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第9章-7 鹿狩りと晩餐会

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。

「さて、と……大会の詳細が決まるまで、どうするかなぁ……」


 日取りが決まらない以上、出来る事は限られており、それも武器や防具の確認や体の調子を整えるくらいしか思いつかないのだが、それだけをして過ごすのも何か違う気がする。


「なら、ギルドに行ってみてはどうじゃ?どんな依頼があるのか覗くだけでも、暇つぶしにはなるじゃろう」


「それもそうだね。何か、面白そうな依頼があるかもしれないし」


 じいちゃんの助言に従って、俺はスラリン達を伴ってギルドへ向かう事にした。ちなみに、ギルドに同行するのは、スラリン達眷属のみだ(と言っても、ゴルとジルはいつもの様にバッグに引きこもっているが)。じいちゃんは今日も風呂を堪能する予定みたいで、着替えなどを準備していたし、アムールとブランカは、それぞれ大会の準備をするそうだ。それと、あの二人と俺が大会前に頻繁に会っているところを見られると、大会の公平性を疑われる可能性があるという事で、用事がない限りは子爵邸を訪ねる事を控える様にハナさんからも頼まれている。


「で、取り敢えず来てみたんだけど……人が多いな」


 ギルドは前に来た時よりも倍近くまで冒険者が増えており、かなり混雑していた。聞こえてくる話から推測するに、どうやら大会の噂を聞きつけた気の早い者達が、ナナオに集まってきているみたいだった。

 ギルドにいる冒険者は、南部自治区で活動していると思われる獣人が多くを占めていたが、中には人族やエルフと思われる者もいて、そのうちの何人かは俺の事を知っている様だった。

 時折指差されていたが話しかけてくる者はいなかったので、依頼書が貼られている掲示板へと足を進めた。掲示板の前には人集が出来ていたが、主に高ランクの依頼が貼られているところに集まっていたので、Cランクの依頼の前は思ったより少なかった。

 それでもあまりゆっくりとみられる状況ではなかったので、適当に目に付いた依頼書を剥ぎ取って、カウンターへと向かった。ちなみに、受ける事になった依頼は、鹿の魔物の調査と間引きを行って欲しいというものだった。

 鹿の魔物は数が多い上に食欲が旺盛らしく、放っておくと街の近くに作った畑までやって来て、作物を食い荒らしてしまうらしい。強さ自体はDランクの冒険者でも倒せるくらいらしいが、逃げ足が速い上に森の中で捜索するのが厄介だという事で、一つ上のCランクの依頼なのだそうだ。


 依頼を受けた俺は、早速森へと向かったのだが、森に到着すると意外な事が起こった。それは……


「ゴルとジルがあんなにはしゃぐとは、思ってもみなかった」


 これまでバッグに引きこもっていたゴルとジルが、大はしゃぎで遊びだしたのだ。

 二匹は森に着くなりバッグから飛び出して、木に登ったり、隣の木へ飛び移ったり、枝を走り回ったりして、なかなか戻ってこなかったのだ。幸い、俺から離れすぎない位置で遊ぶくらいの理性は残っていた様だが、それでもロックバードにゴルが攫われそうになった時は肝が冷えた。

 すぐに魔法で撃ち落としたので何事もなかったが、それでもゴルとジルは遊び続けていた。時々は森なんかで遊ばせないと、ストレスが溜まってしまうのかもしれない。

 二匹は一時間程遊びまわってから、ようやく俺の所へと帰ってきたが、すぐにバッグの中に引きこもっていた。やはり、二匹は基本的に引きこもり体質なのだろう。

 二匹が戻ってきてから鹿の捜索を始めたのだが、なかなか見つける事ができなかった。何度か『探索』で鹿を探してみたが、見つかるのは魔物ではない普通の鹿ばかりだった。まあ、鹿も害獣に指定されているそうなので、肉の確保を兼ねて間引きをしたが、魔物を相手にするつもりできていたので、物足りなさはあった。

 何度目かの『探索』を使いながら移動していた時の事、


「ん?」

「グルゥ……」

 

 不意に何かの気配に気づき、足を止めた。それと同時に、シロウマルが低い唸り声を出して臨戦態勢に入った。

 俺とシロウマルに気づかれて観念したのか、姿を現したのはデカイ鹿だった。


「あいつが今回の標的か……それにしてもデカイ。とてもじゃないけど、Dランクでも倒せる様な魔物じゃないぞ」


 独り言を言いながらも、俺は鹿から目を逸らさずに、いつでも魔法を放つ事が出来る様に態勢を整えていた。

 鹿はライデンより少し小さいくらいの大きさで、頭にはデカくて立派な角が生えていた。見た感じはヘラジカの様だが、角の先がやたらと尖っていたり、体の模様が周囲に同化する様に微妙に変化している事から、間違いなく魔物の様だ。


「『隠蔽』のスキルを持っているみたいだな。そのせいで、さっきから『探索』に引っかからなかったのか。シロウマル、あいつの後ろに回りこめ。周囲に他の個体がいるかもしれないから気をつけろよ。スラリンはシロウマルのフォローを頼む。ソロモンは空中から他に隠れている奴がいないか探ってくれ……行くぞ!」


「ガウ」

「キュイ」


 指示を出した後で、それぞれ行動に移った。鹿は俺達から逃げようとその場で反転したが、その巨体のせいで先にシロウマルに回り込まれていた。

 それで覚悟を決めたのか、鹿は身を低くしてシロウマルに角を向けた。俺の存在を忘れてしまったのか、それともシロウマルの方が危険だと思ったのかは分からないが、隙だらけで背中を向けているので、遠慮なく背後から襲わせてもらう事にした。


「ほいっと、隙有り」


「ボォ……」


 身を低くして角をシロウマルの方へと向けていたせいで、首が無防備になっていたので、背後からハルバードで首を一刀両断に切り落とした。鹿はシロウマルに威嚇しようとしていたみたいだったが、鳴き終わる前に命を失う事になった。


「ガウ……ガルゥ?」

「キュイッ、キュイッ!」


「ガァアアア!」


 出番のなかったシロウマルは、残念そうにしていたが、すぐにソロモンが何かを知らせる様に声を上げているのに気づき、凄まじい勢いでソロモンが示した場所へと突進していった。


「やっぱり他に仲間がいたか……スラリン、回収に行くぞ」


 目の前に転がる鹿の魔物を回収し、スラリンと一緒にシロウマルを追いかけていった。すると、しばらく走ったところに、シロウマルが仕留めたと思われる鹿の死体が転がっていた。それを回収して顔を上げると、数m先に鹿の死体が転がっているのが見え、そのまた数m先に鹿の死体が……といった具合に、鹿の死体が点々と転がっている。結局、回収した鹿の魔物は、俺が倒したのと合わせて六頭だった。

 シロウマルは最後の一頭のところでお座りして待っており、とても満足そうな顔をしていた。


「よくやった、シロウマル」

「ワウ」


「鹿はこれで全部か?」


 俺が指示を出す前に勝手に行動して鹿を討伐したシロウマルだが、あの状況だとすぐに追いかけないと逃げられていた可能性が高いので、今回はシロウマルのお手柄だろう。一頻り褒めた後で、他に鹿がいなかったか聞いてみたが、シロウマルは鳴き声とボディーランゲージで、いなかった、もしくは見つけられなかった、といった感じの報告をしていた。

 いくら『隠蔽』のスキルを持っていたとしても、臭いまで消す効果はないので、シロウマルの鼻を誤魔化す事は出来ないはずだ。なので、シロウマルの報告を信じ、ナナオに戻る事にした。念の為、シロウマルにはそこらの木にマーキングさせて、この辺りに強力な魔物が住んでいると思わせる事にした。これで一時の間は、鹿などの害獣やシロウマルより弱い魔物は寄り付かなくなるだろう。


 ナナオまでの帰り道、何か隠れていないか念入りに周囲を探ったが、見つかるのは普通の鹿ばかりで、シロウマルが少し威嚇しただけで、脱兎のごとく逃げていたので狩りはしなかった。


「すみません。この依頼に関しての報告があるのですが」


「お疲れ様です。何かありましたか?」


 ギルドに入ってすぐに受付へと向かい、依頼書を取り出して報告を始めた。幸い、依頼を受けるときに担当した受付嬢が空いており、向こうも俺の事を覚えていた様で、すぐに何か問題があった事を察してくれた。


「依頼書には、『Dランクでも対処可能な魔物だが、森の中での搜索なのでCランクとなってある』といった旨の説明が書かれていますし、実際にそういった説明を受けましたが、森にいた鹿の魔物で今回の依頼に該当すると思われる魔物は、Dランクでは対処が難しいと思われました」


 取り敢えず証拠として討伐してきた魔物を見せたいので、どこか魔物を出せる様な場所がないか聞いたところ、ギルドの裏手に解体所があると言うので、ギルドの幹部も呼んで確かめてもらう事にした。

 少し待たされてから解体所に行くと、俺達より先に細めの虎の獣人の男性が解体所にいて、副ギルド長だと紹介された。その他にも数人の職員もおり、何が出てくるのか興味深そうにしていた。


 副ギルド長立会いの元、先程討伐したばかりの鹿の魔物を全部出すと、副ギルド長を始めとした職員達は、「うっ!」といった感じの声を出して驚いていた。

 何せこの鹿の魔物は、『スピアーエルク』と言うBランクの魔物だからだ。常識的に考えて、Dランクの冒険者に対処出来る様な魔物ではない。しかも群れで行動していた事から、複数のAランク冒険者かBランク以上のパーティーに出される様な難易度の依頼だと思う。


「申し訳ありません!完全にこちらの落ち度です!」


 副ギルド長は依頼書の内容と目の前のスピアーエルクを見て、即座に頭を下げた。しかも、謝罪として無料でスピアーエルクと鹿の解体をギルドが行ってくれるそうだ。更には、ギルドに売るスピアーエルクの素材を通常の二割増しで買い取ってくれるらしい。

 いきなりの低姿勢と好条件に驚いた俺は、何か企んでいるのか?と思ったが、そんな俺の顔色を読んだ副ギルド長は、


「実は私、ハナ様の指名でここのギルドに勤めていまして……」


 この副ギルド長、ハナさんの遠い親戚筋らしく、昔からハナさんに頭が上がらない(と言うか、手下の様な扱いをされている)らしい。

 よほどハナさんが怖いのか、俺がその条件を受けると言うと、副ギルド長は安堵の表情を浮かべていたが……


「ふ~ん」


 突然聞こえてきた声に反応して、石像の様に固まってしまった。


「こういった事を未然に防ぐ為に、あなたを副ギルド長に推薦したのに、ミスしただけじゃなく、もみ消そうとするのね?」

「いえ、あの、もみ消そうとはこれっぽっちも……と言うか、なんでここに!」


 副ギルド長の質問に対し、ハナさんはニッコリと笑って、


「冒険者ギルドの様な組織に、私達側の人間を一人(あなた)しか送らないなんて事あると思う?」


 との事だった。誰かは分からないが、このギルドにはハナさんの送り込んだスパイの様な者がいるという事なのだろう。そして、そのスパイによって、今回の件がハナさんへと伝わったのだろう。


「取り敢えず、あなたとは一度話し合わないとね。今回はこの依頼を受けたのがテンマだったから事なきを得たけど……普通のCランク冒険者が受けていたとしたら、死人が出ていてもおかしくはなかったわね。ああ、この話(おしおき)はギルド長に許可を取っているから、何の心配もしなくていいわよ。さあ、行きましょうか?」


「いやだぁぁぁーーー!」


 副ギルド長は、悲鳴を上げながらハナさんに引っ張られて解体所から連れ出されていった。


「テンマ様、よろしければ今からでも解体を行えますが、時間は大丈夫でしょうか?それと、売却部位などの希望はありますでしょうか?」

「時間は大丈夫です。売却部位は……スピアーエルクはあまり美味しくないとの事なので、魔核と二頭分の毛皮以外は売却します。それと、ついでに鹿の解体もお願いします」


 解体所に残っていた他の職員は、副ギルド長が連れ去られたというのに少しも動揺する事なく、淡々と仕事をこなし始めた。

 流石に解体のプロ達が集まっているだけあって、巨体のスピアーエルクは瞬く間に解体されていった。スピアーエルクですらそうなのだから、鹿に至っては十分もしないうちに部位ごとに分けて机の上に置かれていた。

 結局、数人の職員の手により、六頭のスピアーエルクは一時間ちょっとで解体が終わり、十頭いた鹿は三十分もかからずにバラされた。


「こちらが買取金額になります。それと今回の謝罪意味も含めまして、テンマ様にBランクの昇格試験を受けていただく事も可能ですが、どういたしますか?」


 副ギルド長が退出した後で職員達を纏めていた女性が、俺にBランクの昇格試験を打診してきたが、少し考えてから今回は辞退した。

 女性は俺が辞退した事に驚き、その理由を聞いてきたので俺は簡潔に、


「俺は王族派に属しているので、昇格は王都で行いたいと思っています。恐らく今回の配達依頼と、これまでの功績があれば、王都のギルドでも昇格試験を受ける事は可能でしょうから」


 と言った。普通ならまだまだ経験が足りないと判断されるだろうが、それを上回る功績(武闘大会の優勝や、地龍の討伐にクーデター鎮圧など)を上げているので、王都のギルドも判断してくれだろう。と言うか、王家(特にマリア様)が推薦する、もしくはしていると思われる。

 女性はその理由を聞いて、俺と王家との関係を思い出したのかの様に頷き、納得していた。

 別に王族派だからといって、王都以外で昇格試験を受けても問題はないのだが、王家に報告を入れててから昇格した方が、俺が王族派だというアピールには効果的だし、何よりもその方が後々愚痴を聞かされなくて済む。主にマリア様の……


「それは災難じゃったのう」


 宿に帰り、じいちゃんに今回の依頼の事を話すと、じいちゃんは同情の言葉を口にしながら笑いを堪えていた。まあ、俺もじいちゃんの立場だったら、同じ様な反応をするだろうけどね。

 それと、今回の件で昇格試験を打診されたが断ったと言うと、今度は一転して真面目な顔で正しい判断だったと言った。どうやら、じいちゃんもマリア様や王様の愚痴を聞かされた時の事を想像したらしい。じいちゃんは、一時期教え子だった王様には強いが、あまり接点のなかったマリア様には流石に強くは出られない様だ。


「お話中申し訳ありません。ただいま、ハナ様からの御使者の方が見えられていますが、お通ししてもよろしいでしょうか?」


 二人で話をしている最中に、仲居さんがドアの向こうから声をかけてきた。ハナさんからの使者と聞いて少し違和感を覚えたが、許可を出して通してもらった。

 使者は予想通りブランカではなく(そもそもブランカだったら、仲居さんを通さずに直接ここにやってくる筈だ)、見覚えのあるが話した事のない子爵の部下で、内容はハナさんが謝罪を兼ねた晩餐会に招待したいとの事だった。元々、大会が終わるまでは、あまり合わない方がいいと言ったのはハナさん側だったが、今回のギルドの件が他の冒険者などにも知られてしまっているので、すぐに謝罪をしたという形をとりたいのだそうだ。その話を聞いて俺とじいちゃんは納得し、参加の意思を使者に伝え、時間を聞いて帰ってもらった。


「予定の時間までは、あと二時間か……結構急だな。じいちゃん、この場合、スラリン達はどうしたらいいと思う?」


「うむ……普通なら留守番させる方が無難じゃろうが、今回はスラリン達も被害者だと言えるから、連れて行っても問題はないじゃろう。ただ、許可が出るまでは、バッグで待機させなければならないじゃろうがな」


 との事なので、全員で向かう事にした。まあ、子爵家のトップ三人の内、アムールは眷属の同席に反対する事はないだろうし、ハナさんもスラリンを気にいっているみたいなので、連れて行くだけならロボ子爵も何も言わないだろう。そもそも、今回の晩餐会の主催はハナさんらしいので、スラリンを連れて行かない方が文句を言われそうだ。

 時間前には子爵家の馬車が迎えに来るそうなので(別に歩いて向かってもいいといったが、子爵家の面子もあるという事なので、数分くらいの距離だが馬車が用意される事になった)、急いで風呂に入り(シロウマルとソロモンも)、身奇麗にしてから時間までくつろぐ事にした。


「テンマ、マーリン殿、いきなりで申し訳ない」


 時間前にやってきた馬車で、数分揺られて子爵家に到着すると、入口で待っていたブランカに開口一番で謝られた。簡単に説明すると、今回の晩餐会は急遽開催が決まったせいで、ハナさんも準備が終わりかけた頃になってから、俺の予定を確認するのを忘れていた事に気がついたそうだ。

 さらに、前回に続いて俺が主賓となる事に、ロボ子爵はあまりいい感情を持っていないそうで、ブランカから、「兄貴がテンマに絡むかもしれないが、なるべく我慢してくれ」と言われた。

 今回の晩餐会で招待された俺は、王家の代理という側面も持っていると見なされる可能性がある為、俺とロボ子爵が喧嘩でもしようものなら、周囲に南部自治区が王家に喧嘩を売ったと思われてしまうかもしれないと言う事だった。

 これが俺とロボ子爵の個人的な喧嘩なら特に問題はないが(それでも、ロボ子爵の方が色々とダメージは大きくなるが)、これが王家の使者と南部自治区のトップという立場になると、そのまま王家対子爵家の戦争になるかもしれない。

 だからブランカは「その代わりに俺と義姉ハナさんが兄貴(ロボ子爵)の相手をする」と続けて言っていた。ちなみに、自分達が相手をすると言った時に、「兄貴は死ぬかもしれんが……仕方がない」とも言った。その時の犯人は、ほぼ間違いなくハナさんだろう。


「まあ、俺も肝に銘じておくよ。ただ、あまりにも度が過ぎる様だったら、途中で退席するからな。そして、そのまま南部を出ていく」


「頼む。寧ろ、そうしてくれた方がありがたい。それだと、最悪でも兄貴一人の犠牲で片が付く」


 ひどい言い方だが、ロボ子爵と南部自治区の大勢の命(サナさんの比重が大部分を占めているだろうが)を天秤にかけた場合、当然とも言える発言だった。俺も短気なところがあるので、本当に気を付けよう。


「こんなところで引き止めて悪かった。会場に案内するから、ついて来てくれ」


 少し話した後で、ブランカは自分の役目を思い出した様に俺達の案内を始めた。

 連れて行かれた場所は、前回ロボ子爵と面会した部屋ではなく、あそこよりももっと広い部屋だった。そこは宴会や祝賀行事などに使う場所だそうで、床には畳が敷かれていたが、立食形式のパーティーも出来るそうで、畳を除けると板張りの床が現れるらしい。


「テンマとマーリン殿の席は、上座の方に用意してある」


 ブランカは、一番奥のテーブルを指差しながら俺達を案内した。そのテーブルにはロボ子爵とハナさんが座っており、その近くのテーブルにはサナさんとアムールがいた。ブランカは俺達が席に着いた後でサナさんの隣に座り、それを見届けたロボ子爵がハナさんと共に立ち上がった。


「皆も聞いているとは思うけど、今回私の不手際で、王家の使者であるテンマ・オオトリ殿とマーリン殿……失礼、マーリン・オオトリ殿に不快な思いをさせてしまったわ。だからこの晩餐会は、両名に謝罪の意味を込めたものでもあるわ。本来ならばこういった席では無礼講でいくところだけど、そういった理由があるから、周りに迷惑をかけない程度に楽しみなさい」


「……これより、晩餐会を開催する。乾杯」


「「「「「乾杯っ!」」」」」


 こうして始まった晩餐会だが、その挨拶は少し違和感を覚えるものであった。最初にハナさんがじいちゃんの名前を言い直したのは、じいちゃんがハナさんを睨んだ(本人は否定するだろうが、かなり鋭い目つきだった)からだが、ハナさんのセリフの量に対して、ロボ子爵のセリフがかなり少なかった。恐らくだが、ハナさんが最後に言った『迷惑はかけない程度に』の時にロボ子爵をチラリと睨んだ(これも本人は否定するだろうが、周囲の温度が数度下がったと錯覚するくらい鋭い目つきだった)のが関係しているのだろう。

 つまり、ロボ子爵は何らかの企みを持っていたが、先にハナさんに釘を刺された為、簡単すぎる挨拶に終わったのだと思われる。恐らく碌でもない事を考えていたのだろう。

 何を考えているかはまだ分からないが、食事を美味しくいただける様な状態が続けばいいと思った。少なくとも、流血沙汰だけは止めて欲しい。食欲がなくなる……かもしれないから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 爺ちゃん...やっぱ譲れないもんな…いや怖いよ...
[一言] 食欲が無くなる『かも』しれないけど(笑)
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