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第11章-2 金髪ドリルさん

「あっ、エリザさん」


 その人物に気がついたエイミィが名前を呼ぶとほぼ同時に、エリザと呼ばれた女性もエイミィに気が付いて笑顔を見せた。そして俺に軽く会釈した後、即座にエイミィのところへ移動した。


「すまん、エリザに代わって謝罪する……」

「まあ、いつもの事だから……」


 アルバートの謝罪に、俺はいつもの事だから気にしていないという風に答えた。実際に、俺とじいちゃんは田舎暮らしや放浪の旅が長かったせいで、気心のしれた友人がそういった感じであっても大して気にする事はない。まあここ数年で、ある一家のせいでそういった考えが強くなった気もしないではないが……

 俺とアルバートがいつものやり取りをしている間に、カインとリオンはアイナの案内で食堂に入って席に着き、お茶とお菓子を食べていた。これもいつも通りの光景である。

 正直、毎回の様にこのやりとりをするのも面倒くさいので、アルバートも二人と同じ様に堂々と(ずうずうしく)していればいいのだが、アルバートにもある理由(・・・・)があって、そうもいかないのだ。

 ちなみにだがその『ある理由』とは、エリザがアルバートの婚約者だからだ。つまり、近い将来サンガ公爵家次期当主夫人となるエリザの行動は、そのままサンガ公爵家の評判に繋がりかねないので、アルバートは形だけでも謝罪をしなければならないのだった。一度、他人の目が無いところでは三人(カイン+リオン+エリザ)の様に気楽にしていていいのではないかと聞いた事があるのだが、アルバートの答えは、「気楽にする事に慣れて、別のところでポカするのが怖いから、今のうちから気を引き締めておきたい」だった。

 その事を聞いたサンガ公爵とサモンス侯爵は「気を張りすぎだ」、「焦りすぎだ」と軽く忠告はしたものの、特にそれ以上は何も言っていないらしい。じいちゃんは、「失敗するなら若いうちにした方がいいと思っているのじゃろう」とか言っていたので、本当にそう思っているのかもしれない。ちなみに、エリザの方はアルバートと違って公私の使い分けには自信があるのか、あまり気にした様子はない。実際に、うちで王様やマリア様と鉢合わせた際には、不意打ちであってもボロを出す事はなかった。


「エイミィ、いい加減私の妹になりなさい」

「えっと……」


 こんな調子で、エリザはいつもエイミィを勧誘(・・)しているのだ。何故ここまでエイミィを気に入っているのかというと、二年程前にエイミィが王都で買い物をしている最中、間違って裏路地に入ってしまったところ、人攫いに襲われるという事件があった。その時、たまたま近くを通りかかったエリザが異変に気がつき駆けつけ、力を合わせて人攫いを返り討ちにした事があったのだ。

 その際にエイミィの事を気に入り、義妹にする為に自分の家(親)の養子にしようとしたが、それを知った婚約者であるアルバートと、俺の事を知っていたエリザの両親に怒られた過去があるのだ。それでも本人が納得すれば問題ないだろうと、事あるごとにエイミィを誘っているのだった。ちなみにエイミィを攫おうとした奴らは、エイミィとエリザ、それにいーちゃんしーちゃんくーちゃんの三匹に加え、俺が持たせていた護衛のゴーレム達にボコボコにされたそうで、騒ぎを聞きつけ駆けつけた衛兵達は、最初どちらが犯罪者かわからなかったそうだ。


「エリザ、いい加減にしろ! エイミィが困っているだろう!」

「え~……困ってませんわよね?」

「あはははは……」


 勧誘は何時も、アルバートがエリザを注意して終わるのが恒例となっている。エイミィもはっきりと断ればいいのだが、エイミィ自身がエリザを嫌っておらず、逆になついていると言っていいくらいなので、いつもこんな感じになるのだった。

 ここでエリザの紹介をすると、アルバート達と同い年で同じ学園出身の貴族であり、本名を『エリザベート・フォン・シルフィルド』。実家は王族派の伯爵家で、長女に当たる。

 学園では魔法に関する授業では常にトップクラスに入る秀才にも関わらず、総合ではリオンとほぼ変わらない順位だったらしく、本人はその事に納得がいっていないらしい。なお、それはエリザが魔法以外ダメダメというわけではなく、リオンが学園内において魔法学や学術のハンデをひっくり返すくらい体術などに優れていた(脳筋だった)からである。

 元々シルフィルド伯爵家は風の魔法に長けた人物が興した家であったらしく、シルフィルド家(初代当主)の血を引く子孫は程度の差こそあれ、他の魔法に比べて風魔法を得意にする者が多いそうだ。そんな中エリザはというと、風魔法はあまり得意ではなく、その代わり『雷魔法』が得意という、シルフィルド家の歴史において珍しい人物との事だ。まあその事に関してはエリザも両親も親戚も、『そういう事もあるだろう』とあまり気にしてはいないそうだが、他の貴族……特に改革派の貴族からは、『エリザは母親の不義によって生まれた子供』と、陰口を叩かれる事もあったのだとか。

 なお、その事に腹を立てたシルフィルド家及びその協力者の貴族により、陰口を叩いていた貴族を調べたところ、陰口を叩いていた貴族達の方が不義の子を量産していたという事実を暴かれ、今でも知る人ぞ知る笑い話として酒場(酔っ払い)を中心に話題になるのだとか。ちなみに、俺やじいちゃん(魔法に詳しい者)に言わせると、『雷魔法』は『風魔法』から派生したとされる魔法なので、珍しい事とは思ってもおかしい事とは思わないという感じだ。

 エリザは金髪のツインドリルという、この世界で初めて見る髪型(二~三十年ほど前に流行った髪型らしく、最近では手入れの難しさからあまり見かけないそうだ)で、百七十cm程の身長にメリハリのある体型をしている。知らない人からは『人を見下している』とか『高飛車な』とか言われる事もあるが、本人は至ってそういった気はなく、好き嫌いははっきりしている方だが、基本的には善人と言える。なお、その珍しい髪型から子供達には人気があり、エリザ自身も子供好きという事もあって、実家が経営している孤児院や王都の孤児院によく顔を出すのだそうだ。ちなみにあだ名は『ドリルのお姉ちゃん』、もしくは『ぐるぐるのお姉ちゃん』らしい。


「大体、そんなに強引に迫って、エイミィに嫌われたら意味ないのにね。それよりも可能性が高くて、何の問題もなく妹にする方法があるのに」


「なんですって!」


 カインの言葉(妹にする方法のところ)に、大きな反応を示すエリザ。ちなみにその方法は、前にエリザのいないところで聞かされた事があるので知っているが、色々と面倒な事になるので俺はそそくさと食堂から避難した。


「それで、リオンは何か俺に用事でもあるのか? それとも、本格的に男のストーカーになったのか?」


食堂から脱出した俺の後をリオンがこそこそとついてきていたので、昔の事に絡めてからかうと慌てて俺の方へと近づいてきた。リオンがこういった怪しい行動をする場合、大抵後ろめたい事がある時なので、他の二人と比べて非常に分かりやすい。


「いや、その……これを受け取ってくれ!」


 そう言ってリオンが懐から取り出したのは、二通の手紙……


「えっ! 二人はそういう……」


 そして、そんな場面に現れるクリスさん……恐らくはアイナ(恋人持ち)エリザ(婚約者持ち)から逃げて来たんだと思うが、この瞬間に現れるなんて……余りにもタイミングが良すぎるので、本当は影でこっそりと見ていたのではないかと疑いたくなってしまう。


「世の中、そういった趣味・嗜好があるのは理解していますし、無理やり巻き込まれない限り非難するつもりもありませんが……リオン、すまないが他を当たってくれ」


「いや、それは困る! これは確実にテンマに渡すように言われて預かってきているんだから!」


「言われてるって誰によ? まさかあんた……テンマ君を利用して、変な小遣い稼ぎでもしているんじゃないでしょうね?」 


 俺の冗談に、リオンはかなり焦った様子で強引に手紙を手渡そうとした。そしてそれを見たクリスさんは、リオンが俺へ手紙渡す配達員でもしているのではないかと疑っている様だ。普通ならそんな考えには行き着かないと思うが、今のクリスさんはアイナとエリザにあてられて、いつも以上に心が荒んでいるのだろう。


「取り敢えず受け取るけど……本当に変な手紙ではないんだろうな? 恋文とかの?」


 念押しをしながら手紙を受け取り、封を開けて中の手紙を読んでみると、リオンが渡しにくそうにしていた理由がわかった。


「リオン、この内容の事は、マリア様や王様は知っているのか? もし知らなかったら、かなりややこしい事になりそうだぞ」


「大丈夫だ。事前に陛下の了承を得た上で、テンマ次第だというお言葉を頂いている」


 リオンは急に真面目な顔になって、根回しは万全だと言った。


「それで、手紙には何が書かれているの?」


 クリスさんは、手紙の中身が気になっている様だったが、勝手に横から覗き込むような真似はしなかった。それはマリア様と王様が話の中に出てきただけではなく、手紙の封筒に施された封に押された家紋に気がついたからだろう。

 この封筒に施されていた家紋は『遠吠えをする狼』であり、リオンの実家である『ハウスト辺境伯家』を表すものだ。そしてその家紋を使えるリオンが『預かってきた』という事は、リオン以外のハウスト辺境伯家の者が差出人であり、その中で王様に根回しができて、尚且つ『次期ハウスト辺境伯家当主』のリオンをメッセンジャーに使える人物となると、自ずと誰が書いた手紙か分かる。


「端的に話すと、ハウスト辺境伯が俺に力を貸して欲しいって書いてある」


「ふ~ん……それで、テンマ君はその依頼(・・)を受けるの? テンマ君次第って陛下が言ったっていう事は、強制的な依頼でも、指名依頼でもないのよね?」


 強制的な依頼とは、基本的に国防に関わる事態や滞在している街や村などの危機に出されるものを言い、冒険者側に一部の例外を除き拒否権は無い。これを断ると最悪の場合、冒険者としての資格を剥奪される様なペナルティーが課せられる事もある。そしてそれとは別に裏の意味として、貴族などの権力者が自身の持つ権力を使って、無理やり冒険者に依頼を受けさせる事を言う。

 指名依頼はその名のとおり、依頼主が受けて欲しい冒険者を指名する事を言うが、これは冒険者側に拒否権があるので、断っても問題はないと表向きは(・・・・)なっている。ただ、指名依頼を出すような依頼主は大抵の場合、『大きな商会の経営者』だったり『貴族』だったりと、冒険者ギルドに対して強い影響力を持つ者だったりするので、後々不利益が起こる可能性がある。聞いた話では、冒険者ギルドから冷遇されるようになったり、不良品の道具や装備を売りつけられたり……酷いものでは、パーティーを組んでいた仲間から突然襲われ、冒険者を引退しなければならなくなったと言う話もある。その裏切った仲間は『大きな商会の経営者』や『貴族』に雇われた者で、ギルドに訴えても裏で手を回されているので罪にはならず、むしろ逆に襲われた方に非があったとされたりするらしい。最も、最近では法の整備により、そういった事は滅多に聞く話ではないが、それは表沙汰になっていないだけで、裏では今も行われていると言われている。

 一応俺の場合、周りからは王族に唾をつけられている冒険者と思われているので、指名依頼をする時には前もって王様達に断りを入れなければならないと思われている様だ。なので、これまで王族以外からの指名依頼を受けた事はあまりなく、あってもククリ村の皆やサンガ公爵などの親しい人達だけという状況なのだ。王族の覚えがいいという事で同業者からのやっかみはあるが、気心が知れた人達からの依頼という事で無茶な注文が(あまり)無い分、気楽に仕事ができるので助かっている。


 そんな中でリオンが持ってきた依頼とは、領土防衛の手助けを求めるものだった。何でも、隣国の『ギルスト共和国』の一部の貴族が、ハウスト辺境伯領の近くで軍事行動と取れる動きをしているらしく、その備えにハウスト辺境伯の騎士達を警戒に向かわせようとしたところ、運悪く他の場所で魔物の群れが見つかったとの事だった。それも、同時に二つ。

 一つは前に南部で遭遇した様なゴブリンの群れらしく、推定二千匹。こちらはハウスト辺境伯領で活動している冒険者を主力として当たらせ、小隊(五十人程度)もしくは中隊(小隊数個分、二百人程度)規模の騎士達を送るつもりだそうだ。

 そして二つ目。これがハウスト辺境伯が俺を手助けに呼ぼうとした理由だ。それは……


「ワイバーンの群れか……」


 繁殖の為と思われる推定三十匹程のワイバーンの群れが、辺境伯領にある山に住み着いたのだそうだ。

 王国で一・二を争う強さを誇るとも言われるハウスト辺境伯家の騎士団だが、流石にギルスト共和国に気を配りながらゴブリンの群れへ対処する冒険者達と周囲の町や村への援軍を送り、さらにワイバーンの群れを対処する事は不可能との判断を、ハウスト辺境伯は下したそうだ。まあ、辺境伯の持つ戦力の評判が噂に違わぬものならば、辺境伯の騎士団だけで絶対に不可能というわけではないとは思う。だが、その代わりにかなりの被害を受ける事は間違いないだろうし、下手をするとギルスト共和国との国境線が変わってしまうかもしれない。なので、少なくとも辺境伯の判断は間違ってはいないだろう。

 もっとも、俺はその判断よりも、よく俺に直接依頼を出そうと考えたなと思った。それは別に辺境伯を批判するとかいう意味ではなく、俺と辺境伯との関係を何も知らない者達からすると、非常に険悪な仲だと思っているそうなのだ。もちろん、仲がいいわけではないので全くの的外れとは言えないが、少なくとも昔の様な怨みや嫌悪感は無い。それは、リオンと知り合ってハウスト辺境伯家に対するイメージが変わった事と、時が過ぎてあの事件は仕方がないところがあったと思える様になったのが関係しているのだろう。だから、


「この依頼を受けさせてもらう。ワイバーンの群れが相手だから、その分報酬は弾んでもらうぞ。それと、依頼は『オラシオン』で受けるが、アウラとジャンヌは場合によっては依頼の途中でも安全な場所に避難させる。それでもいいか?」


「問題ない、助かる。二人の事はチーム内の雑用係として親父に伝えるし、報酬はパーティー単位で支払う様にすれば問題はないだろう。後、功績に応じて個別に報酬を支払えるようにもかけあおう」


 取り敢えず、大まかな条件をこの場で決めて、報酬の金額などは辺境伯と直接交渉する事になった。普通は提示された金額で依頼を受けるかどうするかを決めるものだが、今回に限っては不当に値切られる事や支払われないという事はありえないだろう。何故なら、当主代理(・・)としてリオンが条件に合意しているし、何より事前に王家に話を通しているからだ。もしこれで支払いを渋ったりすれば、それは王家の顔に泥を塗る様な行為をするようなものだ。まともな貴族なら、まずそんな事はしない。それが王族派の重鎮なら尚更の事。


「今から準備して、すぐにでも出発するつもりだけど、リオンはどうする? 俺達と一緒に向かうか?」


「頼む。一応、辺境伯家所属の者と、サンガ公爵家やサモンス侯爵家などのように、協力体制にある貴族に援軍の依頼は出しているが、あまり多くは期待できないだろう。流石に多すぎると、隣国が警戒しすぎるかも知れないからな」


 確かに大々的に他の貴族の騎士を集めて境界線近くにおいていたら、それを口実に相手側も堂々と騎士を配置してくるかもしれない。そして何らかのきっかけで、喜々として攻め入ってくるだろう。そのきっかけが、どちらに原因があるかは関係なしに。そうなると、ゴブリンの群れやワイバーンの群れという問題を抱えているハウスト辺境伯側が不利になってしまうだろう。

 その場合ギルスト共和国は、勝てばそのまま領地を切り取り、その土地の権利を主張するだろうし、負けてもハウスト辺境伯の領地に対し、考えうる限りの嫌がらせをしながら撤退していくという事も考えられる。


「まあそういった事は、ハウスト辺境伯に任せるさ。俺がやる事とといったら、なるべく早くワイバーンの群れをどうにかして、万が一に備えて境界線の騎士達の近くで待機……って感じになるかな?」


 難しい事はハウスト辺境伯や王様達に任せればいいだろう。その代わり、ワイバーンの方は責任を持って対処しなければならない。実はこの依頼、ハウスト辺境伯だけでなく俺に取ってもリスクが高い。

 ハウスト辺境伯のリスクは、『俺にした事を忘れて、都合のいい時だけ利用するのか?』という風評被害だ。これはどんなに俺とハウスト辺境伯側が友好関係にあるとアピールしていても、必ずと言っていいほどそれを理解せず、もしくは無視して騒ぎ立てる者がいるので仕方がないのかもしれない。

 対して俺のリスクはと言うと、もし仮にこの依頼を失敗、もしくは大きな被害を出してしまった時に、『俺が過去の事でハウスト辺境伯に意趣返しをした』と言われる可能性があるという事だ。これは被害が出ても、その事に対してハウスト辺境伯が『想定範囲内だ』とでも言えば問題は出ないかもしれないが、やはり騒ぐ者が出てくるのは間違いない。

 

「その代わり、得るものも大きいという事じゃな」

 

 ハウスト辺境伯からの依頼を受ける事にしたという報告を皆に伝え、内容とリスクの話をすると、すぐにじいちゃんが得るものの大きさに気が付いたようだ。


「そうだね。まずは名声。これは過去の事を忘れ、ハウスト辺境伯領を助ける為にワイバーンの群れに立ち向かった……っていう風に言われるかな。それとハウスト辺境伯が、最初に王様に話を通してから俺に依頼を出したっていうのも大きい。そのおかげで、これからは変なところから直接指名依頼を出される様な事は激減するだろうね。正直、お金には困っていないから、今のところ冒険者家業は趣味みたいなものだし、これで好きな依頼だけを受けても問題はない。まあ、資格を取り消されない様に、ある程度は気乗りしない依頼も受けないといけないとは思うけど……」


「それに、辺境伯家からの報酬もじゃが、それ以上に倒したワイバーンの素材が大きいのう」


 何割かは辺境伯家に渡さないといけないのだろうが、それでも大部分の素材は権利を主張できるだろう……まあ、今のところは取らぬ狸の皮算用ではあるが、俺とじいちゃんにスラリン達が居て、ワイバーンを一体も倒せないという事はないだろう。


「私もいるから、大丈夫!」


 アムールも乗り気の様だ。アムールに関しては一度南部へ帰るとの話も出ていたので、今回の依頼からは除外しようかと思っていたのだが、本人は付いてくる気満々の様だ。


「でもテンマ君、流石にワイバーンの群れが相手となると、人数が足りないんじゃないの?」


 クリスさんの疑問に、俺は指折り人数を数えてみたが、確かにワイバーンの群れを相手にすると考えると人数は全く足りていない。今のところの参加者は……


「『オラシオン』から八(ライデンにジルとゴルを除く)で、その内ジャンヌとアウラは戦力外。アルバート、カイン、リオンの三馬鹿に、クリスさん(・・・・・)で十二か……まあ、普通なら足りてないどころの話じゃないけど、俺とじいちゃんもいるし、数だけならゴーレムを出せば千を超えるから大丈夫!」


 ゴーレムが千体もいたら充分だろう。そう皆に言っていると、俺の言葉を思い返していたクリスさんが、「ちょっと待ったーーー!」と叫び声を上げた。


「何で私も数に入っているわけ? 流石にその依頼に同行する程の休みはもらえないわよ。そもそも、隊長が許すはずないし」


「え~っと……一緒に貰った隊長さんからの手紙に、『近衛のやつで、暇している奴(・・・・・・)を一人だけなら連れて行ってこき使ってもいい。誰でもいいぞ』って書かれています」


 クリスさんは俺からその手紙をひったくると、何度も何度も読み返し、さらには手紙に書かれていたサインをいろいろな角度から見て確かめている。


「そういえば、近衛隊長から姐さん宛の手紙を預かっていたんだった」 


 リオンが今思い出したとばかりに懐から手紙を取り出してクリスさんに渡そうとしたところ、手紙を出した時点でクリスさんに強奪されていた。そしてクリスさんはその手紙を読み……


「これって、最初から私を指名していたっていう事じゃない!」


 俺への手紙には、『誰でもいいから』と書かれていたのに、クリスさんへの手紙には、『ハウスト辺境伯領にいく冒険者の手伝いをして来い』と書かれている。まあ、基本的に忙しい近衛隊の中で、『俺のすぐ近くにいる可能性が高く、さらに今現在『暇している』人物』に当てはまるのは一人しかいないので、この話が出た時に、最初からクリスさんが選ばれると決まっていたんだろう。


「取り敢えず、これでいってみようか。最悪、『テンペスト』を放てば、ワイバーンの群れは討伐出来るだろうし……まあ、周囲も壊滅状態になるかもしれないけど」


 リオンに聞こえない様に呟いたセリフの意味をじいちゃんとクリスさんは理解した様で、リオンを気の毒そうに見ていた。ちなみに、二人共直接『テンペスト』を見てはいないらしいが、『テンペスト』を使った跡地を見たり、ククリ村の人達から話を聞いて、大体の威力を知っているそうだ。なお、二人が跡地を見たのは、じいちゃんは事件の直後に俺を探した時で、クリスさんは王様の命令でドラゴンゾンビの調査と俺の捜査に向かった時だそうだ。二人共、最初はドラゴンゾンビの仕業だと思ったそうだが、後で目撃者の話を聞いて俺の魔法だと判断したそうだ。



「とにかく、辺境伯領に行くのは早ければ早いほどいいだろうから、今日明日で準備をして、明後日には王都を出発しようと思う。リオンの話では、通常一ヶ月もあれば着くそうだから、その半分の二週間での到着を目指す。到着直後からワイバーンの群れの討伐に入る事も考えられるから、それぞれの準備は怠らないように。アイナは留守中の屋敷の管理をお願い。ジュウベエやメリー達の世話の事は、俺の方からマークおじさん達に言っておくから、そっちは任せればいいよ。じゃあ、解散!」


 まあ『オラシオン』の場合、冒険の準備といっても、それぞれが必要と思うものをマジックバッグやディメンションバッグに片っ端から入れていくだけなので、ジン達(他の冒険者)に言わせると、重量などを考えないやり方は羨ましいとの事だった。マジックバッグやディメンションバッグを自作できる者の特権だな。

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