第1章-13 王様への疑惑、そして調査へ
日間ランキングの10位に入りました。
読んで下さる皆さんのおかげですありがとうございます。
「テンマ、ヤラないか?」
さわやかな朝、大勢で囲む朝食中に王様の突然の発言により、周りの時が止まった瞬間であった。
そして、俺は椅子から立ち、王様に後ろを向かないようにして、
「いえ、僕、衆道に興味ないんで……」
と後ずさると、この答えを切っ掛けに時は流れだす。
母さんが王様の視線から隠すように抱き着いて来た。
父さんは俺の前に立ち、弓を持ち弦を張る。
じいちゃんは「昔はあんな奴じゃ無かったのにのう…」とか呟いている。
王様の周りではクライフさんが、
「陛下、いくら気に入ったからって、衆道に誘うのはどうかと…マリア様にご報告せねば」
と言い、
クリスさんは汚らしい物を見るような目つきで王様を見ている。
シグルドさんは「陛下……」と悲しそうだ。
ジャックさんは「衆道自体無い訳じゃないが、親友の息子を狙うのはちょっと…」と嘆いている。
エドガーさんは顔は笑っているが目は笑っていない。
ちなみに護衛の男性陣は、尻をガードしながら王様から距離を取っている。
「ちょ、ちょっと待て!言葉が足らなかっただけだからな!リカルドは矢に手を掛けるな!あと、クライフはマリアに報告とか止めてくれ!頼む!」
早口に弁解し誤解を解こうとする王様。取りあえず皆納得したようだが、距離は取ったままだ。
「リカルド、シーリア、昨日言っていた『あれ』の事だ」
「あぁ、『あれ』の事か。紛らわしい言い方するな!もう少しで射るところだったぞ」
王様が『あれ』と言ったとき母さんの体がわずかに反応した事に気付いたが、視線が合っても特に何も言わなかったので気にしない事にした。
父さんと王様の言葉で『ヤラないか!』が衆道の事では無いようなので、皆席へと着き直した。
まだ完全に疑惑が晴れた訳では無いがな!
「父さん、『あれ』って?」
俺の質問に対し父さんの代わりに王様が、
「実は昨日の夜、リカルド達にテンマを俺の息子か孫の近衛にどうか、と提案してな。で、どうだヤラないか?」
この言葉に、俺よりもクライフさんを除く護衛の4人の方が驚いていたが、
「いえ、お断りします」
即答で断った俺に、さらに驚いていた。
「坊主大変な仕事だが、給金は多いし、並の下級貴族よりも権力が有るんだぞ!」
とジャックさん、
「10歳で平民からの近衛誕生は歴代最速よ!」
とクリスさん、
「その歳での近衛採用となったら、将来的には上の役職にも就けるでしょう。そうなれば貴族の爵位を拝命する事も夢では無いのですよ!」
とエドガーさんが続く。なお、シグルドさんは驚きすぎて固まってしまっているようだ。
「訳を聞いてもいいか?」
やっぱり即答はまずかったのだろうか、王様が訊ねてくる。
俺は正直に、
「近衛に魅力を感じていません。それに近衛になると気軽に家族に会えそうにありませんから」
と答えた。その言葉に母さんは目が潤んでいた。
「そうか…それは残念だが仕方が無い。でもテンマ、気が変わったらいつでも訪ねて来い。その時は歓迎しよう!」
と言ってくれた。
いくら親友の息子とはいえ、そこまで言ってくれる事は名誉な事だと思った。
「さて、せっかくシーリアの用意してくれた朝食だ。冷めてしまったがいただくとしよう。その後は村と大老の森の調査を行う。リカルド、案内を頼む」
「応、まかせろ!」
と予定を決めていく王様。俺もついて行こうとして、
「テンマはお留守番ね」
とお母様の有無をも言わせぬお言葉で却下された。
「シーリア、過保護は良くないと言ったじゃろ」
とじいちゃんが援護するが、
「一緒に行かせるとアレックス様が無茶な事をヤリそうだから」
「なるほどのう」
と言われ、王様以外は納得していた。
あと、『やりそう』が違う意味に聞こえたのは気のせいだろうか。
「と、とにかく、準備が終わり次第始めよう」
との言葉に皆は食事を再開していった。
効率よく調べる為、森には案内役の父さんを筆頭に王様、クライフさん、ジャンさん、シグルドさんで向かい、村の中は案内役の母さん、エドガーさん、クリスさんとなった。
----大老の森にて----
「この辺りは特に変わった様子は見られないな」
「入って30分ほどの所だからな、ここら辺は変化は少ないな」
とのアレックスとリカルドに、
「そうですね、こんな入り口付近とも言える場所で分かりやすい異変が有ったら、噂どころでは済まないでしょうね」
クライフが加わり、
「しかし、リカルド殿。そんなに変わった事なんて有ったのか」
嘘を言っているとは思っていないが、と付け加えジャンが訊ねる。
「失礼ですよ、ジャンさん!」
とシグルドが嗜めるが、リカルドは気にせず、
「この1年でBクラスの魔物が9体、Aクラスが2体出現している。いずれも村から50km圏内でだ」
と答えた。
「そんなにもか!」
アレックスが驚いたのにも無理はなかった。
本来、大老の森にはBクラスを超える魔物がゴロゴロと居る。しかしそれは、森の奥深くで入り口から200~300kmは入らないとほとんど生息していない筈なのだ。
色々な説があるが有力なものは、大老の森は奥に行くほど魔力が濃くなり居心地がよく食べ物となる獲物が多いので、わざわざ食べ物の少ない浅い所に出て来るのは効率が悪いため、という物である。
現にこれまでは50km圏内の浅い所にはE~Dクラスが多く、強い物でもCクラスをたまに見かけるくらいであった。
オークにしてもキングなどいた事はなく、群れも十数匹くらいのものしか存在しなかった。
Bクラスともなると数年に一匹迷い出て来るかどうかで、それすらもすぐに森の奥へと戻っていくものが大半であった。
実際にリカルドは冒険者時代を除き、ククリ村で30年以上暮らしているが、この1年以外でのBクラスの出現例は、片手で数えるほどしか知らない。
「それを考えると異常だな。それで、Aクラスの魔物は?」
「テンマが言うには、どうやらドラゴンスネークの群れに追われていたらしい。しかも2体とも『フェンリル種』だ」
「なんだと!」
王様の驚きは当然だった。
フェンリル種とは狼系の魔物の最上種の総称でA~Sクラスの力を持ち、4~5頭の群れですら一流の冒険者を最低でも2~30人は集めないと討伐は難しいと言われている。
2頭もいればドラゴンスネークが8体でも負ける筈は無いのだが、とアレックスは思ったが、
「番の2頭だったらしくメスの腹の中に子供がいて、それで戦力が落ちているところを襲われたらしい。テンマがドラゴンスネークを倒した後で2頭とも死んだが、メスはなんとか子供を産んだそうだ」
身重ではそう言う事もあるのだろうと考えた。
「そうか…そのフェンリルの子供は?」
アレックスの問いに、
「もう皆も見ただろ?テンマの育てているヤツだよ」
と言うと、
「クリスがかまっていたシロウマルの事か!」
と驚いていた。
実はクリスは犬や猫が大好きなのだが、王の近衛である為世話をする暇がない自分では飼う事が出来ずにいたのだった。
それはともかくとして、まだ小さいとは言えフェンリルが人に懐くのは珍しいことであった。
そんな事を話しながらも調査を続ける一行であったが、成果は出ずに村へ戻る時間になったため調査を打ち切った。
----テンマ達の自宅にて----
家に帰って来た王様たちは、先に戻って来たエドガーさん達と情報交換を始めた。
「やはり、村でもここ数年で急に変化が起こっているようです」
「申せ」
エドガーさんの報告に王様が耳を傾ける。
「はっ、ここ数年で病気の感染者が増加しているようです。それと共に村の付近での魔物の目撃例が増えています」
その言葉をクリスさんが引き継ぐ、
「病気に関しては村で医療に携わっている者に聞いたところ、10年前と比べるとここ4~5年で2倍から3倍に増えているとの事です。魔物の方はゴブリンやスライムといったもので、中には村のすぐそばで見かけた者もいるようです。」
と報告した。
その報告に対しジャンが、
「しかしクリス、その二つは関係が無いのではないか?」
と聞いてきたがクリス達は、
「最初は私達もそう思っていたのですが、病気にかかった人の多くが森に頻繁に入っている者だったり、目撃した魔物を退治した事があった者だったりと、何らかの形で魔物に接する機会の多い者達が大多数を占めていたのです」
「さらに言えば病気は男性の方が多かったのですが、これはクリスが言った事を男性の方がする機会が多いから、かもしれませんが」
と報告した。
「そうなると大老の森に異変が起こっている可能性が高くなるか…。このことはハウスト辺境伯にも知らせて中央と連携を取り、調査を行い対策を練ることとしよう。皆ご苦労であった。リカルドとシーリアも協力感謝する」
「気にするな、俺達自身の為でもある」
「ええアレックス様、この人の言う通りです。自分達の村の為に自分達が動くのは当たり前です」
と笑いあっていた。
病気自体は今のところ大した事は無いが、村で体調不良を訴える人が増えたのは事実だ。悪化しない事を祈ろう。
このようにして報告会は終わり、本日は解散となった。
明日の昼前には王都に向けて出発するそうだ。その途中の街に寄って先行した(無理やりさせた)他の人達と合流するらしい。
この王様に振り回される人達の事を気の毒に思いながら、近衛の話を断って正解だったと思うのであった。
前書きでも書きましたが日間ランキングの10位に入っていました。
そのおかげかブックマーク数も急激に伸び1000件目前です(掲載するころには超えているかも、ですが)。
誤字脱字や文法間違いなどちょくちょく直したりしています、ご報告ありがとうございます。
国王の視察団ですが、本当は何十人も来ていますが、小さな村に全て連れていけないとの国王の判断により、少人数でお忍びという形でククリ村を訪れています。(そのせいでオークの群れに襲われました)
なお、名前の出て来た近衛隊長のディンは、王都に残り残った近衛隊を率いて良からぬ事が無い様にらみを利かせています。
護衛の近衛を率いているのは副隊長であるジャンです。
実は彼、副隊長でした。
この世界の貴族階級は、国王、大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、士爵があり、伯爵、子爵、男爵、士爵には名誉~爵、子爵、男爵、士爵には準~爵が存在する。
大公と名誉~爵は一代限りで、名誉~爵は領地を持てません。
辺境伯は侯爵と同じ階級で普通の侯爵より発言力は上です。
それと士爵の下に、騎士爵が存在しますが、これは騎士になれば貰えるもので大した権力はありません。
そんな設定でやっていこうと思っていますが、変更することもありえます。
これからもご愛読よろしくお願いします。