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第6章-7 ストーカーの正体

様々な要因が重なり、更新が不安定になります。

申し訳ありません。

「皆の者、よく集まってくれた。これより、パーティーを開催する。乾杯」


 物凄く簡潔な王様の音頭でパーティーは始まった。

 王城のイベント用の大部屋に、貴族と特別招待客合わせて数百人程が参加しており、王様の言葉で皆一斉に動き出した。


 今俺が居る場所は会場の隅の方で、ここには俺と同じ特別招待客が集められており、貴族達から離れた位置になっている。

 これは、特別招待客と貴族を同じ場所に開始まで待機させるわけにはいかないのと、一種のエスケープゾーンになっている。これは貴族側にも同じような場所が作られていた。

 これは主に、貴族の強引な勧誘から特別招待客を守る為のものだ。たまに逆のパターンもあるが、その場合は地下牢に直行になる事が多いので、貴族側は余りエスケープゾーンに引きこもる事は無い。

 そして、ここにも料理は用意されているので、わざわざ出て行かなくてもいいのだ。

 しかも、両方の場所に立ち入る事ができるのは、主催者側が用意した給仕の者達のみなので、ここに居る限りはトラブルに巻き込まれる事がほとんど(・・・・)と言っていいくらい無い。


「思った以上にうまいな」


「これもおいしい」


「おい、ブランカ。この酒いけるぞ!」


「おお、これもなかなか」


 現在、俺の周りには、アムール、ジン、ブランカが固まっている。

 何人かの貴族がこちらをギリギリの位置から見ていたので、ここから動かない事にしたのだ。

 因みにじいちゃんは、「向こうにいい酒があったから、ちょっと取ってこようかのう」と言って出て行った。


「それで、テンマはずっとここに居るのか?」

 

 ジンが次の酒を選びながら聞いて来た。ジンは大きな声でいった訳では無いが、こちらに聞き耳を立てていた連中に聞こえたようで、わずかに周りが静かになった。


「いや、何時までもここに引きこもっているつもりはないぞ。もう少ししたら、お迎えがくると思うし……」


 俺が全てを言い終わる前に、給仕の一人が近づいて来て耳打ちしてきた。


「どうやらお迎えが来たようだから行ってくる」


「私もついて行く」


「お嬢……頼むから、面倒事を起こすなよ」


 俺に付いて来ようとしたアムールの両肩に、ブランカは手を置いて真剣な表情で言い聞かせている。その時に俺の顔をちらりと見ていたので、フォローしてくれと言う事なのだろう。

 そこまで心配するならブランカも付いてきたらいいと思ったのだが、何か事情があるみたいで結局来なかった。


「何か旨そうなもんがあったら、持ってきてくれな~」


 苦い顔をしているブランカの横で、ジンはのん気に手を振っていた。どうやら酒が回って来ているようだ。


「お待たせしました。公爵様、それにプリメラも」


 俺を迎えに来たのはサンガ公爵だ。その後ろには綺麗に着飾ったプリメラもいる。


「いやそんなに待っていないから、別にいいよ。それより、やっぱり注目されているね」


「お父様、それは当然ですよ。むしろ、ここで注目しない方が貴族としてはどうなのか、と思います」


 いつもとは違い、ちゃんと公爵令嬢に見えるプリメラに違和感を覚えながら、サンガ公爵と握手をして歩き出した。

 行先は王様達の待つ場所だ。

 その様子に、王族派と思われる貴族達は笑みを浮かべ、改革派と思われる貴族達は苦々しい顔をしている。その中でも舌打ちをしたり、こちらを睨んでいる貴族はしっかりと覚えておくことにしよう。


 そのまま俺達は参加者の間を歩き、王様の目の前に到着した。

 そこには王様とマリア様、それにサモンス侯爵しかおらず、シーザー様達は他の参加者の相手をしている様である。


「あら!テンマったら、早速イザベラのプレゼントした服を着ているのね!」


 王様が口を開くよりも先に、マリア様が俺の着ている服を見て喜んでいた。マリア様の声が大きかったせいで、周りでこちらの様子をうかがっていた貴族達がざわめいている。

 そんな貴族達を無視するように、マリア様は俺の格好を確かめるように見て、満足そうに頷いている。


「いいわね~……でも、私の贈った服を着ているところも見て見たいわね」


 と頷きながら、自然な流れで自分の要求を伝えて来る。今度、あの服を着て遊びに来いと言う事だろう。


 マリア様の言葉に、王様は笑いながら俺の肩を叩いて来た。そして……


「テンマ、優勝おめでとう。そして、地龍の討伐ご苦労だった!」


 王様の言葉に、周りの貴族からは「あの噂は本当だったのか!」と言った声が聞こえて来る。

 わざわざこのような場所で言わなくても良いような事を言って、俺に注目を集める王様は、やはり性格はよろしく無い様だ。現に、悪戯が成功した時のような顔で笑っているし……

 

「あまり調子に乗らないようにね、あなた……」


 低く静かなマリア様の声で、周囲の温度が下がったように感じた。

 一番近くでささやかれた王様は、額から冷や汗を流しながら静かに頷いている。


「ごめんなさいね、テンマ。少し席を外すわ。行きますよ、あなた」


 そう言ってマリア様は、王様を王族専用の控室へと連れて行った。

 その場に残された俺達は呆然とするしかなかった。


「まあ、いつも通りか……」


 俺の呟きに、サンガ公爵とサモンス侯爵は軽く頷いた。しかし、俺としては丁度いい機会である。

 先ほどからこちらを伺っている貴族達の中に、挨拶しておきたい人達が居るのだ。


 その人達がいる場所をちらりと見ると、俺と目が合った二人組がこちらにやって来る。

 本来なら、自分より上の位の貴族が居る所に、割り込む行為は不敬に当たるので、サンガ公爵とサモンス侯爵が一瞬眉をひそめたが、相手を確認してすぐに元に戻った。


「何だ、君達か」


「声くらい掛けてから来なさい」


 俺達に近付いて来たのは、それぞれサンガ公爵とサモンス侯爵に似た雰囲気を持つ、男の二人組である。


「兄様、リオン兄様は何処に?」


 プリメラが二人組の内、背の高い方へ声を掛けた。

 男は一瞬眉をひそめてから、


「知らん。またどこかでヘタレているんだろう」


 と言った。

 その言葉に、プリメラ達は納得顔である。


「まあ、あいつの事は放って置くとして、まずは自己紹介からだな。私はアルサス・フォン・サンガ公爵の嫡男のアルバート・フォン・サンガだ。アルバートと呼んでくれ。色々と迷惑をかけているプリメラの同腹の兄になる。今後ともよろしく頼む」


 以前俺を付けまわしていたストーカーの一人で、三人組の中では一番の美形だ。どうやら、サンガ公爵の血を色濃く受け継いでいるらしい。


「初めまして……と言うのもおかしいかな?僕はサモンス侯爵家嫡男の、カイン・フォン・サモンスだよ。弟が色々とごめんね。それと僕の事もカインでいいよ。別に敬称なんていらないからさ」


 ノリの軽い所のあるこの男は、三人組の中で一番の童顔だ。俺と背が同じくらいだが、体の線が細いので年下のように見える。ゲイリーとはあまり似ておらず、サモンス侯爵の面影もあまり無い。


「こちらこそよろしくお願いします。それとあそこで……」


「ストップだ!あれはまだ無視しておいた方が面白い」


 俺が二人のだいぶ後ろの方で、こちらの様子を伺っている男の事を聞こうとすると、アルバートに止められた。どうやら、自分からこちらに来るまでは放置する様だ。


「ところでテンマさん。兄様達と会った事があるのですか?」


 俺達の挨拶の雰囲気から、プリメラが不思議そうに訊ねて来た。公爵達も気になっているようなので、以前ストーカーされていた事を面白おかしく話すと、父親二人は笑いを堪えようと必死になっていた。

 そしてプリメラはと言うと、二人をやや軽蔑したような目で見ている。


「アルバート兄様、カイン兄様……お二人共、男の方がお好きだったのですか……」


 とも言っていた。

 因みに、カインと他にもう一人いたリオンという男はアルバートと幼馴染の関係らしく、年の近いプリメラは子供の頃よく遊んでもらっていたそうだ。その為、二人にも兄様と付けて呼んでいるらしい。

 なお、カインの弟であるゲイリーとはほとんど面識が無いそうである。


「誤解だ!」

「そうだよ!誤解なんだよ!」


 慌てる二人を見たアムールは、二人を指さして……


「テンマ、おホモだち?」


 と首を傾げながら俺に聞いてくる。俺は即座に横に首を振り、未だ後ろの方でこちらの様子を伺っている男を指さした。


「俺じゃなくて、あの二人とあそこの男がな」


 その言葉に二人は首を激しく横に振っているが、周囲からは「やっぱり」とか、「怪しいと思っていた」とか聞こえて来る。中でも、妙齢の女性の一部からは、興奮したような黄色い声が聞こえる。

 腐のお嬢様方のようだ。この世界にも、やはり生息しているらしい。


 俺に指さされた事で呼ばれたと勘違いしたのか、残りの一人(ストーカー三号)がこちらに近寄って来る。

 その足取りは何処か軽やかで、顔は笑顔である。


「呼んだか!」


 三号は嬉しそうな声を出しながら、一号と二号の肩に手を置いた。その瞬間、三人と年齢の近い腐のお嬢様方が大歓喜した。中には鼻血を噴き出して倒れる人や、泣き崩れる人までいる。


「な、何だ!何事だ!おいっ、アルバート!カイン!どうなってんだ!」


 三号は周りの状況について行けず、二人の肩を激しく揺さぶりながら顔を近づけて事情を聞こうとしている。そして、再びの阿鼻叫喚。


 俺はそんな光景を横目に見つつ、さり気なく離れて行く。そして俺に続く、アムールとプリメラ。

 サンガ公爵とサモンス侯爵は、騒ぎを収めようと頑張っているが、お嬢様方の勢いはなかなか収まらない。


 結局、騒ぎを収める為にパーティーは一時中断となり、場所を中庭に変更してパーティーは再開された。

 再会されたパーティーには、腐のお嬢様方の姿は見えなかった。どうやらお嬢様方は、急病という事で親と共に帰ったそうだ。 

 親達はさぞかし涙目だった事だろう。





「ひどい目に遭った……」

「ヘタレで空気が読めず、更に脳筋の上に疫病神だなんて……リオンは救いようがないね」

「……俺は悪くないだろ」


 騒ぎの中心として、王様達から事情聴取を受けた三人は憔悴しきっていた。

 ただ、最終的には三人に罪は無く、今回の事は突発的な発作を起こした令嬢達の不幸な事故、と判断したそうだ……そうでないと、恥ずかしくて自殺しそうな雰囲気の令嬢が複数人居たらしく、流石の王様達もまずいと思ったようである。


 今俺達が居るのは中庭に近い個室であり、先程の事故の話し合い……と言う建前の休憩中である。


「それで、三人揃った訳ですけど、俺の後を付けていたのは何の用事だったんでしょうか?」


 俺はついに揃ったストーカー三人組に、街中でのストーカー行為の真相を聞いてみる事にした。

 この場所にはサンガ公爵やサモンス侯爵もおり、二人は険しい顔をして三人を見ている。


「まず私達の誤解を解いておこうか。私とカインは君をストーカーするつもりは無く、ただ単にリオンの付き添いで居ただけだ」


「結果的にストーカー行為をしてしまった事は謝るけど、僕達の本当の目的は、リオンが君に話しかけた時に、二人の間を取り持つ事だったんだ。僕とアルバートの家族が君と知り合いだから、いきなり会ったとしても話くらいは聞いて貰えるだろうって事で、リオンに連れ回されていたんだよ」


「まあそれもこれもリオンがヘタレたせいで、何日も跡をつけまわすと言った変態行為に付き合わされる羽目になってしまったが……」 


 二人はリオンを横目で睨みながら、自分達の無実を訴えていた。

 サンガ公爵とサモンス侯爵にプリメラは、自分の息子や兄が変態的な思考を持っていなかった事に安堵しているみたいだった。


「お二人については理解しましたが、肝心のリオンさんの用事は何なんですか?」


「え~っと、あの……その、だな……」


 俺が話しかけると、リオンは言い難そうに口をもごもごとさせながら、身もだえ始めた。

 

「気持ち悪いな」

「気持ち悪いね」


 その様子に、アルバートとカインは即座に突っ込む。

 二人に気持ち悪がられても、リオンは話を切り出そうとしないので、いい加減付き合いきれなくなってきた。


「用が無いなら、俺は戻りますね。では、失礼します」


 サンガ公爵とサモンス侯爵に頭を軽く下げて、俺はドアの方へと歩き出した。

 それまで空気の様に静かだったじいちゃんも、二人に軽く挨拶して俺の横に並んだ。アムールは俺のすぐ後ろを付いて来て、プリメラは少し戸惑っていたが、サンガ公爵に促されて俺の後ろに続いて来た。

 そして俺がドアに手を掛けた時、ついにリオンが言葉を発した。


「待ってくれ!頼みがあるんだ!」


 その言葉に立ち止まり、俺はリオンの方へと向き直った。

 リオンの言葉に反応して、俺が急に立ち止まってしまったせいで、すぐ後ろを歩いていたアムールが俺の背中にぶつかり、そのどさくさに紛れて抱き付いて離れないというハプニングがあったが、まじめな話になりそうなので強引に引きはがして、プリメラに預けた。


「お待たせしました。それで、頼みとは何でしょうか?」


 俺が正面に立って目を合わせると、ようやくリオンは決心したようで、外にも聞こえるような大声で……


「テンマ、俺の所へ来てくれ!」


 と言った……とても真剣な表情で……

 俺はゆっくりと後退し、リオンと距離を取っていく。

 アムールは、俺をかばう様にリオンとの間に立ち塞がり威嚇している。 


 周りを見れば、サンガ公爵達も同じく距離を取っていた。


「リオン……お前との友情もこれまでだな……」


 中でもアルバートは、真剣な表情で俺やプリメラの方へと移動していた。

 カインも乾いた表情で距離を取り、サモンス侯爵のそばに居る。


「へっ?何でだよ?」


 リオンは何が何だか分かっていないようである。その様子に俺は少しホッとしたが、距離は取ったままだ。


「リオン、さっきの言葉の意味を、よ~く考えてみて。どう考えても、君がテンマに告白したようにしか聞こえないから」


 リオンの言いたい事が分かったのか、カインがリオンをからかい始めた。

 ここに来てアルバートも少し落ち着いて来たようで、警戒を解いたみたいだ。


「はっ?はぁああ!そんなつもりはねえよ!俺はただ単に、テンマに家に遊びに来てほしいだけだ!」


 リオンは驚き、先程の言葉の意味を叫んでいる。最初からそう言えばいいのに……


「意味は分かりましたが、何で急に遊びに来いなんですか?」


 カイン相手に騒ぎ始めたリオンに、俺は疑問に思った事をぶつけてみた。これが父親と親交のある、アルバートやカインならまだ分かるが、リオンが遊びに来いという理由が分からない。

 ストーカーされていた時から思っていたが、リオンが俺を取り込もうとしている感じはせず、むしろ後ろめたそうに見えるのだ。


「テンマの出身はククリ村だろ、そのククリ村はハウスト辺境伯領に位置していた(・・・・・・)。そして、リオンはハウスト辺境伯の嫡男だ」


「理由としては、ハウスト辺境伯領の経済悪化の歯止めをしたいからだろうね」


 俺の疑問には、アルバートとサンガ公爵が答えてくれた。


「経済の悪化って、ククリ村の事件のせいで、冒険者離れが深刻化したと言うやつですか?」


 以前噂で聞いた事のある話を出してみると、二人は頷いて肯定した。


「今はだいぶ落ち着いてきてはいるけど、これからまた下降線をたどる可能性が出て来たからな」


 アルバートが言った下降線をたどる可能性とは、俺が大会で活躍したからだそうだ。

 これまで、単にククリ村と懇意にしていた冒険者達が離れたのを切っ掛けに経済が悪化したが、今はどうにか安定している。ただし、『低下した状態で』だそうだ。


「これまでと同じ状態なら、リオンはあそこまで焦る事は無かっただろうが、テンマが龍を眷属にした上に、大会で初の二部門制覇、更に単独で地龍を撃破と、怒涛の勢いで名を上げたからな。そうなると、『あのテンマを追い出した所』とか『テンマを殺そうとした所』なんかの噂を流す輩が出て来るんだ……と言うか、出始めているんだ。主に、ハウスト辺境伯と仲の悪い貴族達や、テンマに媚びを売りたい貴族なんかからな」


 リオンはそいつらの牽制に、俺と仲が良いと思わせる必要があるらしい。

 だが、リオンが単独で俺に接近してそう要請したとしても、俺におそらく断られるだろう。その為、少しでも可能性を上げる為のアルバートとカインだったそうだ。

 二人が同行して、まずは話を聞いてくれ、と言う風に切っ掛けを作るつもりが、思った以上のリオンのヘタレ具合で意味をなさなかったそうだ。


「遊びに行くくらいは、別にいいんですが……ハウスト辺境伯家が俺を取り込もうとしているのなら、さすがに無理ですよ」


「それは、俺とカインが保証する。もし、リオンがそのつもりなら、それこそ俺達はハウスト辺境伯家と縁を切るつもりだ」


 実際には完全に縁切りは出来ないだろうが、保証するからにはそれくらいの覚悟を持っているらしい。

 周りを見渡すと、サンガ公爵やサモンス侯爵、それにプリメラが懇願するような目で見ていた……ただ、肝心のリオンはカインを捕まえる事に必死で、俺の事を忘れているようだ。


「……すまん。ちょっと待っていてくれ」


 アルバートは、頭を手で押さえながらリオンとカインに近付き、二人を思いっきり蹴り飛ばした。そして、二人を座らせて説教を始めた。

 ある程度説教をしたところで、リオンを俺の所へと引っ張て来て頭を押さえつけた。


「何で俺が、お前の頼み事を、代わりにしなければならんのだ!」


 そう言うと、アルバートはリオンをその場に残して離れて行った。

 残されたリオンは少し迷った後、気合を入れてから口を開いた。


「今、ハウスト辺境伯領は危機に陥っている。元は自業自得とは言え、このまま放って置くことは出来ない。テンマは都合のいい話と腹を立てるかもしれないが、我が領の為に力を貸してくれ、頼む」


 頭を下げて、俺に頼み込んで来るリオン。その姿からは、先程までのヘタレた様子は感じられなかった。

 

「いいですよ」 


 俺はあまり間を置かずに了承した。リオンは、俺があっさりと承諾したので、驚いて口が半開きになっている。


「ただし、条件があります。まずは、絶対に俺を家臣に加えようと考えない事。それに、ククリ村出身の人達に何か問題が起こった時に力になる事。最後に、何かあった時に出来る範囲で俺の力になる事。それを約束してくれるのなら、ことある毎に俺からも、ハウスト辺境伯との間に隔意は無いと言いましょう」


「するする!すぐにでも親父に連絡して、確約させる!しないと言ったら、追い落としてでもさせる!」 


 俺の言葉を聞くなり、リオンは興奮気味に首を縦に振っている。興奮しすぎて、言葉が少し聞き取れないが、この場での発言は辺境伯の代理として言ったも同然なので、一応サンガ公爵とサモンス侯爵に頼んで証人になってもらった。

 二人も快く引き受けてくれた上、誓約書を用意させて、それに互いの家紋入りのサインまでしてくれた。


 これで辺境伯が反対したとしても、二人と対立してまでこの約束を撤回するような事はしないだろう。そう思ったリオンは、二人に感謝の言葉を述べているが俺は見た。見てしまった。リオンが二人から視線を逸らした瞬間、二人が悪い顔で笑っていたのを……


 おそらく、これでハウスト辺境伯家は俺を家臣として取り込む可能性が、限りなくゼロに近付いたとでも思っているのだろう。

 二人も、今俺が家臣になる可能性は無いと分かっていても、将来的にどうなるかは分からないので、その時の為に可能性を少しでも残しておきたいといったところだろう。

 その為ライバルが一人減り、尚且つ、その証拠を自分達が握っていると言う状況は最良なのだろう。

 

 まあ、これで今回の話がまとまるのなら、わざわざ指摘する必要も無い。


「よしっ!早速行こうか、テンマ!」


「は?」


 リオンは俺の肩に手を置くと、そのままの格好でパーティー会場へと連れて行こうとする。

 いきなり馴れ馴れしくなったと思っていたら、アルバートがリオンの後ろ髪を掴んで引っ張った。


「ぐおっ!なにしやがる、アルバート!」


「本当に脳筋だな、お前は……先程、陛下達に怒られたのを、もう忘れたのか?」


「悲しいけど、それがリオンがリオン(脳筋)たる所以(ゆえん)なんだよね……」


 カインは悲しんでいる振りをしながらリオンを馬鹿にしている。

 リオンも、流石に先程の件を出されては反論のしようがない様で、唸りながら俺から手を放した。


「テンマ、リオンはすぐにでも君と友好的な関係だと知らしめたいから、少し暴走してしまっただけだ。私の知る限りでは、衆道には興味が無かったはずだから安心していい……筈だ」


「そんなんに興味なんかねえよ!俺は女好きだよ!」 


 アルバートの言葉に反論するリオンだが、その反論の仕方もどうかと思う。まあ、間違ってはいないんだろうが、もっと言い方に気を付けた方がいい。


「まあ、そういう訳だから、会場には皆で行こうか」


 カインがそう言って、俺の背中を押しながら俺の横を陣取ろうとしたが、これはアムールに阻止された。その反対側は、サンガ公爵に押されたプリメラがおり、カインは舌打ちをしていた。

 実は、カインこそ衆道の気があるとか言うオチだった、なんて事は無いよな……

 

 後で聞いた話だが、このカインの行動はただ単に、サモンス侯爵家で俺ともめたのはゲイリーだけ(・・)であり、自分は友好的な関係だ、とアピールしたかっただけであったらしい。

 それを聞いた時は、心底ホッとした。 




 部屋から出た後、俺達は連れ立ってパーティー会場へと向かった。

 俺に注目していた貴族達は、俺がサンガ公爵とサモンス侯爵と気易く話している事よりも、次期ハウスト辺境伯であるリオンが、俺と親しく話している事に驚いていた。

 よほどあり得ない組み合わせだとでも思われていたのだろう。


 ただ、その反応をリオンはとても喜んでいた。この反応こそがリオンが望んだ状況で、他の貴族達が騒げば騒ぐほど、ハウスト辺境伯領の景気回復の兆しが見えて来るのだから。


 周りの反応は少しウザかったが、俺達はそれを無視する事にして楽しみながら色々と話をしていた。

 幸い、この場に居るのはこの会場でも上から数えた方が早い地位に居る者達ばかりだったので、他の貴族達が話に割り込んで来る事は無く、あっても王族派の貴族がサンガ公爵やサモンス侯爵に挨拶に来るくらいだった。

 それも、サンガ公爵達が何か言ってからは来る事は無くなった。




 そんな感じで、それぞれおしゃべりや食事を楽しんでいると、王城の外の方から騒がしくなってきた。

 何事かと、会場に居る者達が騒ぎだした頃、突然塀を飛び越えて会場に侵入してきた奴がいた。

 そいつは流線型をしていて、会場の光を浴びててかてかと光っている……俺の知り合いだった。


「て、てーへんだーー!おやぶ~ん!」


「なんだ、は……じゃなくて、ナミタロウ!」


 俺を見つけたナミタロウは、華麗なドリフトで俺の前で止まった。そのヒレには提灯を持っており、少しだけホントは大したことじゃ無いのでは?と思ってしまった。


「大変なんや!テンマ、ジャンヌとアウラが攫われた!」


 俺の予想に反して、本当に大変な事態が起こっていた。

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