第5章-24 大会終了!
第5章が終わります。
思った以上に長引いた章でした……
満足そうに喉を鳴らし、まるで天下でも取ったかのようなワイバーン亜種であったが、それは三日も持たなかった。
「はどーほーーー」
ナミタロウの必殺技が空に向かって放たれ、ワイバーン亜種に命中した。しかし、そう何度も連発できる技では無いので、威力は最初のものの数分の一以下である。
ワイバーン亜種も最初は驚いていたが、大した威力では無いとすぐにわかり、あざ笑うかの様に喉を鳴らしていた。
「アホが、それは囮や!」
ワイバーン亜種はナミタロウの言葉を理解したわけでは無いのだろうが、ナミタロウを標的にしたらしく、翼を大きく広げて火の玉を吐き出そうとしていた。
「思った程、知能は高く無いようだな」
ワイバーン亜種が、背後から聞こえてきた声の主を確認するよりも早く、テンマの拳が脳天に直撃した。
テンマは、ワイバーン亜種がナミタロウのはどーほーに気を取られてる隙に、魔法で飛び上がってワイバーン亜種を背後から襲ったのだった。
「ガフッ!」
脳震盪を起こしたように、ふらふらと墜落するワイバーン亜種。
しかし、ワイバーン亜種が落ちていく方向には観客席があり、逃げていなかった観客達が悲鳴を上げた。
「シロウマル!スラリン!」
俺の声を聞いたスラリンがシロウマルの背中に飛び乗り、すぐさまシロウマルが全力で駆け出して落下付近に向かった。
そして、スラリンの体が巨大化し、ワイバーン亜種に触手を伸ばして掴み、引っ張りながら軌道修正を行った。
そして、台の中央付近に墜落したワイバーン亜種に、後ろからソロモンが噛み付く。
ソロモンのダメージも大きい筈だが、いつもの食い意地を発揮するかの如く、ソロモンはワイバーン亜種首元に食らいついて放さない。
俺はそんな光景を見ながらナミタロウのそばに降りた。
「テンマうまく行ったな。さっさとあいつに止めを刺そうや」
「ああ、そうだな」
ワイバーン亜種は思いのほか固く、殴りつけた拳は赤くなっていた。
俺はバッグからアダマンティンの剣を取り出して、ワイバーン亜種に向かって走り出した。
ワイバーン亜種は俺を近寄らせまいと、何度か火の玉を吐き出したが、俺はそれを全て避けた。
ただ、避けた火の玉の一つが倒れていたトロールに命中して、トロールはもだえ苦しんでいた。
全ての火の玉を避けられたワイバーン亜種は、何とか立ち上がって空に飛び立とうとしていたが、俺はそれよりも早く近づき、首に狙いを定めて剣を振り下ろした。
ボキンッという大きな音を立てて首がくの字に折れ曲がり、ワイバーン亜種は空気の抜けるような音を出して静かになった。
「じいちゃん!俺のマジックバッグを持ってきて!」
俺は、王様達の前面に障壁を張っていたじいちゃんに声を掛けた。
じいちゃんは障壁を解除すると、文字通り飛んでバッグを持ってきてくれた。
「これでよいかの?」
「ありがと、じいちゃん。よいしょっと……」
ワイバーン亜種を掴みながらバッグを押し付けると、ワイバーン亜種は無事にバッグの中に消える。
これで、完全にワイバーン亜種の死亡が確認できたわけだ。
その後でトロールの様子も見たが、こちらも息絶えていた。
サイクロプスの方は、飼い主が死んだ事で首輪が外れたようだが静かに座っており、暴れるつもりはないみたいだ。
しかし、辺りを見回しても、魔法使いの姿が見えない。
どうした事かと思っていると、元の大きさに戻ったスラリンがそばにやって来て、魔法使いを吐き出した。
どうやら体内のバッグに避難させていたようだ。
会場は、俺がワイバーン亜種に止めを刺した事で、徐々に徐々に混乱が収まりつつあった。
そして、審判が俺に近づいて来て……
「勝者、『オラシオン』!」
と宣言した。よく見てみると、審判の後ろから騎士達が駆けつけて来ていたが、俺達の討伐が早かったので、結果的に遅れた形である。
それでも騎士達は、魔法使いの確保や戦士の身柄の拘束、テイマーの死体の処理などを行っている。
そんな中、二人の騎士が俺に近づいて来る。ジャンさんとシグルドさんだ。
「ようテンマ、優勝おめでとう。こんな事を言うのは何なんだが、あのワイバーンを検分させてもらいたい」
「これは今の所強制ではないが、きちんと調べる必要があるので、最悪の場合強制になるかもしれない。今なら、素材などの所有権はテンマのものだが、強制になった場合は没収になる可能性がある」
中々都合のいい言い分だが、相談として持ち掛けて来るだけマシなのだろう。それに、騎士団としても、公衆の面前で起きた事件であるから、ワイバーン亜種を調べないという訳にもいかないのであろう。
「いいですけど……解剖の時には、俺も立ち会わせてください。ワイバーンは、血も素材の一つとして価値がありますから」
俺の言葉を聞いて、ジャンさんは頷いた。しかし、ジャンさん達は、ワイバーン亜種を保存できるようなマジックバッグをまだ持ってきていないの事なので、それまでは俺が預かる事になった。
その後、ジャンさん達は、トロールやテイマーの死体を片付けていたが、サイクロプスについてはどうするか判断がつかずに、結局冒険者ギルドに預けられる事となった。
騎士団による後処理の為、試合後に行われる表彰式が遅れる事となり、一度控室に戻って一休みしてから再度会場に呼ばれる事になった。
準備の調った闘技台には、各部門の優勝~三位(決定戦は無いので準決勝の敗者の事)が並んでいたのだが、まともに参列しているのはペアの表彰者達だけであった。
まず個人戦、これは順に、俺、アムールに続いて、ジンとケイオスが並んでいないといけないのだが、ケイオスが居ない。
これは反則行為で失格となったからだ。
だが、ここまでは過去にもあった話である。
問題……と言うか、異様なのはチーム戦の並びである。
こちらは順に、『オラシオン』、続いて『デンドロバテス』で、ここまでが横並び、その後ろに『鬼兵隊』と『ブルーホーネット』が縦に並ぶはずなのだ。
だが、準優勝の『デンドロバテス』のメンバーが誰も居ない。これは、決勝の騒ぎでサイクロプスを除く全員が連れていかれたので、この場に並べなかったのだ。
本当はサイクロプスだけでもいいのだが、飼い主が死んだ為、扱い的には暴れたワイバーン亜種に近いものとなっており、何かあった場合に責任が取れないからだ。
サイクロプスが処分されていないのは、一応は元眷属でチームメイトも生存しており、暴れる事なく大人しくしているからである。
そして一番異様なのは、『オラシオン』である。
なにせ、俺が個人戦の方にいるので、並んでいるのはナミタロウ達眷属だけなのである。
一応、俺の個人戦の表彰が終わったら、チーム戦の方に行く予定なのだが、これまでに眷属だけで並んだ例は無い。
ナミタロウが人間の言葉を話せるのでこのような事が出来たが、最悪の場合あの場所は空席になり、前代未聞の優勝・準優勝の両チームが一時的にとはいえ並んでいない、という事態もあり得たほどだ。
そんな事を考えながらも、俺は背後に気を配らないといけなかった。
何せ俺の背後には、肉食獣……では無く、肉食女子のアムールが居るのだ。先ほどから視線が突き刺さっており、居心地が悪い。
俺は早く個人戦の表彰を終えて、スラリン達の所に移りたかったが、こういう時に限って時間が長く感じてしまう。
離れた位置で王様が何か言っているが、今の俺に聞き取れる余裕は無く、ただただ早く終われと念じていた。
王様の話が終わると、今度はシーザー様の番になったが、俺の心境は王様の時とは変わらなかった。
シーザー様の話が終わってようやく表彰となり、大会の役員長から記念の盾と短剣、そして賞金を受け取ると、挨拶もそこそこにその場を離れ、チーム戦の所に並びようやく一息つく事が出来た。
アムールから離れてからも、未だに視線は突き刺さっているが、先程よりはマシである。しかし、ペアの表彰が行われているというのに、アムールの視線はぶれる事なく俺のへと向いている。かなり無礼な行為だとは思うが、誰も注意をする者はいない。
おそらく王様が何か言ったのだろう。その証拠に俺と目が合うと、顔がにやけそうになっており、必死に顔を引き締めようとしている。
「オラシオン、前へ」
ペアの表彰が終わり、俺達が呼ばれた。記念品や賞金額は個人戦と変わらないが、チーム戦は短剣が人数分用意されていた。だが問題もあった。
「あの……テンマ選手以外短剣を持てない様なので、まとめてお願いします」
短剣を渡す係の役員が、どうやってシロウマル達に短剣を渡そうかと考えた末、俺にまとめて渡してきた。
その後は順調に終わり、最後に役員長の言葉で終わる事となった。
その言葉の中で、この場で表彰されている参加者には、賞金の他に特別賞として王家主催のパーティーに参加する事が出来ると言っていた。
正直、王家の人々とは何度か食事をしているので参加しなくてもいいかなと思ったが、優勝者が参加しないのはさすがにまずいし、ストーカー三人組とも約束しているので、素直に参加する事にした。
パーティーは一週間後、祭りの最後の日に王城で行われるそうだ。
表彰式が終わり、会場から出た瞬間、俺はスラリン達をバッグに詰めて、素早く移動した。
言わずもがな、アムール対策の為だ。控室に急いで戻り、じいちゃんと合流した俺はスラリンのみバッグから出して、俺達を飲み込んでもらった。
そしてスラリンには王様達の元へと向かってもらう。
ここまでして俺はアムールを振り切る事が出来た。
王様達は、俺が突然やって来るとは思ってもいなかったようでさすがに驚いていたが、すぐに何故現れたのか理解したようだ。
「おおテンマ!優勝おめでとう。それにしても、何やら熱烈なアプローチを受けておったな!」
「まあ、テンマなら優勝は確実だと思っていたけどよ……あれは予想できんかったわ!」
王様とライル様がほぼ同時にからかってくる。
「あなた、ライル……下がりなさい」
ニヤついていた二人の顔は、マリア様の登場でピタリと止まり、素直にマリア様に道を譲った。
「それでテンマ。あの娘との関係は?」
「あれが初対面です!」
俺は反射的に背筋を伸ばし、気を付けの姿勢になって報告していた。
その時になって、じいちゃんがはい出してきたが、じいちゃんはシーザー様に声を掛けられて何か話し合っている。
「そう……まあ、血筋は確かだし、実力もあるから私は別にいいんだけど……テンマが本当に嫌なら言いなさい。全力で排除してあげるから」
微笑みながら怖い事をサラッというマリア様。それにしても、アムールの正体を把握していたようだ。
「いえ、大丈夫です……」
さすがに怖すぎたので断ったが、お願いしていたらどのように排除していたのだろうか……想像はしたくない。
「そ、それと、ジャンさんどこですか?ワイバーン亜種の件で話がしたいのですが」
「ん、ああ、ジャンなら、今は尋問に立ち会っておる。それにワイバーンの件なら承知しておる。俺の方からも、あれはテンマの獲物だから大切に扱う様に、と念を押しておこう」
話のすり替えついでに、王様からもワイバーン亜種の権利を正式に認めてもらった。なので、ここから離れようとしたら、マリア様に笑顔で迫られて……
「このお話はまた今度ね」
とこちらも念押しされてしまった……
じいちゃんも丁度話が終わった所の様で、帰るにはちょうど良いタイミングであった。
帰りはスラリンでは無く、騎士達に先導してもらいながら会場を出る事になり、この場を去ろうとした時、ティーダとルナが駆け寄ってきた。
「テンマさん、優勝おめでとうございます!ワイバーンとの闘い、すごかったです!」
「お兄ちゃん、優勝おめでとー!スラリンもおめでとー!またソロモンと遊ばせてね!」
祝福と共に、ちゃっかり自分の要望を伝えて来るルナに少し癒されながら、了解と告げて外へと向かった。
さすがにアムールの気配は無くて安心したが、ストーカーが増えた事は少し心配だ。
会場の外へは観客達に紛れて脱出した。
その方が人に見つかりにくいし、仮にアムールが待ち構えていたとしても、俺を見つけるのはかなり困難になるだろう。周りの人も、まさか俺が紛れているとは思わないだろう。一応は変装しているし。
案の定、会場の入り口付近でアムールの気配を感じた。気配のする方向をちらりと見ると、アムールはブランカの肩の上に立ち、あちらこちらを覗き込んでいる。間違いなく、俺の事を探しているのだろう。
そんなアムール達に気が付いた人々は、自然と足を止めているので遠巻きに人だかりが出来上がっていた。何せ、今年の大会の個人戦準優勝者と前回の三位入賞者が居るのだ。しかも、準優勝者の奇行というおまけ付きで……俺も、自身が標的でなかったら、やじ馬に加わっていたかもしれない。
俺はその場からアムールに気取られない様に気を付けて進み、危機を脱した。
じいちゃんと屋敷へ帰り着くと、門の前には人だかりができていた。またかと思ったが、今回の人だかりは前と少し違っていた。
なぜなら、門の真ん前に居る集団とそれらから距離を取っている集団に分かれており、真ん前に居る集団の中には、明らかに騎士と分かる者達が紛れていたからだ。
俺は外側に居た集団の中をすり抜けて門へと近づくと、門の前に居た集団の正体が分かった。
その集団は、マークおじさんやマーサおばさんをはじめとするククリ村の人々と、サンガ公爵の騎士達のようだ。
騎士達の中には顔見知りはおらず、またサンガ公爵本人もいなかったので少し怪しく思えたが、鎧にはサンガ公爵家の紋章が入っているので、まさか王都でそんな詐欺をやらかす者はいないだろうと思い、まずは話を聞いてみる事にした。
「はっ!我々はサンガ公爵様の命を受けまして、ここにおられるククリ村の方々の護衛を任されました!何分物騒なので、念を入れてこの場を死守せよとの命令も受けております!後ほど、公爵様もお見えになるそうです!」
どうやら、おじさん達の護衛と言う名目で俺に恩を売りつつ、俺の所にやって来る口実を作る目的であったようだ。
これが見知らぬ貴族であるなら礼だけ言ってお引き取り願うところだが、サンガ公爵家の人々とは少なからず縁があるし、別に嫌っている訳でも無いので、了承して騎士達に中に入るよう言ったが、公爵本人が来るまではこの場を離れることは出来ない、と命令を順守する構えを崩さなかったので、半分はサンガ公爵の好意なのだと解釈をすることにした。
それに、今回の大会で俺は思いっきり目立ってしまったので、これから貴族との付き合いは自然と増えて来ると思われる。
ならば、変な貴族が寄ってくる前に、サンガ公爵と仲良くしているところをアピールする(仲良くする貴族は選ぶ)必要があるだろう。
すでに王族との付き合いはあるが、友好的な大貴族は多いに越した事が無い。
それでも厄介事は増えるだろうが……
一通り騎士達とのやり取りが終わり、おじさん達の方向に向き直ると、いきなりマーサおばさんに抱き付かれた。そして皆の中心へと連れて行かれ、胴上げされる事になった。
胴上げされること自体は別に何ともないのだが、場所だけは選んでほしかった……正直、他人の目に晒されながらされる胴上げは、正直、何の羞恥プレイだ!と言いたかったが、皆俺をかわいがってくれた人達ばかりなので、口に出しては言えなかった……じいちゃんも、ちゃっかり胴上げに参加している。
俺を胴上げをしていて気が緩んだのか、中には俺を下ろした後で泣いている人もいた。
そして誰かが叫んだ。
「今日は宴会じゃ~~~~!」
今日もの間違いだろ!と思うが、これには俺のお祝いも含まれているので文句は言わない。
宴会の言葉を合図に、ククリ村の人々は即座に解散し走り出す。各々する事は理解しているようで、短い会話の中で用意する物の分担を決めているようだ。
あまりのチームワークの良さに、サンガ公爵の騎士達も呆気に取られている。
騎士達を残して屋敷に入ると、まだ誰も帰ってきていないようで中は静かだった。
「アイナちゃん達には悪いけど、先に準備をさせてもらおうかね!」
マーサおばさんが、勝手知ったる他人の家、とばかりに台所へと向かって行く。その後には数人のおばさん達がついて行き、マークおじさんは庭で宴会場の準備に取り掛かっていた。
「何もしなくていいって言うのは楽だね、じいちゃん……」
「そうじゃの……ちと暴走気味じゃがな……」
俺がじいちゃんと話している間に、バッグからスラリン達が這い出て来る。
そしてそれぞれ移動していく、スラリンは居間のソファーへ、ナミタロウは庭の池へ、シロウマルとソロモンは台所へ……
最後の二匹は調理の邪魔になるので、首輪を掴んで居間へと強制連行した。
連行の途中でジャンヌ達が帰ってきた。アイナやアウラは当然として、おまけに三人娘にジン達までいた。
「お帰りなさいませ、テンマ様。そして優勝おめでとうございます」
一番最初に声を掛けてきたのはアイナだ。その言葉で、俺に飛びつこうとしていた三人娘は止まった。どうやら牽制の意味もあったようだ。
三人娘は苦々しい顔をしているが、文句を言わないところを見ると、どうやら上下関係がはっきりしているようだ。
ジン達は、どうやら今夜辺り宴会があると予想していたようで、食べ物目当てでやって来たようだ。ちゃんと手土産は持ってきていた。
プリメラが居ないので三人娘に尋ねたところ、どうやらサンガ公爵と共にやって来るそうだ。恐らく保険なのだろう。
万が一、俺が騎士達が居た事を嫌い、サンガ公爵の訪問を断ったとしても、プリメラが居ればまだチャンスがあると考えての事だと思う。
要は、プリメラのチームメイト(三人娘)が宴会に参加、なのでプリメラだけのけ者にする事は出来ない。ならば、プリメラと同伴してきた公爵だけを断る事は醜聞が悪い。
と言った感じかもしれない。信用されていない気もするが、貴族としてのメンツもあるので、出来る事はするという感じなのだろう……これがサンガ公爵でなかったなら容赦はしなかったのだが。
まあ、腹黒な人だし、別にいいか……などと考えていると、今度はセイゲンテイマーズの面々がやって来た。
こちらも急な訪問であったが、顔見知りであり、同じギルドメンバーなのですぐに入ってもらった。
これで貴族を除いた知り合いのほとんどが集まった事になる。
後は、準備が調えば宴会が始められると言うところだが、そんな時に事件は起こった。
門の付近に潜んでいたゴーレム達が一斉に起動し、迎撃態勢に移った。
これには俺を含め、この場で戦える者のほとんどが警戒し、戦えない者達は即座に屋敷の中に移動した。
ゴーレムが起動して間もなく、何者かが門を飛び越えて侵入してくる。侵入者は二名だ。
侵入者達は、ゴーレムに襲い掛かられて迎撃しようとしていたが、俺の特製ゴーレムの強さに驚いたのか、逃げ回っていた。
その内、侵入者の一人が俺に気付き、突進してくる。
門から俺の居る位置までは、およそ100m。
その侵入者は、その距離を瞬く間に詰めて来る。そして俺はそいつの正体に気が付いた。
その正体の名はアムール。公衆の面前でいきなり俺の唇を奪い、俺を追い回すストーカー四号だ。
そんな事を思っている内に、アムールは俺のすぐ目の前まで迫って来ている。
アムールは俺まで10mを切った辺りで両手を広げて飛んだ。そして迎撃された……ナミタロウに……
ナミタロウは、世界新記録更新確実(前世の記録)の速度で走って来たアムールを、更に上回る速度で追いつき、勢いをつけて飛んだ。
そして、見事にアムールに体当たりを食らわせたのだ。
アムールはナミタロウの体当たりをもろに食らい、くるくると宙を舞って落ちた。
「御用や、御用やっ!」
ナミタロウは、片方の手に提灯の様な物を持ち、もう片方の手には十手の様な物を持ってアムールを抑え込んだ。そんなナミタロウ達を、数十体のゴーレムが取り囲んでいる。
アムールがここに居ると言う事は、もう一人の侵入者は当然ブランカであろう。
そのブランカは、ゴーレムを相手に苦戦している。
いくら俺のゴーレムが普通より強いと言っても、流石にブランカを超える程では無い。
おそらく手加減しているのだろう。ゴーレムを勝手に破壊する訳にはいかず、なのに全力でかかって来る相手なので、後手に回ってしまったのだろう。
「戦闘解除!その男は攻撃しなくていい!その代わり、そこで倒れているのを拘束しろ!可能な限り丁寧に、だ!」
俺の命令を聞いたゴーレムは、即座にブランカへの攻撃を止めた。そして、抑え込まれているアムールを、二体のゴーレムがそれぞれ片手を抱えるようにして連れて来た。アムールの口には、ご丁寧に猿轡まで噛ませられていた。
「ふ~……すまん坊主!お嬢を抑えきれなかった!」
開口一番に謝るブランカ……何だかブランカには謝られてばかりの気がする。
「苦労してるんだな、ブランカ……」
ブランカに同情の目を向ければ、ブランカもまた同情の目を俺に向けて来る。
「ああ、これでもマシになった方だ。何せ、苦労の半分はテンマに移っているからな……」
「「ぶほっ!」」
ブランカの言葉に一番反応したのは、じいちゃんとナミタロウだ。ナミタロウは手に持っていた小道具をなおし、アムールを拘束しているゴーレムを従えて近寄って来ていた。じいちゃんは家長として近寄って来たようだ。
「とにかく迷惑をかけた。おい、お嬢!帰るぞ!……いやじゃない!本来なら捕縛された上に、憲兵に突き出されてもおかしくないんだぞ!」
ブランカがアムールの首根っこを掴み、強引に引っ張って行こうとすると、アムールは両手でゴーレムを掴み抵抗しながら首を横に振って拒否している。
なお、アムールを捕縛していたゴーレムは、ブランカが首根っこを掴んだ際に手を離して、アムールを解放しようとしていた。
「まあまあ、ブランカ。別に良いではないか。今日はテンマの優勝記念の宴……と言う名の宴会じゃが、面白い事に大会で活躍した者達が大勢参加しておる。どうせなら、お主達も参加したらいいじゃろ。のう、テンマ」
じいちゃんにそう言われて、俺はアムールをちらりと見る。俺の視線に気付いたアムールは、懇願するような目でこちらを見ている。
「は~……まあ、いいさ。ただし!皆に迷惑はかけない事!できるか、アムール?」
俺の言葉にアムールは目を輝かせ、何度も首を縦に振っていた。
「重ね重ね、すまない……」
ブランカはそう言いながらアムールの猿轡を取り地面に降ろすと、アムールは素早い動きで俺に抱き付き、そのまま背中へと移動した。
「テンマ、大好き」
俺の背中に抱き付きながら、耳元で告白してくるアムール。
さすがにそのストレートな告白に恥ずかしくなったが、そんな気分はすぐに霧散する事になった。
「「「テンマから離れろーーー!この泥棒猫!」」」
リリー、ネリー、ミリーの三姉妹が、大声を出しながら迫って来たのだ。
そんな三人娘に対し、アムールは……
「猫はあなた達。私は虎」
と返していた……いや、確かにそうなんだけど、リリー達の言ってる意味は違うからな……
最近パソコンの調子が悪くなってきており、文章のつながりがおかしい所があります。気が付いた際にはご報告お願いします。




