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第8章-14 NGネーム

『異世界転生の冒険者』の二巻の出版が決定しました。

現在製作中で発売日などはまだ未定ですが、カバーのラフとキャラデザが届きましたので、みてみんにあげています。

 興味のある方は、のぞいてみてください。

 URLはこちらです⇒http://19542.mitemin.net/i251467/

「エイミィ、出てきていいよ」


 俺がディメンションバッグを開いて声をかけると、バッグの中からエイミィが出てきた。その後から、いーちゃんとしーちゃんも順に出てくる。エイミィをディメンションバッグに入れて、目的地まで運び、帰りも同じ方法で帰る事によって、エイミィが道筋を覚えられない様にしたのだ。これでエイミィが一人で二十階層まで来る事は出来なくなる。

 しかし、目的地のゴブリンの巣穴まで来たのはいいが、来た時に塞いでいた入り口が壊されていたので、エイミィを除いた面々で中を調べた為、少し予定が狂ってしまった。ただ、そのおかげで十分な安全は確保できた。魔物はいなかったが、『探索』でも見つけにくい毒虫が数匹見つかったので、それらを全て駆除し、確実に虫がいない空間を確保してエイミィを呼び出したのだ。ただ、魔物や虫ではないが、巣穴では予想外の生き物が一匹だけ発見された。しかし、こちらから手を出さなければ基本的に安全なので、今は放置している。


「ここがそうなんですか?とてもゴブリンの巣だったとは思えないですね」

「そうでもない。所々、ゴブリンの臭いが残っているところがある。特にあの穴の奥には行かない方がいい。多分、ゴブリン達の排泄所(トイレ)だから」


 エイミィの疑問に答えたのは、この場所に隠れていた生き物で、名前をアムールという。アムールが逃げたと聞いた時に、『探索』を使ってセイゲン中を探ってみたのだが、反応がなかったのでダンジョンにでも潜っているのだろうとは思っていたが、まさかこの場所にいるとは思わなかった。

 アムールが何故この場所を知っていたのかと聞いてみると、親方の工房で巣が二十階層にあると知ったので、俺の匂い(もしくはシロウマルやフラウの匂い)を追いかけたところ、急に途絶えている場所を発見したらしい。まあ、流石に匂いを辿って探したというのは嘘だろう。恐らくは、アムールから見て不自然な行き止まりを探したのだと思う。

 それはさておき、確かにアムールの指摘通り、だいぶ離れているというのに穴の一つからゴブリンの糞尿の臭いが微かに漂っているので、眷属化の前に消毒……この場合は焼毒を済ませる事にした。一応糞尿の臭いがする穴に向けて『探索』を使い、中に人や物の反応がないのを確認してから、『ファイヤーストーム』で奥の方まで燃やしていく。この時に一番気をつけなければならないのが一酸化中毒だが、皆には穴から一番離れた所に避難してもらい、さらに穴の周囲に水魔法で霧を出したので大丈夫だと思う。さらに霧を出したおかげで、糞の燃えかすが宙を舞って穴の外に出てきたとしても、霧に阻まれて外に広がる事はないだろう。最後に、霧を出している辺りの土で、排泄所にされていた穴を埋めれば完了だ。

 穴の処置に少々時間が掛かりはしたが、これで心置きなくクモの眷属化をする事が出来る。


「よし、おいで」


 クモ達の巣にしていたディメンションバッグを開いて声をかけると、俺に懐いていた二匹が近寄ってきた。そしてパスを繋ごうとするとクモ達も受け入れたので、無事に眷属にする事が出来た。ギルド長はかなり見たがっていたが、実際にやるとこんなものである。やっている本人である俺も、あっけないなと思うくらいだが、アグリは涙を流さんばかりに感動していた。突っ込みたいところではあるが、下手に声をかけると変なテンションのアグリに絡まれそうなので、皆見て見ぬ振りをしている。


「先生、残っている一匹は眷属にしないんですか?」


 エイミィはそう言って、バッグに残っていた銀色グモを抱えて(・・・)やってきた。クモは相変わらず俺に対しては警戒しているようだが、自分を抱いているエイミィに対しては何とも思っていない様だ。エイミィの後ろをついて歩いているいーちゃんとしーちゃんも、クモに対して興味津々の様で、時折顔を近づけて挨拶の様な事をやっている。なので、


「エイミィ、そのクモを眷属にしてみるか?幸いそのクモはエイミィに対して警戒心を抱いていない様だし、いーちゃんとしーちゃんとも相性は悪くなさそうだ」


「「へっ?」」


 俺の突然の提案に、間の抜けた声が重なった。一人は言われた本人であるエイミィだが、もう一人はテンションアゲアゲのアグリだ。恐らく、あわよくば自分が、とでも考えていたのだろう。


「別におかしい事じゃない。俺に懐かない以上、そのクモはダンジョンに放つか、素材として解体するかくらいしか選択肢がなかったんだ。だったら、エイミィが眷属にした方がいいだろう」


 俺の言葉を聴いて、少し考え込むエイミィ。アグリは内心エイミィに断って欲しいのだろう、先程から何かに祈る様なポーズをしている。


「分かりました。この子の面倒は、私がみます!」


 という事なので、エイミィの気が変わらないうちに、早速眷属化させる事にした。そして俺の思った通り、エイミィは難なくクモを眷属にした。


「名前はくーちゃんです!」


 ものすごく安直な名前の付け方だが、アグリを除くテイマーズギルドの面々は、なぜか歓声を上げながら拍手をしている。よく見ると、アグリも複雑そうにだが拍手はしていた。

 そしてひとしきり拍手が淡ると、今度は皆一斉に俺の方を見てきた。次は俺の発表の番だという事だろう。だが、俺は少しも名前を考えていなかった。なので、


「じゃあ、金さん銀さんで。長生きしそうだし」


「意味がわからんのじゃが……」


 じいちゃんの言葉に、皆一斉に頷いた。確かに俺にしかわからないネタかもしれないが、色からいって、二匹にぴったりの名前だと思う……が、スラリンが俺の目の前で、体をゆっくりと横に揺らして反対している。どうやらスラリンとしても、金さん銀さんはダメな様だ。ちなみに、この名前を付けられそうになっているクモ達はよく分かっていない様で、先程からシロウマルとソロモンに挨拶をしていた。


「え~っと、それじゃあ、ゴルとジルでどうだ?」


 とりあえず金と銀から連想する名前で、ゴールドとシルバーから取ってみた。半ばヤケクソで言ってみたのだが、今度の名前はスラリンとしてはセーフの様で、縦に体を弾ませていた。なので、クモ達の名前は、金色が『ゴル』で銀色が『ジル』で決定となった。

 じいちゃん達は今度の名前にも何か言いたそうだったが、眷属のまとめ役でもあるスラリンからOKが出たので、他の意見は全て無視した。

 眷属になったので、改めてゴルとジルの能力がどんなものか調べてみたが、どう見ても戦闘には不向きの様だ。


名前…ゴル

年齢…8

種族…ゴールデンシルクスパイダー

称号…テンマの眷属


HP…1000

MP…800


筋力…D-

防御力…C+

速力…B

魔力…D-

精神力…C

成長力…D

運…C


スキル…糸8・毒5・隠蔽4・魔力操作3


 ジルもゴルと同じステータスで、どうやらこれが二匹の限界値に近い様だった。ただ、スキルは今後の訓練次第で伸びる可能性があるので、ゆっくりと伸ばしていきたい。それでも大した戦力にはなりそうもないが、そもそも戦力は足りているので問題はない。


「いーちゃんとしーちゃんも、くーちゃんの事を歓迎している様です!」 


 エイミィは眷属の先輩であるいーちゃんしーちゃんが、新眷属のくーちゃんを受け入れた事が嬉しい様で、先程からテンションが高めである。そして、そんなエイミィとくーちゃんを、テイマーズギルドの面々は、興味津々の様子で眺めていた。


「アグリ、ちょっと」


 その中でも、一際真剣に見ていたアグリを呼び寄せると、少し嫌そうな顔をしながらも俺の呼びかけに応じて近づいてきた。


「なんだ、テンマ。私はくーちゃんを観察していたいのだが」


「それはエイミィが嫌がらない程度にしておけよ。俺はそれ以上は言わないから……まあ、それは置いといて、成り行きでエイミィの眷属にしたけど、あんだけ珍しい魔物だと、力ずくで物にしようとする奴が現れるよな?」


「まあ、それはそうだろうな。テンマが言いたい事は、私達にもエイミィに気をかけてくれという事だろ?それなら十分に気をつけるつもりだが、四六時中注意しているのは無理だぞ」 


 アグリは俺の言いたい事を即座に理解し、自分達の出来る範囲でならという事になった。今回の事は考えなしに提案してしまった事なので、エイミィには申し訳ないが、今になってアグリに渡した方が良かったのではないかとも思ってしまった。


「何体か、護衛用のゴーレムを渡しておくか……そこそこの奴が五体くらいあったら、助けが来るまでは持つだろうし……」


 流石に王族仕様の高性能ゴーレムを渡す事は出来ないので、普段俺が使用している中から、なるべく出来のいい奴を渡すかなと考えていると、


「それなら、アレックスに後ろ盾になってもらうといいぞ。普通なら批判も出るだろうが、セイゲンは王家の直轄地じゃから、領主のアレックスに頼むのは筋が通っておる。しかも、文献にもわずかにしか書かれていない様な、ある意味伝説的な魔物を眷属にした少女がいるから、助けてやってくれと手紙に書けば、アレックスの事じゃから間違いなく興味を持つじゃろう。まずは相談したいと書いておけば、誰かアレックスに近しい者が来るじゃろうて」


 という事なので、とりあえず手紙に書いてみる事にした。上手くいけば、かなり強力な抑止力になるだろう。ただ、それなりの代価がいるはずだから、あくまでも相談から始めるのだそうだ。そこから徐々にこちらに有利な条件を引き出していくつもりらしい。


「まあ、来るとしたらあの馬鹿(アーネスト)か、三男じゃろうから、交渉はしやすいはずじゃ。後、手紙にテンマのフルネームと家紋を付ける事を忘れない様にの。それがあるのとないのでは、内容の重要度に大きな差が出るからのう」 


 じいちゃんの話を聞きながら、俺は手紙を書いていく。あくまでも相談として書いているので、わざと詳しくは書いていない。


「こんなものかな?テッド、悪いけど大至急王都までこの手紙を運んでくれ。これをじいちゃんの屋敷か、騎士の詰所に持っていけば、王族まで届くはずだ。念の為、もう一通の手紙には、この手紙が何の為に書かれたものかの説明が書いてあるから、何かあったらこれを読ませてくれ。最悪、じいちゃんの屋敷の周りでうろついていれば、近衛の誰かが来ると思うから頼むぞ」


「近衛兵に捕まらんよな?」 


「その時は、アイナの名前を出せばいい。アイナだったらテッドの事を、俺の知り合いだと証明してくれるはずだ。依頼料は金貨三枚、それとは別に、何かあった時の為の一枚を先に渡しておくよ。食事や宿代に使ってくれ」 


「わかった。それより、金額が相場の倍近いがいいのか?」


 テッドの質問に構わないと返事を返すと、嬉しそうな顔でテッドはゴブリンの巣穴から出ていった。帰りの予定は四日後だそうで、トラブルがあったとしても一週間はかからないだろうとの事だった。

 それまではエイミィにくーちゃんの事は秘密にする様に言い聞かせ、五体のゴーレムを調整し、エイミィ専用にする事にした。

 最初のうちは、ゴーレムをプレゼントされた事に戸惑っていたエイミィだったが、くーちゃんの稀少性を詳しく教えると、戸惑いながらもゴーレムを受け取っていた。まあ、ゴーレムの核は古いものを再利用したので(自分の感覚としては)そんなに高価なものではない。その説明にエイミィは納得していたが、じいちゃんやアグリ達は俺をアホな子を見るかの様な目で見ていたのが気になった。だが、ゴーレムは全て自作したものなので、その価値は俺が自分で決めるものだと思う事にして、視線は全て無視した。


「もうここでやる事もないし、戻ろうか?」


 皆にそう言うと、サカラート兄弟を除いた全員が頷いた。二人は怖い目にあった場所だというのに、ここで鉱物の採掘をやりたいそうだ。元々二人がここに足を踏み込んだのは、採掘が目的だったので気持ちはわかるのだが、そろそろ二人が持っているマジックバッグやディメンションバッグの容量がいっぱいになる頃である。

 流石に二人が持ちきれない分を運ぶのは嫌だったので、二人だけ残して皆で戻ろうとすると、二人は慌てて採掘を打ち切り、俺達の後を追いかけてきた。やはりこの場に二人だけで残るのは嫌だった様だ。

 ダンジョンから出てアグリ達にエイミィの事を頼むと、俺とじいちゃんとアムールは親方の工房へと急いだ。タニカゼを親方に任せっきりにしていたので、俺がいない間に変な改造を加えられてしまったのではないかと、ダンジョンから出た瞬間に急に心配になってしまい、二人の事を忘れて全力で走ってしまった。

 流石に街中で飛空を使う事はしなかったが(違反ではないが、あまり褒められた行為ではない)、それでも馬が走るくらいの速度は出ていたみたいだ。すれ違う人が皆、揃って驚いた顔をしていたが、直ぐに遥か後方へと消えていった。


 ダンジョンから全力疾走を続け、およそ十分ほどで親方の工房へと到着したのはいいのだが、走りすぎたせいでまともに呼吸ができない状態だった。そんな状態で工房へと入ると、親方はやりきったといった様な笑顔で酒樽を抱えて寝ていた。

 嫌な予感がして、ほぼ組み立て終わっているタニカゼを見ると、見た目では変わったところを見つけられないが、周囲に何かの細工に使った様な残骸が転がっている。


「やられた……どこを弄られた?」


 外見だけでは、変わったところは見つけられないが、親方の事だから見た目ではわからない所に改造を加えている可能性が大いにある。なので、親方の抱えていた樽を蹴飛ばして起こす事にした。

 ちなみに、親方の弟子達はどうしているのかというと、全員が簀巻きにされた上、猿轡を噛まされて倉庫に転がされていた。弟子達は開放された時に、親方を怒りと恨みの篭った目で見ていて、今にも殴りかかろうとしていたのを止めるのは大変だった。


「なんだ!敵襲か!」


 そう叫びながらも、消えた樽を手探りで探す親方。どうやら寝ぼけている様だ。

 そんな親方の様子を、俺と弟子達は見下ろす様にじっと見ていた。しかし、親方は俺達には気がつかず、なぜか自分専用の机まで高速で這って行き、椅子を乱暴にどけた。俺達は、何か面白そうな事が起こりそうだと思い、親方に近づかずにそっと様子を伺う事にした。

 親方は椅子をどけた後、脇目も振らず椅子の下の床を弄りだした。すると、ガタッという音がして床の一部が外れた。 

 親方は、その外れた部分に上半身を突っ込むと、中で何か数えだした。数える事に集中している様だったので、ちょうどいいタイミングだと判断した俺達は、こっそりと親方の後ろまで近づいて、親方に声をかけた。


「何を隠してるんですか?」

「ぬぉおおおぁあああいだぁあああ!」


 驚かそうとしたこちらが逆に驚いてしまう様な叫び声を上げながら、親方は床下から慌てて体を出そうとして……思いっきり床の縁に頭をぶつけていた。

 しばらく悶絶していた親方だが、しばらくすると周囲を確認するだけの余裕が出てきた様で、涙目の状態で俺達を睨みつけていた。


「脅かしやがって!頭が割れて死んだらどうしてくれんだ!」

「いや、親方が勝手に驚いただけだし。そもそも、普通に声をかけただけでそこまで驚くなんて、何かやましい事でもしてたの?」


 普通に声をかけた俺達は悪くないと言い続けていると、親方もそれ以上責める事はできなかった。何せ、半分寝ぼけていた親方は、俺達がわざとやったという確証はないのだ。そもそも俺達にしても、声をかけただけで親方があそこまで驚くとは思ってはおらず、完全に予想外の出来事であったのだ。つまり事故である。


「くっ……仕方がない。とりあえず、隣の部屋でゆっくりと話そうか」


「別にここでいいよ。タニカゼに何をしたのか聞きたいし、そこの床下にあるものも気になるし」


 親方は自然な流れで工房から俺達を引き離そうとしていたが、俺はそれを固辞し、工房での話し合いを続けようとした。何せ、俺の本命は床下の物ではなく、タニカゼに施された細工の方なのだ。なので、この場で問いただす方が都合がいい。


「ちっ」


 舌打ちをしながらも、穴を隠す様に俺達の前に立つ親方。そのままにらみ合いが続いていた時、不意に工房の扉が乱暴に開け放たれた。


「む~」


 そこにいたのは、頬を膨らませ、いかにも不機嫌ですといった感じのアムールだった。


「今だ!掛かれっ!」


 皆がアムールに気を取られた隙に、いち早く行動に移ったのは弟子達だった。いつもなら全員でかかっても、まとめて親方にやられるだろうが、今回は上手く不意をつけた様で、親方は弟子達に押されて穴の前からどかされていた。


「あっ、ちょっと待て」 


 親方は弟子を押し返そうとするが、弟子達の勢いを止める事はできず、弟子の一人に穴を探らせる時間を与えてしまった。


「うわぁ……」


 穴を覗き込んだ弟子が、呆れた様な声を出して他の弟子と交代した。そして、交代した弟子も、同じ様な声を出している。親方はすでに観念した様におとなしくなっていたが、まだ何をするのかわからないので、弟子達が交代で両脇に控えている。


「中に何が……うわぁ……」


 弟子達が見終わったので、今度は俺も覗いてみたが、やはり同じ様な声しか出なかった。


「酒、酒、酒、酒、酒、酒、お金……このお金も、酒の購入代だとしたら、中身は全て酒なのか。それ以上に、この壁がすごいな……呆れるほどに」


 まあ、ドワーフなので中身が酒一色でも驚く事ではないが、その酒を守る為なのか、壁を全てオリハルコンで作っている事に驚きを隠せなかった。しかも、魔法で探せなくさせる為の魔法陣まで彫ってある。この魔法陣は、しっかりと覚えておいて、今度使ってみようと思う。

 しかし、酒を守るために、二m(縦)×二m(横)×一m(高さ)のオリハルコン製の金庫を作ってしまうあたり、ドワーフの……というか、親方の酒への執念は恐ろしい。


「親方……材料の代金を払えないとか言って、この間喧嘩になってましたよね?」

「酒場のツケも、俺達が必死になって捻出したんですけど?」

「ここにある金だけで百万Gはありますけど……あの時の俺達の苦労はなんだったんすか?」


 変なところに感心していた俺と違い、弟子達は怒り心頭の様子だ。まあ、聞いた限りでは無理もないと思う。俺も、じいちゃんがそんな事をしていたら、間違いなく切れているだろう。

 その後、親方と弟子達のガチンコバトルが始まったが、大して興味がなかったので割愛しておく。ちなみに、最後は壮絶な殴り合いの末、衛兵の乱入によるノーコンテストだった。


「現時点でタニカゼは、ほぼ完成しているみたいだから、持って帰るか……これ以上弄られたらたまったもんじゃないし……」


 実際に触ってみても、流石に内側の奥の方まで弄られていないかを確かめる事ができなかったので、じっくりと調べてみる必要がある。

 なお、かなり不機嫌だったはずのアムールは、親方達の乱闘のせいで気が削がれたようで、焼き菓子一つで元に戻っていた。


「帰るか」

「ん」


 俺とアムールは、衛兵に怒られている親方達を尻目にアパートへと戻ったのだが、この時のアムールは大事な事を忘れていた。そう、ブランカから逃げ回っているという事に……

 アパートに戻ったアムールは、待ち構えていたブランカにより捕縛され、縛られた状態でアパートに監禁されてしまった。


「テンマ、助かった」

「むごっ!もごごご!」


「いや、別にブランカの手助けをしたわけじゃないから……」 


 ブランカは俺がアムールを連れてきた事に感謝し、アムールは俺にはめられたと勘違いして、猿轡を噛まされたままで何か叫んでいた。一応違うと否定はしたのだが、結果的にはアムールをはめる形になってしまったので、心が少しだけ傷んだ……最も、俺もじいちゃんの存在を忘れ、馬車に鍵をかけて早々に寝てしまった為、次の日じいちゃんに平謝りする事になってしまった……

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