第8章-7 湖
今月の十日に、書籍版「異世界転生の冒険者」が発売されます。書籍版にはWEB版を改稿したものに、追加ストーリーと書き下ろし番外編が加えられております。
また、とらのあな様購入特典として、SS付リーフレットが数量限定で配布されます。
これからはWEB版と共に、書籍版もよろしくお願いします。
「スラリン、シロウマル、敵が来たら相手を頼む。ソロモンは俺の手伝いな」
「わう」
「キュー」
現在、俺達はダンジョンの三十二階層に潜っている。ちなみに、俺と眷属以外はいない。じいちゃんはアグリと約束があり、ブランカはガンツ親方のところへと行っている。アムールは俺についてこようとしていたが、ブランカに引っ張られていった。何でも大会で使っていた武器のストックが切れたそうなので、親方に作ってもらう約束をしていたそうだ。その約束の日が今日だったらしい。なので、久々に俺達だけで採集作業に来ているのだ。
役割は俺とソロモンが採集で、スラリンとシロウマルが採集中の護衛だ。ソロモンはダンジョンではあまり戦える(飛び回れる)ところが少ないので、俺とペアを組んでいる。採集自体はスラリンも出来るのだが、それだとソロモンの仕事がなくなる為、この様なペアとなったのだ。なお、ソロモンの仕事は、俺が砕いた岩を集める係である。
これを繰り返しながら、朝からダンジョンに潜っているのだが、お目当てのミスリルはあまり見つかっていない。重さにして一kgいくかいかないかだ。本来ならこの量は大量と言っていいくらいだが、俺の目的からすると微々たる量である。
「もっと下の階じゃないとダメかな……魔物の素材もめぼしい物は無かったし」
採掘中も休憩中も、シロウマルを恐れてか正面から襲ってくる様な魔物は姿を現さなかった。例外は虫系の魔物かこちらに気が付かずに遭遇した魔物くらいで、どちらもスラリンとシロウマルの敵ではなかった。ただ、魔核はそれなりに集まったので、そこそこの儲けは出そうだ。
「よし!人が来てなさそうなところを目指して、下の階にいこうか!」
その後、下の階を目指して進んだのはいいが、大してミスリルを見つける事はできなかった。流石にこの辺りの目星いところは、すでに粗方掘られている様だ。
「ミスリルはそうそう見つかるもんじゃないな……魔鉄は結構見つかったけど」
ミスリルは二kgも見つからなかったが、魔鉄は五十kg近く見つかった。半日以上潜って、魔鉄五十kgは大量だろう。市場価格はミスリルと比べて大きく下がるが、需要としてはミスリルを上回っている。何故ならミスリルの製品は高く、ベテランの冒険者でも手を出しにくい金額になる事が多いが、魔鉄製の武具のほとんどは、初心者でも無理をすれば届くくらいの値段だ。
「とは言え、魔鉄も色々と使えるから、売らずにバッグに保存しておくか」
今のところ金に困っている訳では無いので、別段売る必要の無いものは取っておいてもいいだろう。マジックバッグは神達から貰ったやつも含めて、まだまだ余裕があるし、必要ならまた作ってもいい。
「そろそろ戻るかな……ん?」
今から帰ろうかと準備を始めた時、こちらに向かって来ている者がいる事に気が付いた。しかし、シロウマルが大して警戒していないので、不思議に思って『探索』を使って調べると、全員俺達の知り合いだった。
「シロウマル、出迎えよろしく」
「わう」
少しイタズラしてみようとシロウマルに指示を出すと、シロウマルは小さく返事をして、足音を立てない様に気配のする方向へと歩いて行った。
シロウマルの姿が見えなくなって、数分後……
「ぬおっ!」
「げっ!」
「きゃあ!」
「うわっ!」
聞き慣れた悲鳴が聞こえてきた。悲鳴の後には、シロウマルを責める声も聞こえてくる。
「テンマ!変なイタズラするんじゃねぇ!驚きすぎて、心臓が止まるかと思ったじゃねえか!」
ドタバタと足音を立てて走ってきたのは、ジン達『暁の剣』の面々だ。ジンとガラットとメナスは、文句を言いながらも自分の足で歩いていたが、リーナはシロウマルの背に荷物の様に乗せられている。
「リーナはどうしたんだ?シロウマルが、珍しく申し訳なさそうな顔をしてるけど……」
「「「聞いてやるな」」」
「聞かないでください……」
今にも泣き出しそうなリーナを見て、俺はそれ以上追求する事はしなかった……リーナが、さりげなく濡れたお尻を隠そうとしていたのは見なかった事としよう。
リーナから視線を外して、ジンとガラットにここにいる理由を聞いてみると(この隙に、メナスはリーナを連れて近くの曲がり角に隠れていた)、どうやらダンジョン攻略を進める前に、攻略済みの階層で連携の見直しをしていたそうだ。その見直しも一段落着いたので、一番近いワープゾーンに向かっている途中で、シロウマルと遭遇したらしい。
「それで、テンマはここで何をしていたんだ?シロウマルを見張りに立てるくらいだから、何か作業をしていたんだろう?」
ジンはかなり確信を持って話している様だし、別に隠す様な事でもないので俺の目的を話す事にした。
「ふ~ん、そいつは大変だな」
「まあ、気長にやるさ。最悪、外をミスリル、中は魔鉄で作って、後々作り直すって事も考えているよ」
「それが一番現実的かもな……待てよ?テンマ、お前今、このダンジョンのどこまで潜っているんだ?」
ガラットが何か思いついた様で、俺の最高到達階を聞いてきた。
「え~っと……確か三十八階には、確実にワープゾーンで行ける」
「だったら、そこから四十二階を目指してみたらどうだ。あそこは階の大半が湖みたいになっていて、陸地はあまり無いんだが、その分足場のない天井とか壁はほとんど手付かずになっていると思うぞ。テンマなら空中に浮かぶ事が出来るから、狙ってみるといいんじゃないか?」
確かにガラットの言う通りなら、この辺りで採集するよりは、集まる可能性が高い。それに、そろそろ下の階を目指そうとも思っていたから、行ってみて損は無い。
「確かにその通りだな。ありがとう、ガラット」
俺が礼を言うと、ガラットは少し驚いた様な顔をしていた。理由を聞くと、あまり俺から礼を言われた事がないので、少し変な感じがしたそうだ。
かなり失礼だと思うが、今回のガラットはかなり有用な情報をくれた為、いつもの様にお仕置きをするわけにはいかないのが、少しストレスになりそうだった。
「でも、流石に今から行くのはきついかな。前なら気にはしなかったけど、今はじいちゃんがいるから、一旦帰らないと……湖に行くのは、数日後だな」
「普通はこの辺は、一ヶ月単位で挑むんだけどな……それを数日か……」
「あまり他で言うなよ。自信喪失者か、勘違い野郎が発生するからな」
ジンとガラットは、呆れた様な顔で俺を見ている。まあ、『探索』を上手く使えば、通り抜けるだけならもっと短くなると思うのだが、これ以上は二人の精神安定の為にも黙っておく事にした。
「話は終わったかい?」
「お待たせしました~」
話に区切りがついたところで、メナスとリーナが戻ってきた。リーナは、一見変わった様には思えないが、よく見てみるとズボンの色が違っていた。だが、リーナとメナスは何もなかったかの様に振舞っているので、俺達は気が付かないふりをした。
帰りはジン達の言った通り、俺がいたところからわずか数十m程の場所にあったワープゾーンで地上まで戻り、ギルドでジン達と別れた。ギルドに向かう道中で湖の情報をジン達に聞いてみたが、あまり多くはわからなかった。何故ならその階層は、普通の冒険者にとってうま味が少ないからだそうだ。
話によると湖がある階は、ジン達が知っている中で最大の広さを持っているが、基本的に出口まではほとんど一本道の様なもので、陸地が少なく戦いにくい。唯一の救いはあまり強い水棲の魔物が存在しない事だが、それでも油断して命を落としたり大怪我をする者が毎年現れるそうだ。
湖の深さは最大で二十m程だそうで、現れる魔物はCランクを中心とした数種類。数自体は多くはないが、血の匂いを嗅ぎつけて群がってくる性質があるので、戦闘中に湖に落ちると致命的らしい。
魔物は大体一~二m程で、陸上にいても水中から飛びかかってきたり、一時間程度なら陸に上がっていられるそうで、虫の息と思って油断すると手痛い反撃をくらう事になるとか。
それでも陸にいる時は大して苦労する事はないが、水中だとかなり倒しにくく、さらに取れる素材は大した価値がない上に、身は固く臭みがあるので、その階にとどまる冒険者はあまりいないとの事だった。
ジン達と別れてからもギルドで少し調べてみたが、新しい収穫はあまりなかった。ひとまず帰ろうと、ギルドから出ると、すでに辺りは暗くなっており、酒場などはかなりの賑わいを見せていた。
「やばっ!」
じいちゃん達の存在をすっかり忘れていた俺は、急いでアパートまで戻ったのが気がついた時には既に遅く、じいちゃんに怒られてしまった……次からは遅くなりそうな時には事前に言ってからダンジョンに行けと怒られている俺を見て、ブランカは大爆笑していた。
なおじいちゃん達は、俺を待っていた為に夕食をまだ食べていなかった。その為、俺はお説教の後で夕食を作らされる事となった。ちなみに、夕食はハンバーグだ。早速シロウマルの野菜中心生活が断念されたが、じいちゃん達の機嫌を取る為には仕方がない事だった……シロウマルは、出されたハンバーグを見て、涙を流しながらじっくりと味わっていた。
それから二日後、俺は教えてもらった湖の階層に立っている。昨日一日で、三十九~四十一階を駆け足で攻略してここまで来たのだが、道中何も採集しなかったので、この階を調べ終わったらもう一度やり直すつもりである。
「本当に広いな……サッカーコート何個分だ?」
「キュ~?」
今、俺の横にはソロモンしか出ていない。スラリンはバッグの中で、採集したミスリルの仕分けの為に待機中で、シロウマルは濡れると後が面倒なので、スラリンと同じく仕分けの為にバッグの中で待機中だ。その為、唯一空を飛べるソロモンが代わりに出ている。まあ、これまで飛び回れる様な場所がなかったので、気晴らしの意味もある。
「取り敢えずは、一通り見てみるか」
この階層は片側の壁に沿って道があるが、途中で湖の浅瀬を通って、反対側の壁の道に行かないといけない。浅瀬はひざ下くらいまでしか深さがないが、一番魔物に襲われやすいところなので気をつけなければならない。まあ、俺の場合は、宙に浮いて移動すれば問題はない。
「ソロモン、これから作業に入るけど、周囲の警戒は頼むぞ。一人でも行けそうなら行ってもいいけど、もし相手が手ごわそうだったり、数が多かったりしたら作業中でも知らせるんだぞ」
「キュイ!」
ソロモンは、敬礼するかの様に片手を上げてから、周囲の警戒を始めた。まずは入り口付近で気になったところから掘り始めていったが、数箇所を探ってみてもミスリルは出てこなかった。
「ガラットの読みは悪くないと思うんだけどな……明らかに、ソロモンの方が稼ぎが大きいな」
「キュイ?」
ソロモンは俺を狙ってくる水棲魔物を狩り続け、開始一時間で二十匹以上倒している。倒した魔物は、サンダーフィッシュという、雷魚を大きくした魔物が十匹に、アングラーキャトという、ナマズとアンコウを足した様な魔物が三匹、ワニモドキという名の魚が八匹だ。ワニモドキとは、アリゲーターガーの様な形と大きさをした魚で、この湖で最大の大きさ(三m程)に成長するらしいが、ソロモンが倒したのは一~ニmの大きさのものばかりだった。
この湖の魚は美味しくないと聞いていたので、魔核だけとって残りは捨てようかと思っていたが、ソロモンが嫌がるのでバッグに入れて持ち帰る事にした。まあ、雷魚やアリゲーターガーは前世で食べる事ができる魚と聞いているので、サンダーフィッシュとワニモドキも調理しだいでいけるかもしれない。それに、アングラーキャットは、ナマズとアンコウのいいとこ取りだとすれば、案外旨い魚なのかもしれない。その逆の場合は諦めて食べなければいいだけの話だ。
念の為泥抜きをしたいところだったが、ソロモンが狩ると同時に絞めてしまったので、諦めるしかなかった。
「次の場所に移るか……ん?これって……」
ミスリルが出てこなかったので、場所を移動しようとした時、浅瀬に何か光るものが見えたので拾ってみると、その正体は指輪だった。しかも鑑定してみると、ミスリルで出来たものだ。
「おっ!儲け!……もしかして、他にも落ちてるんじゃないか?」
あまりにもミスリルが出てこないので、気分転換に水の中を覗きながら移動したのだが、色々なものが見つかった。一番多かったのは、投げナイフや剣といった武器だったが、中には盾や鎧の一部などもあった。
「流石に見えるところにあっても、魔物が泳いでいるのに潜る奴はいないって事か……こっちの方が、効率がいいな」
落ちている武器は、一mの深さにあったとしても回収は難しかった。何故なら、人が歩く音を聞きつけた雷魚やワニモドキが遠巻きに様子を見ているので、少しでも水に入った瞬間に襲いかかってくるのだ。
俺の場合はゴーレムに回収させていたので危険はなかったが、これが生身の人間だったら、全身を鎧で覆わない限り、十分もしないうちに噛み殺されてしまうだろう。最も、全身を鎧で覆ったとしても、今度は深場に引きずり込まれて溺れ死ぬ事になるだけだろうが……
「この調子で浅瀬を探ってみるか。ソロモン、上から何か発見したら教えてくれ。それと、引き続き警戒の方も頼むな」
「キュイ!」
湖の透明度はさほど高くないので、ソロモンがいる高さからだと底の方は見えないかもしれないが、張り切って飛び回っているので余計な事は言わなくてもいいだろう。
その後、俺は三体のゴーレムを出して、俺の手伝いと浅瀬の落し物の回収に当たらせた。ソロモンとゴーレムが協力して魔物の撃退と回収をしている間、俺は壁や天井を掘ってミスリルを探した。
相変わらずミスリルは出てこなかったが、その分ソロモン達は順調に回収を続け、予定時間を迎える頃には、合計で五十kgを超える収穫があった。その内、ミスリル製のものは五kgで魔鉄製のものが二十kg、残りは銅・鉄・鋼製のものだった。十分の一がミスリルと言うと聞こえはいいのだが、実際には混ぜものがあったり、柄などを他の金属で作っていたりしているので、その半分あったらいい方だと思う。ちなみに、ソロモン達が狩った魔物は、回収物の三倍近い量になった。
「最初としては上々かな?問題は魚の方だけど……取り敢えず食べてみるか」
最初の調理は魚の味を知る為に、シンプルに焼き魚を二種類用意した。一つ目は、何もせずにただ焼いたもの。二つ目は、塩をして軽く水分を抜いてから焼いたものだ。
塩無しだと、サンダーフィッシュ、アングラーキャット、ワニモドキの順で、塩有りだと、アングラーキャット、サンダーフィッシュ、ワニモドキの順だった。
塩無しと塩有りで一と二が入れ替わったのは、アングラーキャットの身に含まれる水分のせいだと思われる。塩無しだとぼやけていた味が、塩で締める事で水分が抜け、味がわかりやすくなったからだと感じた。三種類とも塩をした方が美味しくなったが、ワニモドキは臭みと硬さがあったので、塩無し塩有り共にダントツの最下位だった。
「サンダーフィッシュはこの中では一番癖がないな。特徴もないけどな。アングラーキャットは、少し臭みのあるアンコウかな?ワニモドキは……魚というより肉だな。臭みも強いし、使いにくいな」
ワニモドキと比べれると、サンダーフィッシュとアングラーキャットは美味しい部類と言っていいが、鯛や鯵、鮭や鮎と比べると、一枚も二枚も劣る感じがする。好んで食べる魚ではない。
「ワニモドキの臭みは、皮や内蔵に多いみたいだな。中心だけを食べると、鳥のササミに近いかな?アングラーキャットは、唐揚げだと水分が抜けてまあまあいける。サンダーフィッシュも、油で揚げた方がいい感じだ」
色々な調理法を試した結果、それぞれある程度食べられる事がわかった。地上でわざわざ食べようとは思わないが、ダンジョン内で食べられるものとしては十分と言った感じだ。今度ジン達にも教えてやろう。
「ワニモドキは、名前にワニが入っているだけあって、皮が素材として使えそうだな……臭いけど」
匂いさえなければ、かなり頑丈なので防具にも使えそうだ。水にも強そうなので、バッグなんかを作ってもいいと思う。もしかすると、ワニモドキ革のバッグなんかが流行るかもしれない。
「シロウマルとソロモンは、ワニモドキが一番みたいだな」
「ワウ!」
「キュイ!」
どうやら、魚というより鶏肉に近い味と歯ごたえが気に入った様だ。スラリンは、二匹がワニモドキに集中しているので、他の料理を食べていた。三匹とも、臭さはあまり気にならない様だった。
今回は実験の意味もあったのでかなり調理したのだが、まだ魚は四分の一以上残っている。獲り過ぎかもしれないが、まだ湖には魚がたくさんいる様だ。よほど繁殖力が強いか、どこかに隠れ水路があるのかもしれない。
「今日はここまでだな。寝床を作るか」
いつもは馬車を出すところだが、今はアパートに置いてきているので一から作らないといけない。最も、ベッドはマジックバッグに入れているので、いつもの様に行き止まりを使えば大して時間はかからない。ただ、この階には行き止まりなどないので、一つ上の階まで行かなければならなかった。
「さて、寝床の確保は出来たし……どうやって湖の底を探るかが問題だよな」
バッグから出したベッドに腰掛けながら、俺は明日の予定を立てていた。浅場は今日と同じ方法で探ればいいが、探れる場所は残り半分もない。明日ミスリルが今日と同じ量を拾えたとしても、大した収穫にはならない。そうなると、深場も探る事を考えなければならないが、その方法が思いつかない。
単純に素潜りで探る事も考えたが、襲いかかってくる魚をやり過ごしながら底を探るのは無理があるし、効率がいいとは思えない。何より、何があるかわからないところに潜るのは嫌だった。
「どうするかな……あっ、ヤカンを火にかけたままだった」
考え事をしていたせいで、完全にお湯が沸騰している状態になるまで気がつかなかった。急いでヤカンを竈から下ろしに行くと、沸騰しているお湯を見て不意にある方法を思いついた。
「あれでいけるかも……とにかく、明日試してみよう」
俺は、今思いついた方法を早く試したくなり、すぐにベッドに横になったが興奮したせいか、なかなか眠りにつく事ができなかった。そんな俺の近くでは、シロウマルとソロモンが気持ちよさそうに寝ており、聞こえてくるいびきに少しイラっとしてしまった。
「わう」
「ん?」
気が付くと、シロウマルが俺の顔を覗き込んでいた。どうやら、珍しく深い眠りについていた様だ。いつもだったら、ダンジョンや外だとここまで深く眠る事はないのだが、なかなか眠りに付けなかったせいで感覚が少し狂ったのかもしれない。
今日は新しい方法を試してみるつもりなので、早く湖に向かいたいが、シロウマルとソロモンのお腹が合唱を始めたので、手早く食事をする事にした。丁度、昨日の残りがあるので、それらとバッグに残っていた出来合いのもので済ませ、食後の休憩もそこそこに、俺達は湖へと向かった。
もし俺の考えた方法が成功したら、今後活動範囲が確実に広がる事になる。
「この方法をナミタロウに言ったら、何が何でも成功させろって言うだろうな……そういえば、ナミタロウが入ったバージョンの家紋も作らないとな……今度、手紙で王様にでも頼むか」
俺は忘れかけていた案件を思い出し、少し面倒くさく感じてしまった……