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第6章-9 クーデター阻止

6/16追記

活動報告にも書きましたが、第4章-10 薬師の弟子において、マーリンのセリフで、

「うむ、大体の事は理解した。結論から言おう。わしでは治しきらん」

の「治しきらん」は「治しきれん」ではないかとのご指摘がありました。


 これについて調べてみた所、福岡などで使われている方言だと分かりました。

 自分の出身が福岡県で、子供の頃から使っていたので気が付きませんでしたが、同じ意味なのでこのまま使わせていただきます。

 ただ、作中において意図して方言を使う以外は、なるべく標準語に近い言葉を選んでいきますので、ご理解のほどよろしくお願いします。

「いくら叔父上と言えども、子爵に対してのこの仕打ちは許される、ひっ!」


 起き上がったヘンケルがじいちゃんに怒鳴ろうとするが、じいちゃんの殺気に当てられて小さな悲鳴を上げた。


「貴様のような甥を持った覚えは無いわ!」


 じいちゃんの一喝で、ガタガタと震えだすヘンケル。そんなヘンケルの姿を見たマスタング子爵達、中立派の貴族からは笑い声が漏れている。


 ヘンケルはそれを見て中立派を睨むが、逆にマスタング子爵の一睨みで縮こまった。ヘンケルとマスタング子爵は同じ階級の貴族だが、どこからどう見ても人間としての格が違っている。

 それどころか、マスタング子爵の後ろにいる貴族達は、子爵以下の貴族ばかりでヘンケルより年下も多いはずなのだが、その者達と比べても格下に見えた。


「おおっ!お前がテンマか、私はお前の……」


 俺を見つけたヘンケルが、俺に這い寄って来ようとしたが、俺は無言で刀を取り出した。ついでに軽く殺気を飛ばすと、これまた面白い具合にヘンケルの顔色が変わった。


「じいちゃん、マスタング子爵。戦場で見知らぬ人間が身内だと言って迫ってきた場合、別に切り捨てても問題は無いよね?」


 ここは、ポドロがクーデターを起こそうとしていたかもしれない場所で、今現在もジン達による後処理の最中なので、ここは今現在戦場であり、戦は完全に終わっていないと言ってもおかしくは無い。

 そんな所に、敵か味方かわからない奴が忍び込んでいるのだ。安全を優先して切り捨てても文句は無いだろう、とじいちゃん達に確認を取りながらヘンケルに脅しをかけた。

 それに気づいたじいちゃんとマスタング子爵は、真剣な表情を作り頷く。


「問題は無いじゃろ。味方のふりをして、内側から破壊活動を行おうとするなどよくある話じゃし、また、それで味方に大きな損害が出ると言うのは実際にある事じゃ」


「そうだな。おまけに、そいつはこの戦場で副官に当たるマーリン殿を押しのけて、自ら指揮系統に割り込もうとしてきたのだ。いかにも怪しすぎる……そもそも、陛下からテンマ殿の身内は現在マーリン殿のみで、他にはいない、と通達があったからな。つまり、そいつは詐欺師かよからぬ事を考えている者と言う事だ」


 王家からの通達が、一番俺を利用しそうなヘンケルの所へ行っていないはずがない。ならこいつはヘンケルの偽物なのか?と思ったが鑑定ではヘンケル本人とある。 


「恐らくシーリアの関係だとでも言えば、旨い汁を吸えるとでも思っていたのじゃろう……自分達がシーリアとリカルドに何をしたのかを忘れて!」


 じいちゃんの怒りが再燃してきた。

 マスタング子爵は、「そもそも、シーリア殿達が前陛下に縁切りを申し出て、承諾された時点でヘンケルとは他人では?」とじいちゃんの怒りの炎に薪をくべている。


「お~い、テンマ。悪いが手伝ってくれ!何人か生きているから、そいつらの数なんかの確認やらあるからよぉ!」


 とジンが空気を読まずに俺を呼んだ。じいちゃんはその声でハッとなり、周りを見る余裕ができたのか少し落ち着いてきた。


「それならこちらから何人かだそう。証明するなら、貴族の者が居た方が何かと都合がいいからな」


 そう言うとマスタング子爵は、後ろにいた中立派に目配せをし、何人かをジン達の方へと向かわせた。


 その時、屋敷の裏側からアルバート達がこちらに向かってきているのが見えた。

 さすがにジャンヌとアウラはサソリ型ゴーレムを戻し、シロウマルの背中に乗っている。

 先頭はアルバートで、その後ろにシロウマル(+ジャンヌとアウラ)、タニカゼ(+スラリン)と荷車に乗せたポドロ達で、その両斜め後ろにリオンとカイン、皆の上空にソロモンだ。

 

「ほう、これはなかなかに豪華な移送だな」


 マスタング子爵は顎鬚(あごひげ)を撫でながら、愉快そうに笑っている。

 確かに、次期公爵に侯爵、辺境伯が護衛に回り、さらに大会で有名になったシロウマルにソロモンがおり、金属製の馬型ゴーレムが犯罪者の牽引をしているのだ。普通の状況ではお目にかかることは無いだろう。


 ジャンヌ達が俺の元に到着すると同時に、ジン達の方も確認が終わったらしく、六人の生き残りを引っ張ってきた。


「じゃあそろそろ王城へ戻ろうか」


 俺の言葉に、皆が頷き歩き出そうとした時、アルバートが周りを見渡し始めた。


「なあ、テンマ。ナミタロウはどこへ行った?私達は、ここまでナミタロウに案内してもらったのだが……」


 その言葉を聞いて、初めてナミタロウの事を思い出した。

 あいつの事だから、どこかそこらへんでぶらぶらしていると思うが、念のため探索で探そうとした時、僅かに残っていた屋敷が崩れ落ちた。


 皆は突然の事に驚き、武器を構えたりしていたが、崩れた屋敷から出てきたのはナミタロウであった。


「テンマ~地下にいろいろなお宝があったで~」


 俺の前まで滑ってきたナミタロウは、そのお宝とやらの一部を取り出し始めた。

 ナミタロウが出したのは、武器や防具がそれぞれ百点ほどと、保存食の堅パンや干し肉など数十kg、それに金貨・銀貨の詰められた壺が数個だ。

 しかも、まだこの十倍程の量がナミタロウのバッグに収められているそうで、いよいよクーデターの可能性が高くなってきた。


「これは、他にも共犯者がいるとみるべきだろうな」


「そうじゃのう」


 マスタング子爵にじいちゃんも同意見の様だ。確かに俺もそう思う。何せ、ポドロが一人でクーデターを起こそうとするとは思えないし、その度胸もないと思う。


「そうなると王城から騎士団を呼んで、引継ぎを終えるまではここにいた方がいいかな?」


「そうじゃな。もしかしたら、わし達が離れた後でここの奪還や、他の証拠を回収、もしくは破壊されるかもしれんしの」


 破壊については今更だが、もしかしたら他に重要な物が隠されているかもしれないので、この場に留まる必要が出て来た。 


「なら、こちらから使いを王城に送ろう。そして、残りでここの警護に当たるのがいいだろうな」


 マスタング子爵はこのような事に慣れている様で、すぐさま中立派の貴族を王城に向かわせ、残りの貴族達に指示を出し始めた。


「テンマ殿、これでよろしいかな」


 指示を出し終えた後で、マスタング子爵は何故か俺に許可を求めてきた。

 この場での爵位は、マスタング子爵が最上位となるし、経験などから言っても彼が代表になるはずだと思うのだが、とそれとなく聞くとマスタング子爵は、


「ここに最初に到着したのはテンマ殿だろ?それに、壊滅させたのもだ。その手柄を横取りするような事は出来ない。それに私達は援軍として駆けつけた形だ。ならば最初に来ていた集団のリーダーを立てた方がよい。幸い、テンマ殿は陛下の覚えもいいからな。リーダーにしても問題は無い」


 と、リーダーを押し付けられてしまった。しかも、その事に誰も疑問を持っていないのが止めとなり、お飾りのリーダーではあるが、一時的に俺の配下にマスタング子爵達が加わる事になった。


「取り合えず、屋敷跡の周りの配置は交代で行おう。すぐに王城から援軍が来るはずだが、気を抜かないようにな」


 マスタング子爵の指示は的確で、俺は本当にお飾り状態であった。

 やる事と言ったら、シロウマルに外周の警護を頼み、ソロモンと一緒に空から警護……と言う名の空中散歩をするくらいだった。

 ただ、指示は出せなかったが、バッグに入れていた食料などを提供して喜ばれたので、何とかリーダーとしての面目を保てた……と思いたい。


 ナミタロウの押収品の発見から三十分ほどで王城から騎士達が到着しはじめ、一時間くらいで俺達は引継ぎをしてからようやく屋敷から離れる事ができた。

 ただし、これから俺とじいちゃんにジャンヌとアウラにナミタロウ、それにアルバート達三人組にマスタング子爵は王城へと向かい、王様達に詳しい事情を話さなければならなかった。

 なお、第三陣のジン達や中立派の残りの貴族達は、自分達の屋敷や宿泊施設まで直帰した。





 俺達が王城へ到着すると、すぐに謁見の間に通される事となった。

 ちなみにポドロ達は途中で別の騎士達に引き取られ、地下牢へと連行されたようだ。


 俺達が案内された謁見の間では、すでに王様をはじめ、シーザー様と宰相、大臣職の面々に主だった貴族達が集まっている。

 貴族達をよく見てみると、三つのグループに分かれている。


 一番大きなグループは、シーザー様達の後ろについているので恐らく王族派だろう。

 残りの二つは隣り合っているので、どちらがどうかは確証が無かったが、片方のグループがもう片方のグループを睨んでいるので、おおよその見当は付いた。


「遅くにご苦労であった。報告によると、『ポドロ・イル・クロライド準子爵による、クーデターの可能性がある』となっているが、詳しい報告をせよ」


 王様の言葉に、俺達の中で一番爵位の高いマスタング子爵が一歩前に出て報告を始めた。

 その内容は、王様の言った事を大筋で肯定する様な物だったが、それに『他にも協力者がいる可能性がある』と付け加えたられた事で、謁見の間は騒然となった。


「静まるのだ!」 


 宰相と紹介された人物の一声で、貴族達は徐々に静かになった。

 静かになったところで、王様が口を開いた。


「マスタング子爵の報告を裏付ける物がすでに提出され、軍部で調べが進められておる。軍務卿」


「はっ!マスタング子爵らに発見された物は、大量の武具、食料、資金であり、クーデターと判断するのに十分な量が発見されており、その数から他に協力者、もしくは共犯者がいる可能性が高いと判断し、現在調査を進めております」


 ライル様の発言で、謁見の間がまた騒がしくなる。

 それと同時に謁見の間の空気がピリピリし始めた。 


 原因は先ほどのライル様の発言だ。

 今回の首謀者が、改革派のポドロという事もあって、王族派と中立派の貴族は、改革派の貴族をどこか非難するような目で見ていた。

 そこにライル様の発言を聞いた王族派と中立派の貴族の視線が、より一層強くなった為、改革派の貴族達もそれに反応するように睨み返すといった感じになり、一気に空気の悪化につながった。


「軍部は、我々がポドロの犯行に加担していると疑っている、という事なのかね、軍務卿?」


 発言したのは、太っちょハゲのセクハラおやじで、城内不人気NO,1!(ルナ調べ)のカイゼン・フォン・ダラーム公爵だ。

 本当にルナの言ったとおりの容姿で、顔を知らない俺でもすぐに分かった。

 しかし、さすが一国の大臣だけの事はあって、ライル様を睨む迫力はかなりのものだ。

 

 ライル様とダラーム公爵の間には、見えない火花が散っているようだ。


「そう思われても仕方が無いのではないかね?」


 それに参戦したのは、意外にもザイン様(財務卿)だ。普段は静かなイメージがあるザイン様が、ダラーム公爵を睨んでいる。

 

「あなたは以前、ティーダ王子とルナ王女を唆して外に牛を殺しに行かせ、二人を危険にさらしていましたな」


「それは少し違うな、財務卿。私は王子と王女に、実戦を積む事の大切さと、この時期に繁殖する牛の事を教えたにすぎん。城を抜け出し、牛の群れに手を出したのは王子と王女ではないか。言いがかりは止めてもらおうか」


 三人のにらみ合いが、やがて王族派と改革派の睨み合いへと変化していく。

 段々とヒートアップしていく両陣営。中立派は、不穏な空気を醸し出す両陣営から次第に距離を取っていく。


「各々方、まずは落ち着きましょう。売り言葉に買い言葉もあるでしょうが、陛下の前で不敬ですぞ」


 パンパンと手を打ち鳴らしながら、ダラーム公爵とは別のグループの先頭にいた男性が割って入った。

 ダラーム公爵と別の所だから中立派の人物のお偉いさんだろうが、俺は名前を知らなかった。


「テンマ殿。あのお方は中立派の中心人物の一人で、外務大臣のアラン・ヴァン・クロムフェル伯爵ですよ」


 俺の横に移動していたマスタング子爵が、こっそりと教えてくれた。

 クロムフェル伯爵は、俺のイメージしていた、厳しく厳格そうな人物ではなく、柔和なお人よしと言った印象の人物だ。とても外務大臣をしている人とは思えない。


 クロムフェル伯爵は、周囲が静かになったのを確認すると、


「財務卿、軍務卿、報告の場で私情を挟むのはよくありませんぞ。内務卿、疑われて不快なのは分かりますが、あなたの派閥の者が起こした不始末です。その事を忘れて、喧嘩を売るような言葉は控えて頂きたい」


 口調とは裏腹に、とげのある言い方をする伯爵。ニコニコと笑ってはいるが、その言葉からはダラーム公爵をよく思っていないのがありありと見て取れた。


「陛下、今回のポドロ準子爵達の処罰はいかがいたしましょう?」


 宰相が険悪な空気を物ともせずに、王様にポドロ達の処罰を尋ねた。王様は少し考えるふりをして、


「ポドロ・イル・クロライド準子爵は、爵位剥奪の上、牢にて監禁。詳しい結果が出次第、処遇を決める事とする。あの場で捕縛された他の者達に関しては、初犯及び軽犯罪の前科のある者に関しては、奴隷落ちの上で鉱山又は開拓地送りとし、重犯罪の前歴のある者は死刑とせよ。そしてこの事は、国民にも知らせよ。これは王命である」


 王様から死刑と言う言葉が出た瞬間、謁見の間が騒がしくなった。何せ、ここ数十年は貴族間の争いがあったとしても、王都で死刑が執行された事は、表向きには(・・・・・)無かったからである。

 それはそこまでの犯罪を犯した者が居なかったという事もあるが、歴代の王様達が国民に死刑が行われた事を知られるの嫌がった為でもある。


 人の命が軽いこの世界でも、有識者の中には一定数の死刑反対派がおり、表立って争いの種を作る事を避ける目的もあった。しかも、死刑反対派の中には貴族もいるので質が悪い。

 だが、今回の事は到底見逃せる事では無く、また、死刑に反対する者達に有無を言わせない自信があるからこその公表だろう、そしてポドロもほぼ確実に死刑となるであろうとマスタング子爵は言う。


「改革派としても、ポドロを死刑にする方が都合がいいんでしょうね」 


「まあ、自分達がクーデターに関わっていないと証明する為にも死刑宣告は渡りに船であり、ポドロはそう影響力のある貴族では無く、代わりの利く小物だしな」


 改革派としても、元々ポドロは自分の主家筋に当たるアルメリア子爵を裏切って入ってきた奴なので、最初から居なかったものと考えるだろうから、生贄にはちょうどいい筈だ。

 

 俺とマスタング子爵が話している間に、王族派と改革派の睨み合いも終わっていたようで、後は細かな話し合いをして解散するだけとなった。


「テンマ、マスタング子爵、そなた達は下がってよい。別室に軽い物を用意させるので、しばし休んでいくがよかろう」


 王様が一足先に俺達に退場するように言ったが、これは別室で待っていろという事だろう。

 俺達は一礼をして謁見の間を出ると、外にクライフさんとアイナが待っており、俺達を案内した。


 案内された部屋には、ティーダとルナ、それにイザベラ様がいた。そして、何故かアムールとブランカもいる。

 アムールは俺が部屋に入って来たのに気が付くと抱き着こうと飛んできたが、俺はアムールの頭を押さえて阻止した。

 そしてクライフさんを見ると、すぐに二人がここにいる理由を教えてくれた。


 どうやらこの二人は俺たちと別れた後で心配になったようで、王城まで来たそうだが、門番に入城を拒否された様だ。そこで一悶着あり、ブランカがアイナの名前を言ったので、アイナが呼ばれイザベラ様に許可を得てこの部屋に通したそうである。


「テンマを、心配、して、ここまで、来たのに!」


 アムールは俺に頭を押さえ付けられながらも、何とか俺に抱き着こうと必死になっていた。そんな様子に、俺の背後から冷たい視線が二つほど突き刺さっているが、気が付かない振りをして無視をした。


 そんなやり取りの後、俺はイザベラ様達の正面に座って世間話をしていた。

 必死に抱き着こうとしていたアムールは、ブランカに怒られて俺から離れた所で正座させられている。そして、その近くには同じようにジャンヌとアウラも正座していた。

 足の痺れに苦しむ二人の前には、仁王立ちのアイナがいる。


 仁王様(アイナ)に睨まれている二人は、こんな騒ぎになった理由を白状させられた後で、そのまま説教タイムに突入したのだ。

 ちなみに、二人がポドロ一味に攫われる事になった経緯を簡単に説明すると、俺とじいちゃんが出かけた後で台所の掃除をしていたら食料の備蓄が少なくなっている事に気が付き、早めに補充しようと買い物に出かけ、人気の少ない所で攫われた、である。

 それだけなら早々にアイナの説教から解放されそうなものだが、アイナが特に問題視したのはいくつかあった。


 一つ目は、(主人)の留守中に勝手な行動を起こした事。

 だがこれは、俺がある程度の自由を許可していたので、その延長線上だという事になりアイナは渋々軽い忠告にとどめた。


 二つ目はナミタロウに護衛を頼まなかった事。

 自分達が、色々な意味(・・・・・)で注目されるのは分かり切っていた事で、一応俺の眷属扱いされているナミタロウを連れて行かなかったせいで、今回の騒ぎに繋がった。ナミタロウが居れば、少なくとも攫われる事は無かった筈である。それをナミタロウが寝ていたからと、声を掛けなかった事に問題があると言うのがアイナの指摘だ。これは俺も同じ意見であった。


 そして三つ目が、ある意味一番アイナの怒りの原因でもあった。それは、二人が武器を持って行っていなかった事と、サソリ型ゴーレムの存在を忘れていた事だ。

 二人共武器については、少しそこまでだから必要無いだろうと考え、ゴーレムはギリギリになるまで頭から抜けていたそうである。

 俺やアイナから武器の扱いや戦い方を叩きこまれたのに、最低限の護身用の武器も持ち歩かないのは腑抜けすぎており、そんな気の緩みが今回の騒ぎの一番の原因だとアイナは言っていた。これは俺も半分だけ(・・・・)同意した。

 アイナと半分意見が違った理由は、気の緩みが原因であっても、犯罪事を生業としている連中に目を付けられたのだから、仕方が無い面もあると考えたからだ。だが、俺の意見は聞き入れては貰えなかった。アイナ曰く、「仮にも時の人(優勝者)の従者なのだから、警戒しすぎるくらいでちょうどいい」のだそうだ。

 

 その他にもアイナは細々と指摘を重ねていき、今回の件に関係の無い事まで説教が始まりだした。

 その結果、長時間の説教タイムとなってしまい、いまだに終わりが見えない状況となっている。


 そんなアイナの説教の声をバックにした世間話は意外と弾み、話の中で出た新作のお菓子『芋ようかん』をつまみながらお茶を楽しむ俺達だった。

  

 話し始めて一時間を過ぎた頃に、ようやく王様達がやって来た。

 王様は、部屋に入ってくるなり大きくため息をつきながら俺に近づき、俺の肩越しに芋ようかんをつまんで口に放り込んでいた。

 王様が部屋に入って来た事で、アルバート達は立って敬礼し、後ろに下がろうとしていたが、王様がそのまま座らせていた。

 王様は俺の正面、イザベラ様が座っていた場所に座り、その横にマリア様、少し離れてシーザー様達が腰を下ろし、イザベラ様とティーダにルナは、シーザー様達の反対側に移動し、アイナもさすがに説教を中断(・・)した。


「疲れた……うっ!」


 俺の正面に座ってすぐにだらけようとした王様の脇腹を、隣のマリア様が肘打ちして姿勢を正させた。


「分かっておる。うぉほんっ!テンマ、マーリン殿、クーデターを未然に防いでくれた事を感謝する。アルバート・フォン・サンガ、リオン・フォン・ハウスト、カイン・フォン・サモンス、そなたらも迅速に行動し、クーデターの鎮圧に貢献した事を、余は嬉しく思う。報奨などは捕縛者の刑が確定次第知らせよう」


 いつもとは違う王様の口調に俺は吹き出しそうになったが、アルバート達は慌てて膝を着いて頭を下げていた。

 

「まあ、堅苦しいのはこれくらいでよいだろう。しかしテンマ、本当によくやってくれた。これで改革派は大人しくなるであろう。一時的にだろうがな」


 今回の出来事は、国民にも知らせるそうである。名目としては、王国の歴史上でもかなりの重罪である為だそうだが、どこからどう見ても改革派の力を削ぐ事が目的だろう。

 それに合わせて俺やじいちゃん、アルバート達とマスタング子爵達の活躍も知らせるそうなので、面倒事が増えるが許してくれと言われた。

 これについては今後の事を考えて了承したが、内心では俺の名前だけ(・・)は削除してくれないかなと思っていた。まあ、どう考えても無理なんだけどな……


 その後、発表される内容の確認をしていると、ザイン様から声がかかった。


「テンマ、戦闘用のゴーレムをいくつか売って貰えないか?」


 突然の言葉に、部屋にいた全員が動きを止めた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ダラーム公爵の内務大臣としての能力も気になります。  王子達を危険にした事で受けるダラーム公爵の被害について一切考えて居なかった事が理由です。   実務能力が無くともコネや金を使い策謀…
[気になる点] ヘンケルに関して処罰がない様ですので気になりました。  テンマやマーリンに対し親族だと発言した事は、王命で縁が完全に無くなった事に対し反意を示している為に即時での厳罰処分がされて当然で…
[一言] ミドルネーム"フォン"ばっかしだな・・・
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