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第6章-4 解体作業

「ほれ、そこはもう少し深く切り込みを入れんか!そっちは鱗を先に剥がさんか!」


 じいちゃんの指示の元、騎士達がひぃひぃ言いながら作業を進める。

 作業は1時間前から始まっているが、未だに全行程の二割にも達してはいない。


 しかし、じいちゃんが地龍の解体方法を知っていて助かった。

 かなり前に下級龍を狩った時に覚えたそうだ。その時も地龍だったらしく、やり方を知らなかったので半ば実験状態で解体したせいで、素材の多くがダメになってしまったらしい。

 今回はその時の経験を生かして、素材を傷つけない様に頑張っているそうだ。


「そう言えば、王族が龍の解体に係わるのは、およそ二百年ぶりらしいですよ」


 ティーダは地龍の事を資料室で調べたようで、色々と興味深い話をしていた。

 例えば、地龍の肉は旨いらしいがかなり固く、何らかの方法で柔らかくしないと文字通り歯が立たないとか、前回地龍を狩った時の中心人物は当時の第二王子で、俺と同じ黒髪黒目だったらしく、生まれた時には王妃が浮気をしたと騒がれたとか、地龍の鱗は金属の様に溶かして加工する事ができるとか、何とか……


「ふ~ん、金属と同じか……」


 中々いい情報が手に入った。丁度今の皮鎧を新調しようかと思っていたので、この際思いっきり贅沢をしてもいいかもしれない。



「やっぱり出たぞー!」

「急いで持って行ってくれ!」

「マジックバッグに入れるのを忘れるなよ!」


 その時、地龍から少し離れた位置で、ワイバーン亜種を解体していたグループが騒がしくなった。

 そちらを見てみると、丁度ワイバーン亜種の胃を切り開いたところらしく、中から溶けかかった人間の上半身が出ていた。


「テイマーか……グロいな」

「うぷっ……」


 ティーダはあのような(・・・・・)死体を見たの初めてらしく、口を手で押さえていた。


「テンマ、来てくれ!」


 ワイバーン亜種の解体の指揮をしていたジャンさんが、テイマーのバッグを持ちながら俺を呼んでいる。


「何かありましたか?」


「なあこのバッグ、まだ使えると思うか?」


 ジャンさんが差し出した二つのバッグは、所々溶けて穴が開いており、修復が難しそうであったが、完全に壊れている様では無いので、中身を移し替えることは出来る。

 

「大丈夫そうですよ。何か代わりのバッグを持ってきてください。同じくらいの大きさの物なら何でもいいです」


 俺の注文に、すぐさま近くの騎士がバッグを持ってきた。

 俺はそのバッグを受け取り、付与魔法を使って簡易的なマジックバッグを作成する。 

 それを壊れたバッグと繋いで、空間を共有させる。後は新しいバッグを開けて中身を取り出すだけだ。


「どうやったんだ!これ!」


 ジャンさんは驚いているが、理屈としては簡単なものだ。要は開けられなくなったバッグに、新しい開け口を作って取り付けただけだ。

 そう説明すると、ジャンさんはそんなものかと感心していたが、後でじいちゃんに聞くと、これは新技術だそうで、この技術が広がると確実に悪用されるので黙っているように注意された。


 そんな感じでテイマーの持っていた大会用のマジックバッグを調べてみたが、特に怪しい物は見つからなかった。

 だが同じ方法を使って調べた『係員に預けられていたテイマー個人の物』からは、色々とやばい物が出て来て、ジャンさん達も軽く引いていた。


 まず一番多かったのが毒薬の類、これは殺傷能力の強い物から弱い物、即効性の物や遅効性の物、更には魔物や動物用の物に、強力な媚薬や催淫薬まで保管されていた。

 次に多かったのが武器の類で、こちらは拷問用と思われる物まで出て来た。

 後は盗品と思われる物や食料品で、これらを確認したジャンさんは解体を一時中断し、報告書の作成や残りのメンバーへの尋問に向かった。

 

「すみませんテンマさん。解体は後ほどと言う事でお願いします」


 ジャンさんの代わりにティーダが頭を下げるが、ワイバーン亜種に関しては自分一人でも解体が出来そうなので気にはしなかった。





「テンマさん、地龍は内臓を取り出して仕分けが終わり、残りは皮を剥いでいくだけです」


 ジャンさん達がいなくなって三時間程で、ようやく地龍の皮の剥ぎ取りまでやって来れた。

 ここまで来たら、後は魔法を使ってサクサク進める事ができる。


「それじゃあ、一旦休憩でいいんじゃないかな」


 俺が提案した事を、ティーダが皆に伝えた。

 

「いや~これはなかなか骨じゃわい」


 じいちゃんは肩を回しながら近寄って来るが、口で言うほど疲れているようには見えない。


「しっかし、こいつはかなりの大物じゃな。わしが倒した奴より、一回り以上は大きいぞ。その証拠という訳じゃないが、ほれ、これを見てみい」


 と言ってじいちゃんが取り出したのは、直径が40cm以上はある魔核だ。因みにワイバーン亜種は20cm程の大きさだった。


「これだけで、1千万G以上の価値はあるじゃろうな。もしオークションに出したら、軽くその倍はするじゃろうて」


「かなりの価値があるけど……売るつもりもないし、使い道も今のところないね……出番があるまで、バッグの中で死蔵させるかな」 


などとじいちゃんと話していると、ティーダが恐る恐ると言った感じで割り込んで来た。


「あの~テンマさん。さっきから……と言うか、かなり前から聞きたかったんですが……あそこでシロウマルといる牛は何なんですか?」


 ティーダは、シロウマルの後ろで草を食べている、三頭の白毛野牛を指さした。


「おおそうじゃった、わしも気になっとったんじゃ。あれは食べるのかのう?」


 じいちゃんも気にはなっていたようで、食べるのなら捌くのを手伝うぞ、と言っているが、そのつもりはないと言っておいた。


「助けたら懐かれたんで連れて来たんだ。家で飼おうかと思って」


 俺の発言に驚くティーダ。


「そうか、分かった。飼育場所には使っていない裏庭なんかを使えばいいじゃろうし、マーサ辺りに頼めば、詳しい世話の仕方を教えてくれるじゃろう」


 あっさりと了承したじいちゃんにも、ティーダは驚いていた……そりゃ1tオーバーの牛二頭に子牛の合計三頭を、まるで犬猫を飼うみたいに言っていれば驚くのは無理も無いか。


「問題は餌じゃが、それはどうするんじゃ?」


「それに関しては問題ないよ。基本的には草原で草をまとめて刈っておいて、バッグに保存するし、余って安くなっている穀物なんかを買い取れば大丈夫だと思うし、何なら牛のミルクと交換で集めればいける筈だよ、じいちゃん」 


 白毛野牛は、見た目がホルスタインなんかに似ている。まあ、白毛野牛の方がかなり大きいが。

 その為、牛乳が取れるのではないかと思い、人生初めての乳しぼりに挑戦したのだが、これがすごかった。

 何せ、ミルクが30Lは軽く出て来た。試しに飲んでみると、かなり濃厚で旨い牛乳だったのでバッグに保存している。


「白毛野牛のミルクは高級品じゃからの。飼い馴らせないせいで、なかなか手に入らんしの。肉はさらに高級品じゃがな」


 安心して下さい。肉もありますよ!という感じで肉を取り出して見せると、じいちゃんはかなり喜んでいた。

 ティーダも食べたそうにしていたので、解体したら分けてやると言うと、こちらも喜んでいた。


「それでテンマさん。あの牛達の名前は何ですか?」


 と聞かれたので、事前に考えていた名前を発表した。


「あの牡牛が『ジュウベエ』、牝牛が『ヒロ』、子牛が『タマ』だ」


 これは、『片目のない野牛(柳生)』から牡牛がジュウベエで、ジュウベエ繋がりから子牛メスがタマ(ガラシャ)、それから母親をヒロと名付けた。

 ただ、母親の名前がヒロかテルで迷ったが、結局はヒロに決めた。


「ほう……まあ、変わった名前じゃが、いいんじゃないかのう」


「ええ、変わってはいますね」


 やはり、日本風の名前だと二人には多少の違和感があるようだが、名付けてしまったものは仕方が無い。慣れて貰おう。





 白毛野牛達の紹介が終わり、のんびりしているところにマリア様がやって来た。


「ティーダ、テンマ。調子はどう?」


 マリア様も休憩に加わって、四人で話を続けた。マリア様の来た方向を見ると、未だにライル様が正座している。

 王族として、軍部のトップとして、あんな姿を見せていいのかと聞くと、マリア様は、「いつもの事だから」とか、恐ろしい事を言っていた。


「それで、地龍のどの部位を売ってもらえるのかしら?」


 と聞かれたので、ライル様と大まかに話した事を伝え、正式に書類で残す事にした。

 王家に売る部位は、地龍からは目玉一つ、心臓を除いた内臓の大半、骨を数本、肉を数十kg、ワイバーン亜種からは、両方の目玉、心臓を除いた内臓の大半、皮を半分、鱗を半分、爪と牙、肉を半分だ。

 

 最初の予定よりも多く持っていかれる事になるが、適正の値段に色を付けるのと、ジン達にも当初の予定通りの金額にいくらか上乗せしてくれるとの事だ。

 やはりと言うかライル様は、このような駆け引きではマリア様の足元にも及ばない様だ。


「それで報酬だけど……爵位はいらないのよね?」


「いりません!」


 マリア様の言葉に俺が速攻で断りを入れると、ティーダはかなり驚いていた。


「まあ、そう言われるとは思ったけれど……一応言っておくけど、爵位の場合は伯爵まで考えているわよ?」


「それでもいりません」


 マリア様は俺が断る事を分かっていたようだが、ティーダは納得がいかないようである。


「何故ですか、テンマさん?15歳で平民から伯爵になるのは、恐らく史上初めての事だと思いますが?」


 ティーダの言葉は最もだが、それは普通の人間の場合だ。

 正直言って今の俺には、爵位がそこまでいい物とは思えない。今まで(前世も含め)特別な地位になった事は無いので気にはならないし、そんじょそこらの貴族よりも、いい暮らしをしていると思っている。

 それに金には困っていないので、好きな事をして暮らして行く事も出来る。

 

 それが貴族になってしまうと、領地管理や税収の計算など、相応の(めんどくさい)仕事をこなさなければならないし、仮に領地を持たない名誉爵を受けたとしても、貴族間のいざこざに巻き込まれる事になる。

 それに俺の場合、爵位を貰うと一から家臣団を結成しないといけない事になり、それらの選別もしなければならなくなるので、メリットどころかデメリットばかりが増える事になる。


 そうティーダに告げると、ティーダは複雑そうな顔をしていたが、反対にマリア様は面白そうに笑っていた。


「血が繋がっていないとはいえ、流石シーリアとリカルドの息子ね。そっくりだわ!」


 呆然とする俺とティーダに、笑いの収まったマリア様が楽しそうに話し始めた。


「実は、リカルドも同じように、貴族に列せられるのを断ったのよ。シーリアも同じ意見だ、と言ってね」


 マリア様から聞いて初めて知った事だが、実は父さんと母さんは、元々貴族であったそうだ。

 父さんは一番下の爵位である騎士爵の息子で、母さんは子爵の姪であったそうだ。

 まあ、よくよく考えてみたら、母さんはマリア様の幼馴染だと言っていたし、父さんは王様と同じ学校の同級生だと言う事なので、最低でもどちらか片方が貴族でないとおかしい話なのである。


 そんな二人が何故ククリ村に居たのか、とマリア様に聞こうとしたところ……


「それは私が話すよりも、マーリン様が話した方がいいわね。そうですよね、マーリン様」


 と言って、いつの間にか俺のすぐ後ろまで来ていたじいちゃんに声を掛けた。


「まったく、何でそんな事を教えるのかのう。わしとて思い出したくも無い話だと言うのに」


「テンマが普通の子なら、私も話しませんでしたわ。でも、このままではめんどくさい事になりますわ、確実に」 


 マリア様の迫力ある微笑みに、じいちゃんもため息をついて椅子に座った。


「それもそうじゃの……では、まずリカルドの事から話そうか。と言っても、大した話では無く、リカルドの母親が貴族の相手をして、生まれたのがリカルド、という訳じゃ。リカルドは子供の頃ククリ村に住んでおったが、跡取りの居ない騎士爵の父親が、王都に呼び寄せて育てる事になった。そしてリカルドは王都の学校に入学するが、その数年後に父親が失脚して爵位を失ったんじゃ。その時にリカルドも学校を退学する可能性があったが、優秀だったもんで特待生として残る事ができたんじゃ」


 その時に王様達と知り合ったらしい。因みに学校は、前世の中学校に相当する中等学校。


「問題はシーリアの実家じゃな。わしの親戚筋でもあるが、元々シーリアは子爵家の跡取りの弟の娘、わしの兄の娘でな。わしが家を出た後に生まれたんじゃ」


 じいちゃんはある子爵家の三男として生まれて、母さんは子爵家の次男の長女として生まれたそうだ。

 じいちゃんと母さんのお父さんは歳が近く、仲が良かったそうだが、じいちゃん達の兄(長男)とは反りが合わなかったそうだ。

 それが原因となり、じいちゃんは成人する前に家を出て、平民(・・)として独立した。成人前に家を出る事は珍しいが、幸いじいちゃんには魔法の才能が有ったので、問題は無かったそうだ。

 だが母さんのお父さん……おじいちゃんは違った。それは魔法の才能が無かったのと、次男と言う事で家を出る事が許されなかったそうだ。

 その後結婚して母さんが生まれたそうだが、長男の方にも跡取りとなる男子が生まれた事で、騎士爵として独立させられたらしい。

 独立直後は、金銭面でかなり苦労したそうだ。しかし、長男は支援など一切しなかったそうである。


 おじいちゃんが独立させられた時には、すでにじいちゃんはかなり有名な冒険者として名を馳せていて、金銭面でかなりの世話をしたそうだ。

 そのおかげで母さんは学校に通う事ができ、マリア様と仲良くなったらしい(因みに小等学校……小学校の様な所)。その時には、マリア様は王様の許嫁であったので、後に母さんは王様とも知り合う事になったそうだ。


 そんな関係もあって母さんは父さんと出会い、付き合う事になった。おじいちゃんとしても、父さんが貴族の血を引いている事や学校での成績もいいと言う事で、ゆくゆくは婿養子として迎え入れるつもりであったらしい。

 そんな考えから、おじいちゃんは父さんと母さんが付き合う事を認め、冒険者として活動するのもいい経験だと許可したそうだ。


 だが、王様が母さんと友人の恋人として(・・・・・・・・)仲が良いのを、王様が母さんに気があると勘違いした長男が、母さんを王様の側室にしようとおじいちゃんに様々な圧力をかけたらしい。


 そのせいで、おじいちゃんは元々体が丈夫では無かったのに、ひどいストレスにさらされて病気を患ってしまったそうだ。

 更に最低な事に、長男はおじいちゃんが貴族の務めを全うする事が出来ないと責め、母さんを自分の養子にしようとしたそうだ。


 丁度その時、母さん達は武闘大会に出場する為に王都に帰って来ており、その話を知った母さんと父さんは長男に抗議したが長男は聞き入れず、あろう事か自分の派閥の上司まで巻き込んで計画を進めようとした。

 王様(当時は皇太子)も抗議しようとしたが、ある策を思いついたクライフさんが止めたそうだ。 


 そして、クライフさんの策を聞いた母さん達は大会に出場し、みごと優勝した。

 優勝した事で、当時の王様に何か褒美を、と言われた際にこう言ったそうだ。


「「褒美はいらないので、私達の結婚を認め、実家との縁を切らせてください」」


 これがクライフさんの考えた策だったそうだ。普通なら不敬罪として罰があってもおかしくはなさそうだが、そこは当時の王様や何人かの有力貴族達(王族派)に、皇太子様(現在の王様)達が事前に根回しをしていたので、要望はすんなりと認められて二人は結婚し、父さんの生まれたククリ村に移り住んだそうだ。


 逆に長男は、無用な騒ぎを起こしたとして強制的に代替わりをさせられる事となった。

 長男の代替わりが起こったすぐ後で、おじいちゃんは心労がたたって亡くなったそうだ。


「しかも、質が悪い事に、長男の長男(シーリアのいとこ)はまだ子爵の地位に居るからのう……逆恨みで嫌がらせをしてくるかもしれん」 


「だから、対抗策の一つとして、テンマを伯爵にしようと言うのがあったのよ」


 マリア様が俺の爵位にこだわるのは、そのような理由があったからだそうだ。まあ、それだけではないだろうけど。 


「ところでさぁ……殺していいの、その元子爵?」


 俺のストレート発言に、ドン引きするティーダ。


「いや、それはいかんじゃろう」

「そうね、それはまずいわね」


「そうですよ!テンマさん!」


 二人が反対した事に、安堵の表情を浮かべるティーダ、だが……


「殺るにはまだ早い!もう少し様子を見てからじゃ!」

「そうね、それに絶対にばれない様に、入念に計画を立てなくちゃ!」


 更にドン引きするティーダ。特に、マリア様が殺しを容認するような発言をした事に、一番驚いているようだ。


「ティーダ、分かったか?貴族は時として、人の命を奪わないといけない時もあるんだ。面倒だろ?」


「いえ、テンマさんは貴族じゃないですよね……それに、テンマさんが原因じゃないですか!」


 疲れ果てた表情を見せるティーダ。

 ティーダには、大人のブラックジョークはまだ早かった様だ。




 そんな、半分は本気で半分は遊びの会話は続き、気が付けば休憩時間をオーバーしていた。


「そろそろ再開しないと、日が暮れてしまうな」


「ええ、始めましょうかテンマさん」


 今の地龍の状態は、皮を剥ぐための切り込みが入っている状態だ。なので、まずは邪魔になる頭と手足の先を落としていく。

 これは俺の役割だ。


「よっと……」


 まずギガントを操って、地龍を固定する。そして、頭のすぐ下にある切れ目に沿って、刀で肉を切り開いていった。

 首の回りを一周するように切っていくと、最後に骨が残る。さすがに骨を切るのは難しいので、近くにある関節に刀の先を当てて力を込めた。

 

「「「おお~!」」」


 地龍の首は思った以上に簡単に切り離されて、周りで見ていた騎士達から歓声が上がる。

 その後は首と同じ要領で、手足の先を切り落としていった。


「これで良し、っと」


 刀やギガントを戻し、俺は先にジン達の分を確保していった。

 騎士達は解体用のナイフに魔法を使って切れ味を上げて、地龍の皮と肉の境目に沿って切り離していく。

 たまに経験不足の騎士がミスして指を切ったり、肉を綺麗に剥がせなかったりしているが、概ね問題無く作業は進んだ。

 



 そして、およそ二時間後、作業の全行程が終了した。

 かかった時間はおよそ七時間、騎士達を20名以上を動員して、地龍は素材に変わった。


「これで終了ですね!」


 ティーダは仕事が終わったとばかりに興奮しているが、終わったのは騎士達の作業が(・・・・・・・)である。


「ティーダ、貴方の仕事はまだ終わっていないわよ」


「は?」 


 マリア様の言葉に首を傾げるティーダ。


「そうだぞ。今度は王家と取引する分の素材の、値段(・・)の交渉作業が残っているぞ。今回の責任者はティーダだからな……お手柔らかに」


 ティーダに向けて、俺はわざと笑顔で言った。

 俺を見て顔を青くしたティーダは、近くに居るマリア様を見たが、マリア様はティーダを無視している。

 何せ、俺にこういった演技(・・)をするように言ったのはマリア様だ。いわば、黒幕だな。


 これは別に、『ティーダを相手に、金をむしり取っていい』という訳では無く、ただ単にティーダにこういった取引を経験させようと言う、いわばマリア様の親心(祖母心)なのだ。


「分かりました。ここでは何ですので、交渉は私の部屋でよろしいですか?」


 マリア様の援護が期待できないと分かったティーダは、自分の部屋で話し合おうとするが、俺はそれを断った。


「いや、どうせならここでやろう。解体に参加した騎士達も、自分達が解体した地龍の素材に、どれくらいの値が付くのか気になるだろうし」


 ティーダが俺に場所の選択権を与えてくれたので、俺は遠慮なく断り、騎士達の見ているこの場で行う事を提案した。最も提案と言っても、今のティーダに選択権は無いに等しい。何せ、すでに騎士達が期待の目でティーダを見ている。

 

 周りの騎士達の視線に負けたティーダが、ここでの交渉に応じた。これでティーダは、素材を下手に値切る事ができなくなってしまう。

 もし下手に値切ってしまうと、『次々代の国王は、自分達の仕事に対して安値を付けた』などと思われてしまう恐れがあるからだ。


 今の所ティーダがその事に気が付いた様子は無いが、マリア様の目が少し険しくなっている。


「まず、地龍から行きましょう。こちらに融通してもらえるのは、目玉一つ、心臓を除いた内臓、骨を数本、肉を数十kgで間違いないでしょうか?」

 

「いや、内臓に変更がある。片肺、肝臓、胆のう、胃はこちらが貰う。その代わり、肉は200kgを売ろう」


 内臓系で需要があるのが、俺が今言った部位だろう。マリア様にはそれらを売ると言ったが、ティーダが相手なら粘ってみるのも一つの手だ。


「ええ、それは構いませんが、肉をそんなに増やしていただいてもいいのですか?」


「ああ、まだ肉は沢山あるからな。できればそっちを消費しておきたい」


「分かりました」


 案の定ティーダは俺の思惑通りに動いてくれた。正直、内臓の価値に比べると、肉はおまけの様な物だろう。

 何せ、肉は食用としてしか(・・)扱う事は出来ないが、内臓は素材や薬にもなるし、勿論食用にもなる。


 単純に肉の量が増えた事に喜ぶティーダだが、その後ろではマリア様の表情が険しくなっている事に気が付いていない。


「それで値段だが……過去の地龍の取引はどうなっている?」


 俺の質問に、ティーダは事前に作っていたらしい資料を取り出して答え始めた。


「過去の取引で、資料として残っているのは全部で5件です。一件目が200年前に頭部、心臓、鱗、爪、肉で、二件目が150年前に目玉と全ての内臓、それに鱗に骨と肉。三件目が120年前で肉のみ。四件目が80年前で、肉を除く全て。最後が40年前のマーリン様の倒した個体で、この時は全てを買い取っています。ただ、かなり状態が悪かったらしいので、あまり参考にはなりません」


 それに加えて、今と物価がかなり違うので、参考程度にしかならないとの事だ。

 あまり役に立つものでは無かったが、それでもティーダが事前に資料を作っていたのはマリア様にとってプラスの評価だったらしく、少しだけ笑顔が戻っている。


「それだったら、個別に値段を付けて行こうか。まずは目玉だな。これは100万Gでどうだ?」


「え~っと……はい、その値段で結構です」 


 少し吹っ掛け気味に言ったのだが、ティーダはあっさりと頷いた。


「内臓は……80万でどうだ?」


「もう少し安くしてもらえると助かります」


「じゃあ、70万ならどうだ」


「ありがとうございます」


 とんとん拍子で話が進んでいく。話が進むにつれて、マリア様の表情も険しくなっていく。

 後で、ティーダはお説教が決定したな。

 そんな未来が、まるで手に取るようにわかる表情だった。

白毛野牛の名前の補足です。

片目の牛から柳生十兵衛ヤギュウジュウベエで、十兵衛つながりで明智十兵衛光秀となり、その妻の煕子ヒロコからヒロ、子供が明智玉(細川ガラシャ)からタマになりました。

妻の名前で、ヒロかテルで迷ったと書いたのは、作者が名前を煕子では無く、照子と勘違いしていたので、本文を修正した時に『迷った』と書きました。

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