第9章-2 ゴブリン狩りとシロウマル
本日二話目です。
「テンマ、あの山の手前にある村が今日の予定地だ。まだ日が暮れるにはかなり時間があるが、あそこを過ぎると後は野宿ばかりになる」
そう言いながら、ブランカが村を指差した。元々旅の休息地はブランカに一任していたので、俺はただ頷いてライデンを向かわせた。
ここまで来るのに二週間以上かかっており、そろそろ安全なところでゆっくりと休憩したいと思っていたのだ。ちなみに、ここはすでに南部自治区に入っており、セイゲンから旅の目的地まで、およそ三分の二の位置に存在している村である。
目的の村はあまり大きくないが、すぐ近くにある山が資源の宝庫なのだそうで、村にしては珍しく、冒険者ギルドが置かれているらしい。まあ、ここに来る冒険者は、駆け出しや低ランクの者達がほとんどらしく、ギルドと言う割には建物自体は小さいそうだ。その反面、馬車で来るものがほとんどなので、敷地は広いのだとか。
「村の入口はあそこか……おい、ブランカ。なんか、ガチガチに装備を固めている奴らが入り口を守っているんだが……お前、何かやったのか?」
「俺は関係ねぇ!……って、マジで物々しい雰囲気だな。少し話を聞いてくるから、入り口から離れたところに止めてくれ」
もしかしたら、ライデンを警戒しているかもしれないとの事なので、俺は入口から百m程離れたところでライデンを停止させた。
ブランカはライデンが止まるとすぐに馬車から降りて、入り口へと走っていった。入り口にいた人達は、初めは駆け寄ってくるブランカに驚いた様子で持っていた武器を向けていたが、すぐに武器を下ろして頭を下げていた。
ブランカはその人達に頭を上げさせると、時折俺達の方を指差して何かを話していた。そのうち、入口にいた何人かが村の中に走って行き、ブランカも馬車へと戻ってきた。
「何があったんだ?」
「ああ、どうやらこの村は厄介な事に巻き込まれているらしい。そのせいで、警戒が厳重になっているそうだ。そんな中で、魔物の様な馬が引く馬車が近づいてきたせいで、思いっきり警戒したそうだ」
厄介な事は気になるが、ブランカは予定通りこの村で休むと決めたそうだ。アムールがいるのにそう決めたという事は、そこまで危険ではないと判断したのだろう。
「取り敢えず、このまま村の中にライデンを進めていいのか?」
「ああ、中に入ったら、そのまま真っ直ぐ進んだところにある、赤い屋根の建物を目指してくれ」
「了解、っと」
ブランカの指示に従ってライデンを進めると、すぐに赤い屋根の建物が見えてきた。その建物はログハウスの様な建物で、入り口の上に『冒険者ギルド』と書かれた看板がかけられていた。
「馬車は、あそこの杭が打たれているところに停めてくれ。村長とギルド長から話があるそうだ」
「つまり、この村が抱えている厄介事の対処を、わし達に頼みたいという事じゃな」
「……すいません」
「まあ、いいさ。どうせブランカの事だから、俺達なら大丈夫と判断したんだろ?」
「我が家のブランカが申し訳ない。デキの悪い子なので、許して、ぐへっ!」
「テンマ達には本当に申し訳ないと思うが、お嬢に関しては思っていないから、調子に乗るな」
平身低頭して俺とじいちゃんに詫びるブランカの隣でアムールがふざけていると、案の定ブランカの拳がアムールの頭に落ちた。毎度お馴染みの光景だが、アムールはこの件に関しては本当に学習しない。
二人の漫才を見た後で、揃ってギルドへ入ってみると、一番大きなテーブルに二人の男性がいた。二人は俺達に気が付くと、すぐに立ち上がって頭を下げていた。
「こちらがこの村の村長で、その隣にいるのがギルド長だ」
村長と紹介された男は、頭がだいぶさみしくなっているが、その反面がっしりとした体つきをしている。その隣のギルド長は細身の男性で、少し頼りない感じがする。もしブランカに教えてもらわなかったら、二人の肩書きを間違えてしまっただろう。
「早速で悪いが、詳しい話を聞かせてくれ。俺も入り口のところで、魔物が山で大量発生しているとしか聞いていないんだ」
ブランカはそう言って話を聞こうとするが、俺達はそれすらも初めて聞いた。まあ、ここでその事を追求しても仕方がないので何も言わなかったが、俺とじいちゃんの視線に気がついたブランカは、またも頭を下げた。そして、アムールはまた何か言おうとしていたが、ブランカに口を塞がれていた。
「すまない。何分、村全体がバタバタしているのでな。大量発生しているのはゴブリンだ」
「ゴブリンが?」
ブランカの声に驚きが混じっていた。恐らく、ゴブリンが増えた事よりも、何故ゴブリンでここまで慌てているのかと思っているのだろう。
確かにゴブリンが大量発生したら、普通の村人だと対処は難しいだろう。だが、Cランク程度の力を持った冒険者が数人と、そこそこ戦える村人がいれば、ゴブリンの百や二百くらいなら対処可能だろう。
俺達が疑問に思っているのがわかったのか、今度は村長に代わってギルド長が口を開いた。
「確かにゴブリン程度にと思うでしょうが、そのゴブリンの群れが普通じゃないんです。確認されただけで数は五百以上。そして一番の問題が、その群れを率いているのが『ゴブリンキング』だという事です。しかも、他の上位種の存在が確認されています。こうなるとゴブリンといえども難易度は跳ね上がってしまい、最低でもBランク以上のパーティーが複数必要です」
なのでギルド長は、ロボ子爵が住む街に応援を頼んだそうだ。だが、応援が来るまで、早くてもあと数日はかかるそうで、それまでの間俺達にこの村に残って助けて欲しいそうだ。
「まあ、話はわかったけど……それだったら、俺達が討伐しに行った方が早くて確実じゃないか?」
ゴブリンが五百以上いるとしても、所詮はゴブリンだ。上位種のキングでも、ランク的にはB-くらいと言われているので、ここにいる四人なら問題なく倒す事が出来る……と言うか、群れそのものを壊滅に追い込む事も可能だろう。例え逃がしてしまったとしても、俺の『探索』を使えば探し出す事は出来る。
「確かにそうだが、問題はこの村の守りをどうするかと言う事だ。壊滅できたとしても、残党がこの村になだれ込んだら、被害が出る事は確実だぞ?」
「それは大丈夫じゃろう。テンマはゴーレムを何十体も持っておるし、スラリンやシロウマル達もおる。万が一に備えて、村人達には纏まって避難してもらい、その周りにゴーレムを重点的に配置すれば、守りは万全じゃろう」
「それと、村にゴーレム達の司令官としてスラリンを、遊撃にライデンを残せば、最低でも俺達の誰かが戻ってくる時間は稼げる筈だ」
「なら大丈夫か。村長、ギルド長、この村で全ての村人を収容できそうな場所は?」
俺達の会話に、村長とギルド長はポカンとした顔をしていたが、ブランカに話を急に振られ、一瞬言葉に詰まっていたが、この冒険者ギルドと近くにある集会場で、村の全員を収容できると言った。
「じゃあ、すぐに避難させてください。避難が完了するまでに準備を終えますから、それからすぐに討伐に向かいます」
そう言って俺達は冒険者ギルドを出て、馬車へと向かった。冒険者ギルドから出ると、先程まで見かけなかった村人達が何人か外にいた。どうやら、ライデンやシロウマルをひと目見ようと出てきたみたいだ。
「南部自治区だけあって、村人は獣人ばっかりだな」
「まあ、そうだな。もっと大きな村や街に行ったら、獣人以外も珍しくはないが、ここみたいな小さな村だと、昔から住んでいる者ばかりだからな」
村人達は俺達に気が付くと、軽く会釈をしていた。ブランカは村人の中に顔見知りがいた様で、事情を説明して避難を開始する様に言い、他の村人達にも伝える様に頼んでいた。
「それじゃあ、話し合いを始めようか。一応俺としては、スラリンとライデンを村に残し、ゴルとジルは馬車で待機。それ以外が討伐に向かうという感じで考えているけど、皆はどう思う?」
「問題はないだろう」
「そうじゃな」
「大丈夫」
ここは当初の予定通りとなった。ゴーレムに関しては、大型を八体、中型を十六体、小型を四十体出し、避難所の守りに回す事にした。これだけでも十分だと思うが、他に遊撃として中型を十体ずつ、村の中と外に配置し、全てのゴーレムに命令権一位を俺、二位をスラリンとして登録した。スラリンは二位となっているが、俺が討伐の為村を離れるので、事実上の一位である。これなら一位にしてもいいかとも思うが、俺を一位にしておかないと、追加したり直したりする時に手間が増えるので、誰かに命令権を与える時はいつもこうしているのだ。
スラリンは説明を受けると冒険者ギルドの上に登っていき、周囲の下見を始めた。この辺りでは、冒険者ギルドの建物が一番高いので、周囲を見渡すのに丁度いいのだ。
「そろそろ避難も完了しそうだな。じゃあ、ゴーレムを配置して村長達に挨拶をしたら、森に向かうとするか。皆、準備は出来てるな」
「もちろんじゃ」
「おう!」
「いつでも行ける!」
じいちゃんは、いつもの服装に愛用の杖を装備している。メンバーの中で、一番重量のある武器を持っているが、筋力的には何度振り回しても大丈夫だし(年齢を考えると少しおかしい気もするけれども)、飛空魔法で空から行くので、他のメンバーに遅れる事はない。
ブランカもいつもの軽装だが、武器は森の中で取り回しがしやすい様に、いつもより短い予備の槍を持ち、腰に俺が渡したショートソードを差している。ちなみに、ショートソードにはオオトリ家の家紋(ナミタロウ無しバージョン)が刻印されており、俺の関係者と分かる様になっている。なお、この刻印を許可なく勝手に使用したり、俺から渡された以外の何らかの理由で手に入れて悪用した場合、程度にもよるがかなり重い罰が課せられる場合がある。
アムールはいつもの虎装備に加え、俺が渡したショートソードとマチェットの二刀流で行くそうだ。愛用の槍は森の中で取り回しに難があるし、数本持っている予備の槍も長いので、今回は使用しないらしい。
最後に俺だが、いつもの防具ではなく、セイゲンで作ったチョッキの様な上着を服の上に着ている。このチョッキは、一見耐久性が低そうに見えるが、全体にバイコーンの革を使い、胸や背中の部分の内側に薄いミスリルの板を入れているので、実は並の鎧より丈夫だったりする。このチョッキには、いくつものポケットが内外にある為、そこに手裏剣を入れてある。そして、ベルトポーチとウェストポーチを装着し、そこにも手裏剣やクナイを入れてある。今回は前衛ばかりなので、俺はどういうスタイルでも対応できる様に、遠距離武器と魔法中心で戦うのだ。まあ、本音は手裏剣やクナイを実践で試したいからだけどな。
「それじゃあ、行くぞ。皆、群れの位置は覚えているよな。シロウマルは俺と群れの背後を回る。じいちゃんとソロモンは、空から群れに突っ込んで。ブランカとアムールは正面から頼む。順番はブランカ達が突っ込んだ後にじいちゃん達。その時点で、上位種は皆に襲いかかるか逃げ出すかのどちらかの行動を取ると思う。皆に向かった場合は、俺とシロウマルは雑魚を減らす事に集中するけど、逃げてきた場合は俺達が上位種を狙う。俺達が上位種を相手にしている間、皆は雑魚を減らし続けてくれ。上位種を全滅させた時点で群れは壊走を始めるはずだ。多少逃げるのは仕方がないが、絶対に上位種だけは見逃すなよ。それと、じいちゃんとソロモンは、間違っても広範囲の魔法は使わない様に。ゴブリンの代わりに、俺達がここら一帯を破壊したら意味がなくなるから」
「了解じゃ……」
「キュイ……」
派手に登場しようとでも思っていたのか、じいちゃんとソロモンは気落ちした様な声で返事をした。
そんな二人を無視する形で作戦の最終確認をし、俺とシロウマルは一足先に森の中へと足を踏み入れた。ギルドが確認したゴブリンの群れがいる場所は、村から五km程の位置にいるそうだが、俺の『探索』で調べてみると、ギルドが調べた位置より一km以上村の方へと近づいていた。しかも、木々を切り倒して集団で休憩できる様な場所を作っている。もしかしたらそこを拠点にして、今日明日にでも襲撃を仕掛けてくるつもりだったのかもしれない。
「シロウマル、少し遠回りになるけど、山を迂回して近づくぞ。予定していたルートだと、ゴブリンの斥候とかち合うかも知れない」
「ウォン」
少し遠回りで群れの背後に回ると、辺りが見渡しやすい場所に身を隠した。その場所で俺は、絶えず『探索』を展開する事にした。その情報によると、キングや上位種と思われるゴブリン達は、群れの中心に陣取っている様で、外に行くほど弱いゴブリンが多くなるみたいだった。
「来た!」
俺が呟くと同時に、空からじいちゃんとソロモンが降りてきた。流石に森の中での戦いなので、じいちゃんは火魔法を封印し、風魔法を連射していた。ソロモンは、じいちゃんの魔法の範囲外にいるゴブリンを狙い、上空からの急降下を繰り返してゴブリンを狩っていった。
ゴブリンの注意がじいちゃん達に向いた頃合で、今度はブランカとアムールが正面から襲いかかった。ゴブリン達は、背後を取られる形となり、ろくに反応できないまま数十匹が体をバラバラにされながら宙を舞っている。
このままじいちゃん達だけで終わらせる事ができるのかと思った瞬間、ブランカとアムールの動きが止まり、じいちゃんもゴブリンに囲まれ始めた。
「上位種が行ったか。それでも時間稼ぎにしかならないと思うけど……そういう事か。シロウマル、出番みたいだぞ」
「アウゥ?」
暇過ぎて、うつらうつらしていたシロウマルは、間抜けな声を出しながら立ち上がった。そんなシロウマルの背中を軽く叩きながら、俺はゴブリンの群れがいる場所を指差した。
「どうやら、キングはわずかな護衛を連れて、この場所から逃げるみたいだぞ。あの群れ全てを目くらましに使うくらいには、知恵があるみたいだ」
そう言った瞬間、数匹の上位種を連れた、一際大きな体をしたゴブリンが茂みをかき分けて姿を現した。
「シロウマル、挨拶をしてやれ。間違ってもここで……」
「グルゥ……グルアアアアァァァァ!!!」
村まで響けと言わんばかりのシロウマルの挨拶に、ゴブリンキング達は腰を抜かした様だった。キング達は、腰を抜かした状態で我先に逃げ出そうとして、仲間同士でぶつかったり、自分達がかき分けていた木の蔓にからまったりしていた。しかし、シロウマルの鳴き声で一番の被害を受けたのは、間違いなくすぐ横で聞かされる事になった俺だろう。さっきから耳鳴りに加え、頭がフラフラとして真っ直ぐに立っていられない。
「ううっ、足がもつれる……シロウマル、俺の真横じゃなくて、『あいつらの目の前で吠えてやれ』って言う前に吠えたな……」
「ク、ク~ンク~ン」
俺の指示を聞き終わる前にフライングしたシロウマルは、腹を見せて許しを請う様な声を出していた。
「シロウマル、帰ったらお仕置きな。ただし、倒したゴブリンの数で俺が負けたらお仕置きは無しだ!」
「ガ、ガウ!」
平衡感覚が戻ってきたところで、シロウマルに条件を出してからキング達へと突っ込んだ。シロウマルは仰向けになっていた事が災いして、俺よりスタートがかなり遅れてしまい、かなり焦った声を出しながら走り出した。
「まずは一匹!続いて二匹目!」
俺は、まだ腰を抜かしていたゴブリン目掛けて手裏剣を投げつけ、立て続けに上位種の命を奪った。シロウマルも俺に遅れて前足を振るい、一匹二匹と切り裂いていた。
「さてと、もう一匹は……おっと」
シロウマルの戦果を確認した俺は、もう一匹殺そうとしたところで大きく後ろに下がった。俺が飛び退いた場所には、大きな棍棒が叩きつけられて地面に穴を開けていた。
犯人はゴブリンキングだ。流石に他の上位種とは違う様で、いち早く体勢を立て直していたらしい。
「伊達にキングってわけじゃないか……それでも!」
キングは力任せに棍棒を引き抜き、もう一度振りかぶろうとしていたが、俺は素早く刀を取り出し、その腕を踏み込むと同時に切り飛ばし、返す刀で首を切り落とした。
「よし。これで終わりだな」
最大目標であるキングと、その取り巻きの上位種の討伐が終わったので、この群れはもう終わりだ。仮に残りを見逃したとしても、逃げ延びたゴブリンだけでは脅威になるほどの群れを作る事は出来ないだろう。
「シロウマルの戦果は……三匹か」
「オン!」
「じゃあ、引き分けか……残念だったなシロウマル」
「ワン?」
何で?といった感じのシロウマルだが、俺が負けたらお仕置き回避であり、『俺よりゴブリンを多く倒す事』がシロウマルに課せられた条件だったのだ。引き分けと言う事は、俺が負けたわけではないから、シロウマルはお仕置きの回避に失敗したというわけなのだ。
「ワ~~~ン」
シロウマルはその事に今気がついたという顔をして、森の中へと突っ込んでいった。恐らく、じいちゃん達に群がっていたゴブリンを倒しに行ったのだろう。
俺もキング達の死体を回収してから、急いで皆のところへと向かうと、そこには打ちひしがれた表情のシロウマルと、暴れまわってすっきりした表情の三人+ソロモンに、辺りを覆い尽くさんばかりのゴブリンの死体が俺を出迎えた。
「テンマ、シロウマルが落ち込んでるけど、何かあった?」
俺に気がついたアムールがトコトコと近づいてきて、シロウマルを指さしながら訪ねてきた。そこで、俺がシロウマルに出した条件の話をすると、じいちゃんとブランカはシロウマルに同情していたが、アムールとソロモンは笑っていた。
「グルゥ……グル?」
そんな二人に、シロウマルはジト目で睨んでいたかと思うと、何かに気づいて走り出した。
しばらくして戻ってきたシロウマルは、木の蔓を巻きつけたゴブリンの死体を引きずって来た。シロウマルが引きずってきたゴブリンの死体は一体であり、これで俺を上回ったという事だろう。それにしても、死体をわざわざ蔓を使って引きずってきたという事は、さすがのシロウマルでも汚いゴブリンは咥えたくはないという事なのだろう。
「しかし、あの声はやはりシロウマルだったか。一瞬、別の魔物が現れたのかと驚いたぞ。最も、俺達以上にゴブリンどもの方が驚いて、怯えていたがな」
ブランカは、楽しそうにゴブリンを虐殺していた時の事を話し始めた。
「テンマの方の話も聞きたいところじゃが、先にゴブリンの死体を集めた方がいいのではないかのう?ここにほったらかしにしておくと、別の魔物を引き寄せてしまうかもしれんぞ」
「二人共、さっさと働く!」
じいちゃんの言葉に、俺とブランカの話に加わろうとしていたアムールが、いち早くゴブリンの死体を集め始めた。そんなアムールに俺達は苦笑しながら、ゴブリンの回収作業に加わる事にしたが、いかんせん数が多すぎるので、ゴーレムを何体か出して手伝わせる事にした。
しかし、ゴブリンの死体を集めると言っても、肝心のゴブリンはかなりの確率で体をバラバラにされており、全てを拾い集めるのはかなりの手間だった。そこで、ゴブリンの唯一の素材とも言える魔核がある胴体と、討伐の証明部位である耳だけを重点的に集め、残りは適当に穴を掘って捨てていく事にした。これだけでもかなり楽になり、作業の速度はかなり上がった。
「そろそろ燃やすぞ」
「いつでもいいぞい」
全ての選別と回収が終わったので、穴に捨てられたゴブリンを魔法で燃やして処分していく。全てが灰になったところで、飛び散らない様に気をつけながら土をかぶせ、最後に水魔法で周囲を濡らした。これは、もし土の中で火が燻っていた場合、山火事になる可能性が出てくるので念を入れたのだ。
ここでやる事がなくなった俺達は、村に帰る事にした。そしてその帰り道に、予想だにしなかった事が起こるとは、この時誰も予想していなかった。
「生き残りがいたか」
そう、生き残ったゴブリンの一団と遭遇したのだ。その一団に一番最初に気づいた俺は、手裏剣を使って秒殺で壊滅させたのだが、壊滅させたゴブリンの一団は全部で十。つまり、俺はシロウマルに大逆転で数を上回ったという事になる。シロウマルが再び俺を上回るには、ゴブリンを十匹も探さないといけない事になる。
シロウマルはその事実にショックを受け、周囲の匂いを必死になって嗅いでいたが、俺の『探索』にはゴブリンの影も形も見当たらないので、ここら一帯に集まっていたゴブリンは、先ほどの一団が最後だったという事だ。
何を言ってもシロウマルはゴブリン探しを止めようとはしなかったので、最終的にあの一団は時間外での成果だとし、ノーカウントにすると俺が言った事で、ようやくシロウマルはゴブリンを探すのをやめたのだった。