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第7章-2 学園見学その2

「えっ?ほんとに!ごめんなさい!」


 ルナは、リオンに対してすぐに謝罪し、頭を下げた。リオンは名前を間違えられた事に対して、特に腹を立てた訳では無かった様だが、少しは気にしているみたいだった。 

 その姿を気にしたルナは、申し訳なさそうに、


「リオン様とは、あまりお会いした事がありませんでしたので……」


 とか言っていた。その言葉に納得したのは、俺とリオンを除く三人だった。

 その事をクリスさんに聞いてみると、意外な答えが返ってきた。


「リオンって、あまり王城の奥の方まで来ないから。あの三人は将来家督を譲り受ける事が決まっているけど、肩書が『次期当主』なだけで、実は今の三人は爵位の無い貴族扱いになるのよ。だから、そう簡単に王城の奥まで入る事が出来ないの。例外として、この間のパーティーの様に招待状を持っているか、現当主の付き添い(・・・・)でしか入城出来ないわけよ。アルバートとカインの二人は、サンガ公爵様とサモンス侯爵様が良く王都に来られるから、その関係でルナ様に会う機会も多い訳ね。その逆にハウスト辺境伯様は、領地からそう簡単に離れる事が出来ないからね。自然と王城に来る回数が減るのよ。前に来た時から……三年くらいは経っているかしらね」


 と、詳しく説明してくれた。なるほど……と思っていると、ふとある疑問が沸いた。


「って、次期当主ですらそう簡単に王族に会えないのに、平民の俺とじいちゃんがほぼフリーパスっておかしくない?」


 である。これまで、そんな大した用事でもない(暇だからとか、解体の場所貸してとか、新作のお菓子が出来たから等々)のに、ちょくちょく王様達に顔を見せていたのだ。

 そんな俺の言葉に反応したのはルナで、とても不思議そうな顔をしていた。


「でも、私達もお兄ちゃんの家によく遊びに行ってるし、お爺様と叔父様なんかは勝手に上がり込んでるし……お父様とお婆様も、『お兄ちゃんとは仲良くしなさい』って言ってたから、問題ないと思うよ!」


 言われてみればそうだった。特にあの二人は、気が付いたら家のリビングでくつろいでたな。

 そんな風に納得しかけていると、クリスさんが呆れたように耳打ちしてきた。 


「いや、普通はありえない事だからね。こう言うのも何なんだけど、陛下のお考えの中には、政治的な意味合いもあるから。まあ、テンマ君が、陛下とマリア様の大親友達の息子だから、と言うのが一番の理由だと思うけど」


 確かにそうだった。王様達が気さくなもんでついつい忘れがちだが、前世の日本で言うならば、天皇陛下に勝手に逢いに行く様なものだ。普通なら近づいただけで拘束か、その場で殺されてもおかしくない。


 今更ながらに、すごく恵まれているのだなと思った。それを考えたら、多少の政治的な使われ方は仕方がないか……せいぜい、『テンマは王族派みたいなものですよ』的な他派閥への牽制くらいなもんだろうし、あまり無理を言うつもりなら他の国に行きますよ、って何度か脅したからな。その件に関しては、マリア様が味方になってくれたから大丈夫だろう。

 ちなみに、無いとは思うが、『敵国から攻められているから手伝ってくれ』くらいならセーフだが、『戦争を仕掛けるから、行って来い!』とかになったらアウトだと思っている。その時には、どこかで隠遁生活を送るか、この国を出る事になるだろう。


「まあ、王様達がいいと言ってるなら、特に気にする必要もないか」


「そうだよ」


「家に来て、勝手に飲み食いしてるしな」


「そうそう」


「ルナなんか、俺の作り置きしているお菓子を勝手に持って行くし」


「そうだね……えっ!」


 俺の誘導尋問(笑)に引っかかるルナ。とっくの昔にばれている事に、気が付いていないみたいだった。この誘導尋問(笑)に引っかかったのは、実はルナで二人目である。一人目はもちろんアウラだ。彼女も同じ様につまみ食いの容疑を掛けられ、アイナの目の前で罪を認めるはめになったのだ。あの時のアイナの折檻はすごかったなぁ。


「安心しろ、イザベラ様やマリア様には言わないさ……ルナがいい子でいるなら、な」


 こくこくと首を縦に振るルナ。だが、ルナはアウラに似た所があるからな……頭の中身だったり、お調子者だったり……

 とにかく忠告はしたので、これで一時の間(・・・・)は大人しくしているだろう。これから(・・・・)、と言えないのが悲しい所ではあるが。


「それで、ルナは今から帰るのか?」


 ルナの後ろにいる女の子達を見ながら訪ねると、ルナは首を横に振った。

 どうやら、ルナはティーダを待たなければならない様で、ここには友達の女の子達を見送りに来ただけの様だ。

 本当ならルナはもう少し先まで見送るつもりだったらしいが、女の子達に謝りながらここで別れていた。俺達に付いてくる気満々の様だ。


「じゃあね~今度遊びに行くから~……じゃあ行きましょうか」


 女の子達に手を振りながら見送り、俺達の先頭に立とうとするルナ。その様子に、リオンは少し浮かない顔をしていた。多分、ルナがここにいるという事は、もう少ししたらティーダも合流するという事で、自分の企みがバレて王家が辺境伯家に悪い印象を抱かないか心配なのだろう。

 しかし、王様達はそれくらいで印象を悪くしないだろう。何せ、王族派でも重要な地位にあるハウスト辺境伯家が、俺と仲良くする事は王家にとっても益のある事だからだ。

 その事を教えようかと思ったら、カインが急に振り向き、口の前に指を一本立ててウインクしていた。多分、『面白そうだから黙っておいて』という事なのだろう。確かにその方が面白そうなので、俺は静かに親指を立てて了承した。 


「ほらほらリオン、歩く速度が落ちてきてるよ。早く学園長室に行かないと。そういう訳なのでルナ様、申し訳ありませんが、ティーダ様の教室に向かう前に、学園長室の方に向かってください」


「分かっ……分かりました」


 ルナはルナで、三人の前なので猫を被ろうと必死の様だ。まあ、とっくの昔に三人……いや、二人にはバレていると思うが、皆指摘はしなかった。


 学園長室は中央の建物の最上階である五階にあり、階段を上るのが大変だった。なので、途中から浮遊魔法を使って楽をしていたのだが、階段を上り終えた所でルナに見つかり、散々文句を言われた。

 なお、俺の使った方法は特別な場合を除き、学生以外しか使ってはいけないそうなので、例えルナが階段の途中で俺の方法に気付いたとしても、俺の魔法に便乗したりすると、学園より罰が与えられる。なお、罰にはいろいろな種類があるが、この場合は比較的軽い罰で済む様だ。ただ、軽い罰でも、あまりにも回数が多くなると、最悪の場合退学処分もあり得るので注意しなければならない。

 しかし、学外からの客人にまで階段を上らせる訳にはいかないので、その場合は客人に浮遊の魔法を施された板に乗ってもらい、浮遊の魔法を使える教師が引っ張って行くか、俺の様に浮遊や飛行が使える者には、魔法の使用許可が下りるそうだ。

 教師の中でも浮遊の魔法を使う事が出来るのは、全体の一割以下の十四~五人くらいで、生徒に至っては四~五人いるかどうからしい。

 ちなみに、全校生徒を合わせると毎年千人程になるらしく、一クラスだいたい四十人前後で、幼等部と小等部が四クラスずつ、中等部が八、高等部が十で構成されているそうだ。

 幼等部と小等部のクラスは、ほとんどランダムに振り分けられるが、中等部からは実力制となり、成績が上の者からA、B、Cといった風に振り分けらる。成績には実技等も含まれ、それぞれの上位から選抜されるので、知力一・筋力十の脳筋でも、Aクラス入りは可能である。


 学園長室にたどり着くと、アルバート達が来訪を告げ、続いて俺とクリスさんとルナの入室の許可を取った。

 問題無く許可の下りた俺達は、案内されたソファーに座り、学園長と対面した。

 学園長は六十過ぎの男性で、この学園の卒業生だそうだ。卒業と同時にこの学園の教師になり、今では勤続四十年を超える学園の生き字引ともいえる存在らしい。

 元々ある侯爵家の三男だったが母親が平民の出であった為、成人後は侯爵家から出される事が決まっていた。その為彼は平民出身の者と仲良くする機会が多く、就職後は貴族・平民両方の事を理解する教師として生徒や他の教師からも人気だったらしい。

 そのおかげで順調に出世していき、五十直前での学園長就任となったそうだ。これは彼の教え子でもあった、当時の大臣や皇太子(現在の王様)、その他多数の貴族からの推薦があった事も関係していたが、問題無く認められたそうだ。


 そんな学園長が険しい顔をしていたので、俺を除く五人はかなり緊張した面持ちだった。しかし、学園長が口を開くと、その内の二人は自分達に全く関係のない話だったので、肩の力を抜いてリラックスし始めた。その内容とは……王家主催のパーティーで起こった、『腐女子昏倒事件』についてだった。

 退場になった令嬢達の共通点が、年齢が近い事、学園出身な事、アルバート達をじっと見ていた事だった為、三人と何か関係があるのでは、と言った問い合わせが何件かあったそうだ。

 最初の内こそぼかして伝えていた学園長だったが、最終的には納得しない保護者達に、令嬢達の悪癖を伝える羽目になったそうだ。

 それには保護者達は絶句しており、中には三人に怒りを覚えている様な者もいたそうだが、学園長は今回の件には三人に責任は全く無く、令嬢側が原因の不幸な事故であり、もしこの事で三人に何らかの危害が与えられた場合、王家や調査に関わった者達に対し、全ての情報を流さなければならなくなる、と言って、半ば脅しをかけて納得させたそうだ。その為、一応気を付ける様にと注意を促す為に、学園に三人を呼び出したそうだ。

 ただ、呼び出した理由は他にもあり、一応学園の方から三人に注意をした、という形をとる為でもあったそうで、これで保護者の溜飲が少しは下がれば御の字かな、と言う目的もあるそうだ。


 一通り注意が終わった所で、学園長は俺を学園に編入させたいと言ってきた。

 なんでも貴族が多いこの学園では、平民に対して横柄で見下した様な態度を取る貴族がいるそうだ。彼らからすれば、生まれながらに貴族である自分達は選ばれし者であり、下々の者は自分達に尽くさなければならないらしい。

 程度の差はあれ、そういった考えの貴族の生徒はかなりいるそうだ。

 そこで、貴族ではないが自分の力で名声を得た俺を入学させ、平民の生徒に対しては、俺と言う先例を間近で見せる事によって発奮を促し、貴族の生徒に対しては、人の才能に生まれは関係無いと教えたいそうだ。その事で貴族の生徒がよからぬ事を考え実行しようとしても、力ではどうにもならないし、権力に関しても王家が後ろにいる以上手出しは出来ないので丁度いいらしい。

 一応これは依頼という事なので、学費の免除、生活費・備品の負担、さらに報酬が支払われるという事だったが、どう考えても面倒臭そうだったので即座に断った。

 学園長はとても残念そうにしていたが、駄目元での勧誘だったらしく、大人しく引き下がった。


 話が終わった所で、ティーダを迎えに行く為に学園長室を後にした俺達は、ルナの先導で待ち合わせの場所へと急いだ。

 待ち合わせ場所はティーダの教室で、中央の建物から少し離れた所にある小等部校舎の三階だった。

 小等部校舎のすぐ横には幼等部校舎があり、二つを合わせるとちょっとした高校くらいの敷地面積を持っていそうだが、これでも中等部・高等部の半分もないそうだ。


 そんな説明を受けながら、俺達一行は小等部の校舎内を歩いていく。時折すれ違う教師がにこやかにしているので、すでに話は通っているみたいだ。

 しかし、生徒達の方には知らされていない様で、外部の人間がいるのが珍しいのか、立ち止まってこちらを見ていた。さすがにむやみに話しかけては来なかったが、ルナの知り合いらしき子達が数人寄って来て、俺達の事を聞いて目を輝かせていた。

 そこから話が広がった様で、ティーダのクラスに着く直前で囲まれそうになったが、騒ぎを聞きつけた教師達が何とか収めてくれた。


「お兄様、お待たせしました」


「遅かったね……って、テンマさん?」


 数名のクラスメイトと話していたティーダが、ルナの声に反応して顔を向けた所で、その後ろにいた俺に気が付いた。

 その後、クリスさんとアルバート達に気付き、軽く挨拶を交わした後で事情を説明し、ルナが俺の案内について行きたいとお願いした事で、ティーダの参加も決まった。

 ティーダはクリスさんに、迎えの馬車に待機する様に言づけた。



「それじゃあ行くか。小等部や中等部を見ても面白くないだろうから、高等部と学園の施設を回って行こうぜ」


 最初はティーダに何か言われるのでは?とびくびくしていたリオンが、張り切って先導し始めた。どうやらティーダとルナの態度から、印象を悪くした様に感じなかったので、問題が無い事に気が付いた様である。ティーダは、俺がアルバート達の連れとして学園に来たと思っている様で、リオンが先頭に立つ事に不満は無いみたいだ。ただ、ルナはリオンが自分が勉強している所を案内しないと聞いて、少し不満気の様子だ。 

 しかし、そんなルナの態度にリオンが気付くはずも無く、さっさと小等部の校舎から出て行ってしまった。


「まずはこの先にある学食からだな。本当はあそこにある学生寮なんかも見せたいが、中は基本的に関係者以外立ち入り禁止だからな。学食は学園長室のあった中央棟の裏側だ」


 リオンが言う学食は、中央棟の後ろにある二階建ての建物の二階にあるそうだ。そして、その下の一階部分は売店や休憩所になっているらしい。

 立ち入り禁止だという学生寮は、上から見ると縦長の凸の字になっており、凸の下の部分が入口や待合室があり、左右が男子寮と女子寮に別れていて、上の部分が食堂や風呂場になっているそうだ。

 その説明の最中、風呂場の部分でクリスさんがニヤニヤしてリオンを見ていたので、何かあるのだろうと思っていたら、露骨にリオンが話を逸らし始めた。まあ、お楽しみは後に取っておこう。頼まなくても、クリスさんなら喜んで話しそうだし。


 学食はかなりの広さを持っており、一度に六百人が入っても余裕があるらしい。ただ、幼等部と小等部用の席が百ずつと、中等部と高等部用に二百ずつと言った感じで優先席が決まっているらしく、例え他の学部の席が空いていても、勝手に座るのはマナー違反として非難されるらしく、あまりにも悪質な場合、罰を受ける事もあるそうだ。


「味はそこそこうまく、値段はかなり安い。しかも学校の施設としては、結構遅くまで利用できるから、寮生活以外の生徒や教師が、結構夕食代わりに利用するな。ただ、メニューは少ないし、日によっても変わるけどな」


 一番多いパターンが、パン(二個)・スープ・一品料理だそうで、たまにサラダが付く時があるらしい。これで五十Gだから、生徒だけでなく教師からも人気があるらしい。


「ここ以外での食事となると、下の売店でパンを買うか、自分で用意する、もしくは外部から持ってくるかだね。外部からは朝早くに買いに行くしか方法が無いけどね。利用者のほとんどが、自宅から通ってる平民の生徒達だね」


 カインの言う朝早くとは、登校時間と帰宅時間以外の生徒の出入りが禁止されているからで、寮生活をしていると、門が空いている内に抜け出して買いに行くか、通いの友人に頼んで買って来てもらうしか方法が無いそうだ。


 今日は休暇中なので、学食は営業していなかったが、代わりに売店で食料を買ってみた。

 売っているのは固い黒パンに甘くないジャムや干し肉、それと油に漬けこまれた鶏肉や魚だった。こちらも休暇中なので、売っているのは保存がきく物ばかりだそうだ。

 その中からジャムと油漬けの鶏肉と魚を注文してみたが、意外とうまかった。


 ジャムはリンゴと柑橘類の二種類で、砂糖はほとんど使われていなかったが、果物の自然な甘みや酸味があった。油漬けの方はいわゆるアヒージョで、ぶつ切りにした鶏肉にニンニクの香りや香辛料の刺激が食欲をそそった。魚の方は鶏肉程では無く塩気も強かったが、なかなかいい味を出していた。魚の種類はイワシの仲間の様で、塩漬けにして運ばれてきたものを使うそうだ。

 しかし、それだけではさすがに物足りず、俺のバッグに保管していた物を取り出して皆で食べた。


 腹も膨れた所ので高等部を目指したのだが、途中カインが気持ち悪いくらいにご機嫌だった。鼻歌を歌って、スキップまでしそうな勢いである。

 何か知っているかとアルバートを見たが、彼も分からない様だった。


「おい、カイン。何でそんなにご機嫌なんだ?」


 空気を読まない(リオン)がカインに直接尋ねるが、カインは「えへへ~」と笑うばかりで答えなかった。

 そんなカインを(いぶか)しんでいると、どこからか足音が聞こえてきた。俺の耳でようやく聞こえるくらいの音だったが、どうもこちらを目指して走っている様な音だ。

 音のした方向を振り向くと、見覚えのある女の子がすぐ近くまで接近していた。その距離、僅か五m。


「しゃ~~~~」


 思いっきり踏み込んで飛びかかってきた女の子を、勢いを殺さない様に投げ飛ばすと、女の子は空中で数回転して着地した。


「テンマ、見っけ!」


 その正体はアムールだ。いきなりの登場に、皆は驚き固まっている。俺を除いて動けていたのはクリスさんだけで、ティーダとルナの前に立ち、二人を庇う様にして剣を抜いていた。そしてその正体を確かめてから、静かに剣を収めた。


「アムールは、なんでここにいるんだ?」


「皆と来たから。もうすぐ来る」


 皆と、と言う言葉に首を傾げた俺達は、アムールの指差した方を一斉に向いた。

 するとその方角から、アムールの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。とても聞き覚えのある声ばかりだ。


「いたぁ~~~!」

「プリメラ、アムールいたよ!」

「あそこっ!あそこだよ!……って、テンマもいたぁ~~~~!」


「へっ?テンマさんも?」


 曲がり角から姿を現したのは、いつも通り元気なリリー・ミリー・ネリーの三姉妹に、少し疲れた様子のプリメラだった。


「奇遇だな。こんな所で会うなんて」


 俺はくっついて来ようとするアムールの頭を押さえながら、駆け寄ってきた四人に声をかけた。


「「「あのね、あのね、プリメラがね、見学の許可が下りたから一度行きませんかって誘ってくれてね、ついでだからアムールも誘ったんだけど、アムールったら門をくぐるなり『気配がする……』とか言って走り出したの!そしたらね!」」」


「ストップ!三人が一度に喋ったら、何言ってるか分からない!」


 本当は三人共息がピッタリ揃っていたので、大体のところは聞き取れていたのだが、三人揃ってぐいぐいと前に来るので、少し落ち着かせる為に話を止めた。


「それで、どうしてプリメラ達はここにいるんだ?」


「あ、はい……って、お兄様?皆さんもお揃いだったんですね。えっ!ティーダ様、ルナ様!」


 三人に気を取られていたプリメラは、俺のそばにいたのがアルバートだと気が付かなかった様で、声を掛けられて驚いていた。それから周りを見回して、ティーダとルナに気が付き、急いで膝を突いて臣下の礼を取ろうとした。


「あっ、学園ではそういう事はしない様に決まっていますから、立ってください」

「そうですよ。ここは学園で、プリメラ様は私達の先輩に当たるのですから」


 いつも通り、優しい声でプリメラに立つ様に促すティーダと、いつもとは違う気品すら感じる声で話しかけるルナ。少しずつ、ルナの猫かぶりレベルが上がって来ている様だ。何故か今のルナを見ていると、アウラと初めて会った時を思い出す。あいつの猫かぶりもすごかったなぁ……


 そんな思いに耽っている内に、プリメラを納得させる事が出来た様で、アルバート達に事情を説明していた。

 なんでも、プリメラはもう少ししたらグンジョー市に戻らなければならない、三姉妹は騎士団の行き帰りの道中、雑務などの手伝いをする条件で特別に同行させてもらった為、一緒に帰らなければならない。

 なので最後の休日を利用して学園見学に誘い、ついでだから俺も誘おうと三人が言い出したので屋敷に向かったところ、俺は留守だった。

 そこで、同じく屋敷に遊びに来て空振ったアムールを誘って学園に来たが、門を抜けた所でアムールが走り出し、今に至る……という事だそうだ。


 プリメラの話を聞きながら、俺は四人の相手をするのに大忙しだった。そして俺を見ながら、何故か悔しそうな顔をするリオン。さらに、そんなリオンをからかうカイン。


「はいはい、皆まずは静かにね。他の生徒もいるのだから、迷惑になるわよ」


 いい加減騒がしくなりすぎた所で、クリスさんが手を叩きながら注意を始めた。


「そうだね、クリス先輩の言う通りだ。という訳で、見学に戻ろうか。早く高等部に行こう」


 何故かご機嫌なカインが仕切りはじめ、さっさと高等部へと歩き出す。皆は突然歩き出したカインにつられる様に、その後ろに続いた。

 

「なぁなぁ、アルバート。何でカインの奴、あんなに張り切ってるんだ」

「俺に聞かれても知らん」


 リオンの疑問に、アルバートはそっけなく答える。この二人で分からないなら、他の皆は全く理由が思いつかないだろう……と思っていたら……


「確か、カイン兄様の弟さんが学園生では無かったですか?会えるのを楽しみにしているのかも……」


 とプリメラが遠慮がちに話に加わった。それを聞いて、それかもと思ったが、アルバートとリオンは即座に否定した。


「それは無いだろう」

「だよなぁ……あそこは兄弟仲はそんなに悪くは無いけど、かと言って良いわけでは無いし、弟のしでかした事にカインは腹を立てていたし……」


 しでかした事と言いながら俺を見るリオン。


「ああ、あれか……別に俺はもう気にしてはいないけどなぁ……終わった事だし」


 リオンの言っているのは、セイゲンでのゲイリーとの(いさか)いの事だろう。

 

「いや待てよ。もしかして、カインはテンマの事でゲイリーをからかう気なんじゃないか?」


 アルバートが口にした事を聞いて、俺達は思わず……


「「「「「あり得る!」」」」」


 と息を揃えて納得してしまった。ルナは分かっていない様だったが、ティーダは「そんな筈は……」と言いながら、その先を口に出さなかった。少しずつ、カインの本性を分かり始めたのだろう。

 サモンス侯爵はカインの本性を知っているのだろうか?それとも、知っていて問題無いと考えているのだろうか?

 まあ、貴族の中には、色々と人には言えない様な性癖を持ちながらも、ちゃんと領地を治めている人もいるそうなので、あれくらいは許容範囲なのかもしれないが……

 俺はミュージカルの登場人物みたいな動きを始めたカインを見ながら、頭に浮かんだ疑問をそっと胸の奥にしまい込んだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ティーダはクリスさんに、迎えの馬車に待機する様に言づけた。 ↑ クリスさん馬車に待機? クリスさんに、迎えの馬車の御者に待機するように言付けお願いした。って事かな? でもクリスさん言…
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