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第7章-7 お披露目

「にがっ!」

「不味くはないけど、味が薄いね」

「それに、独特の匂いがしますね。私はちょっと苦手です」


 文句を言っているのはエルフ達ではなく、鍋に残っている重湯を味見しているクリスさんとメナスとリーナである。

 この三人、俺がポロっと「美容にも効果があるかも?」と、重湯を味見した時に小さな声で呟いたのを耳聡く拾い、エルフ達があまり食べないのをいい事に、おこぼれにありついたのだ。

 ちなみにエルフ達にはそこそこ好評であった。どうやら森で暮らす事の多いエルフにとって、薬草の苦味というのはあまり気にならないらしい。


 ジャンさん達は、そんな三人を見ないふりをしていた。どうやら、ただでさえエルフの事で頭が痛いのに、三人にまで構っている余裕はないのだろう。


「お疲れ~」

「おっ!なんかいいもん食ってんな!」


 そこにガラットとジンも合流し鍋の中を覗き込むが、すでに鍋の中は空っぽだ。

 二人は恨めしそうに重湯をすすっている三人を見るが、三人は少しも気にした様子を見せずに空になったお椀を俺に返してきた。


「テンマ君、これ苦い!これが本当に美容に効果があるの?」


「クリスさん、『ある』じゃなくて、『あるかも?』だからね。一応消化にいいものだし、キノコなんかの繊維が腸のお通じをよくするかもしれないから、もしかしたら肌にもいいかもしれないっていうレベルの話だから、過度な期待はしないでね」


 まあこの三人の場合、便秘による肌荒れとか無さそうだからあまり関係はないかもしれないが……

 俺の説明を聞いて三人は少しがっかりした様だ。そんな三人を、男性陣は変なものを見るような目で見ている。どの世界にも、女性の努力を理解できない男はいる様である。そういう俺も、自信を持って理解できると言えるわけではないがな。

 そんな事を考えながら、俺は三人やエルフ達から回収したお椀や鍋をスラリンに渡した。

 スラリンは渡されたお椀や鍋を体内に取り込み、表面についた食べかすや汚れを綺麗に落としていく。スライムはある意味『溶かす(・・・)』事のプロなので、少し訓練すれば表面の汚れだけ(・・)を落とす事など造作もないのである。まあ、最後に水ですすぐ必要はあるが、それでも大幅な労力削減だ。


 片付けが済んだところでジン達が自分達にも食べ物を、と要求してきた。仕方がないので、バッグに眠っていた『いつ買ったのか忘れた食べ物』を出して渡すとすぐに食べ始めた。シロウマルはジン達と一緒に入ってこようとしたみたいだが、エルフ達に怯えられてしまったので外で待っているらしい。

 仕方がないので外へ出て、シロウマルをディメンションバッグに入れて食事をさせる事にした。もちろんソロモンも一緒だ。

 二匹ともかなり腹ぺこだった様で、出した物を片っ端から食べ尽くしていった。ただ、野菜だけは吐き出していたので、しばらくは野菜週間にしようと決心した。

 ちなみに俺自身は、少しだけ余っていた肉を炙って、野菜と一緒にパンに挟んだサンドイッチのようなもので済ませた。

 

「お~い、テンマ~」


 ジャンさんが俺を呼んだので、シロウマル達をディメンションバッグにいれたまま向かうと、ジン達も集合していた。とりあえず作戦は終了という事で、後日報酬が支払われるらしい。

 ただ、俺の功績がかなり大きくなったので、他の皆との差が開きすぎたそうだ。そこで、スラリン達の分も含める事で帳尻を合わせる事になるらしい。そうしないと近衛隊の予算の関係などで、財務の方から嫌味を言われるそうだ。

 俺の方は特に気にする事はないので、お任せしますとだけ言って帰る事にした。でないと、奴隷関係の事で、また何か押し付けられそうだったからだ。


「そこそこ実入りのいい仕事だったな。あまり強い奴もいなかったし」


 ジンは今回の仕事内容に満足している様で、報酬を受け取ったら何に使うかを考えている様だ。

 

「ところでテンマ。お前はいつまで王都にいるつもりなんだ?」

「私達はそろそろセイゲンに帰ろうかって話をしてるんだが……一緒に帰らないかい?」

「食事をテンマさんが担当してくれたら、他の事は私達がやりますから」


 そういえば、最初の予定よりも滞在が長引いている。まあ、ここにはじいちゃんがいるから王都に拠点を移してもいいんだけど、ダンジョンが中途半端になっているから、そちらも攻略を進めたいんだよな……他にも、ジュウベエ達の餌の確保にも行かないといけないし。

 その事を告げると、あと十日は王都にいる予定だから、俺の予定が決まったら教えてくれとの事だ。

 俺もどうせ一度はセイゲンに行かないといけないから、行き先が同じなら同行した方が楽ではある。


 とりあえず今後の事は早めに決めるとして、予定がどうなろうと連絡だけはすると約束して『暁の剣』と別れた。ブランカはアムールの所に顔を出すそうなので、一緒に向かう事にした。


「セイゲンか……確か有名なダンジョン都市だったな。面白いか?」


「俺はセイゲンのダンジョンが初めてだから、他と比べようがないけど、なかなか面白いぞ。実入りもなかなかいいし」 


「そうか……でも、大会が終わったからには、一度村の方に帰らんといかんからな。嫁さんも待っているし」


 そんな話をしながらアムールが軟禁されている場所へと向かったのだが、そこにいたのは……


「あっ!お兄ちゃん、おかえり」

「テンマ、おかえり」


 何故かアムールと食事をしているルナがいた。何故こんな所にいるのかと思っていたら、


「おっ!どうやら終わったようだな!」


 後ろからライル様が現れた。恐らく、(この二人の基準で)面白そうなので様子を見に来たのだと推測した。。

 この二人は、何度かうちで顔を合わせているので、それなりに親しくなったのだろう。一応二人に何故ここにいるのか聞いてみたところ、ルナは「心配だったから」と答え、ライル様は「面白そうだったから」と答えた。ルナはともかく、ライル様は完全に野次馬根性を発揮しただけの様である。


「さて、テンマも来たし、さっさと帰るぞ!」


 ライル様はそう言うと、豪快に扉を開け放った。その言葉にルナとアムールは残りの食べ物を掻き込み、口を大きく膨らませて準備を始めた。


「アムールを連れて行ってもいいんですか?」


「問題ない。一応罰金は払ってもらう事になるが、今回の件は騎士団にも非がないとは言い難いからな。その分罪は軽くなった……と言うか、させた。それで、もうその罰金も払い終わっているから、晴れて自由の身だ。ついでに言うと今回の事は俺の独断ではなく、王家の判断だからな。流石に大会の準優勝者を、こんなつまらない事に巻き込んでおいて、いつまでも拘束しているというのは王家としても色々と不味くてな」


 そういうわけで俺達は揃って外に出た。ブランカは、少なくとも明日か明後日くらいまではアムールは出てこないと思っていた様で、すぐに帰れる事に多少驚いていたが、これで予定が立てやすくなったと言っていた。

 アムールは解放された事を喜びながら、何故か俺についてこようとしていたが、ブランカに今回の話と今後の話をしなければならないと言われ、抵抗虚しく宿へと引きずられていった。 


「それで、テンマは今から城の方へ来てくれ。母上が呼んでいる。多分、ゴーレムの話だと思う」


 依頼のゴーレムは作り終わっているので、引渡しには丁度いいタイミングではある。


「分かりました」


 俺はライル様の言葉に頷くと、用意されていた馬車に乗り込んだ。

 それからしばらくの間、二人と話をしながら馬車に揺られていたが、道中ルナがしきりにゴーレムの先渡しを要求し、それにライル様も便乗したので大変だったが、マリア様にまずは見せなければ、と言うと面白いくらい静かになった。

 


「ごめんなさいね、急に呼び立ててしまって」


 王城につくと、そのまま二人に先導されて、マリア様の待つ客間へと案内された。王様達はまだ仕事が残っている様で、ここにいるのはマリア様とイザベラ様、そして俺と俺を案内した二人だ。ティーダは最近少しずつ仕事を割り振られており、その分がまだ終わっていないらしい。ちなみに割り振られている仕事は、王都付近に生息する動物の保護・繁殖を目的としたもので、条例作りやこれまで狩りを認められていた部分の半分程を保護地区にする為に頑張っているそうである。


「早速で悪いけど、出来ている物があれば見せて貰えるかしら?」


 マリア様の要望に俺は頷き、数体のゴーレムを取り出した。ちなみにこの場には護衛となる近衛は誰一人としておらず、それだけで俺がどれだけ信頼されているかがわかる。

 俺はマリア様の言葉に頷きながら、バッグから指輪と腕輪とネックレスを取り出して魔力を注ぎ、床においた。すると、床に置かれた装飾品を飲み込む様にして、三体のゴーレムが出現した。 

 ゴーレムは、『防御型』・『攻撃型』・『速度型』の三種類だ。この中で防御型と攻撃型は、前から使用していたゴーレムを改良したものなので、二体共似た様な形をしているが、速度型は新しく作った為、一つだけ形が大きく変わっている。


「こっちの二つは、以前見たものとあまり変わらないわね」

「違いは盾を装備しているか、両手に剣を装備しているかといったところかしら?」


 マリア様とイザベラ様は二体を見比べた感想を述べた。しかし、軍務卿であるライル様は、もっと細かな点に注目していた。


「防御型はまさに『動く壁』だな。攻撃型より全体的に太く出来ていて両手と両肩に盾が装備可能、盾は防御と同時に鈍器としても使えそうだ。だが、重量があるだけに速い動きは期待できそうにないな。攻撃型は、肩・肘・指・膝・つま先などを尖らせているのか。それに腕の側面が軽く研いであるから、無手でも腕を振り回すだけでかなりのダメージを与えられそうだな。防御型が盾を持った重戦士なら、攻撃型は格闘もこなす剣士といった感じか。で、問題は速度型だが……」


 流石に軍事を担っているライル様だけあって、防御型と攻撃型の大体の特徴を見ただけで把握したようだ。しかしながら、初めて見る形の速度型については、どの様に評価していいのかわからないらしい。

 この速度型、見た目はかなりの細身で人間に近い形をしている。だが、高さが百七十cmなのに対し、両腕を広げた長さが二mを超えるのだ。そして顔はのっぺらぼうである。まるで不格好なマネキンが動いているようで、そんな速度型を見た四人は、顔を引きつらせていた。製作者である俺も、もしこれが夜中の廊下に立っていたら、驚いてその場から逃げ出してしまうかもしれない。

 だが、それも一つの狙いである。


「こんな見た目ですけど、一番厄介な性能をしているのがこいつです。こいつの最大の特徴は、人間の様に動くだけでなく、獣の様に四足で移動する事が可能な点です。そのおかげで、二足歩行よりも軽やかで素早い動きができます。あと、のっぺらぼうなのは、見た目で敵が警戒してくれるのを期待したからです」


 この速度型のイメージはズバリ『猿』である。それなら素直に猿型を作ればいいと思うかもしれないが、ある程度の大きさが無いと、万が一の場合に護衛対象を連れて逃げるのが(乗せたり抱き抱えたりする事を想定している)難しくなるし、かと言って猿型のまま大きくすると、今度は重くなってしまい動きに支障が出てしまう。その為、腕を長くした状態で体を細くして軽量化を図り、更に二足歩行でも速度が出るように足を長くした結果、見た目がちょっと不気味なゴーレムが出来上がってしまったのだ。これは、俺の芸術的なセンスが欠けているせいでもあるのだが、それは言う必要はないだろう。


「なるほど、速度型は敵のかく乱だけでなく、いざという時に護衛対象の乗り物にもなるのか。素材は……ミスリルか?」


 俺はライル様の言葉に頷いた。

 軽くて丈夫な素材となると、ミスリルが一番最初に思いついた為、ナミタロウに作った腕を参考にして、魔鉄をミスリルで包む様にして速度型を作ったのだ。速度型は細身である分だけ、耐久力に不安があるので、ミスリルを使う事で魔鉄のみで作るより格段に耐久力と速度の向上が見込める。


 俺の説明を聞いて、しきりに感心するライル様を見ていると、なんだか不思議な気分になってしまう。いつもはふざけた言動が目立つが、やっぱりこの人は本物の『軍務卿』だと再確認した瞬間である。


「テンマ、こいつの性能を確かめる事はできるか?」


 ライル様は、まるで子供が新しい玩具を貰ったかの様に目を輝かせながら、速度型を触りながら訊ねてきた。その横では、本物の子供も興味津々の様だ。どうやら先程まで不気味に見えていた速度型が、見慣れてくると今度は興味の対象へと変化したらしい。


「できますけど……流石にここでは無理ですからね」


 俺がそう言うと、二人揃って残念そうな顔をしながらブーブー言っていたが、マリア様の咳払いで静かになった。それに元々このゴーレムは、王族が襲われた時の切り札として制作した物なので、むやみに人の目に晒していい物ではない。従ってこの部屋どころか、王城にある訓練施設でも使用は控えるべきなのだ。

 二人はしばらくの間静かにしていたが、ルナが突然閃いたといった感じで満面の笑みを浮かべた。


「おばあ様!謁見の間ならいいでしょ?あそこなら広いし、頑丈に出来てるし!」

「ルナ!いい考えだ!母上、そういう事なので、少し席を外します」


 ルナの意見に、すかさずライル様が賛成し、マリア様の許可を得る前に席を立って歩き出した。

 マリア様は、今この二人を止めたとしても、今度は自分の知らない時に別の場所でやるだけだ、とでも思ったのか、ため息をつきながら許可を出した。

 その許可を聞きながら、意気揚々とゴーレムの前に立つ二人だったが、そこである問題が発生した。


「ところでテンマ、これはどうやって運ぶんだ?」


 この言葉にマリア様は深いため息を吐き、イザベラ様は少し呆れたような笑みを浮かべた。

 

「今のところ、誰の命令でも聞く状態になっているので、とりあえずライル様とルナの登録だけ済ませましょうか」


 実はそのままゴーレムに向かって、「元に戻れ」と言えば、ゴーレムは元の装飾品に戻るのだが、この場から持ち出すのなら、いっその事二人を主と登録して、他の者が使えないようにした方がいい。まあ、最終的には持ち主以外の王族の方々を第二第三の主として登録する予定だ。ちなみに主の登録は、製作者である俺以外には出来ないようにしてある。こうでもしないと、もし盗まれでもした時に大変な事になってしまうからだ。

 なお登録の仕方は、俺の魔力を流した後で、主となる者の血を核に付着させて、付着させた本人の魔力で起動させれば終了だ。このやり方を繰り返せば、他に何人でも主として登録することができる。ただし、主としての優先順位は、登録したのが早い順に認識されるので、一番に登録した者と二番に登録した者が同時に命令した場合は、一番に登録した者の命令を優先し、二番の主の命令は破棄される。


 俺は登録の手順を説明を終えると、ゴーレムを元の装飾品に戻して魔力を流した。これで後は二人の内どちらかが血を付着させて起動すれば登録が終わる。なので、血を付着させる為のナイフを差し出したが、ルナはナイフを見て躊躇してしまった。

 それを見たライル様がナイフを受け取り、刃を自分の指に押し当てて血を出し、核に付着させて起動させて主登録をしてしまった。

 流石にライル様は自分の指を切る事を恐れはしなかったが、ナイフが思ったより深く指を切ってしまったようで、俺が治療する羽目になってしまった。


「んじゃ、行ってくる!」 

「いってきま~す!」


 仲良く部屋を飛び出していったその様子は、二人に同じ血が流れていると認識させるのだった。


「それで、テンマがここに残っているという事は、私に用があると思っていいのかしら?」


 二人を見送ったあとで、マリア様は居住まいを正しながら俺に問いかけてきた。流石にマリア様は、俺が二人に同行しなかった事に理由があると見抜いていたようだ。


「それだと、私はいない方がいいかしら?」


 イザベラ様は、俺に気をきかせて椅子から立ち上がろうとしていたが、俺はそれを留めてここにいてもらうように頼んだ。流石に、マリア様と密室に二人っきりでいたというのは聞こえが悪い。ヘタをすると、男女の関係にあると疑う者も出てくるだろう。主に改革派の関係者辺りから。


「まあ、色々と難癖を付けたがる輩がいるでしょうから、イザベラもここにいた方がいいわね。別に聞かれて困るような話では無いんでしょ?例えば、テンマの結婚の事に関してだとか」


 理由もこれから話す事の内容もばっちり把握しているようだ。本当に回りくどくなくて済む。


「ええ、その通りです。アイナから聞いたのですが、俺の結婚相手にはマリア様の許可が必要で、それに母さんが絡んでいるとか……本当ですか?」


 俺の問いに、マリア様は表情一つ変える事無く、


「ええそうよ」


 と答えた。

この度、『異世界転生の冒険者』の書籍化が決定しました。出版元はマッグガーデンノベルズ様で、四月の予定となっております。

今後、活動報告等で詳しい情報を上げていく予定です。

これからも『異世界転生の冒険者』をよろしくお願いします。


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