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第7章-10 褒美

 食事が終わり、各々食後のお茶を楽しんでいる時、不意に思い出した様に王様が口を開いた。


「忘れておった。テンマ、また明日……いや、明後日に王城に来てくれ。その時は正装でな!」


 王様がこんな感じで話す時は、大抵ロクな事ではないので警戒してしまった。


「まあ警戒するな。これまでの事に対して、王家として正式にテンマに褒美を出すのを忘れていたので、王都を出る前に渡しておこうというだけの話だ」


「ありがたい話ですが、遠慮します」 


 俺は王様の言葉を聞いて、間髪入れずに辞退した。

 王様は自分の言葉を言い切る前にいらないと言われ、少し驚いた様な表情をしている。さすがにこれは無礼がすぎるので、王様は怒るかなと少し後悔し始めた瞬間、王様のとなりから笑い声が聞こえてきた。


「あなた、さすがにその言い方ではテンマは断りますよ。いつもの貴族を相手にした時の切り出し方では、領地や爵位を褒美として与えられると思うでしょうし、テンマはそんなものはいらないと前々から言っているのですから」


「むぅ……」 


 マリア様にやんわりとたしなめられた王様は、少し恥ずかしそうな顔をして頬をかいていた。


「話を最後まで聞かずに断ってしまい、申し訳ありません。領地や爵位ではないとすれば、褒美とは何なのでしょうか?」


 先ほどの王様の言い方であれば、普通に考えれば領地や爵位だが、違うとすれば金銀財宝の類だろうか?俺としてはそんな物よりも、ヒヒイロカネの様な希少金属の方がありがたいが……


「うむ、テンマに与える褒美とは、家名と家紋である!」


 この報酬には少し驚いた。ただし、驚いたのは家名の方でなく、家紋の方である。家名に関しては、上位の貴族の目に止まるくらいの活躍した冒険者が与えられたり、有力な商人などが他の業者と区別する為に持っているものであるので大して珍しくはない。極端に言えば、一般人が自称で名乗っていても特に問題は無い。まあ今回の場合の様に、王家に認められて名を授かるのは珍しい事ではあるそうだ。

 だが、家名に対して家紋は別である。こちらは王城の記録室に保存される為、自分で勝手に作る事はできない。家紋を持っているのは有力な貴族や歴史のある貴族(零細貴族や新しい貴族は持っていない事の方が多い)、国に大きく貢献した者、並外れた功績を残した者などである。ただし、後の二つの例は大抵の場合、家紋を授かると同時に貴族になるので、一般人で持っている者はほとんどいないと言っていい。持っているのは、二つの例で貴族にならなかった者の子孫であると思っていい。


「テンマは貴族になるのは嫌な様であるから、せめてこれくらいは受け取って欲しい。これは国王としての頼みでもある」


 わざわざ国王と言ったという事は、何が何でも受けさせるつもりだろう。王家が俺に褒美を与えたと分かる物で、尚且つ俺が貰って困る物ではないのがこの二つだとの判断とすると、この話を受けないわけにはいかない。もし俺がこの褒美を受ければ、王家と俺の仲は良好なのだとアピールする事ができるし、仮に俺が受けなければ、俺が王家を軽んじている馬鹿にしていると周囲に思われる事になり、評価はダダ下がりとなるだろう。どちらに転んでも王家の名に傷はつかないという事だ。


「なかなかあくどい手ですね」


「たまには国王らしいところを見せておかないとな」 


 俺の嫌味に対して、王様は憎ったらしい程のドヤ顔である。これは俺の完敗の様だ。


「この褒美、ありがたく頂戴します」


「うむ!」


 俺が仰々しく跪いて礼をすると、王様も偉そうに胸を張って頷いた。しかしやられっぱなしも悔しいので、立ち上がった際に、


「褒美の礼というわけではありませんが、食後のデザートのプリンを献上したいと思います。ただ、私の献上したもので陛下の体調が悪くなられますといけませんので、陛下の分は毒見役のクライフさんに確かめてもらいますね」


「ちょ「お預かり致します」」 


 王様が何か言う前に、いつの間にか俺のすぐ後ろに来ていたクライフさんが手を差し出してきた。予想していた事とは言え、突然の登場に少し、いやかなり驚いたが、何事もなかったかの様に王様の分のプリンをクライフさんに手渡した。


「みなさんもどうぞ」


「いやテンマ、私の「ありがとうお兄ちゃん!」プリン「ありがとうございます、テンマさん」は……」


 王様の言葉を無視しながら皆にプリンを渡していくと、王様を除いてプリンは皆に行き渡ったところでなくなった。 


「では毒見をさせていただきます……むっ、これはいけません!陛下には毒でございます!ですので責任を持ってこの私が処理させていただきます!」


「ク、クライフ!何が毒なのだ!返せ!私のプリンを、「テンマ様、ごちそうさまでした」おぉぉぉ……」


 王様はクライフさんからプリンを奪い取ろうとしたが、クライフさんはひらりひらりと王様の手を躱しながら素早く、しかし上品にプリンを全て食べてしまった。プリンの容器が空になった瞬間、王様は泣き崩れたかの様に力なく床に膝をついていた。


「あなた、みっともないですよ」

「ならお前のプリンを……「ごちそうさまでした」おふぅ」


 マリア様は、王様が自分のプリンに目をつけたとわかった瞬間、残っていたプリンを素早く、そして上品に食べていた。

 それを見た皆は、王様に目をつけられては大変だと、各々のプリンを急いで食べている。二名を除いてあくまでも上品に。

 王様は全員がプリンを食べ終えたと思い、力なく椅子に座ろうとした時、未だにプリンに手をつけていない者がいる事に気がついた。


「ザイン、いらないのなら私に!」

「申し訳ありません、陛下。これは我が妻への土産でして……妻は今回の食事会を楽しみにしていたのですが、体の調子が万全でない為、泣く泣く欠席する事を自ら決めたのです。ですので、せめてこのデザートだけでも食べさせてやりたいと思いまして……」


 ザイン様が目元を拭うふりをしてプリンを残している理由を話し、「それでも陛下が必要となさるのであれば、喜んで献上致します。妻も陛下に楽しんでいただけるのならば本望でしょう」と大げさな身振りで言うと、皆一斉に王様を見た。もちろん皆からかっているだけなのだが、いまいち事情を理解していなさそうなルナは、少しだけプリンの残っている自分の容器を王様に差し出し、


「おじい様、私のを食べていいから、叔母様にプリンを食べさせてあげて!」


 とか言っていた。しかも涙目で……もしこのルナの行動が演技なら、将来がかなり心配である。

 このルナの言葉で王様はプリンを諦め(正確にはマリア様の冷たい視線によってだが)、大人しく席に座り直した。


「まあ、この人は置いておくとして……テンマ、家紋の事だけど、特別に龍の使用が認められるわ。本来ならば王家に近しい家系にしか許されないものだけど、テンマの場合は二度も龍を倒し、更に龍を使役しているから、特例として認められる感じね。まあ、過去に例が無い訳ではないから、別に特例中の特例という訳ではないわよ。デザインは自分で決めて、一度王家の方に提出する形ね。まあ、王家を象徴する家紋である『龍と獅子』を使わなければ、大した問題にはならないはずよ」


 結構アバウトな説明だが、他の貴族達(特に有力貴族)とかぶっても問題になるだろう。まあ、龍を使えばかぶるのを探す方が難しくなるだろうが、それでもその貴族を象徴する動物なり文様なり存在するので、例え似たものになったとしても、それを問題にしないくらいの理由を考えるか、全く被らない様なものを考えるかしなければならない。意外と、いやかなり面倒な事ではある。


「なかなか面倒臭そうですね……じゃあ、龍と狼とスライムを使ったものを使います。その三つが今の俺を象徴するものですし」


 考えれば考えるほど面倒臭くなると判断した俺は、龍をソロモンに見立て、そこにシロウマル()スラリン(スライム)を追加する事にした。狼は他の貴族も使用しているだろうが、さすがにスライムを家紋に使用する貴族はいないだろうとの判断だ。しかもその三つが揃えば、俺の事を知っている人間は納得するだろうし、既に狼を使っている貴族にしても、「俺自身が狼を眷属として使役していますから使用しました」と言えば真似だと言う事はないだろう。 


「面倒臭そうといった割には決断が早いな……まあ、いいだろう。狼を使用している家紋はいくつかあるが、龍と同時使用は存在しないし、ましてやスライムを家紋に使用している者は、私の知る限りでいないはずだ。どこからも文句は出ないだろう。それで後はデザインだけだが、何か案はあるか?」


 プリンショックから回復した王様が、楽しそうな声で聞いてくる。それはマリア様や他の皆も同じ様で、興味津々といった顔をしていた。ちなみに、俺の使用する龍は王家の家紋に使われているものと同じ形だそうで、形を変えて使う事は出来ないそうだ。


「ええっと、龍は右上に配置し、その左斜め下に向かい合う形で狼を置き、その二つを内包する形でスライムを表す丸。この円形の中心、龍と狼の間にもう一つ小さな丸を置きます。スライムの核ですね。これでどうでしょうか?」

 

 大雑把に紙に俺の考えを書き出していく。特に難しく考える事無く、ただスラリン達を配置しただけだが、割といい出来になっていると自分では思う。むしろ、皆におかしいと言われてもこれに決定するつもりだ。


「いいと思うよ!お兄ちゃんだと分かりやすいし!」


 ソロモン好きのルナが一番最初に賛成し、それに続く様に皆も賛成してくれた。賛成の一番の理由は、ルナの言った通り『分かりやすい』だそうだ。新しく作る家紋というものは、それを使う人物を連想させる事が大事だそうで、俺の考えたものはある意味理想的なものなのだそうだ。


「デザインもいいし、他とかぶる感じはしないから問題はないわね。テンマがいいなら、私達の方でいくつかその案を使った家紋の下地を用意させるわ。後はその中から選んでくれたらいいから」


 王城には登録されている家紋を扱う部署があるそうで、その部署の仕事の一つとして、家紋の作成というものがあるそうだ。家紋を持つ事が許された者は、自分で作成するか部署に作成を頼むかを選べるそうで、部署に頼むと他の貴族と家紋が丸かぶりという心配をしなくて済むそうだ。

 ちなみに自分で作成する者は凝り性の者が多く、たまに懲りすぎて自分の正確な家紋がわからなくなる者もいるそうで、確認や訂正の為に部署に何度も通う事になる者もいるのだそうだ。そのせいか、入城手続きが複雑で時間のかかる下級貴族や平民などは、家紋をシンプルにする傾向があるらしい。丸に十の字ならぬ、丸にバッテンとか。 


「お願いします。そこはプロに任せた方が確実でしょうし」


 細かいデザインをするほど絵心のない俺としては、案さえ出せばやってくれる部署は大歓迎だ。


「しかし、龍や狼はともかくとして、スライムを家紋に使うと聞かされたら、部署の者達は驚くかもしれんな。さすがに誰のものかを聞いてまで、馬鹿にする者はいないと思うが」


 普通のスライムしか知らない人間は確かに驚くだろう。それほどまでに、スライムとは弱い存在なのだ……一部例外を除いての話だが。 


「その事で少し調べてみたのですが、スライムの種類の割合から言ったら、実は弱いスライムの方が、種類自体は少ないみたいですよ」


 この言葉はティーダのものだ。その言葉に俺達はティーダの言葉の続きを待っている。皆に注目されている事に少し恥ずかしそうにしながらも、ティーダは話を頭の中で整理する様に少し時間を置いて話しの続きを始めた。


「スライムは大きく分けると、普通のスライム種、特殊能力を持ったスライム種、魔法を使えるスライム種になるそうで、普通のスライムとはよく見かけるものとその色違いのもので、特殊能力を持ったスライムとは、色々な毒を持っていたり体内で強酸を作り出したりできるもの、魔法を使えるものはそのままの意味です。特殊能力は、よく見かけるのが毒を持ったスライムだそうで、その毒も普通の毒から、出血毒、麻痺毒、幻覚を見せる毒など様々で、中にはいくつかの毒の効果を持った複合毒も存在します。一説には、この世に存在する毒の数だけ存在するのではないか、とも言われています。毒と同様に魔法の方も、単一の属性しか持たないものから複数の属性を持つものがいるそうです」


 なのだそうだ。しかもそれぞれに亜種などが存在する為、ある意味一番種類が多い魔物でもあるそうだ。

 そうなると、スラリンは『魔法を使えるスライムの亜種』という事になるのだろう。もしくは、『複数の特殊能力を持ったスライムの亜種』。


「ほう、ティーダはよく勉強しておるのう。二代前とは大違いじゃ」


 王様の過去を知るじいちゃんがからかう様に言うと、


「ティーダはマリアに似て、勉強が出来るので……」


 と言った。過去の反省をちゃんと踏まえている様だ。マリア様もその答えを聞いて、満足そうに頷いている。

 ティーダはじいちゃんに合格点を貰えたので、少し嬉しそうな顔をしていた。


「それで、家名の方も自分で考えるのでしょうか?」


「いや、こちらは私が決めて与える事になっている。そして、テンマに与える家名は既に決めているのだ。テンマにはすまないが、(国王)が直接与える家名であるから、例え嫌いなものだとしても変更する事はできない。その時は、どうしても使う必要がある場合以外は、使用しなくても構わない」


 まあそれは当然の事だろう。さすがに王様から直接頂いたものを、俺の感情で変更するのは王様を蔑ろにしている様なものだ。それにマリア様が付いているから、さすがに俺が嫌がりそうな家名を付ける事はないだろう。しかしそれも、マリア様の基準で大丈夫との事なので、僅かではあるが俺の嫌がりそうな家名の可能性は残っている。

 なので、王様がその家名を発表するまでの僅かな時間、俺の心臓は鼓動が少し早くなっていた。


「テンマ、そなたに与える家名は『オオトリ』だ。これからはテンマ・オオトリと名乗るがよい。無論、気に入らなければ使わなくてもよいがな」


 十五年ぶりに聞く俺の前世の姓に、懐かしさがこみ上げてくる。


「その家名、ありがたく頂戴いたします。つきましては、私の両親の墓に名を刻む際、その家名と家紋を一緒に刻む事をお許し下さい」


 この『オオトリ』の名は、俺個人に与えられたものなので、俺の配偶者や子に名乗らせるのはいいとしても、両親に使うのは微妙だと思ったので許可を得る事にした。  


「それは当然だ。寧ろ、刻まなかったら俺は怒るぞ」 

「そうよ。あなたに与えた家名なのだから、あなたの好きにしていいのよ。シーリア達もきっと喜ぶわ」


 王様とマリア様は快く了承してくれた。


「なら、わしもオオトリを名乗って良いかの?」


 じいちゃんも遠慮がちに聞いてくるので、


「当然だよ、じいちゃん」


 と答えると、とても嬉しそうな顔をした。

 

「それとな、テンマ。オオトリという家名は、わしの『オードリー』に似ているから、いらぬ詮索をする者も現れてくるじゃろう。そのような時は、わしらが力になるぞ」


 アーネスト様がそう言うと、じいちゃんは即座に警戒心を顕にした顔になり、


「お主、何を企んでおる!」


「別に何も企んでなどおらぬわ!ただ、家名を与えたわし達にも責任があるから、何かあれば頼ってこいと言っておるだけであろうが!」


 二人の争いはいつもの事だが、じいちゃんの言った様に、アーネスト様が何か企んでいるのは間違いではないだろう。少なくとも、完全に善意だけで言っているのではないと思う。


「お主の言い方は、どこをどう考えても怪しかろうが!」


「なにおぅ!」


 いつも通りの二人は放っておくとして、俺はアーネスト様の言葉の意味を知っているであろう他の面々を見つめた。ジト目で見つめると、微かに王様の顔が引きつっていた。

 狙いを王様に絞ろうとした時、


「まあ、大して気にする様な事じゃねえって、いつもみたいに、『他の貴族連中に、王家とテンマは繋がりがある』って、思わせようってだけの話だ。その代わりに、『馬鹿共にいちゃもん付けられたら、俺達に言えば面倒事は引き受けるぞ』っていうわけだ」


 さらっとバラしたライル様に、王様達は驚いた様な顔をしていたが、ライル様はそんな王様達を見て、


「別に今さらの事だろ?王家(俺達)とテンマが付き合っていく以上、多少なりの利用関係が発生するんだから、隠さない方が互の為だって。こういうのは、変に隠そうとするから拗れるんだよ」


 と、言い放った。

 ライル様の言葉を聞いて、王様とマリア様は少しバツの悪そうな表情になり、


「確かにその通りだ。テンマ、悪かった」

「そうね、息子の様なものだと言っておきながら、一方的に利用しようとするなんて、親のする事ではなかったわね。ごめんなさい、テンマ」


 二人は揃って頭を下げ、俺に謝罪をしてきた。その流れで、家名を与える事は取りやめようと王様が提案してきたが、


「いえ、謝罪の言葉もいただきましたし、理由も聞いて納得しました。ぶっちゃけて言えば、今までと大して変わりないですし、家名はありがたく頂戴します」


 と、このままオオトリの名を貰う事にした。元々神達は、俺をテンマ・オオトリ(鳳天馬)として転生させた様だが、ククリ村で暮らしていた時は家名など必要なかったし、旅に出た後も、ただのテンマとして活動していたので、正直言ってオオトリの名を半分くらいは忘れていた。

 本音を言えば、今の俺はオオトリの名にそこまで愛着があるわけでもないが、父さんと母さんにも(それとじいちゃんも)使っていいと言うのならば、何が何でも貰うつもりだ。

 今の俺と父さん母さんの間には、『親子だった』という繋がりしかなく、それも『知っている人は知っている』レベルだ。これが血の繋がりのある親子だったなら気にする事などないのだろうが、養子である俺にとって、俺達が親子だったと知っている人が全ていなくなってしまったら、他人と同じ様になってしまうのではないかと思えてしまうのだ。

 だからこそ、二人の墓に俺と同じ『オオトリ』の名を刻み、知らない人が見ても親子だとわかる様にしたい。完全な自己満足だとは理解しているが、それでも俺は、父さん母さんとの間に新たな絆が欲しいと思ったのだった。


「それで、明後日は何をすればいいですか?」


「うむ、最初は王家が家名と家紋を褒美として与えたと、城の公式書類として残す為に来てもらおうと考えておったが、思いもよらぬ速さで家紋のデザインがほぼ決まったからな、できれば城の重臣達の前で正式に発表したい。時間的にギリギリになるが、これからすぐに家紋のデザインを部署に回して、明日の昼前には何個かパターンの違うものを用意させる。その中に、テンマが気に入ったデザインがあったらそれを正式に採用し、そこから清書する。だが、テンマが気に入ったものが無かったら別に妥協する必要はない。その時は発表を先伸ばしにしてもいいし、家名のみを先に渡したとしてもいい」 


 とにかく発表する事が大事だそうだ。王家から家名と家紋を褒美として出し、それを俺が公式の場で受け取る。書類に書くとその一文で終わってしまうが、その中に書き加えられてない『重臣達の目の前で』という言葉が入ると事情が少し変わってくる。

 城にいる重臣達で一番多いのは王族派だが、それでもある程度の中立派や改革派が存在している。それらが俺と王様のやり取りを直接見聞きすると、自動的に自分達の所属する派閥の仲間へと話が広がっていく。つまり、俺と王族派が関係を強化したと思われるのだ。マリア様の言った『一方的な利用』とはその事だろう。

 本当に今さらの事である。そんな事を心配するくらいなら、堂々と我が家に馬車でやって来て、居間で自由にくつろいでいる方を気にして欲しいくらいである。

 そんな事をチクチクと王様に言いながら、明後日の段取りを煮詰めていくのであった。


 なお、一番忙しかったのは、王様自ら指示を出しに訪れた家紋管理の部署の面々だったそうで、この国のトップ直々の命令であり、時間が少ないとの事で、十数名のスタッフを総動員して作業にあたったそうだ。

 数少ない救いは、俺が一番面倒臭い部分(家紋の大元のデザイン)を既に決めており、その他の部分は丸投げにした事だそうだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、いざとなったら、全てを捨てて、スライムも何もかも回収して、国から出ちゃえばいいんだし 王族は思いもしないだろうけど、じぃちゃん、付いてきてくれるみたいだし、縁は出来たけど、無理強…
[一言] 監禁されていたエルフ件で報酬出るのかと思ったけど、一言も触れなかったですね。 エルフ一人くらいハーレムメンバーに入ってくるかと思っていたんですがはずれたw
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