第8章-1 別れと遭遇
新章開始となります。
王都での話が長く、ろくに冒険させる事ができなかったので、新章では冒険中心の話になればと思います。
王都組のキャラクターに関しては、この章ではテンマとほとんど絡む事がないと思いますが、何人かは登場させようと思っています。
「テンマ、この辺でええわ」
セイゲンへの道の途中にある川に差し掛かった時、ナミタロウがそう言って馬車から降りた。そして、そのまま川に入ると、すごい勢いで泳ぎ始めた。
「久々の川はええなぁ~……ほっほっほっ」
調子付いたナミタロウは水面を何度も飛び跳ねて、周囲にものすごい量の水を撒き散らしていた。
「ナミタロウ!こっちまで水が飛んでる!」
「そいつはすまんかった。なんせ久々過ぎて、力加減がよう分からんでな」
興奮が収まったのか、ナミタロウはゆっくりと馬車の近くまでやってきた。
「それで、もう行くのか?」
「そやな。この辺やったら、この川が一番大きんやろ?そやったら、ここでお別れや」
ナミタロウはそう言うと、右の胸鰭を差し出してきた。俺はそれを握ると、ナミタロウは勢いよく上下に動かした。
「なんじゃ、ナミタロウはもう行くのか?さみしくなるのう」
「今生の別れっちゅうわけやないから、また会えるって……まあ、その時までマーリンが生きとったらの話やけどな!」
などと、笑いながらじいちゃんとも話している。王都にいる間うちの池に滞在し、図々しく屋敷の中を動き回り、まるで家族の一員の様に振舞ってきた事で、じいちゃんにこの様な軽口を叩けるまで馴染んでいたのだ。
「テンマ、何かあったら笛で知らせるんやで。じゃあな、あばよっ!」
ナミタロウはそう言って、下流へと凄まじい勢いで泳いでいった。あっという間に小さくなっていくナミタロウを呆然と見送っていると、少し遅れていたジン達の馬車が追いついてきたが、その時にはナミタロウは見えなくなっていた。
「薄情な奴だな。俺達に一言くらいあってもいいだろうに」
ジン達も、ナミタロウとはそれなりに交流があったので、自分達に別れの言葉を寄越さなかった事を、少し寂しく感じているのかもしれない。
「丁度水辺だし、ここらで一旦休憩にしようか?こっちはいいとしても、そっちの馬は休ませたほうがいいだろ?」
俺の馬車は馬型ゴーレムのタニカゼ(inスラリン)だから、疲れ知らず(スラリンは魔力を消費するが、それも俺が補充すれば問題ない)なのでこのままノンストップでセイゲンまで行く事も可能である。しかし、ジン達の借りている馬はそうはいかない。いくら馬車引き用に改良された馬で、普通の品種より力と体力があるといっても、疲れるものは疲れるのだ。
「確かにそうだな。そうすると……あそこの一段高くなっている所がいいだろうな。水辺に近すぎると、変な魔物に襲われかねない」
普通なら水辺で休憩するのがいいのだろうが、目の前の川の様にある程度の深さと広さを持つ所では、以前討伐したクロコダイルシャークの様な、大型で肉食の魔物が生息している可能性がある。なので、ある程度は川岸から離れる必要があるのだ。
「そうしようか。約束通り、飯の方は俺が担当するから、休憩中の警戒は頼むぞ」
これは事前に打ち合わせた条件で、食事の準備を俺(+じいちゃん)が全部担当する代わりに、休憩中の警戒(夜間含む)はジン達『暁の剣』が担当となっている……ついでにブランカとアムールもだ。
とりあえず食事は簡単なものを作るとして、じいちゃんにはかまどの用意をお願いした。何しろ、じいちゃんは料理となると簡単なもの以外は戦力にはならない。
「え~っと……中途半端な時間だから、少し軽めのものがいいかな」
俺はマジックバッグの中から、小麦粉と卵、牛肉の細切れ、玉ねぎやレタスなどの数種類の野菜、油に塩胡椒を取り出した。作るのはクレープだ。
焼いたり切ったりした具を種類別に皿に盛り、薄焼きにした生地を用意すれば出来上がりだ。焼いた生地に、各々好きな具を巻いて食べるというスタイルである。スラリン達用には、別に肉と野菜を炒めたものを用意している。クレープは大量に作ったので、余ったら夜食用に残そうかと思っている……が、
「テンマ、おかわり」
残るどころか、足りなくなる有様であった。最大の誤算は、俺の横でクレープを頬張っているアムールだった。一番小柄な彼女のどこに収まっているのかと、疑問に思ってしまうほどの量のクレープを食べていた。ちなみに現在食べた量で言うと、アムール、ブランカ、ガラット、少し離れてジンの順である。その他は、最下位のリーナを除いてほぼ横並びであった。見事なまでに、三人の獣人が上位を占めている。
「よく食うなぁ……」
三人の食べっぷりに、俺は思わず呟いてしまった。そんな俺の呟きが聞こえた様で、三人は揃って手を止めた。
「そうか?これくらい普通だぞ」
「獣人はドカ食いする奴が多いしな」
「テンマは、沢山食べるのは嫌い?」
ガラット、ブランカ、アムールの順だ。とりあえず詳しく話を聞いてみると、そもそも獣人は獣に近い習性があるみたいなので、食べられる時に食いだめをしてしまう事が多く、他種族より身体能力が高い分、消費カロリーも多いらしい。
「そんな訳だから、俺らの集落なんかには専業農家はあまりいないな。大抵の家は、狩人や冒険者もやっている兼業農家だな」
なお、アムールの家系は代々支配者階級だそうで、農業は全くした事がないそうだ。ブランカは少しだけだが、農業の経験があるらしい。
「ククリ村みたいなもんか」
俺のその言葉で話に区切りがつき、皆揃って食事を再開した。その後、二度ほど具や生地の追加をして食事は終わり、食休みを取ってから出発する事になったのだが、何故か俺の馬車に乗り込む者達がいた。
「メナス、リーナ、アムール、なんでこっちに来たんだ?」
『暁の剣』の用意した馬車に乗っていた女性陣だ。
「いや、あっちは狭いし」
「乗り心地悪いですし」
「お風呂」
実に分かりやすい理由だった。ジン達が乗っていた馬車は、決して狭くないしボロくもないのだが、流石に俺が作ったものには及ばない。実は乗り心地が良すぎて、王様に売ってくれと言われたくらいだ。しかし、今使っているものは売ることは出来ず、新しく作る暇もなかったので、同じ様な物の設計図を描いて渡してある。もちろん設計料は貰っているし、二台目以降は特許料という形で料金が発生する契約も交わしている。
「理由はわかったが、ジン達は何て?」
こっちに移るのは別に構わないが、問題はジン達だ。向こうの馬車はこちらと違い、人が常に馬に指示を出さないといけないので、人数が減るという事は負担が増えるという事である。
「大丈夫、話はしてある」
「男同士の方が、気が楽だそうです」
「ブランカは黙らせた」
話は通してあるらしいが、リーナの言い方だと、俺とじいちゃんはどうなるのだろうか?後、アムールはどうやってブランカを黙らせたのか気になる。
「ブランカの弱点は、奥さんと私のお母さん……この二人の名前を出すと、ブランカは大人しくなる」
……聞かない方が良かったかもしれない。まあ、一応許可は得ている様なので、馬車の中へと通した。じいちゃんは三人がきた理由を聞いて、ジン達に同情していた。
「テンマ、早速で悪いが、風呂を使っていいかい?馬車についている風呂というのが、どんなものか気になっていたんだよ」
「早速堪能しましょう!」
「テンマも一緒に入る?」
「風呂に入るのはいいが、あれは一人用だ。順番を決めてから入れよ。それと、風呂はトイレと脱衣所と一緒になっているから、服を脱ぐなら風呂場でな。守れない様なら、ジンの所に強制送還で、今後利用禁止な」
アムールが暴走する前に釘を刺した。メナスとリーナは元からそうするつもりだった様だが、アムールは少し不満そうだった……先手を打って正解だった様だ。
三人が風呂の順番を決めている間に、俺は夕食の準備を始めた。準備といっても、鳥肉と野菜を鍋で煮込むだけだ。夜は温かくてボリュームのあるものにする予定で進めている。
「テンマ、夕食はなんだい?」
一番湯争いに負けたらしいメナスが、背後から聞いてきた。その後ろにはアムールがいるので、一番湯はリーナの様だ。
「シチューでも作ろうかと思ってるよ」
「「シチュー?」」
二人共シチューを知らない様だ。
「肉や野菜を牛乳で煮込んだスープ、って感じかな」
俺の説明にメナスは頷いているが、アムールは首を傾げている。
「寒い地域なんかで出る事が多いから、南の方だと珍しいのかもしれないね」
メナスの言葉に、アムールはそうかもしれないと頷いた。アムールの住んでいる地域は年中通して暖かく、雪など一度も降った事がないらしい。ちなみに、王都では冬になると雪が一m近く積もる事もあるそうだ。ククリ村の冬は、雪が王都の半分降るか降らないかくらいである。
「最近、夜は少し寒くなってきているから、ちょうどいいと思うぞ……一応聞くけど、嫌いな野菜とか無いよな?」
二人共、俺の質問に対して首を縦に振っていたので、野菜を鍋にたっぷりと投入した。シロウマルとソロモンが少し嫌そうな顔をしていたので、それを見てさらなる野菜の追加を決めた。
ホワイトソースの準備が終わる頃には、リーナとメナスが風呂から上がり、最後になったアムールが風呂場に入っていったが、すぐに半裸の状態で出てきた。
慌ててリーナが毛布を被せたが、一瞬見えてしまったので流石に気まずい。
「前の二人のせいで、お湯が少ない……おまけにぬるい」
「それだと、私が重いみたいに聞こえます!」
「リーナの言い方だと、私だけが重いように聞こえるんだけど」
「メナスさんは、私より背が高いですし……」
リーナの言葉にメナスが少しイラついているようだが、俺は二人を無視して風呂場へと向かった。
「これくらいでどうだ?」
水魔法と火魔法を使ってお湯を足し、後ろにいるアムールに聞いてみた。アムールは腕を突っ込んで温度を確かめた。俺はアムールが頷いたのを見て、すぐに風呂場のドアへ向かった。ドアを開けると同時に、お湯が俺の足元まで流れてきたが、背を向けていたので今度は気まずい思いをしなくてすんだ。
休憩から数時間、そろそろ辺りが暗くなってきたので、小高い丘の上で野営をする事になった。周囲の警戒はジン達の担当だが、念の為俺とじいちゃんで馬車の周囲に結界を張った。一応結界はこちらの気配を感知されない様にするものと、敵の侵入を知らせるものの二種類だ。だが、結界も万能ではないので、ジン達にはしっかりと警戒はしてもらう。
「ジン、これが夜食だ。そっちの馬車に乗せておくぞ。一応人数分はあるけど、足りなかったら我慢してくれ」
「おう、助かる。警戒中に何かあったら起こすから、テンマも早く休めよ」
夕食後、雑談を終えて自分の馬車に戻る前に、最初の警戒を担当するジンに夜食を渡した。今回の警戒は三組に分けて行うそうで、最初をジンとアムール、次にブランカとメナス、最後がガラットとリーナだった。これは男女に分かれてクジで順番を決めたそうで、それぞれ三時間交代だそうだ。一番辛い時間帯の担当になってしまったブランカとメナスは、夕食を食べた後すぐに眠りに就いた。
流石に冒険者同士といえども、男女で同じ布団に寝るのはどうかと言う事で、女性陣はジン達が使っていた馬車の中で、男性陣は馬車の影で寝る様だ。ちなみに俺の馬車には、俺とじいちゃんとスラリン達しか寝ない。これは警戒を交代する度に起こされては堪らないので、こういう風に分けたのだ。なお、こういった事は護衛の依頼などではよくある事なので、ジン達からは文句は出なかった。しかし、警戒の担当しない俺とじいちゃんも、夜中に何かあれば対応しなければならない事もあるので、早く寝るに越した事はない。
「ん?」
俺はふと何かの気配を感じて、真夜中に目を覚ましてしまった。俺が起きるとほぼ同時に、シロウマルが起き上がり、それからスラリン、じいちゃん、ソロモンの順で寝床から起き上がった。
結界越しにも感じる気配の持ち主は、かなりの強さを持っている様だ。
いつでも外に出れる準備をしていると、ドアが静かに叩かれた。
「ブランカだ。テンマ、起きてるみたいだな。悪いが出てきてくれ」
外に出ると、真剣な表情のブランカが立っていた。メナスは他の皆を起こしに行っていた様で、後ろに目をこすっているジンやアムールを連れていた。
「で、何があったんだ?テンマもいるって事は、かなりの厄介事か?」
眠そうにしながらも、いつでも行動できる様に剣を担いでいるジンが、ブランカにたずねた。
「ああ、少し結界の外に出た時に、かなりの力を持った魔物の気配を感じてな。こちらに来るのか分からないが、もし来られると俺達だけだと手こずると思う」
ブランカによると魔物は群れらしく、ブランカ達だけでも対処は可能かもしれないが、それなりの被害が出てしまうだろうとの事だ。だから俺とじいちゃんにも待機していて欲しいらしい。
「なら、すぐ戦闘態勢に入ったほうがいいかも知れない。かなりの速さでこっちに向かっているみたいだ」
ブランカの話を聞きながら『探索』を広範囲に使うと、魔物の群れは俺達から五km程の距離まで近づいてきていた。この調子だと、後二~三分もあれば接触する事になるだろう。
「マジかよ!なら急がないと!」
ガラットが顔を両手で叩いて気合を入れると、それに倣う様に皆それぞれ気合を入れていた。
「迎撃するにしても、結界の外で戦うのがいいじゃろう。敵もわしらに気が付いていない可能性があるから、こちらの姿を見せる事でもしかしたら進路を変えるかもしれん。テンマ、敵の正確な数と種類はわかるかのう?」
少し慌て気味の皆を見て、じいちゃんが冷静な声でそう言った。俺は先程から『探索』で捉えている敵を数えながら『鑑定』を使ってみると……
「数は八、種類は……ユニコーン」
初めて見る魔物だった。前世でのユニコーンは、物語の中で神聖な動物などとして描かれる事もあるが、この世界においては魔物の一種である。ただし、高ランクの魔物であり、かなり数が少ない為、倒す事よりも見つける事の方が難しいと言われていた。
「ユニコーンか……わしも現役時代に、一度か二度くらいしか見た事がないのう。しかし、奴らは凶暴じゃが、同時にかなり賢い魔物でもある。こちらの存在を知ったら、そうそう襲って来る事はあるまい。恐らく、結界の外で戦う意思を見せていれば、面倒事を避けようとしてどこかへ行くじゃろう。ただし、決して無闇に攻撃しようとは思わん事じゃ。そうなると、奴らは逃げるよりも戦う事を選ぶかもしれんからのう」
じいちゃんのアドバイス通りに結界の外に出て、ユニコーンに向き合う様に陣取った。
先頭はシロウマルとソロモン、そのすぐ後ろに『暁の剣』とブランカとアムール、そしてその両脇に少し距離を取って俺とじいちゃんである。
これは、ユニコーンの天敵である大型の肉食獣と、子供だが格上のドラゴンの姿を見せて牽制し、それでも引かない様ならば、左右から俺とじいちゃんで魔法で攻撃、その後ジン達が突撃するという感じである。ちなみに、スラリンはタニカゼの中に入っており、追撃の時に活躍する予定だ。
「来たぞ」
ブランカが遠くを睨む様にして、ユニコーンの群れを発見した。ユニコーンは全て大人の個体らしく、タニカゼと比べて一回りくらい小さいが、普通の馬と比べると大きい部類だろう。特に先頭を走っている個体はガッシリとした体格で、額に生えている角も他と比べて長くて太い。恐らく、群れのリーダー格と思われる。
俺達は小高い丘にいるのだが、こちらが風下に陣取っているせいなのか、まだユニコーン達は気が付いていない様だ。
ユニコーンの群れが、俺達から一km程まで近付いた時、
「ウォーーーーーン!!!」
俺達の先頭にいたシロウマルが、空に向かって遠吠えをした。シロウマルは全力で吠えた為、周囲の空気が震え、リーナとアムールはその声の大きさに耳を押さえていた。
「う~……シロウマル、うるさい」
アムールが緊張感のない声でシロウマルに文句を言うが、誰も取り合わなかった。
「ヴルルゥ~~」
シロウマルの遠吠えでユニコーン達はこちらの存在に気付き、先頭の鳴き声と共に全頭が急停止した。そして互いに睨み合いが始まった。通常、ユニコーンはランクAの魔物と言われるが、先頭のユニコーンに関しては、ランクSに届いているかも知れない雰囲気があり、八頭全てを相手にするとなると、俺が少し前に倒した地龍より厄介な相手だろう。俺達なら負ける事は無いだろうが、展開によってはかなりの被害を受ける可能性がある。
「テンマ、ユニコーン達が半分位の距離……あの岩を先頭が通り過ぎたら魔法で攻撃じゃ。一撃の威力より手数を優先し、奴らがバラける様にするのじゃ。ジン達は挟み撃ちされない様に気を付けながら、各個撃破を狙え。出来るなら先頭の奴から倒して欲しいが、決して無理はしない様にの」
じいちゃんの言葉で、緊張度が一気に増した。そして俺達の緊張を感じ取ったのか、ユニコーン達も警戒しを強めた様で、こちらから視線を逸らさずにゆっくりと前進し始めた。
百m、二百mと近づいて来て、そろそろ攻撃を仕掛けようかとした時、急に先頭のユニコーンが大きくいななくと、全頭が揃って方向転換して走り去っていった。
「馬肉が逃げてく……」
アムールの呟きに反応できないくらい呆気に取られていた俺達だったが、すぐにユニコーンの姿が見えなくなるまで警戒を続けた。
「行ったみたいだな」
「ああ、俺の『探索』の範囲からも外れた。一応警戒は続けないといけないだろうけど、あの様子だと戻ってくる事は無いだろう」
ブランカの言葉を肯定する様に、俺は『探索』の結果を皆に話した。それでジン達は気が抜けたのか、それぞれ大きなあくびをしたり、伸びをし始めた。
「しっかし、なんでこんな所にあんなのが現れるかな~?」
「んなもん知るか。激レアな魔物を見れたとでも思っておけ!俺はもう寝る!」
ガラットの言葉に、少し機嫌の悪そうなジンが寝床に向かいながら答えた。
「ブランカ、あれ食べれるの?」
アムールは、ユニコーンをただの食料としか見ていない様だ。先程から馬肉、馬肉と言っている。腹が減ったのかもしれない。
「ん?ああ、かなりうまいと聞いた事があるな。だが、ユニコーンの場合は肉よりも、額の角と油、一物の方が価値が有るな。効果の高い薬になるそうだ」
「一物?」
「男の象徴だ」
「なるほど……痛っ!」
俺の股間を見つめるアムールに、バッグから取り出したパンを投げつけた。パンはアムールの顔に当たり、そのまま地面に落ちたが、パンは布に包まれているので品質には問題ない。
「角はわかるけど、油とあれにそんな価値があるのか?」
「それはですね!」
俺はブランカとじいちゃんに聞いたつもりだったのだが、何故かリーナが笑顔で割り込んできた。
「額の角は、煎じて飲むと解熱、解毒、滋養強壮の効果がありまして、しかも解毒に関しては、ほぼ万能と言っていい程の効果があります。油は飲めば胃薬、塗れば傷薬、おまけにシミ、シワ、そばかす等に効果を発揮します!あれに関しては、天日で干した物を炙って砕くと、精力剤になります。どれも高価で高性能で激レアなので、市場に出た瞬間に上位貴族が全て買い漁っていきます……痛っ!」
説明を終えてのドヤ顔にイラついたのか、メナスがリーナの脇腹を軽く小突いた。俺はこれ以上、夜中の変なテンションに巻き込まれる前に自分の馬車へと戻ったのだが、ドアを開けると俺の布団が膨らんでいるのが見えた。めくってみると、そこには口の周りにパン屑を付けた状態で寝ているアムールがいた。
下手に触ると、後々アムール裁判官に有罪確定されそうなので、保護者を招聘して回収してもらった。連れ去られる際、寝ているはずのアムールから小さな舌打ちが聞こえた気がしたが、気にせずに寝る事にした……が、パン屑が布団の中にも外にも散乱していたので、寝る前に余計な労力を使ってしまう事になってしまった。
活動報告にも書きましたが、書籍版『異世界転生の冒険者』が四月十日に発売する事となりました。
この作品を書き始めた頃は、書籍化できるとは思っていませんでした。
これも読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
これからも、『異世界転生の冒険者』をよろしくお願いします。




