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第8章-10 タコの価値

「食べるのをあれだけためらっていたのに、散々食いやがって」


「そう言うなって、あんなのを初見で食べれる方がおかしんだよ」


 タコの試食から数時間後、俺は大事を取って湖には潜らず仕分け作業をやっていた。ジン達も引き続き作業に参加しているが、大まかな種類分けが済んでいるので作業速度自体はゆっくりとしたものだ。俺の独り言に言葉を返したジンは、小物の仕分けを担当している女性陣のところへものを運んでいる最中に俺のところへ近づいたらしい。半ば休憩のつもりなのだろう。ちなみにガラットとブランカは、ジンと同じくものの移動作業中で、じいちゃんは水魔法を使って武器や防具の汚れを落としている最中だ。スラリン達はお昼寝の真っ只中である。


「第一、タコは基本海の生き物なんだろ?リーナはしらんけど、俺やガラットにメナスは内陸産まれの内陸育ちで、その上ダンジョンを主体に活動しているんだぞ。タコを知らなくても仕方がないだろうが」

 

 ジンの言っている事には一理あるけど、それと俺の作ったタコ料理を毒物のごとく扱ったのには関係がないと思う。その事を突っ込むと、あからさまに誤魔化そうと顔を逸らして口笛を吹き始めた。そんなジンを俺がジト目で見ていると、耐え切れなくなったのか話題をそらそうとしてきた。


「それにしても、よくもまあこれだけ見つけたもんだな。何十年前のものだ、っていうのがゴロゴロとありやがる」


 そう言いながら、ジンがつまみ上げた首飾りは、じいちゃんに言わせると三十年程前に流行したもので、今ではあまり見かける事がない造りだそうだ。ただ、これらの大半は冒険者が身に付けていた物なので、宝石などは付いてなく、サビなどでボロボロになっているので、ほとんど価値が付かないだろうとの事だった。まあ、中には状態のいい物もある様なので、綺麗にすれば物好きな好事家が欲しがる物もあるかも知れない。ちなみに、ジン達(特に女性陣)の報酬にどうかと聞いたが、誰一人として欲しがらなかった。

 ジン達が欲しがらなかったものは、金属の種類ごとに分けて置くように指示した。暇な時にでもガンツ親方に相談して、溶かして使えるものはインゴットにでもしようと思う。


「そろそろ俺達は上に戻るけど、テンマはまだここに残るんだろ?」

 

 仕分けがほとんど終わった頃、ジン達が地上に戻る時間がやってきたらしい。元々ここに来たのはじいちゃん達を案内するだけの予定だったので、短時間だけ滞在するつもりだったらしい。


「まだまだ探る場所が残っているからな」


 実際、まだ半分以上残っているのに、今日の怪我や予想外の視界の悪さのせいで、予定ギリギリどころかオーバー気味だ。明日から駆け足で探らないと間に合いそうにない。


(まあ、多少無理をすれば、もっと効率よく探れそうなんだけど……やりたくはないな……)


 効率の事を考えれば、『探索』を使えば済む事だ。だが、それをすると一つ問題が出てくる。それは、ひどい頭痛に襲われる事だ。

 『探索』で探し物をしようとすると、どうしても頭の処理速度が追いつかなくなる。しかも、どこにあるか分からない物を探そうとすると、細かいところまで調べなければならないので、その分だけ脳に負担が行く事になり、度を過ぎると痛みに変わってくる。オンラインゲームなどをする時に、スペックの足らないパソコンで遊ぼうとすると、動きが止まるかとても遅くなってしまうのに近い症状だと思う。しかも、この湖には『探索』に引っかかる小さな生き物が多いので、さらに負担が上乗せされてしまう。これまでも、負担の大きくなる使い方をして、頭痛に苦しんだのは一度や二度ではない。

 これだけ聞くと使い勝手の悪い能力の気もするが、いつもみたいに限定的(狭い範囲での使用や既に認識しているものの捜索、もしくは大雑把な捜索など)に使うのなら何も問題はない。


「そうか、まあ頑張れよ」


 この湖から一番近いワープゾーンは上の階にあるので、ジン達はそこで地上に戻るそうだ。それぞれ俺からの報酬をちゃんと忘れずに持って行った様だ。ちなみに、俺は四人が何を選んだのかほとんど知らない。知っている事といえば、仕分けの時にめぼしいナイフや剣を見比べていた事と、誰一人として装飾品を選ばなかった事くらいである。


「じいちゃんはどうするの?」


「わしか?わしは残るぞ。結界の練習もしたいし、何より暇じゃしの」


 じいちゃんは最初からここで過ごす気だった様で、馬車も回収してきているそうだ。


「私も残る」


「お嬢が残る以上は、当然俺もだな」


 結局、ブランカ達も残る予定だったらしい。アパートには鍵をかけ、エイミィに預けてきたそうだ。

 俺達が揃って留守にするという状況は、よからぬ事を考えている奴からしたら千載一遇のチャンスかもしれないしな。最も、アパートには何も残してきてはいないそうなので、空の宝物庫に忍び込む様なものだな。そして何も盗っていないのに、犯罪者として俺達に追われる事になる、と。まあ、じいちゃんが何か泥棒対策をしてきたそうなので、それから逃げられたらの話だな。

 

 ジン達が帰ったあとで、俺達も野営の準備の為に上の階に行こうとしたが、四人もいるのだから湖のそばで野営するのもいい経験になるだろうとじいちゃんが言うので、湖からなるべく離れた壁際に野営地を築く事になった。ついでに休憩中の見張りの順も決めた。順番は三交代制で、俺(スラリン+シロウマル+ソロモン)、ブランカ、じいちゃんとアムールの順だ。これは、俺とアムールが水辺での野営の経験が無いので、負担の少ない最初か最後に回り、さらに俺にはスラリン達をつけて数を増やし、アムールには経験豊富なブランカがつく事で不足を補う作戦だったが、ブランカがアムールの付き添いをじいちゃんに頼んだ為この様な順番になった。なお、ブランカがじいちゃんに頼んだ理由は、「同じ奴ばかりだと、知識が偏りそうなので」だった。

 アムールは俺と組むと言っていたが、経験豊富な二人が理論的に論破した為、最後には頷いていたが、俺の順番の時にこっそりとシロウマルを枕にして寝ようとしていたので、ブランカとじいちゃんに馬車へと引きずられていった。

 ちなみに、ブランカと交代する時に、俺は何か嫌な予感がしたので馬車の中には入らずに、馬車の後ろでシロウマル達に囲まれて寝た。しかも、ブランカにアムールと交代する時に起こしてもらい、それから馬車の中で寝るという事までした。朝起きた時、完全に寝不足のアムールに文句を言われたが、ブランカにお前が悪いと怒られていた。

 

 その日、アムール以外は朝食後にそれぞれ昨日の続き(俺はミスリル探し、じいちゃんは結界の練習、ブランカは仕分け)だ。ちなみに、スラリンとソロモンは散歩、シロウマルはアムールの抱き枕となっている。

 

「今日はいつもより警戒を強めるか」


 昨日の続きとなる所に潜った俺は、昨日の教訓を生かして『探索』の範囲を倍近く広げた。倍と言っても、俺を中心として二十m程の広さで、範囲内に存在する三m以上の大きさの生き物が反応するくらいの精度なので、大した負担にはなっていない。本当ならもっと小さな生き物に反応する様にした方がいいのだろうが、あまり精度を高めるのも良くないので、昨日のタコの強さを基準として三m以下なら不意打ちを受けても危険は少ないと考えた為だ。


「まあ、あんな大きさの生き物がゴロゴロいたら、流石にギルドが把握してないという事はないだろうけどな」


 という訳で、俺は警戒しつつも湖の底を歩き回った。時折へしゃげた防具が見つかったが、タコの姿は見る事はなく、浅場まで来たところで午前の活動を止めて皆の所へ戻った。


「まだアムールは寝ているのか」


「起こした方がいいかのう?」


「飯の匂いを嗅げば、自然と起きるだろう。ギリギリまで寝かしてやってくれ」


 保護者であるブランカがそう言うので、俺とじいちゃんはなるべる大きな音を出さない様にした。最も、ブランカの言った通り、俺が食事の準備を始めるとすぐに目を覚ましていた。

 食事を終えて、それぞれが軽く休憩を取っていると、何やら上の階から慌てた様な足音が聞こえてきた。これだけの足音に気がつかない俺達ではない。すぐに休憩を止め、各々の武器を取り出して構えて、近づいてくる者達に備えた……まあ、すぐに『探索』でその正体を調べたので、危険性は低いのがわかっていたが、万が一という事もあるので皆には内緒にしていた。


「ギルドの者でーす!攻撃はしないでくださーい!」


 足音の正体は、セイゲンの冒険者ギルドの職員達だった。五人ほどいるが、全員見た事がある人達ばかりで、そのうちの一人はギルド長だった。


「急に来てすまんな。先ほど『暁の剣』がある情報を持ってきたので確かめに来たのだが……この湖で、未確認の魔物を討伐したというのは本当か?」


 何でも昨日帰ったジン達が、朝方にやってきて換金のついでにタコの情報を教えたそうだ。その時はたまたまギルド長が外出していたので直ぐに来る事が出来ず、先程になってギルド長が知ってすぐさまやって来たらしい。ちなみに情報源のジン達は、ギルド長が帰ってくる前に依頼で街を出ていったらしい。


「コイツの事ですか?」


 俺は足が二本欠けたタコを取り出して、ギルド長達の前に出した。


「おお、これがそうか……実は、こいつは新種の可能性があるので、すまんが少し記録を取らせてもらうぞ。もちろん、先に情報料や迷惑料は払う。それと、場合によっては胴体だけでも売ってくれ。王都に送らなければならないかもしれんのでな」


 そう言ってギルド長は、懐から金貨を三枚取り出した。俺はそれを受け取る前に、いくつかの条件をつけた。それは、記録のついでに解体の手伝いと、棄てようと思っていた内蔵の買取などだったが、ギルド長からすれば渡りに船だそうで、すぐに了承していた。

 その後、ギルド職員達と一緒にタコの記録と解体を進めていった。


「改めて見ると、バカみたいにでかいタコだな」


 見た目こそ俺の知っているタコだが、大きさは桁違いだ。まず、頭(正確には胴体)だけで三m半はあり、その下には四十cm以上ある目玉、足は長いもので十m程、足の間にある口は六十cmはあった。

 驚きの記録ばかりだが、中でも一番驚いたのは、カラストンビとも呼ばれる嘴だった。なんと、記録を取る為に触っていた職員の指が、不用意に触った瞬間にパックリと裂けてしまったのだ。大して力は入っていなかったはずなのに、その傷は骨に達するまでの深さがあった。すぐに魔法で治療したので大事無いと思うが、その切れ味は熟練の職人が作った刀にも引けを取らないだろう。しかも、少なくとも魔鉄以上の硬さを持っていると思われる(胃袋から食いちぎられた様な魔鉄製の防具のかけらが出てきた為)ので、もしこれで噛まれてしまったら、足の一本や二本は簡単に食いちぎられる事だろう。タコやイカなどは、獲物に対して足を広げて包み込む様に捕食する事が多いので、ある意味運が良かったと思う。

 その後の調査でタコの頭から魔石が見つかり、正式に魔物と認定されたので、これから王都に報告書を送るそうだ。王都にある魔物を管理している部署で調べられて、そこで新種と認定されると初めて他の冒険者ギルド支部へと通達されるそうだ。ちなみに、胴体部分(目の辺りも含む)の値段は50万Gで、新種と認定されるとさらにギルドから50万Gの追加と、王都の部署から50万Gの報奨金が支払われる事になるらしい。


「報奨金より、ミスリルが欲しいな……」


「ん?何だ、現物支給の方がいいのか。掛け合ってみるぞ」 


 俺の呟きを拾ったギルド長が、ありがたい事を言ってくれた。そして、セイゲンギルドからの支払いも、ミスリルでしてくれる事になった。本音を言えば、ギルドに保管されている残りのミスリルも売って欲しいところだったが、鍛冶師との契約などがあるので無理との事だった。ただ、王都のギルドの方に、余っているミスリルがないか聞いてくれるとの事だ。一応上限を百kgまでとして、欲しかったら追加で注文する事になる。

 本来なら、個人がギルドを商店の様に扱う事は出来ないのだが、俺の場合は『オラシオン』としても活動していたし、地龍などを狩った事でそれなりに優遇してもらえるだろうとの事だった。


 それからしばらくしてギルド長達はギルドへと戻って行き、俺達は活動を再開した。再開から滞在予定の期限までは特にハプニングが起こる事はなく、無事に湖の探索を終える事ができた。

 最終的に湖だけでミスリルを二百五十kg近くまで得る事ができ、予想以上の結果となった。やはり、タコの寝床らしき場所を見つける事が出来たのが大きかった。

 あのタコは、捉えた獲物を自分の寝床まで持って行って食べていたらしいのだが、噛み砕く事の出来なかったミスリル製の武器や防具が寝床の近くに転がっていたのだ。その場所だけで、ミスリルが百五十kgは見つかった。これでミスリルの合計があと少しで五百kgを超えるので、ほぼ目標の半分まできた事になる。妥協するのなら、明日からでも作業に入る事ができる。

 ただ、ここまで来たら妥協するのは勿体無い。このペースでミスリルを見つける事は難しいだろうが、今のところセイゲンから離れる予定がないので、ゆっくりと集めていけばいいと思っている。


 そんな事をじいちゃん達と話しながら帰ると、何故かアパートの入り口付近に人だかりが出来ていた。不思議に思いながら、人だかりをかき分けてアパートへと向かうと、そこには縛り上げられて逆さ釣りにされている男女数名と、逆さ釣りの男女を守っている数体のゴーレム達、そしてセイゲンの衛兵達がいた。

 正直、嫌な予感しかしない。だが、近づかない訳にもいかない。そんな風に戸惑っていると、俺達に気がついたエイミィとアリエさん達がやって来て、今の状況を教えてくれた。

 何でも今日の昼過ぎくらいに、あの逆さ釣りにされている男女数名が俺の部屋に忍び込んで空き巣を働こうとしたところ、じいちゃんが仕掛けていたゴーレムに捕まり逆さ釣りにされてしまったそうだ。そこから騒ぎが大きくなり、衛兵達が駆けつけてきたのだが、ゴーレム達は衛兵が近づくと攻撃しようとしたそうだ。恐らく、空き巣を助けようとした仲間と判断したのだろう。今は距離を取って睨み合いになっているらしい。

 今の時間帯は、そろそろ暗くなろうかという頃なので、あの空き巣達が逆さ釣りにされてから五~六時間は経っていると思われる。流石に空き巣の命が心配になる時間だが、エイミィが確認したところ、一時間前まで悪態をつくだけの元気があったそうなので、大丈夫だろうとの事だった。ちなみにじいちゃんがエイミィ(やアリエさん達)に危害を加えない様にゴーレム達に命令していたので、近づいても危険はないそうだ。ただし、エイミィが空き巣を助ける様な行為(縄を緩めるなど)をした場合、ゴーレムはやんわりと止めに入るらしい。まあ、流石に最初は地面に下ろそうとしたそうなのだが、空き巣がエイミィに対し暴言をはいた為、エイミィもアリエさん達も最低限の確認しかしない様にしたそうだ。


「あんな状態なのに、やたら元気だな……あいつらは解放したら、いずれ報復しに来そうだな」

 

 空き巣と言っても、人が現行犯で捕まえたわけではないので、罰金か軽い罰で出てきてしまう可能性が高い。しかも、当の本人達はどう見ても反省している様には見えなかった。まあ、ゴーレム相手に完敗している奴らが報復に来たとしても、俺達相手に危害を加える事ができるとは到底思えないが、エイミィ達が狙われた場合、完全に守りきれるとは限らない。

 なので、少々怖い目にあってもらう事にした。幸いな事に、ジン達相手に何回もやって経験済みなので、多少の心得はある。それに、そういった事が得意そうな人物が二人もいるし、俺が回復魔法を使え、薬も種類が揃っているので、そう簡単に死ぬ事はない……筈だ。

 俺は軽くじいちゃん達と打ち合わせをして、ゴーレム達とにらみ合っている衛兵に話しかけた。最初のうちは、拷問まがいの事をするという俺の提案に難色を示した衛兵達だったが、未だに空き巣は俺達が確保している上に、王様からもらった王家の家紋や、サンガ公爵家とサモンス侯爵家の家紋をまとめて見せると、快く知らないふり(・・・・・・)をしてくれる事となった。

 事が済んだら、必ず衛兵の詰所へと空き巣達を連れて行くという約束をして、衛兵達には帰って貰う事になった。

 これで邪魔者はいなくなった。さあ、お楽しみの時間だ。

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