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第6章-2 大物発見

「ガラット、右斜め前の茂みに角ウサギ」

「はいよ!」


「ジン、足もとにキノコ。薬の材料になる」

「はいはい、っと」


「シロウマル、左20m程の木の影に鹿」

「ワウッ!」 


「スラリン、そのアナグマはまだ子供だから、巣に帰してきなさい」

「……(プルンッ)」


「ソロモンは留守番。バッグで寝てな」

「キュ~イ……」


「リッキー、頭上に鳩が二羽。どちらか確実に落として」

「……分かった」



 宴会の次の日、俺達はジン達の言っていた森へと来ていた。ジンの言った『半日』とは、徒歩の時間だったそうで俺の馬車を使ったところ、森へは数時間で到着した。


 この森はそんなに大きなものではないが、近くに川や池があるそうで、小型から中型の生き物がかなり生息していた。

 そして運の良い事に、最近冒険者や狩人が来た形跡が無く、動物達の警戒心も薄れていた。


 森に入って一時間もしない内から、そこそこの収穫があった。


「そろそろ休憩して、個別に動こうか?」


 ある程度獲物が狩れたところで、休憩を挟む事にした。


「「了解、リーダー!」」

「……了解」


 ジンとガラットは思った以上の成果が出ているせいか、先程からご機嫌だ。

 反対にリッキーは、ジン達の様子に少し困惑しているみたいだ。


「いや~、テンマを誘って正解だったな!なっ、ガラット!」

「ああ、確かにな!俺達だけなら、ここまで簡単な狩りは出来なかったな!」


 ここまでは俺が獲物を捜してジン達に報告し、それをジン達が狩っていく……と言う流れでここまで来ていた。この間、俺は自分で獲物を仕留めてはいない。

 初めは俺も仕留めに行こうとしたのだが、ジンに止めた。

 なんでも、「お前まで仕留めに行ったら、仕事量に偏りが出来る。今回のルールの時は、探す奴と狩る奴は分けた方がいい」との事だ。

  

 なので、俺は発見したら誰かに振る、振られた者は仕留めに行く、と言う風に仕事を分けた。

 そしてそれがハマった形だ。

 何せ俺には『探索』があるので、近くにいる獲物の正体と数が分かる。それにジンとガラットは元々レベルの高い冒険者であるし、リッキーも基本ソロで冒険していると言うだけあって、腕前はなかなかのものだ。それに加えて、スラリンとシロウマルである。


 シロウマルは狼だけあって狩りは得意だし、スラリンに至っては、野生動物にすら気配を気取られずに背後に回り仕留める、と言う仕事人と化していた。

 おまけに、先程アナグマを捕まえたように、巣穴にもぐって仕留めて来るケースもあった(アナグマは拘束しただけ)。

 なお、ソロモンは森での狩りに向いていないのでバッグで待機している。


「ナミタロウも来たらよかったのにな!」


「ジン、あいつは一応鯉だぞ、一応だけど」


 ジンの言った通り、今回の狩りにナミタロウは来なかった。

 ナミタロウ曰く、「わいは魚やで。森は苦手やねん」との事である。

 色々と突っ込みたい事はあるが、そんなわけでナミタロウは屋敷に残っている。


 因みに、俺達が狩りに来ている事を知っているのは、メナスとリーナ、それにナミタロウとブランカとアイナだけだと思う。

 一応はじいちゃん達にも伝えたが、酔っぱらっていたので覚えていないだろう。


「まあ、アイナに伝えたから大丈夫か」


 そんな事を呟きながら、俺は昼飯の準備を続けた。

 準備と言っても、昨日の宴会の残り物などをバッグに入れて来たので、それを取り出すだけだ。


 


「それでテンマ。休憩が終わったら今度は各自個別に動くんだよな。バラバラに動くのはいいんだが、この場所には誰が残るんだ?」


「拠点の確保はしておかないといけないしな……交代で戻ってくるつもりか?」


 ジンとガラットの言葉を聞いて、スラリンとシロウマルが前に出た。


「大丈夫だ。この拠点には、スラリンとシロウマルが残る。この二匹なら、ここいらの魔物や動物に後れを取る事は無い」


 俺の言葉に、ジン達は頷いていた。


「それと万が一迷った場合は、大声でシロウマルを呼ぶと良い。極端に離れた場所でなければ、シロウマルに声が届くはずだ。もしくは、近くの川沿いを歩けば、この拠点の近くまで来れるだろう」


 今俺達が拠点にしている場所の近くには、大きめの川が流れている。なので、その川を上るか下るかすれば、この近くまでやって来れるはずだ。最悪の場合、俺が探索を使えばいい。

 それにスラリン達を残すのには、もう一つの理由もある。

 それは、俺だけ狩りの人数を増やさないためだ。


 個別で動くとなると、スラリン達は当然俺に付いて来る事になる。そうなると、俺だけ獲物の数が増える事になる。それも極端に……


 その事で、ジンやガラットはどうのこうのと文句をつけて来る事は無いと分かっているが、リッキーはどう思うか分からないし、差がつき過ぎればジン達もいい気はしないかもしれない。

 それにこういった個別の狩りは、一種のゲームでもあるのだ。

 だから、極力一人で狩りをした方がいいだろう。

 

 ただ、ソロモンは連れて行く事にする。これまで一度も外に出ていないので、どこか開けた所で出してやった方がいいだろう。


「気を使わなくてもいいんだけどな……まあ、そうしてくれるならありがたいっちゃあ、ありがたいがな!」


 ジンとガラットには、俺が何を考えているのか分かったのだろう。リッキーは気が付いていないようだがな。


「まあ、取りあえず飯を食おう」


 ガラットの言葉で、俺達は飯をかき込んでいく。数分で食事を終えた俺達は、思い思いに森の中へと散っていった。



「おっ!薬草見っけ!こっちはショウガかな?」 


 俺は獲物を探すよりも、食べられる植物を探す事に集中していた。

 この森は意外と食べる事の出来る植物や、薬の材料になる薬草などが多く、そちらの方が俺にはありがたかったからだ。


「これは……行者ニンニクみたいなものかな……」


 食べられるか怪しい物には、必ず鑑定を使う事にした。

 こういった野草などは、素人目では分からないものも多く、時に熟練者でも間違う事があると言う。


 なので鑑定は大活躍中である。最も、効果や食用に出来るのかは分かっても、食べ方までは分からないので帰ってから調べないといけないが、分からなくてもスラリンのご飯に化けるだけなので問題は無い。


「うおっ!これはトリュフか!」 


 足元に注意していると、いくつか黒く丸い物を見つけた。そのうちの一つを手に取り鑑定を使ったところ、その正体が『黒いダイヤモンド』こと黒トリュフだと言う事が分かった。


「すげぇ、少なくとも十個以上あるぞ……って言うか、黒いダイヤモンドってオオクワガタの事じゃなかったっけ?」


 などと考え事をしながら、足もとにあったトリュフを拾い集めて行く。

 俺の手の届く範囲だけで15個も生えており、そこから少し歩くと、更に二か所もトリュフが群生している所を見つける事が出来た。


「全部で29個か……これだけで、かなりの金額になるんじゃないか?」


 この世界でのトリュフの価値がどのくらいあるのかは知らないが、前世では100gで数万円位する事もあった筈だ。

 29個の内、100gを超える物は10個、それ以外は50gあるかないかの大きさである。

 100g超えの中で、一番大きなものは200gを超えているだろう。


「これは取っておくか、他は……家で食べるかな?アイナなら、調理方法を知っているかも」


 などと、小さめのトリュフを掌に乗せていじっていると、食べ物だと判断したソロモンが丸のみにしてしまった。


「ギュ~イ~」


 しかも、気に入らなかったのか、何度か噛んだ後で吐き出した。


「ギュッ!」


 俺はソロモンが吐き出した瞬間に、何も言わずに拳骨を落とした。先ほどの鳴き声は、ソロモンの悲鳴だ。 

 全く、油断も何もあったもんじゃない!小さい物だったから良かったが、トリュフを丸齧りして吐き出すとは何事だ!勿体無い!俺ですら食べた事が無いのに!……と、しばらく説教してバッグに閉じ込めた。


 ソロモンを説教した後で周囲を探してみたが、地下深くにあったり、掘り出しても小さすぎたりとトリュフの採集を諦める事にした。


「よし!この場所の事は覚えておこう!」


 その後は野草などの採集に戻ったが、トリュフ以上の物は見つからず、一旦拠点に戻る事になった。




「ようテンマ!遅かったな!」


「何か採れたか?」


 ジンとガラットは、自分達が狩った獲物を並べて勝負していた。


「俺の勝ちだな!」

「いや、俺だろ!」


 ジンの獲物は猪だ。そこまで大きな個体ではないが、丸々としており脂がのっていそうだ。

 対してガラットの獲物は牡鹿だ。こちらはかなり大きな個体で、立派な角が生えている。


「「テンマ!判定は!」」


「引き分けでいいだろ」 


 俺の判定に納得がいかないと言った二人であったが、実際にこの判定は妥当だと思っている。

 肉の価値では猪の方が上で、牡鹿の肉は値段ではかなり劣る。しかし、それ以外の素材としては、毛皮の使い道が多く、角が薬にも使われるので価値が高い。


 そう説明すると二人は納得したが、代わりに俺の得物を聞き出そうとしていた。

 俺がトリュフを取り出そうとした時、丁度……


「何してんすか?」


 リッキーが戻って来た。二人は、標的をリッキーに変えて迫っていく。


「獲物ですか?いいですよ」


 そう言ってリッキーが取り出した獲物は……


「猪が3匹!」

「鹿が2匹!」


 二人を軽く上回っていた。


「「負けた……テンマは!」」


 二人の揃った声に、俺は採集した物を取り出した。それらは籠いっぱいに入っている。それが二つ。


「マジかよ……」


「下手しなくても、俺達の獲物より価値があるな……」


 打ちひしがれる二人であるが、そんな二人に俺は止めをさす事にした。

 なお、この時点では、リッキーはまだ余裕の表情をしている。


「こんな物もあるんだけど」


 俺が別にしておいたトリュフを出すと、一瞬何が出て来たのか分かっていない三人。

 その中で、トリュフだと一番初めに気が付いたのはガラットだった。


「おい……これはまさか、アレか……黒いダイヤ、トリュフか?」


 さすが犬の獣人。前世でも、トリュフを探す時は豚か犬を使っていた筈だ。

 ガラットの言葉で、ジンとリッキーもこいつの正体が分かったようだ。


「マジかよ!」


「初めて見た……」


 二人も絶句している。やはりこの世界でも、トリュフはトリュフだったと言う事か。


「一つソロモンに食われたがな……」


 ソロモンに食われた、と言うところに反応したシロウマルが近づいて来るが、俺はシロウマルが鼻を近づける前にバッグにしまい込んだ。

 シロウマルは不満げな顔をしたが、俺には分かる。こいつはトリュフを食べるつもりだったのだ!と……


 とにかく、獲物の勝負は、俺の勝ちと言う事になり、今度は団体で狩りに行く事になった。トリュフを見つけた所とは反対の方向に誘導させてもらったが、悪く思うな……


 


「なあ、テンマ……おかしくねえか、これ」


 先頭を歩いていたジンが突然立ち止まり、辺りを警戒し始めた。

 ジンの指さした所を見ると、地面に何本もの抉られたような跡が出来ており、何かが争った形跡がある。


「確かに変だな……よし、引き返そう!もうすぐ日が暮れる筈だ。さっきの所で夜を明かそう」


 安全策をとった俺に、ジンとガラットは賛成したが、リッキーは反対の様だ。


「何でだよ!もしかしたら、金になるかもしれないじゃないか!例え、強力な魔物でも、これだけのメンツが揃っていたら敵じゃない筈だろ!」


 なまじ自分の力に自信がある上、実力者がそろっているから倒しに行きたいのだろう。だが……


「暗い中で正体不明のモノを狙うのは、素人以下だぞ。止めておけ」


 ジンにバッサリと切られていた。


「ジンの言う事ももっともだ。それに、このパーティーのリーダーであるテンマの判断もあるし、過半数が反対なんだ。どうしてもと言うなら、朝まで待ってからにしろ」


 ガラットもリッキーに反対の理由を説明する。リッキーも明らかに自分より上の二人に言われ、渋々ながら引き下がっていた。




 その夜は、少し予定を変更した。最初の予定では、夜も個別に動くつもりだったが、正体不明の生き物がいる可能性が高いので、皆で警戒しながら過ごす事にした。


 今の所俺の探索でそれらしい生き物は引っかかっていないが、探索は遠くになるほど精度が落ちるので、仮に相手が探索に引っかかりにくい生き物だった場合、油断したらすぐそばまで接近されていた、なんてことが無いように気を付けなければならない。

 念の為、シロウマルも警戒させているので、臭いまでは誤魔化す事は出来ないだろう。


 夜は、なるべく静かに過ごし、最低一人は起きているようにした。

 幸い、近くに生えていた野草からお茶が出来たので、気を紛らわせるくらいの事は出来た。


 因みにこのお茶、かなり苦く渋い。なので、俺以外の評判が悪かった。

 ジンは、「苦い、お前の舌はおかしいのか?」と言い。

 ガラットは、「苦味はいいけど、渋すぎる!」とお湯で薄めた。

 リッキーは、「砂糖くれ、蜂蜜でもいい!」と甘くして飲んでいた。

 シロウマルとソロモンはそっぽを向き、スラリンだけが大人しく飲んでいた。


 まあ、この野草茶は、ブレンドした時の隠し味程度に使うものだから、これだけだと好みがはっきり分かれる物だから、仕方が無いか。


 だが、その味のおかげで、皆眠気は飛んだようで、朝まで問題なく過ごす事が出来た。

 朝までは……



 朝一番に、リッキーが『朝一から個別で動こう』と提案してきたのだ。これにジン達は、昨日リッキーを押さえたので、それくらいはいいだろうと賛成した。

 俺も同じ考えであったので賛成したのだが、これが後の苦労に繋がるとは、この時点では予測できなかった。



「取りあえず、昨日の所以外で狩りを行う、と言う事でいいな」


 最低限のルールとして、昨日荒れていた所には行かないと決め、それぞれ散らばった。

 今回もスラリンとシロウマルは留守番で、ソロモンも留守番組に加わった。

 昨日怒られたのが堪えたみたいだ。少し怒り過ぎだったかもしれない




 今日は、トリュフを見つけた先の方まで走って行ってみた。

 トリュフを見つけた所で少し速度を落としたが、やはり見つからなかった。 


 その先では、木が少なくなっており、代わりにクマザサの様な物が蔽い茂っていた。


「お茶になりそうだから、少し持って帰るか」


 笹の葉の綺麗な所を選んで摘んでいると、少し離れた所で、大型の生き物の気配がした。

 気配の数は七つ。その内一つは小さなものだ。


 俺は気付かれない様に、笹で身を隠しながら近づくと、およそ50m先に白い大きな生き物が居た。


「あれは……牛か?『鑑定』」


 種族…白毛野牛 Aランク相当


 と出た。白毛野牛か……一頭は子牛だな。魔物では無く、牛の一種の様だ。

 ただ、普通の牛と違って、足が八本ある。普通の牛の足の位置の前後に、もう一本ずつ足が生えている形だ。そして頭には四本の角がある。

 

「ここら辺で、あんな牛が出るなんて聞いていないけどな……となると他から来たのか?」


 ともかく、牛であるなら肉もうまいだろう。どうにかして一頭くらいは狩りたいところだが……

 そう思って、気配を消しながら隙を伺っていると、何か様子がおかしい。


 あの群れで一番大きな野牛が、他の四頭の野牛から攻撃を受けているみたいだ。

 大きな野牛の後ろには、子牛とメスの牛が居る。


「何だ?メスの取り合いか?」


 野生で子孫を残すのは大変な事なんだろう……まあ、人間も同じではあるがな……


「でも、チャンスか……あの四頭は狩っても大丈夫だよな、多分、きっと……」


 一瞬、ティーダ達に説教した時の事が頭を過ったが、オスとメスの番を残すのなら大丈夫だろう。それにここら辺に元々生息していない、外来種みたいなものだ。

 そう言う事にしておこう……


 そんな事を考えている間にも四頭は攻撃を続けており、攻撃を受けている白毛野牛は、その白い体を自分の血で染めていた。


「それじゃあ行くか……『エアカッター』」


 狙いを定めた風魔法で、四頭の白毛野牛の首を切っていく。

 俺に気付いていなかった四頭は、首を切られてあっけなく倒れた。


 近づいてみると、四頭は喉を切り裂かれて瀕死の状態だが、まだ生きている。


「血抜きするか……え~っとこんな感じか?」


 俺は土魔法で、白毛野牛より少し大きな坂を四つ作り、そこに巨人の守護者ガーディアン・ギガントを使って牛達を乗せて固定する。


 坂の下には穴を掘って、血を落としていく。一応後ろ脚の太い血管(四本とも)に切れ目を入れて、空気が入りやすくした。これがあっているのかは分からないが、下に血を流すのだから、上にも空気穴があった方がいい気がしたのだ。

 ついでに作業の途中で他の獣がよって来たら面倒なので、風魔法で血の匂いが漏れない様にしてみた。


「それで、残りはお前達だけなんだが……」


 後ろの方で、俺の作業を見ていた白毛野牛に話しかけた。俺の言葉が分かるとは思えないが、振り向いた瞬間にオスは立ち上がって威嚇し始めている。


「お前らを狩るつもりはないから、さっさと行きな。サービスで怪我の治療くらいはしてやるから」


 大物を狩る事が出来て機嫌のよかった俺は、オスに向かって回復魔法をかけた。

 回復魔法のおかげで傷などは消えたが、ダメージが抜けた訳では無いのでオスはその場を動く事は無かった。

 その代わり、子牛が俺に近づいて来た。


 オスとメスが鳴き声を上げて子牛を呼ぶが、子牛はかまわずに俺のそばまで来て、俺の体やバッグの匂いを嗅いでいる。


「これが欲しいのか?」


 先ほど摘んだクマザサを取り出して子牛の鼻先に持っていくと、子牛はクマザサをおいしそうに食べ始めた。


「牛ってクマザサも食べるんだな……」


 牛の食性に少し驚いていると、子牛はあっという間に全部のクマザサを食べてしまった。

 最初こそ警戒していたオスとメスであったが、俺に敵意が無い事が分かったのか、少し大人しくなった。

 それからしばらくして、大分血抜き進んだ所で集合時間が迫って来た。


「まだ血が抜けていないけど……まあ、後でもなんとかなるか」


 四頭の白毛野牛をバッグに入れて、血だまりを凍らせてから土を被せて処理した。


「よし、行くか……って、付いて来るなよ……」


 俺の後を子牛が付いて来る。どうやら餌付けに成功したようだ……じゃなくて、付いてこられても困る。

 そう思っていると、オス牛とメス牛もついて来ようとする。


 よくよく考えてみると、俺がここからいなくなると魔法が切れて、辺りに血の匂いが充満する。そうなると、肉食の獣がよって来る事になるだろう。

 オス牛なら大抵の肉食獣に負ける事は無いだろうが、今は怪我をして動きが鈍っている上に、メスと子牛も居る。二頭を護る事は難しいだろう。

 そうなると敵意が無く、四頭の白毛野牛を瞬殺した俺に付いて行く方が助かる可能性が高い。

 

 間違っているかもしれないが、俺なりにそう結論付けた。

 だから……


「付いて来るのなら言う事を聞けよ。大人しくするなら食べたりしないから……後、この中に入ってくれ」


 そう言って、スラリン達を入れているバッグの口を広げた。

 最初はシロウマルとソロモン(大型肉食獣)の匂いを気にしてか、戸惑った様子であったが、子牛が入っていくのを見て大人しく続いて行った。





「来たなテンマ……」

「勝負だ!」


 ジンとガラットはまたも最初に帰っており、俺を待っていた。


「どうだ!」


 ジンの狩りの成果は、猪二頭に鹿が一頭、後はキノコや野草だ。


「なんの、俺の方が上だ!」


 ガラットは猪一頭に鹿が一頭、角ウサギが五羽だ。

 

「えっと……また引き分けかな?」


「今回はキノコもあるんだぞ!」


「何でだ!俺のが数が多いだろ!」


 ジンとガラットはそう言うが、今回も妥当な結果だと思う。


「ジンのキノコ……これ、全部毒キノコだぞ。それも使い道のない……野草も薬にはなるけど、安い傷薬の材料ばっかだな。ガラットの角ウサギも、五羽で猪一頭分くらいじゃないか?」


 なので、個体差などを考慮して今回も引き分けとした。


「ワン!」


 ジン達と話していると、シロウマルがバッグの匂いを嗅いでいた。


「ああ、流石に気が付いたか……いいかシロウマル、それにソロモン。こいつらは仲間だから、絶対に食べようとするなよ」


 そう言ってバッグから牛達を出すと、牛達よりもジン達の方が驚いていた。


「お、おまっ、それ白毛じゃねえかっ!」


「なあ、おい!絞めるのか、絞めるのなら手伝うぞ!だから少し分けてくれ!」


 ジンとガラットがすごく興奮している。どうやら、白毛野牛は高級品の部類に入る肉らしい。


「いや、そいつらは保護しただけだ。他に仕留めたのがある。これな」


 バッグから白毛野牛の顔だけ出す。シロウマルとソロモンは反射的によだれを垂らしていた。


「よし、テンマ!食おう、今すぐ食おう!」


「まずは焼肉だよな!」


 暴走気味の二人だが、今はまだ食べられない。


「いや、解体も何もしていないからな。食うにしても帰ってからだ。食う時には呼んでやるから、今は我慢しろ」


 絶対だからな!と声を揃えるジンとガラット。何だか、シロウマル達が増えたみたいな感覚だ。


「それにしても、リッキーが遅いな……少し探してみるか」


 ジン達から少し離れて『探索』を自分の位置から広げていくように使うと、思ったより近い位置に居た。大体2km有るか無いかの所だ。だが動きがおかしい。


「何かから逃げてる?」


 リッキーの動きはジグザグに動いたり、急に反転したりと言う動きをしている。 


「もう少し広げるか……これはっ!」


 『探索』を広げた先に居たもの、それはかなりの大きさの生き物だ。『隠蔽』を持っているらしく、『鑑定』が出来ない。

 その時、何かの咆哮が聞こえた。かなりの大きさだ。


「ジン、この鳴き声の方でリッキーの気配がした!何かに襲われているのかもしれない!」


 俺はすぐに牛達をバッグに避難させて、リッキーの居る方角に走り出した。

 ジン達も、俺の言葉に反応して走り出す。

 シロウマル達は少し遅れたが、すぐに追いついて来た。


 走り出して十分程すると、何かが木々を倒しながら走り回っている音が聞こえた。

 鳴き声も大きくなっている。


 木々を抜けた先で、その咆哮の主が見えた。


「あれはドラゴン!」

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