第10章-9 やつが来た!
「よいしょっと……」
雪が降り積もり、王城から遊びに来る人がいない日を選んで、俺はマジックバッグとディメンションバッグの整理を行う事にした。理由は、この間じいちゃん達を居酒屋に連れて行った事が発端だった。
それは居酒屋で食事を終えた後、スラリン達のお土産をマジックバッグに入れた時に気がついたのだが、そうやって買ってきたお土産などが、かなりの量残っている状態だったのだ。
それは俺の管理ミスというのが大きいが、マジックバッグにいれておけば、半永久的と言っていいくらいに持ってしまう事も理由の一つだった。なので、何がバッグの中に入っているのかを確かめつつ、いらないものは処分してしまおうと思ったのだ。
今俺が持っているマジックバッグは、使っているものが四個、使っていないものが三個の合計七個。ディメンションバッグは使っているものが三個、使っていないものが二個の合計五個だ。
使っているマジックバッグには、神達から貰ったものも含まれていて、ディメンションバッグはスラリン達が使用しているものと、ライデン専用のもの、それと貯蔵庫代わりに使っているものだ。スラリン達のバッグはライデンを除いた眷属が共同で使っている為一番広く、続いてライデン専用、そして使用していないバッグ、最後が貯蔵庫代わりのバッグだ。
貯蔵庫代わりのバッグには、時間の経過が必要なもの(完成前の味噌や醤油、熟成肉など)が入っており、常温と低温で分ける必要がある時は、予備のものを使って分けている。今は味噌と醤油だけなので、貯蔵庫代わりのバッグは一つなのだ。
「ざっと調べただけでも、食べ物関係が沢山あるな……」
食べ物のほとんどはマジックバッグに入っているのだが、ざっと調べただけでも三分の一近くが食べ物関係だったのだ。食材に調味料、それに完成品とそれぞれ揃っており、このまま入れっぱなしでも問題はないと思われるが、そう思っていたからここまで増えてしまったのだろう。
取り敢えず、食材は全て空いているマジックボックスに移し替えて、次に多かった素材関係を見てみた。
「数が多いものは、今度売りに行くか」
素材は珍しいものや利用頻度が高いものを優先的に残していき、簡単に集まるものや必要がないものは冒険者ギルドに売る事にした。基本的に売るのはランクの低い魔物の素材だが、中にはBランク(相当含む)以上の素材も含まれているので、纏めて売ればかなりの値段になるだろう。
こちらも空いているマジックバッグに一時的に移したのだが、途中で空いていたマジックバッグが全て満タンになってしまったので素材を移す作業を中断して、一度神達から貰ったマジックバッグに残りの素材を移してから作業を再開した。
「これで一区切り付いたかな」
作業を始めて二時間程で、マジックバッグの中身を分ける作業が終わった。
大まかな種類ごとに分けたのだが、マジックバッグだけでは数が足りなかったので、空いているディメンションバッグも使っての作業だった。
分けた種類は、『食料・食材』、『素材』、『武器・防具』、『アイテム』、『お金』、『売り物』、『ゴミ』、『その他』だ。『その他』に分けられた中には家具や馬車など、バッグの空き数の関係で細かく分ける事が出来なかったものが入っていたり、『素材』や『アイテム』の中に、薬や薬の素材があったりするので、近々もう一度仕分けしないといけない。
『お金』は数えるのが嫌になるくらいあったので、ディメンションバッグに種類ごとに箱分けしている。
「問題はこれだよな……」
分ける上で一番困ったのは、『現時点で必要はないけれど、処分するのはもったいない』と思えるものだった。
それは主に『武器・防具』に分けているもので、多少のキズなどがあり修理すれば使えるけれど、今使っているものには性能が及ばず、捨てるにしても思い入れがあり、かと言って売っても大して値段がつかない。強いて言うなら予備に取っておくかな?……くらいのものなのだが、そうすると整理している意味がない。そして最初に思考が戻る……
「こういうのは、思い切って捨てるのが正しいんだろうけど……出来ないんだよな……」
しばらく考えた結果、自分の中で順番を付けてから下位のものは処分し、上位のものは修理する事にした。ただ、修理してもサイズが合わないものもある為、そういったものはエイミィにあげる事にした。学園では実践練習などもあるというので使う機会はあるだろうし、弟子なのだからあげてもおかしくはないだろう。
「今度、エイミィを連れてケリーのところに顔を出すか……ケリーも暇しているだろうし」
冒険者の活動が少なくなるという事は、冒険者相手の商売をしているケリーの仕事も減るという事だ。この時期に装備を見直す冒険者もいるだろうが、それでもそこまで多くはないだろう。
「いらない木製や革製のものは、今度草原にでも行って焼却処分するとして、鉄製のものはケリーに相談するか。打ち直したら売り物になるものもあるだろうし」
これで『武器・防具』の仕分けは終了にし、残すものは『お金』を入れているディメンションバッグに一緒に入れた。そして、空いたマジックバッグに、ケリーに打ち直しを依頼するものと処分を相談するものを入れた。
「『食料・食材』は、今日からでも消費していくか……いくつかは残しておくとして、肉なんかは近々宴会でもして一気に消費するか」
こちらはすんなりと整理する事ができた。基本的に、食料・食材は一度の買い物で結構な量をまとめ買いして一度の食事で結構な量を消費するので、その時に残ってしまったものを処分する感覚だからかもしれない。そんな中でいくつか残したのは、冒険中や依頼中に食べる分を残す為だ。後、白毛野牛の肉みたいに希少価値が高いものは、いざという時の為に取っておいた方がいいだろう。酔っぱらいを量産する様な宴会で出すのはもったいないし。
残す『食料・食材』は、神達から貰ったマジックバッグに入れて、消費する分はジャンヌとアウラに預ける事にした。そこそこの量があるが二人にもマジックバッグを渡してあるので、全部渡しても問題はないだろう。
マジックバッグの整理の為、早速渡しておこうと二人を探すと、ちょうど台所で夕食の献立を考えている最中だったらしく、使用出来る食材が増える事は喜ばれたが、その量の多さには呆れられた。なお、台所で二人からおやつを貰おうと待機していたシロウマルとソロモンによって、食料の一割近くがその場で消費される事となった……
「先生、変なもの拾っちゃいました!」
丁度シロウマルとソロモンがおやつを食べ終わった時、エイミィが慌てた感じで食堂へとやってきた。何でも、屋敷の手前で拾ったそうだが、あまり変なものを拾わない様に言っておかないといけない。
「エイミィ、もし危険なものだったらどうするんだ?」
「ごめんなさい……でも、この変な魚、先生の家の前で『先生の家紋』を持った状態で凍っていたんです!」
まずは注意しようとしたら、エイミィから嫌な予感のするワードが放たれた。
「エイミィ、すぐにそれをここに出して!」
「はい!」
エイミィは、いつもいーちゃんしーちゃんが入っているディメンションバッグの口を空けて、中から変な魚の氷漬けを取り出そうとしたが、大きすぎていーちゃんしーちゃんの力を借りても動かす事が出来ない様だ。
「どうやって入れたんだ、これを?」
エイミィに変わって変な魚を取り出そうとバッグを覗き込むと、思った通りナミタロウの氷漬けが中に入っていた。
「門のところにいるゴーレムに手伝ってもらいました」
そう言えば、この屋敷に自由に出入りする事が出来るエイミィは、ゴーレムに簡単な命令を出す事が出来るんだった。いつもは遠慮してなのか、エイミィはあまりゴーレムを使わないので忘れていた。
「そう言えばそうだった……よい、しょっと!」
流石に俺でもナミタロウを引きずり出すのはきついので、ギガントを召喚して外へとナミタロウを取り出した。
「これ、芯まで凍ってないか?」
「すごいカチカチですね」
エイミィはドアをノックするみたいに硬さを確かめ、その横ではいーちゃんしーちゃんがカチコチのナミタロウをつついていた。
「テンマ、流石に死んでない、これ?」
「さすがのナミタロウも、これでは無理なんじゃ……」
それまで俺の後ろで見ていたジャンヌとアウラは、流石のナミタロウもこの状態では無理だろうと思っている様だ。だが、相手はあのナミタロウだ。これくらいで死ぬ様なタマではない。
「すぐに風呂に連れて行くぞ! 解凍だ!」
自然解凍でも大丈夫な気もするが、お湯で解凍した方が早いだろう。案の定……
「ふぃ~……ビバノンノ、やな! お湯はもっと熱くてもええで!」
息を吹き返したナミタロウは、風呂を堪能し始めた。その生命力に呆れたジャンヌとアウラは、仕事が残っているからと言って戻っていった。
エイミィは初めて見る生き物に興味津々の様子だが、俺が最後の先程言った『危険なもの』発言のせいか、不用意に近づく事はなかった。
「それで、なんでまた屋敷の前で力尽きていたんだ?」
「いや~流石に魚類が雪の中を移動するのは無理があったわ。何とか屋敷のすぐそばまで来たんやけど、そこがワイの限界やったわ! もう少しで、『鯉のルイベ』になってまうとこやったな!」
例えルイベになっていたとしても食べないし、食べなきゃいけない状況だったとしても、必ず火は通すだろう。
「なんか、大味そうですね」
「なんやて! わいほど繊細な味の魚はおらんで!」
エイミィの少しずれた言葉を、ナミタロウは見逃すことなくツッコミを入れていた。そのせいでエイミィが俺の後ろに隠れてしまったが、ナミタロウは気にせずにお風呂を楽しんでいる。
「テンマ、ちょっとそこどいてや……そいっ! ……あうちっ!」
ナミタロウはお風呂の中から勢いをつけて飛び出し、そのまま滑って脱衣所まで突っ込んでいき、脱衣所の棚に激突したみたいだ。後で棚を調べてみると、ナミタロウがぶつかったところを中心にかなりの範囲が壊れていた。
「ごめんちゃい」
それが棚にめり込んだナミタロウを救出した後の第一声だった……かなりイラっとした。取り敢えず修理は今度する事にして、ナミタロウを応接間まで連れて行く事にした。
しかし、ナミタロウは勝手知ったる他人の家といった感じで、俺とエイミィを置き去りにして、スイスイと床を滑る様に進んでいく……念の為床を触って確かめたが、濡れたりナメクジの様な粘液がついているわけではないのに、どうやって進んでいるのか不思議に感じたが、ナミタロウなのでそういう事もあるのだと思う事にした。
「先生、ナミタロウって何なんですか?」
一応、俺の眷属として大会に出たという事は誰かに聞いて知っている様だが、詳しくは知らないそうだ。
エイミィのその質問に対して俺は……
「実は、俺もよく知らない」
だって、ナミタロウだし……俺の答えに、エイミィは少し呆れた様な顔をしていたが、いずれエイミィも理解するだろう。ナミタロウはこの世界の七不思議の一つだという事に……
「まあ、冗談はさておき、俺達も早く行こうか。ナミタロウだけにすると、何をしでかすか分かったものではないし」
そう言うと、エイミィは笑いながら俺に合わせて急ぎ足になった。
「わっしょーい! わっしょーーい!」
応接間に近づくにつれて、徐々に大きくなっていく不吉な掛け声。応接間のドアを開けてナミタロウを見てみると、どうやら俺の予感は当たってしまった様だ……全く嬉しくは……
「ナミタロウ、よくやった!」
前言撤回。めちゃくちゃ嬉しかった。何故なら……
「イカ、タコ、アジ、サバ、イワシ、カツオにマグロ! 鯛にヒラメにカレイ、ホタテにアサリ、ハマグリ、カキ、サザエ、アワビにウニ! ワカメにアオサ、ヒジキに昆布やで~……ドヤッ!」
元日本人の俺にとっては、めちゃくちゃ嬉しいお土産だった。中でも、昆布が一番嬉しいお土産かも知れない。ちゃんと干しているのも、ポイントが高い。昆布以外にも、イカやタコも干されていたり、ナミタロウが歌っていた以外の海産物もあるらしく、ここに出されたものはお土産の半分にもみたないそうだ。
「ドヤヤッ!」
グイグイくるナミタロウに、俺はお礼替わりにマジックバッグに入っていた芋ようかんを差し出すと、ナミタロウはすごい勢いで俺の手から芋ようかんを奪い去り、早速口の中に放り込んでいた。
「早速、今日の夕食に使うか!」
様々な調理法を考えながら、ナミタロウからお土産を受け取った順にマジックバッグへと放り込んでいく。
「イカが旨い……」
途中でイカの干物をちぎってつまみ食いしながら作業していたら、シロウマルとソロモンがすすすっと俺の横へとやってきて、揃って口を開けていた。ただ、イカの干物はよく噛まないと味が出ないので、すぐに飲み込む事が多い二匹は、あまり好みではなかった様だ。
ジャンヌとアウラも海産物と聞いて興味があるみたいだが、以前食べた事のあるタコを除けば、今あるのは生のものや海藻、イカの干物といったもので、手を伸ばすには少し戸惑う様なものだったらしく、大人しく調理されるまで待つ事にしたみたいだ。ついでに二人の後ろでは、アムールがイカの干物を齧っている。
南部ではイカを食べる機会はあまりないそうだが、タコが食べれるならイカも大丈夫と言って、俺がつまみ食いしていたやつを横からかっさらっていったのだ。ちなみに、俺はイカの干物を手でちぎっていたので、アムールが望んでいた間接キスは達成される事は無かった。
「先生、海にも栗があるんですか?」
エイミィはウニに興味があるみたいだが、それは『味に』と言うよりは『見た目に』の様だ。
そこで、ウニを一つ目の前で割ってみせると、栗の仲間だと思っていたエイミィはかなり驚いていた。しかも、その中にある黄色いものを食べるとは想像もしていなかった様で、俺がウニの卵巣(精巣)を指ですくって食べてみせると、少し引いていた。
ちなみに、ナミタロウが持ってきた海産物は、一度氷点下まで冷やして締めているそうで鮮度は抜群らしく、生で食べても問題はないそうだ。久々に食べたウニの味はめちゃくちゃ美味く、このままご飯に乗せて食べたいくらいだった。
「テンマ、おかわり。ご飯大盛りで」
「私もお願いします」
「私のも」
「先生、私も」
そして、ウニは見事女性陣のハートを打ち抜いた。俺がエイミィの前でウニを食べてみせた事で、ウニは美味しいものだと判断したシロウマルとソロモンが俺のところにやって来てウニをねだり、それに続いてアムール、アウラ、ジャンヌ、最後に遠慮がちにエイミィがシロウマル達の後ろに並んだのだ。
仕方がないのでウニを大量にさばき、少しでも満腹感が出る様にウニ丼にしたのだが、それでも足りなかった様だ。すでに五人と五匹分(なんと、スラリンとゴルとジルまで食べた)を作ると、ナミタロウが持ってきたウニの半分近くを消費する事になってしまったのだ。ちなみにナミタロウは、ウニを海で飽きるほど食べたらしく、ウニ丼はいらないとの事だった。
「かなり減ったから、もうウニはダメ。その代わり、他の刺身で海鮮丼を作るから」
流石にウニばかり消費されても困るので、他の魚で我慢してもらう事にした。
ウニは終了だと聞かされた面々はがっかりといった表情をしていたが、俺が用意したものをみて喜々として思い思いにご飯の上に乗せ始めた。
イメージしたのは『勝手丼』だ。これなら自分で好きなものを選ぶ事が出来るし、少量ずつ色々なものを乗せる事が出来るので、一度に全種類味わう事も可能だ。
「一応言っておくけど、一人ひとすくいしたら次の人に交代だからな。でないと、独り占めしようとする奴も出てくるし……」
そう言いながら先程から同じものしか乗せていないアムールの方を見ると、アムールはそっとマグロのたたきが入っている深皿をテーブルの上に戻した。マグロのたたきと言ってはいるが、正確には中落ちと皮ぎしの身を混ぜてたたいたもので、俺の中では用意したものの中でメインに相当すると思っている品だった。
アムールに、何故そればかりを狙ったのかと聞くと、
「鮭でも、そこが美味しいところだったから」
と言う事だった。その発言を聞いた他の面々は、急いでマグロのたたきが入った皿に手を伸ばしたが、最初に手に取ったのはジャンヌだった。
「やった!」
元からアムールの次を狙っていたのか、他のみんなより動きが早かった。その次はアウラで、以下スラリン、エイミィと続き、ラストが俺だった。順番は手が皿のあった場所に手が着いた順(スラリンは触手)で、判定は俺がした。
ただ意外だったのは、スラリンの性格からしてエイミィに先を譲るかと思ったのに譲らなかった事だ。
そんな事を思っている間にジャンヌはひとすくいし終わり、次のアウラの番になった。
「ふっふっふっ……ジャンヌは甘いですね」
何故か不敵な笑みを浮かべるアウラは、おもむろにマグロのたたきに刺さっているスプーンを持ち上げ、深皿の底の方からごっそりとたたきを山盛りで持ち上げた。
「すくうというのは、こういう事を言うのですよ!」
その手があったか! という表情を浮かべるアムールとジャンヌだったが、少し考えればその危険性に気がつくはずだ。そして案の定、俺が危惧していた事が起きようとしていた。それは……
「あっ……」
アウラが山盛りのたたきが乗ったスプーンを丼の方に少し動かしたところ、たたきの山が根元の方から崩れてテーブルの上へと落ちていった。
「……」
「「アウラ、アウト~! スプーン、没収~!」」
落ちたたたきを見てから、何事も無かったかの様にもう一度挑戦しようとしたアウラに対し、アムールとジャンヌは息のあった声と動きでスプーンをアウラから奪い取り、僅かに残っていたマグロのたたきをアウラの丼にポンッと乗せると、次のスラリンに手渡した。
スラリンはスプーンを受け取ってすぐにマグロのたたきをひとすくいするかと思ったら、まずはご飯をお皿のすぐ横に移動させた。
「私のも?」
続いてスラリンはエイミィの前に触手を伸ばし丼を受け取ると、自分の丼の横にエイミィの丼を置き、流れる様な動きでマグロのたたきにスプーンを刺した。
「「「「おおっ!」」」」
「落~ち~ろ~」
スラリンがスプーンを持ち上げると、先ほどのアウラよりも大きな山が出来ていた。その光景に俺とアムールとジャンヌとエイミィは感嘆の声を上げたが、アウラだけはスラリンに呪いを送っていた。
しかし、アウラの祈りは届く事はなく、スラリンはひとかけらも落とさずにエイミィの丼にたたきの山を乗せ、続いて自分の丼にも同じくらいの大きさの山を乗せた。厳密に言うと、スラリンはふたすくいしているのでルール違反ではあるのだが、自分の為にしたわけではないし、喜ぶエイミィの姿を見て指摘するほど堕ちた人間はいなかった。まあ堕ちかけた人間はいたが、ギリギリ踏みとどまったみたいだ。
「ほとんど残ってないな……」
最後に俺の番になったのだが、アムールの集中攻撃とアウラの自爆、スラリンのクリティカル二発をくらったマグロのたたきは、ほんのわずかしか残っていなかった。最も、その状態でもアウラよりは多いのだが。
取り敢えずマグロのたたきが終了したところで次を狙う事にしたが、ここで新たなルールが追加される事になった。それは、全員が同時に次に狙うものを指差し、被らなかったら一番ですくう事ができ、被ったらじゃんけんで順番を決めるというものだった。そして、先にすくい終わっても、全員が終わるまでは待つというものだ。
マグロのたたき以外では、アジ・サバ・イワシのたたきやなめろう、カツオの刺身が人気で、貝や白身魚はあまり人気がない様だ。
そうやってほとんどの品が無くなるまで繰り返した結果、アムールとアウラの丼は具がご飯の倍程になり、俺が具とご飯が半々程度、ジャンヌとエイミィが具が少なめという感じになった。アムールとアウラに関しては『やっぱりな』といった感じだが、それを上回ったのがスラリンだった。
スラリンはなんと具がご飯の三倍から四倍程になり、乗せた具が奇跡的なバランスで大きな山を作っていた。
「「スラリンの欲張り~!」」
それを見て調子に乗っているのは、いつも食い意地が張っていると言われているアムールとアウラだった。二人は、自分達の盛り方も欲張りすぎだと言われるくらいの大きさなのを棚に上げて、スラリンをいじって楽しんでいたが……
「「スラリン、優しい」」
「別皿だな。分かった」
なんとスラリンは、自分の丼をシロウマル達に分け始めたのだった。スラリンの作った丼は、シロウマル、ソロモン、ゴル、ジルの四匹と自分のものに分けられたので、最終的にはジャンヌとエイミィのものより具が少なくなってしまった。
それまでスラリンをいじっていたアムールとアウラは、ジャンヌの冷たい視線と物足りなかったシロウマルとソロモンのねだる様な視線に耐え切れず、自分達の丼から具を提供せざるを得なくなった。ちなみに俺は、シロウマルとソロモンの視線がアムールとアウラの丼に注がれている間に、自分の丼の攻略を進める事にした。
エイミィも同じ様に俺の横に避難していたが、住処であるディメンションバッグから顔を覗かせたいーちゃんしーちゃんとくーちゃんには勝てず、自分の丼の大半を分け与える事になった。そして俺は半分以下になった丼を持って悲しそうな顔をするエイミィを見て、自分の丼を分け与えるしか道はなくなってしまった。まあ、元々多めに盛ったし、相手がエイミィだったので、そこまで多く渡さなくても大丈夫だった。
「ん? 皆で何を食べていたのじゃ?」
全員が食べ終わったのを見計らったかの様に、どこかへ出かけていたじいちゃんが戻ってきて、テーブルの上に置かれていた空き皿を見てそう訪ねてきた。
「わいのお土産やで~!」
ナミタロウの一言で、自分のいない間にご馳走が振るわれていた事に気がついたじいちゃんは、何かを期待する様な目で俺を見たが、残り物で作る事が出来たのは白身魚とホタテの刺身による『白い海鮮丼』だった。
「美味しいのじゃが……白色以外も食べたかったのう……」
じいちゃんも淡白な味の白身魚よりマグロや青魚の様に味の濃い方が好きみたいで、少し物足りなく感じている様だった。
なおこの数日後、突然うちにやってきたマリア様とティーダとルナ達によりウニは全てなくなり、マグロもトロの部分はほぼなくなる事になった。
「先生ごめんなさい。ルナちゃんに何を食べたか聞かれて、つい話しちゃいました……」
との事だった。何でも、ルナとティーダと遊んでいる時に、最近うちで何か珍しいものを食べたか聞かれ、海鮮丼の事を話してしまい、それがルナ経由でマリア様まで話が言ったそうだ。
マリア様はルナがそわそわしているところを見て何かあると感づいたそうで、アイナとクリスさんをお供にしてルナ達についてきたそうだ。
「テンマ……今度こういったイベントをする時には、ちゃんとあなたの口から誘って欲しいものね」
と、マリア様に笑顔で言われてしまった。ついでに、自分の分が無くなるから、王様とライル様とアーネスト様には言わなくてもいいとも……




