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第8章-6 焼肉大会

「これだけ人数が揃っていると、解体も楽でいいな」


 俺達は、ギルドに併設されている解体場を借りて、バイコーンの解体を行った。実際に解体したのは俺とジンにガラット、それにブランカだ。全体の指示はアグリが出し、じいちゃんは水魔法や風魔法で周囲を清潔に保ち、女性陣とグラップラーエイプ達は雑用をしている。


「それにしても、あんな回復魔法の使い方があったなんて……」


 あんな使い方とは、バイコーンの死体に魔法をかけた事だ。こうする事で、バイコーンの体についていた細かな傷を綺麗に消す事が出来るのだ。おそらくバイコーンが死んでいても、体の細胞が生きているうちに魔法をかける事で細胞が活性化し、傷が回復するのだと思われる。ただ、バイコーンの様な大型の魔物の全体に魔法をかけると、魔力をかなり消費してしまうので並の魔法使いでは難しいし、価値の低い物にかけてもトータルで損をする事になるので、あまりする人はいないそうだ。ちなみに、これはアグリが教えてくれた。じいちゃんも知らなかったそうで、少し悔しそうにしていた。


「ギィー」

「ギィーー」

「ギィ」


 この戦闘員の様な声を出しているのは、アグリのグラップラーエイプ達だ。さっきからじいちゃんの出した水で何かしていると思ったら、エイプ達でバイコーンの内蔵を洗っていたみたいだ。それが終わったので、俺の所に持ってきたのだそうだ。


「ありがとう。手を洗ったら、休んでいいぞ。これも持ってけ」


「「「ギィーーー!」」」


 エイプ達に串焼きの入った袋を渡すと、揃って頭を下げて袋を持っていった。アグリの教育が行き届いているのか、かなり行儀がいい。エイプ達を羨ましそうに見ている、うちの二匹にも見習わせたいくらいだ。

 その事をアグリに話すと、「テンマの前だから、大人しくしているんだろう」との事だった。あのエイプ達は、俺がシロウマル達の主で、さらに地龍やワイバーンを倒した事を知っている為、怒らせない様にしているのだそうだ。実は、かなり空気を読む三匹だった。

 そんなエイプ達は、うちの眷属達と一緒に串焼きを食べている。シロウマルとソロモンがよだれを垂らして串焼きを見ていた為、エイプ達は串焼きに手を付ける事が出来ずにいたので、うちの三匹の分も串焼きを出したのだ。


「テンマ、皮は剥ぎ終わったから、持っていってくれ。あとこれが魔核で、こっちがイチモツと玉だ。皮下の油は、こっちのバケツに入っている」


 ジンが俺を呼んで、取り終わったものを渡してくる。その他にも、心臓や肝臓といった内蔵もマジックバッグに入れておいた。心臓はともかく、肝臓などは寄生虫の心配もあるし、薬としても使えるので食べるつもりがないのだろう。その証拠に、エイプ達が洗った腸などは油入りのバケツに入れて別に分けてある。油の入ったバケツは五個あり、全部で百kgを超えていそうだ。


「言い忘れていたけど、骨は綺麗に外してくれ。小さいのはなるべくだけど、大きいのは確実に」


「何に使うんじゃ?」


「タニカゼの修理に使おうかと思ってね。タニカゼ、ほとんど壊れちゃったから、大幅な修理が必要になったし、それならついでに改良を加えようかな~って」 


 じいちゃんにタニカゼ改造計画を話すと、とても興味深そうに話を聞いていた。今のところ考えているのは、バイコーンの骨と魔核を使い内面の強化と軽量化を計り、地龍の鱗を外装に使う事で強度を上げるのだ。


「それは面白そうじゃの~。材料があったら、わしも作りたいくらいじゃ」


 流石にタニカゼ並みのゴーレムを作るのには、そんじょそこらにある様な素材では無理がある。しかも、タニカゼの起動には、スラリンに頼っている所が大きいので、入れ物だけ作っても意味がないのだ。

 だが、今回はスラリン抜きでも高い性能が出せるものに挑戦するつもりだ。ちょっと前に作った、ジャンヌとアウラに渡した蠍型ゴーレムや、王族用のゴーレムが今のところ俺の理想に近いので、その時の技術を応用してみようと思っているのだ。少し時間はかかるかもしれないが、タニカゼは俺の大事な家族でもあるので、絶対にやり遂げなければならない。

 

「テンマ、半分位は解体が済んだぞ。ここらで一旦休憩にしないか?」


 アグリの言葉を聞いて振り向くと、バイコーンは枝肉にされて右半分が部位ごとにブロック分けされていた。


「そうだな。そろそろ夕食の時間帯だし、肉を焼いて食べてみようか」

「「「待ってました!」」」


 俺の提案に即座に反応したのは、ジンとガラットとアムールだ。そして声に出してはいないが、シロウマル達も喜んでいる。

 肉は赤身の部分を中心に、カルビやスペアリブ、そしてホルモンを鉄板で焼いていく。本当は網焼きで食べたかったが、煙を気にしなくていい場所となると、ダンジョンの中か街の外まで行かなければならなくなるので諦めた。

 味付けも基本は塩で、後は魚醤や砂糖、酒などを混ぜたタレを肉にかけて焼くくらいだ。 


「おお!うめぇ!」

「半生が一番だ!」


「おかわり」


「三人は、こっち側で食べてくださいね」


 肉を真っ先に口に入れたのは、歓声を上げていた三人だ。三人とも、半生で肉を持っていくので、他の皆よりも手の回転が速い。その事に気がついたリーナが三人を一箇所に固め、自分達がゆっくりと食べれるように工夫していた。しかも、三人との間に野菜を並べると言う徹底ぶりだ。


「ホルモンも旨いのじゃが、数は食えんのう」

「ですなぁ」


 じいちゃんとアグリはホルモンを食べながら、しみじみと語り合っていた。流石の賢者も、寄る年波にはかなわない様だ。


「うむ、骨に齧り付くと、肉を食っているという感じがしていいな」

「確かにその通りだね。でもガラットの方が、骨は似合うんだけどね」

「違いない。ほれ、シロウマル」


 ブランカは、直接手にスペアリブを持ち、豪快に齧り付いている。そして、まだ肉の付いている骨を、シロウマルに食わせていた。それに倣ってメナスも、自分が食べていた骨をソロモンに渡している。


「ギィーギィー」

「ギギィー」

「ギィーーーー!」


 エイプ達も、それぞれ好きな部位を食べていた。ただ、時折熱々の肉を口に放り込んで火傷し、悲鳴を上げていた。


 こうして数十kgの肉を消費した。バイコーンの肉は脂肪が少なくて旨みが濃く、かなり美味であった。

 ただ、ひとつだけ問題があるとすれば、それはいい匂いがしすぎる事だろう。焼肉は解体場の片隅でやっていたので、匂いがギルドまで届いてしまい、職員から怒られてしまった。


「今日は、肉屋が儲かるだろうな」


 俺の呟きに、皆頷いていた。このまま続けるとギルドから追い出されそうなので、じいちゃんと周囲に結界を張った。これで少し煙いが、匂いは外に漏れる事はない。焼肉が終わったら、風魔法で煙を外まで運べばいいのだ。ただ、焼肉中は一酸化炭素中毒に気をつける必要があるが……

 一応皆には、火を使う時は換気をしっかりするなどの対策を取る様に伝えた。皆俺の言葉を聞いて、肉に伸ばす手が止まったが、アムールだけは「うまうま」と、ここぞとばかりに皆の分まで肉を頬張っていた。

 その後、肉を巡る仁義なき戦いに突入し、ギルド職員に退去命令をくらう事となってしまった。まだバイコーンの解体が終わっていないのに……

 取り敢えず外でやるには暗く、時間的にも難しいので、明日の午前中に街の外で続きを行う事になった。他の皆に拒否権は与えていない。何故なら、バイコーンの肉を食べさせる条件で、解体をする事を約束させていたので、解体が済んでいない以上は俺と契約中だからだ。食い逃げは許さない。


「それじゃあ、明日の朝に南門の外で待ち合わせな。来なかったら……シロウマル(ハンター)を放つからな。逃げられんぞ」


「オン!」


 シロウマルはやる気満々で、ジン達を見て吠えた。アグリとジン達の内、どちらが約束を破りそうかわかっている様だ。


「「逃げねぇよ!」」


 真っ先に反応したジンとガラットを見て、皆笑っている。オチが付いたところで解散となったが、半数は帰るところが同じなので、あまり解散した感じはしなかった。



「よし、皆揃ったし、昨日の続きをはじめるか!」


「はいっ!頑張ります!」


 元気よく返事をしたのはエイミィだ。昨日アパートに戻った際、おすそわけとして肉を渡したのだが、その時にバイコーンに興味を持ったそうで、今日の解体についてきたのだ。

 ちなみにエイミィは魔物の解体の経験がなく、戦力にはならないが、雑用係の一員として頑張ってもらう事になっている。まあ、じいちゃんに言わせると、エイミィは対外的に俺の弟子に近い存在となっているので、こういった経験を積ませるのも俺の役目だそうだ。ちなみに、エイミィの眷属である、いーちゃんとしーちゃんも一緒だ。


「それじゃあ解体を始めるけど、昨日と同じ様にアグリが全体の指示、じいちゃんは定期的に風魔法と水魔法で周囲の埃や砂を抑えるのと、馬鹿が来た時の対応をお願い。俺は、皮をなめす作業をやるから、ジン達はアグリの指示通りに解体を進めてくれ。女性陣は雑用……まずは竈作りをやってもらおうか。その他にも、色々頼む事があったらその都度言うから。スラリン達眷属組は、匂いにつられてやってくる魔物や馬鹿達の足止め、もしくは撃退をお願い。その判断はスラリンに任せるから」


 こうして昨日の続きが始まった。まずは解体用の台の設置からだけど、これは俺の魔法で土を固め、その上に木の板を置いて作った。そして、台は二つ用意している。一つは解体用で、もう一つは皮の処理用だ。

 

「まず台を消毒するから、皆離れて」


 俺は火魔法で台を焼き、板は熱湯で消毒する。最後に念を入れてキュアとアンチドートをかければ消毒は終わりだ。これで作業に入る事が出来る。

 台の熱が冷めるのを待って、俺達はそれぞれの作業に散っていった。


「それで皮の処理だけど……まずは余計な脂肪を取るかな」


 剥ぐ時にジン達が脂肪を取ってはいるが、それも細かな部分には付いているので、ミスリルのナイフを使って綺麗に削ぎ落としていく。それが済んだら一度洗って、今度は表面の毛を剃った。これで下処理は終わりだ。そして最後は……


「スラリン、頼む」


 スラリンに丸投げだ。そもそも皮をなめすには、塩漬けにした皮をミョウバンやタンニンなどを使うそうだ。他にも噛んでなめす方法もあるそうだが、ミョウバンはどこで手に入るかわからないし、タンニンはお茶などに含まれてはいるが、それで出来るかわからない。そして、噛むのは小さなものなら出来るだろうが、これだけ大きなものだと無理がある。

 なので、困った時のスラリン頼みだ。なめしは、皮からタンパク質や脂肪を取り除いて柔らかくするので、スラリンに取り除く事が出来なかった脂肪などを溶かしてもらい、ついでに柔らかくしてもらおうというものだ。スラリンの体液で作った石鹸は髪や肌を潤す効果があるので、案外上手くいくのではないだろうか。もし失敗しても、スラリンで駄目なら仕方がない。

 スラリンは俺の渡したバイコーンの皮を体内に取り込むと、そのままシロウマル達のところへと戻っていった。

 こちらは一区切りついたので他の作業の方を見てみると、エミリィは竈を作るための石を積み上げているところで、あと半分で完成しそうだ。しかし女性陣三人が、それぞれで竈を作っているので、作りかけの竈が四つもある。まあ、この人数で同時に食べるので、竈の数が多くても問題ないだろう。むしろ、四つないと足りないかもしれない。

 ジン達の方は、あと少しで解体が全部終わりそうな勢いだ。作業しているのは、ジンとガラットとブランカだけだが、三人とも体力は人一倍ある上に、昨日一通りやっているので作業が早い。

 じいちゃんは自作の椅子に腰掛けて、必要ごとに魔法を使用している。初めに結界を張ったせいで、やる事があまりなく、一番暇そうにしている。

 スラリン達は、一見遊びまわっている様に見えるが、俺達とこちらを見ている者達との間に陣取る事で、きちんと役目を果たしている。たまに回り込んで見ようとする者もいたが、一定以上近づくと、牽制の為に吠えたり近づいたりしていた。


「テンマ!こっちはあと少しで終わるから、先に焼肉の準備をしていてくれ!」


 ジンが大声で言うので、シロウマル達食いしん坊が一気に俺のところへとやってきた。それと同時にこちらに近づこうとする者達がいたが、スラリンがいち早く気づき、シロウマルに指示を出して持ち場に戻していた。

 そんなシロウマル達を横目に見ながら、俺はエイミィ達の作った竈に金網をのせていく。この金網は、昨日の帰りに雑貨屋で購入したもので、今後何度か使う事を考えて数枚購入したのだ。竈に対し金網は少し大きかったが、特に問題はなさそうなので、竈に薪を組んで火をつけた。火が落ち着くまでメナス達に管理を頼み、俺はシロウマル達のところへと向かった。


「スラリン、ここはもういいぞ。皆の代わりにゴーレムを出すから」


 そう言って俺はゴーレムを数体出して、竈を中心に半径五十m程の距離で土の壁を作り出した。高さは大体一mくらいなので、乗り越えようと思えば簡単にできるが、そんな事をした瞬間にゴーレムにたたき出されるだろう。仮にゴーレムを出し抜いたとしても、今度は俺達を敵に回す事となる。

 これは別に悪い事ではなく、冒険者なら普通にやっている事で、これより内側に入って俺達に近づくと、敵対行為と見なすという意思表示である。ルールを知っている者ならば、絶対に入っては来ないだろう。

 こうして第二回焼肉大会が開催された。竈は、よく食う男性陣三人、女性陣四人、アグリとアグリの眷属、そして俺とじいちゃんとスラリン達に分かれて使う事になった。

 今日の焼肉はバイコーンの他に、バッグに残っていた牛肉(白毛野牛ではなく、ティーダ達と出会った時のもの)や豚肉(オークや猪の肉)、それに数種類の野菜だ。流石にバイコーンの肉だけでは栄養バランスが悪いし、飽きてしまう。それにもったいないし……


「調味料は、塩と昨日のタレを使ってくれ。では、乾杯!」


「「「「かんぱーい!」」」」


 こうして焼肉大会はスタートしたが、量の減り方にかなりの偏りがあった。まず一番肉の減りが早いのはジン達のグループで、次がアムールのいる女性グループ、次が俺のところで最後がアグリのところだ。ただし、野菜の減り方は逆で、アグリのところが一番早く、次が俺とアムールのところ、最後がジン達のところだ。


「言い忘れていたけど、バイコーンの肉は出してある分だけだからな。後は牛肉か豚肉を食べてくれ」 


 この言葉に、ジンとアムールがブーブー文句を言っていたが、「肉なしにしてもいいんだぞ?」と言うとすぐに収まった。他の皆は当然という顔をしており、数の少ないバイコーン肉を集中して食べ始めた。

 人はカニを食べると無口になると言うが、焼肉だと騒がしくなるみたいだ。あまりに騒がしいので、ゴーレムが動き出さない位置に、人だかりが出来始めていた。中には金を払えば食えると勘違いした者が、ゴーレムに阻まれていた。だが、人だかりのほとんどが冒険者のルールを知っていた様で、ゴーレムに阻まれていた者を注意していた。

 ちょっとした騒ぎにはなったが、焼肉大会は無事終了し、後片付けを終えるとその場で解散する事になった。まあ昨日と同じで、半数は帰るところが同じだが……


「あっと、ちょっと行ってくる」


「またかテンマ。先に行っておるぞ」


「ついてく」  

「あっ、じゃあ私も」


「じゃあ、俺達はここで別れるかな」


 俺が寄り道をするのは、これで五回目だ。さっきから雑貨屋や武器屋などを見かけるたびに寄っていたら、ついにじいちゃんに呆れられてしまった。『暁の剣』やブランカも先に帰るようで、ついてくるのはアムールとエイミィだけだ。

 俺のお目当てはミスリルで、さっきからミスリル製のものを買い漁っていた。流石にあまり売っていないが、タニカゼの修理の為に少しでも量がいるのだ。理想は一tだが、最低でもその半分は欲しい。以前のタニカゼは、体のほとんどが魔鉄で出来ていた為、バイコーンの雷魔法の前に沈んでしまった。なので、今度はミスリルを中心にして、魔法への耐性を高めようと考えているのだ。


「手持ちと合わせても、百kgいかないくらいか……先は長いな。ガンツ親方に相談してみるか」


 思い立ったが吉日と言うし、今から行ってみよう。


「到着!」


 と言うわけで親方の工房へと来たのだが、アムールは想像通りだが、何故かエイミィもついて来た。


「先に帰っていても良かったんだぞ」

「良かったんだぞ」


 俺の言葉を真似する様に繰り返すアムール。その声は、どこかトゲがある。


「予定より早く終わったので、暇なんです。帰っても何もする事ありませんし……ついてきたらダメでしたか?」


 そう言われたらダメとは言えない。アムールもエイミィの悲しげな表情を見て、それ以上は何も言わなかった。


「ガンツ親方いますか?」

「テンマか……何の用だ?」


 俺達が工房を訪れると、親方は地面に何かを書いていたが、俺に気が付くと足で消した。外部には漏らせないものなのだろう。

 

「ミスリルが欲しいんですけど……ありますか?」


「ああ、あるぞ。どのくらい欲しいんだ?もちろん、金は取るけどな」


 親方が笑いながらバッグを開き、手を突っ込んだ。おそらく、素材を保管しているマジックバッグなのだろう。


「ええっと……一t程欲しいのですが」


「……ふざけてんのか?」


 その後、親方に説教をくらった。ただ、何故欲しがったのかを話すと許してくれた。何でも、職人としてミスリルを欲しがった気持ちはわかるとの事だった。作る道筋がわかっているのに、材料不足で作れなかった事は、職人なら一度は経験するのだそうだ。


「まあ、二十kgくらいなら売ってやろう。近所の知り合いに聞いてみてやるが、期待はするなよ。金は、その台の上にでも置いておけ」


 そう言って親方は、ミスリルのインゴットをバッグから出して台に置き、工房から出て行った。今から聞きに行ってくれる様だ。親方が帰ってくる間に、俺は相場の一千万G(一kg当たり五十万Gで二十kg分)に上乗せ分の二百万Gを置いた。これだけ出しても、まだまだ蓄えはあるので痛くはない。


「戻ったぞ。テンマ、なんとか百kg集めてきたぞ」

 

 一時間程で戻ってきた親方は、台の上に置いてあった金を無造作に端にどけると、空いたスペースにミスリルを置いていった。


「相場の金額でいいそうだ。今出せるなら持って行くが、どうする?」


 親方の知り合いは、入り組んだところに工房をかまえている人や気難しい人もいるそうなので、親方か親方の弟子が持っていった方がいいらしい。なので俺は、礼の言葉と共に金を預ける事にした。なお、親方に上乗せした分は、突き返されてしまった。親方曰く、「自分だけ上乗せで貰うわけにはいかん」との事だ。

 親方に別れを告げて工房を出ると、そろそろ仕事を終えて家に帰ろうかという職人達がチラホラと見られた。せっかくここまで来ているので、商店などに寄って買い物をして帰る事になり、俺達は連れ立って店を回る事にした。


「さて、今日の夕食は何にするか……昨日今日で肉が続いたから、野菜を中心にするかな?」


 俺の呟きにソロモンは抗議の鳴き声を上げるが、シロウマルは大人しいままだった。その様子にエイミィが驚いていたが、昨日の件の話すと納得していた。しかし、シロウマルの様子に一番驚いていたのはソロモンだ。いつも率先して抗議の声を上げる仲間が、今日は静かなのに面を食らった様子だ。結局、騒いだのはソロモンだけだったので、今日の夕食は野菜中心の献立に決まった。


 買い物が終わると真っすぐに帰宅し、家の前でエイミィと別れた。お土産にバイコーンの肉を渡したので、エイミィ達の夕食は焼肉になるのかもしれない……二食続けて焼肉のエイミィはキツいかと思ったが、特に気にした様子は見られなかった。

 後日、バイコーン肉が超高級品と知ったエイミィ一家に、ものすごく気を使わせてしまう事になった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 素材にするために骨をはずしてって言ってるそばから、骨付き肉やスペアリブにして食べてるのはどうなんだろう。
[気になる点] シロウマルとソロモンに関して神々に貰った従魔の首輪を"外したまま"になっている感じに思え気になりました。  危険に遭遇した際に"首輪"を"外す"描写が初めの内は入っていましたが"外す"…
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