めて移動していけば、いずれワイバーンの群れを捉えるだろうし、『探索』にワイバーンの群れが引っかかった時点でその場所へ直行すれば、間違っても群れを見逃すという事はないだろう。


「ただ、ワイバーンの群れが想定を大幅に超えて移動している可能性もあるから、その時は辺境伯領を端から端まで駆け回る事になるかもしれないけどな」


 その場合、俺達の負担は大幅に増える事になるだろう。しかも、さんざん探し回って見つけたすぐ後にワイバーンの群れの討伐に入る可能性もあるわけだから、普通に考えたら自殺行為に等しい作戦かもしれない。

 ただ、その場合でも簡単に難易度を下げる方法はあるわけで……


「じゃあリオン、その場合の御者は任せたよ」

「そうだな。今回のメンバーの中で役に立ちそうな者の順位付けをした時に、下から数えた方が早く、さらにその中でも体力に秀でているのはお前だ。それにこの依頼は辺境伯家からのもので、ここはお前が将来管理する領地でもある。つまり、お前以上の適任者はいない!」


 一人の負担を増えす事で、その他の消耗を減らす方法だ。単純で行いやすく、作戦の成功率も高い。

 その考え位に行き着いたカインとアルバートが、即座に三馬鹿トリオの仲間であるリオンを売った。ちなみにこの時にアルバートが考えた順位は、トップに俺とじいちゃん、次がスラリン達、さらにその次がクリスさんとアムールで、その下に三馬鹿、ジャンヌとアウラと続くらしい。だが、俺がジャンヌとアウラは純粋な戦力に数えていないと最初に言った上に、流石に女の子に無理させるのは酷だし最低だという事で最下位は三馬鹿となり、その中で一番体力のある(脳筋である)リオンが適任だという結論に至ったそうだ。

 流石にそれは暴論だとリオンが反論しようとしたが、二人から「「そもそも辺境伯家の問題なのだから、その後継者のリオンがきつい思いをするのは当然だ!」」と声を揃えて言われ、丸め込まれそうになっていた。


「いや、その場合はスラリンとライデンのコンビに頼むつもりだ。ライデンもスラリンの指示なら従うだろうし、スラリンは空を飛ぶ相手に有効な手段があまりないから、どうしても予備戦力扱いになってしまう。それとスラリンが後方待機に回れば、ジャンヌとアウラの避難を考えなくてもいいからな」


 いざとなれば、二人はスラリンの体内にあるディメンションバッグに隠れていればいいし、さらに負傷者が出た場合も避難場所にする事ができる。


「スラリンだけに任せず、わしとテンマも加わって三人でいつでも交代できる様な形で走らせた方がいいかものう。流石に御者の見えない馬車が爆走していると、見かけた者にいらぬ誤解を与えかねんからのう」


「じいちゃん、お疲れ」

「「「マーリン様、見回りお疲れ様です!」」」


 丁度周囲の見回りから帰ってきたじいちゃんが作戦の欠点を指摘し、改善を提案してきた。

 確かにじいちゃんの言うとおり、傍目には人が操っていない様に見える馬車が爆走していたら、新種の魔物だと騒がれかねない。もし目撃されても、その相手が近づいて正体を確かめようとする者だったなら、馬車から出て説明したらいいが、そういう者は極まれだろう。ほとんどの目撃者は、そんな得体の知れない馬車を怖がって近寄らず、近くの村や町に駆け込んで情報を冒険者ギルドや騎士団などに届けるだろう。そうなると、情報の広がり具合によっては、誤解を解くのに長い時間がかかるかもしれない。

 そのままじいちゃんの案を採用し、周囲の見回りの報告を受けたが、見える限りで敵になりそうなものはおらず、また気配や痕跡もなかったそうだ。


「一応何箇所かシロウマルにマーキングさせておいたから、そう簡単に魔物が近づいてくる事はなかろう」


 そう言ってじいちゃんは俺達から少し離れたところに移動して、仮眠を取る為に横になった。


「それじゃあ、次の見回りは三人の番だな。俺も寝るから、問題が起きるか時間になったら起こしてくれ」


 三人に後を頼み、俺も爺ちゃんの近くで眠る事にした。なお、じいちゃんと一緒に戻ってきたシロウマルは、ちゃっかり馬車の中へと入っていき、クリスさんにおやつを貰っていたそうだ。

 この旅での夜の見張りは基本的に男達の負担を大きくするようにしており、女性陣はその日の野営を始めてから最初か二番目、もしくは一番最後の明け方近くを担当する事になっている。これはクリスさんの無言のプレッシャーに三馬鹿達(特にリオン)が負けたせいでもあり、俺とじいちゃんがクリスさんの懇願(お肌の事などを理由に、土下座寸前までいった)を受け入れたからだ。

 その事もあっての女性陣の馬車の占領なのだが、リオン以外は誰も文句は言っていない。何故なら、あの時のクリスさんには、ある意味恐怖すら感じる迫力があったからだ。その代わりと言ってはなんだが、俺はクリスさんにある条件(・・・・)を出してそれを飲ませた。それは……


「じー……」


 こちらの隙を伺っているアムールの管理だ。最初アムールは、俺と同じように外で寝ると言っていたが、クリスさんに説得を頼んだのだった。まあ、それでも未だに隙を伺っているので、心から納得したわけではなさそうだが……今クリスさんに引っ張られて馬車に引っ込んだところを見ると、俺とクリスさんの不興を買ってまで強硬手段を取る事はしないだろう……と信じたい。

 ブランカがいないので(サナさんとヨシツネを南部に送る事を優先させた)、若干の不安は残ったままだったが、その後は何の問題も起こらないまま朝日が昇り、予定通り俺達は野営地を出発する事ができた。


「それにしても、思ったよりワイバーンの被害は狭いみたいだな」


 三人と今後の予定を話した日から三日がたち、俺達は五つ程の村や町を通って目的地に向かったが、予想に反してワイバーンの群れは最初の目撃地点からあまり移動していない様だった。


「もしかしたら、いっときは移動しなくてもいいくらいの餌がいたか、よほど居心地がいいのかもね」


 俺の横で御者席に座るカインが気楽そうに俺の呟きに反応した。確かにその考えは有り得るが、最初の報告から二週間以上は経っているので、その間ワイバーンの群れが移動しないで済むくらいの食料がその場所にあったとは考えにくい。


「まあ、明日になれば分かる事だな……っと、そろそろ今日の野営の候補地だな」

「そうみたいだね。明日が本番だし、今日はゆっくりと休んで英気を養わないと」


 ワイバーンの群れがいる場所は、思っていた以上に身を隠せる様な場所がなく、当初予定していた様にジャンヌとアウラを避難させる事が難しそうなので、このまま現地まで連れて行く事にした。その為の作戦は昨日までに考えている。簡単に言うと、スラリンとライデンを二人の護衛に回し、ワイバーンの群れに近づいたらその場から離れてもらうというものだ。

 離れた先でワイバーンに襲われないとも限らないが、スラリンとライデンの他にもゴーレムを複数持たせるし、何より二人は蠍型ゴーレムを所持している。蠍型ゴーレムは今現在、速度、パワー、頑強さにおいて、俺の作ったゴーレムの中では最高の性能を誇るので、対空攻撃に難はあるが戦力的には問題はないだろう。いざとなれば、俺かじいちゃんが向かえば済む事だし。

 本当は三人もジャンヌ達と一緒に離れていてほしいが、何かあっても自己責任という風な念書ももらったし、それぞれに百体程のゴーレムを持たせたので、そうそう危ない事にはならないと思う。


「今更だけど、ついてきてごめんね。『オラシオン』だけなら、ワイバーンの群れが相手でもどうにかなったでしょ」


「まあな」


 今回三人が同行したのは、ワイバーンの群れの討伐の手伝いよりも、『王族派の貴族がワイバーンの群れの討伐に加わった』という目的があったからだ。後ついでに、将来的にティーダを支えなければならない三人の箔付けという意味合いもあった。まあ、今回の依頼についてくるだけでも『ワイバーンの群れの討伐に加わった』と主張できなくもないが、ただついて行っただけと改革派から言われるのを嫌がった三人がせめて一撃でも入れたいという事で、念書(何かあった時に、三人の実家からの抗議ではなく、改革派からの抗議をかわす為のもの)も用意したわけだが……そのせいで、三人に気を配らなければならなくなった事は確かだ。

 

「まあ、難易度が少し上がった程度だけどな」


「お荷物が三人増えたのに難易度が少し上がった程度と言い切るのは、普通なら考えられない事なんだけどね。まあ、こちら(お荷物)としてはありがたいけど」


 と、カインの自虐を聞きながら、俺達は本日の野営地候補に到着し、周りに問題がない事を確かめてから野営を開始した。

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