第9章-12 お土産選びは慎重に
相撲大会から数日間、俺は宿にこもってハナさんから依頼された『山賊王の鎧』に没頭していた。相撲大会が終わった次の日までは、外に出て祭りを楽しんでいたのだが、武闘大会と相撲大会で俺の顔は完全に南部の住人に覚えられてしまい、どこへ行っても囲まれてしまったのだ。そのせいで自由に動き回る事が困難となり、防犯上の理由と精神衛生上の理由から、外へ出る事を自粛したのだった。
そんな俺の事情を理解したアムールやハナさんの計らいで、屋台で出されている珍しい食べ物や人気の食べ物を差し入れしてくれたので不満は無く、作業の合間に美味しいものを食べ、気分転換に温泉に浸かるという、ある意味極楽な生活を楽しんだ。
「うん、いいわね。実戦では少し耐久力が低いかもしれないけど、普段遣いなら十分ね。色は……しかたがないか」
そうして出来た鎧をハナさんに渡すと、満足する出来だった様でご機嫌だった。色はスピアーエルクの茶色だったが、その代わり形は虎をイメージして作っていたので許容範囲らしい。ただ、サイズは若干あっていなかった様で、今度サナさんに頼んで修正するそうだ。
「それと、これはついでです」
そう言って俺が渡したのは、着ぐるみの様な服だ。こちらは普段着にも使えるし、寝巻きの上から着ることも可能な品だ。スピアーエルクの皮が大量に余ったので、暇つぶしに作ったものだ。ちなみに、完成させた着ぐるみは三着で、アムールにも渡してある。こちらの着ぐるみはサイズをあまり気にしなくて良かったので、二着も三着作るのも大して違いがなかったからだ。なお、着ぐるみは他にも何着か作りかけの状態で置いてある。これは絶対に欲しがるのがいるので、お土産代わりに作ってあげようと思ったからだ。
「それで、テンマの今後の予定は?」
「知り合いへのお土産を探して、見つかり次第帰りの準備ですかね?」
一応、後一週間程の滞在を予定していると伝えると、ハナさんは少し考え込んでいた。そして、
「悪いんだけど、そのうちの一日をくれないかしら?少し案内したいところがあるの」
いつになく真剣な表情と声でそう聞いてくるので、俺はすぐに頷いた。どこに連れて行く気かは分からないが、俺に教えておかなければならない事があるのだろうと判断したからだ。
今日これからでも大丈夫だとハナさんに伝えたのだが、その場所へ行くにはハナさん側の準備が必要との事で、早ければ二日後の朝から出かけるという事に決まった。じいちゃんも同行して欲しいとの事だったので、この話は俺からじいちゃんに伝える事となった。
「取り敢えず、南部ならではのお土産を探すつもりなら、サナに相談するといいわよ。あの子はナナオで民芸品なんかの元締めをしているから、誰よりも頼りになる筈よ」
というので、さっそくサナさんを訪ねる事にした。唯一の心配は、相撲大会後の様なピンク色空間をブランカと作り出していないかという事だったが、アムールが遊びに行っているのでその心配はないはずだと言われた。
「街の方も、だいぶ落ち着いたみたいだな」
子爵家を出て街の様子を見ながらサナさん宅を目指したが、祭りが終わったばかりなので多少の騒々しさは残っているものの、相撲大会直後の様に囲まれる事はなかった。まあただ単に、フードを目深にかぶっているせいで、街の人達が俺に気がついていない可能性もあるけれど。
「こんにちは~、サナさんいますか?」
「は~い」
パタパタと足音を立てて、サナさんが急ぎ足でやってきた。その後ろには、急ぎ足のサナさんを心配したブランカと、俺の声に反応したらしいアムールが続いている。
サナさんにここに来た理由を話して相談に乗って欲しいと言うと、サナさんはすぐに頷いて商品が並んでいる部屋へと案内してくれた。ただ、その部屋は普通に売っているものより希少価値が高いものもたくさんあるらしく、乱暴に扱おうとしていたアムールがサナさんに怒られていた。
「女性に贈るのなら、金を基調とした髪飾りや首飾り、男性になら銀を使った腕輪なんかが人気ね。ただ、男性はともかく、女性は好みにうるさかったりする人も多いから、こっちのハンカチなんかの小物の方が無難かしらね?」
色々と商品の説明をしてくれるサナさんだったが、どれも今ひとつピンとくるものがなかった。そこで、まずはお土産をもって行く人の分類を大まかに分けて見る事にした。
まずはジンなどのセイゲンの知り合い。こちらは装飾品なんかより、食べ物などの方が喜ばれるだろう。特にガンツ親方には、酒類を持っていった方が確実に喜ばれると思う。
そして王都の知り合い。その中で、まずはククリ村の人達。こちらも人数が多いので食べ物、特にマークおじさんとマーサおばさんがやっている宿屋で出せる様な、参考になる食べ物や調味料がいいかもしれない。ケリー達は、ガンツ親方と同じくお酒が喜ばれるはずだ。
そして、ジャンヌとアウラとエイミィ。この三人は、オオトリ家の家紋が入ったものがいいと思う。三人は俺の身内扱いとなる為、いざという時の身分証明にも使えるだろうし、変な奴に絡まれた場合、多少の抑止力も期待できる。念の為、サナさんに家紋入りのハンカチを作る事が出来るか聞くと、少し時間はかかるが可能との事だった。ただ、ハンカチだけだと少し寂しいかも知れないので、何か装飾品を買っていく事にする。あっ!アイナも同じものでいいかもしれない。一応、アイナはまだ『オラシオン』に籍が残っているはずだし、嫌がるかもしれないが、アウラとお揃いのハンカチを一枚くらい持っているのも悪くないと思う。それとクライフさん。あの人はシンプルに無地のハンカチがいいだろう。
後は、貴族関係だ。アルバート達三人は何でもいいとして、サンガ公爵とサモンス侯爵は王都にいるかどうかわからないしあまり変なものを送るのもダメなので、じいちゃんから巻き上げたものを含めた数種類のお酒のセットでいいだろう。
そして王家の人々だが……恐らく、南部の品でも知っているものが多いと思うので、何か少し変わったものの方がいいかもしれない。ただ、どんなものを選んだとしても、『高品質の品』という条件は外せないので、特注で何か作ってもらう事にする。
まずは男性陣だが、こちらは作務衣の様な服をサナさんに注文した。服のサイズは女性程細かくしなくていいと思うので、大体のサイズ(ただし、ティーダだけは今後の成長を見越して少し大きめに)をサナさんに伝え、素材も丈夫で高品質のもの頼んだ。
そして、一番の問題が王家の女性陣だった。はっきり言って、俺のセンスは自分でも期待できないので、何を贈っていいのかがわからない。特に、マリア様が一番の難関だ。ちなみに一番簡単そうなのはルナで、ルナなら大外れを選ばない限りはどれでも喜びそうな気がする。
「という事で、何をお土産にしたらいいですかね?」
わからないならプロに聞いてしまえばいいとサナさんに聞いてみたのだが、流石のサナさんも王族の様な人々に贈り物などした事が無いのでわからないと言われてしまった。
そんなサナさんもお手上げの状況の中で、意外な人物から面白い提案があった。
「そこまで難しく考えずに、親戚に贈るくらいの気持ちになってみたらどうだ?傍から見ると、王妃様はテンマをかなり可愛がっている様だし、よっぽどのものでなければ喜んでくれると思うぞ」
「ブランカの言うとおり。あの王妃様は、絶対にテンマには甘いはずだから、手作りのものでも喜びそう!」
断言する二人の話を聞いてサナさんが何か思い付いたらしく、奥にあるという作業場へと歩いて行った。相変わらずブランカは、サナさんの後ろをついて回っていた。
しばらくして戻ってきたサナさんとブランカの手には、それぞれ大きさや形の違う数枚の布が乗せられていた。
「これはショールの見本よ。見本だからシンプルなものしかないけど、色々な色や模様の組み合わせでオリジナルのものを作る事が出来るわ」
俺がただの布だと思ったものは、女性用の肩がけの見本だった。形は正方形のものと長方形のがあり、大きさも大中小の三種類あった。
「手作りでも大丈夫かもといっても、流石に一日二日で織れる様にはならないから、色と模様の指定をしてくれたら、専門の職人達に織らせるわ」
サナさんが言うには、程度にもよるが複雑な模様でも数日あれば作る事が出来るそうなので、五枚頼む事にした。王族の女性陣は四人なのに一枚多く頼むのは、プリメラの存在を思い出したからだ。流石にサンガ公爵とアルバートにお土産を持っていくつもりなのに、一人だけ除け者にするのは悪いと、注文する枚数を数えている時に思ったのだ。
「五枚ね、わかったわ。模様や編み方はどうするの?」
編み方も色々とあるらしく、それぞれ一通りの説明をしてもらったが考えた結果、一般的な織り方に決めた。
「大きめのサイズに少し厚めの織り方ね。それが五枚っと……色と模様は……」
サナさんは注文表に俺の言った条件を書き込んでいった。色と模様に関しては俺のセンスでは難しすぎたので、色や模様の書かれた見本から選んだ。
「それと、これを使ってそれぞれの名前を刺繍してもらえませんか?」
ただ、それだと元からあったものを組み合わせただけで、オリジナルとはとてもじゃないが胸を張って言えないので、ゴルとジルの糸玉(サナさんへのプレゼント用とは別にスラリンが確保していたもの)を渡した。
「何、この糸は!」
サナさんはゴルとジルの糸玉を見るなり大きな声を出し、興奮しながら色々な角度で二種類の糸玉を見始めた。この糸玉がどんなものかまだ言っていないのだが、サナさんは一目見ただけで目の前の糸玉の価値を見抜いた様だ。ついでに妊娠祝いにと、スラリンが用意した二種類の糸玉を渡すと、あまりの感激に俺に抱きつき、続いてスラリンを抱いていて頬ずりした。サナさんが俺に抱きついた時のブランカの視線が、一瞬鋭くなったのは気のせいではないだろう。ちなみにこの糸玉は、ゴルとジルが出す糸の中でも特殊なものらしく、手のひらサイズの糸玉を作るのに、相当な体力と時間を要するらしい。
「注文を承ったわ。代金は一枚三千Gで一万五千Gよ。引渡しの予定日は、少し余裕を見て五日後ね」
サナさんは、糸玉のお礼に無料でいいと言ったのだが、それではお祝いの意味がないと通常の料金で作ってもらう事にした。ついでにサナさんのところで王族の男性陣へのお土産(こちらもゴル達の糸で名前を入れてもらう)や、ジャンヌ達のハンカチや装飾品を購入し、ショールと一緒に受け取るようにして、他のお土産を購入する為にお暇する事にした。
「さて、次は酒屋でも回るか」
サナさん宅を後にした俺達(アムールも俺についてきた)は酒屋で酒類を大量購入し(ただし、じいちゃんから巻き上げた様な最高級品は売っていなかった)、それから雑貨屋や食料品店を見て回った。
雑貨屋では、日本刀と同じ様な技法で作られた包丁を数本を購入し、食料品店では香辛料を中心に購入した。しかし、一番の収穫は包丁でも香辛料でもなかった。
「しかし、王都やセイゲンの気候でも育ちそうな香辛料の種や苗が手に入るとは思わなかった」
購入できたのは、唐辛子の種とウコンの苗、それと黒胡椒の苗だ。どれも寒さには弱いそうだが、ウコンは防寒対策をしっかりとしておくか掘り起こしてマジックバッグなどで保管しておけば、よほどの事がない限りは毎年の様に収穫ができ、唐辛子と黒胡椒は成長が早いそうなので、取れた種を保管しておけばこちらも毎年の収穫が見込めるらしい。しかも、唐辛子は鉢植えでも育てる事が可能なのだそうで、家の中でも育てる事が可能なのだそうだ。
「多少値段は張ったけど、上手くいけば一年で元が取れそうだな」
黒胡椒とウコンはあまり売っていなかったが、唐辛子の種はかなりの数が手に入ったので、マークおじさん達にも育ててもらえば、そう簡単に全滅するという事はないだろう。
「それにしても、胡椒やウコンはともかくとして、唐辛子の様に簡単に育てる事が可能なら、王都やセイゲンで苗を売っていてもおかしくないと思うんだけどな?」
「ん~……単純に、売り物になるほどの量を育てるのは難しいからだと思う。それなら南部で買い集めた方が、早いし簡単」
「なるほどな」
確かにアムールの言った通り、商売にする程育てるとなるとかなりの土地が必要になるし、もし大寒波なんかに襲われたら全滅してしまう危険性がある。俺みたいに自分が使うくらいの量なら、自宅などで育てている人もいるかもしれないが、そんな人は苗や種を売りに出す程の数は育てないだろう。
「これでお土産は十分だな」
食べ物のお土産も何種類か買ったので、これで十分だろうと旅館に帰ってゆっくりしようと思ったのだが……
「テンマ、アルバート達のお土産は?」
「あっ!」
アムールのおかげで三馬鹿の事を思い出し、近くにあった鍛冶屋で良さそうなナイフを何本か(思ったよりいい品だったので、自分用とケリーとガンツ親方用も)購入した。これと、何か南部の食べ物も一緒に渡せばいいだろう。
「よし!これで本当に終わりだ!」
「三馬鹿の扱いが酷い」
俺を非難するアムールだが本気で言っているわけではなさそうだし、さらりと三馬鹿と呼ぶアムールの方が酷い様な気がする。
「だけどな、アムール。女性へのお土産は色々と気を使わないと、後々ひどい目に遭うけど、男相手ならそこまでする必要はない。そもそもあいつらとの付き合いは、他の人達に比べると短いのだから、それくらいでいい……はずだ」
男相手なら、「気に入るかどうかわからないけど、良さそうだったから買ってきた」で通用しても、女性相手はそうはいかない。「渡した時は喜んだ素振りを見せていても、裏ではどんな事を言っているかわかったもんじゃない!最低でも、真剣に考えて、選びに選んで買ってきた……というのをわかってもらえないと、何年たっても嫌味を裏表で言われ続ける」……とは、前世のじいちゃん達と今世のじいちゃんの言葉だ。
「なる程、理解した……というわけで、文句は言わないから、私にもショール買って!」
と言われたが、王族や貴族へのお土産なので駄目だと断った。すると、ジャンヌ達と同じハンカチでもいいというので、サナさん宅をもう一度訪ねて追加注文する事になった。一応オオトリ家(正確には『賢者マーリン』の)預かりとなるので、身分証明になると判断したからだ……まあ、アムールがしつこかったので、つい承諾してしまったのが本音だが……
思っていたよりも早くお土産選びが終わった俺は、ハナさんからの連絡が来るまで旅館でゆっくりと過ごそうと思っていたのだが、その日の夜にハナさんの使いが旅館にやって来て、予定通り二日後の朝に出かけるとサナさんからの言葉を伝えて帰っていった。
二日後、朝早くから子爵家へと向かうと、すでにハナさん達の準備は出来ていた様で、俺とじいちゃんさえよければすぐに出発すると言われた。ちなみに移動手段はライデンと俺の馬車で、子爵家側の同行者はハナさんとアムール、それとブランカだ。ロボ名誉子爵(ハナさんが正式に子爵になるという事で、ナナオではハナさんと明確に区別する為に、皆以前よりも『名誉』をつけて呼ぶ様になった。)は留守番だ。これは決してロボ名誉子爵が役に立たないからではなく、子爵家の誰か一人はナナオに残って(サナさんは身重の為除外)おかなければならないからだ。
目的地は日帰りが可能らしいがかなり離れているそうで、馬車の御者は目的地を知っているハナさんとブランカが交代で引き受けてくれた。途中途中で休憩を挟んだり、馬車が通る事が難しい場所は歩いて移動した事もあり、およそ四時間かけて目的地の目と鼻の先までというところに到着する事ができた。
ただ、見渡す限り村の目印になる様なものは見えず、ただの森の開けた場所の様にしか思えない。
「この辺りで迎えの人と合流する予定だけど……」
ハナさんがそう言って馬車から降りた時、フードを目深にかぶった三人が少し離れた茂みから現れた。
「ああ、あそこにいたのね」
ハナさんは茂みから現れた三人に近寄って何かを話すと、揃って馬車の方へと歩いてきた。その時の俺は多少の警戒はしていたが、ハナさんの探していた人物だと分かっていたので、まずは挨拶でもしようと近づいた。
三人まで数mというところまで近づいた時、三人の先頭にいた人物がおもむろにフードを外した。そしてその素顔を見た俺は、瞬間的に大きく後ろに飛び退いていた。何故なら、
「虎……」
先頭の人物の顔は、ほぼ動物の虎と同じ顔をしていたからだ。そして、その虎顔の後ろに居た二人も、フードの下はほぼ動物の顔(犬、もしくは狼と猫の顔)をしている。
「これは……そういう事じゃったのか」
俺と同じく三人に挨拶しようとしていたじいちゃんも驚いてはいたが、何かに気が付いた様に呟いていた。
「テンマ、驚くのは無理もないが、警戒はしなくていい。あの人達は、俺と同じ獣人だ」
じいちゃんの後ろから降りてきたブランカが、俺にそう声をかけてきた。その横に居たアムールは、驚いてはいる様だが俺ほどではなかった。
「まあ、初めて見たのなら驚くのは無理もない。むしろ、敵意を覚えたり危害を加え様としないだけ、ありがたい事だ」
先頭の虎顔の男は、俺みたいな反応にはなれている様で落ち着いた声でそう言ってくれたが、その後ろに居た二人は面白くなさそうな顔をしていた。
「お前達もいい加減にしろ。子爵家に関わりを持つ冒険者を村に招くという事は、領主と村長が決めた事だ。渋々とはいえ、お前達も一度は了承したと言う事を理解しろ」
虎顔の男が後ろの二人にそう言い聞かせると、二人は不満げな表情をしながら俺から視線を逸らした。
「申し訳ない。だが、村の中にはこの二人と同じように外部の人間、特に人族に不満を持つ者もいると理解して欲しい」
「いや、こちらもすまなかった」
俺が素直に謝った事で、後ろの二人は幾分溜飲が下がった様だ。先程より少しだけ雰囲気が柔らかくなった気がする。
「この三人を見て大体わかったかもしれないけれど、これから行く村は『種族の血が濃い獣人』達が住んでいるの。詳しくは村長が説明すると思うけど、差別的な目で見たり言葉をかけたりしないでちょうだい。下手をすると、命懸けの戦闘に発展するから……冗談ではなくね」
ハナさんの忠告に頷き、三人の後ろをついて行く事になった。後で聞いた話では、村の位置をなるべく他の者(特に南部以外の者)に知られない様にする為、わざと村の近くに分かりやすい道などは作っていないそうだ。ちなみに、この森は子爵家が管理しているそうなので、南部の者は基本的に許可なく立ち入る事はないらしい。だが、極まれに南部の冒険者が豊富な資源を求めて侵入するそうだが、そのほとんどが村に近づく前に、村の住人によって排除、もしくは捕縛されるとの事だ。もちろん、村の人々は正体がバレない様に、フードや全身鎧などで変装するそうだ。
「それにしてもブランカはともかくとして、じいちゃんとアムールはあまり驚いていなかったな」
「まあ、わしは若い頃に色々な地を冒険したからのう。直接見た事はなかったが、会った事がある者から話を聞いたりしたからのう」
「わたしも直接会うのは初めて。だけど、お母さんから話は聞いていた」
じいちゃんは長年の経験からで、アムールは南部のトップに位置する家の一員として知っていたと言う事だった。
それにしてもあの時、反射的に武器を取り出さなくてよかった。あの虎顔の男性だったら、許してくれるかもしれないが、当然いい思いはしないだろうし、その後ろにいた二人は、絶対に許す事はなかっただろう。なので、村に着く前に武器を入れたマジックバッグはスラリンに預けるか、個別に取り出しにくい様に一纏めにしておくのが無難かも知れない。
という事で、早速行動に移す事にした。もちろん、案内役の三人の目の前で武器を出すのはあまり良くないと思われるので、バレない様にこっそりとやった。結局武器を入れたマジックバッグは、俺よりも物の管理が上手なスラリンに預ける事にした。それと同時にシロウマルとソロモンには、危害を加えられない限りは攻撃やそれに準ずる行為をしない様に言い聞かせた。一応、スラリンに二匹の監督を任せたので大丈夫だろう。ちなみにゴルとジルが危害を与えるといった事は、全くと言っていい程心配していない。何故なら、元々あの二匹は人見知りするところがあるので、知らない人達の前に出る事は、ほぼ有り得ないからだ。しかも、何かあればスラリン達が即座に守るので、一番の安全地帯にいると言っても過言ではない。
そんな二匹は、糸玉のご褒美に食べさせたお菓子が嬉しかったのか、今は頑張って糸を量産中との事だった。
本文に登場した獣顔の獣人については、書籍版には登場させたのですがWeb版には登場していないので、その事に触れてはいません。
また、書籍版に登場した獣顔の獣人は敵として登場した脇役の一人であり、その後のテンマ達に関わる存在ではありません。