第5章-23 決勝戦、そして悲劇
おかげさまで、100話&一周年を迎える事が出来ました!
軽い気持ちで始めた作品が、ここまで続くとは思ってもみませんでした!
これもこの作品を呼んでくれる読者様が居るおかげです。
これからも『異世界転生の冒険者』をよろしくお願いします。
俺達は再度気合を入れて、出入口まで来ている。
そして、俺の横にはじいちゃんがもう一度付添人として歩いている。
相手チームは三人が並んでいるが、その三人は登録されているメンバーなので、恐らくはテイマー以外の二人の内、どちらかが付添人を務めるのだろう。
今回、相手チームの方が先に来ていたが、俺達はろくに目を合わせる事は無かった。
理由は簡単だ、相手チームのテイマーがこちらを睨んでいるからだ。俺に睨まれるような事をした覚えはないし、気持ちの良いものでもないが、試合の直前なので問題を起こすような馬鹿ではないだろうと無視をしている訳だ。
そんな微妙にギスギスとした雰囲気の中、閉ざされていた入り口が開き、俺達は揃って闘技台に上がった。
本来ならば、台に上がる前にバッグから眷属を出すのだが、今回は初めて両チームとも、人間より眷属の方が多いので、もしも眷属同士が興奮して互いに攻撃し始めてはいけないとの事で、先に人間のメンバーだけで台へと上がり、両チームが距離を取ってから眷属を出してほしい、と運営側から要請があった為だ。
台の中央まで進むと、じいちゃんと相手チームの戦士が一礼をして台から下りて戻って行った。
ただし、相手チームの戦士だけは会場内に残る事を許されており、相手チームの後方の外野へと移動していた。
これは戦士が相手チームの登録メンバーと言う事であり、試合に登録していないじいちゃんとの違いであった。
そして、互いに距離を取ってバッグから眷属を出した。
勢いよく飛び出すシロウマルとソロモン。スラリンとナミタロウは、バッグからゆっくりと出て来た。
相手チームのサイクロプスとトロールはのっそりと出て来て、肩を大きく回したりして体を解していた。黒いワイバーンは初めは歩いて出て来ていたが、体を翼を大きく広げた後で空に飛びあがっていた。
両チームの眷属が一斉に現れたのを見て、会場は本日最大の歓声に包まれた。
その歓声はしばらく続き、そのせいで王様の試合前の『ありがたいお言葉』がなかなか始められなかったほどだ。
両者の陣形は、オラシオンが横並びで、左からナミタロウ、ソロモン、俺、シロウマル、スラリンの順である。
対するデンドロバテスは、前衛が左から、サイクロプス、ワイバーン、トロールで、その数m後ろに魔法使い、更にその後ろにテイマーとなっている。
「チーム戦決勝!『オラシオン』対『デンドロバテス』……試合開始!」
審判が開始を宣言し、すぐに離れる。
しかし、審判が完全に離れる前に、サイクロプス、ワイバーン、トロール、そして俺が飛び出した。
この俺の飛び出しに、会場からどよめきが起こる。
しかし、それ以上に驚いていたのは相手チームの面々だ。普通テイマーが特攻を仕掛ける事など、まずありえない。
しかも、俺以外のメンバーは眷属しかいない訳で、俺が負けたりすればそれはすなわち、自動的に『オラシオン』の負けとなってしまう。
サイクロプス達にはそんな事は分からないだろうが、会場のどよめきや後ろのテイマー達の反応に動揺し、動きがわずかに鈍っていた。
俺はその隙を見逃さずに、トロールへと接近した。
「しっ!」
まずは脛にローキックを二発続ける。トロールは強烈な痛みに、思わず蹴られた方の足を押さえた。
トロールの顔が下がった所で背中を駆け上がり、後頭部を殴りつけた。この一撃で、トロールは戦闘不能まではいかないが、まともに立っていられなくなった。
トロールに止めを刺そうとする俺にワイバーンが噛み付こうとするが、その攻撃はソロモンが横から体当たりをした事で外れた。
しかし、ワイバーンが迫って来た事で俺がトロールから離れたので、その隙にサイクロプスが間にあった。
―———SIDEソロモンVSワイバーン亜種————
ソロモンは体当たりで、ワイバーン亜種の攻撃をテンマからそらす事に成功した。更にワイバーン亜種のターゲットを自分に移す事が出来たので、まずは作戦通りだろう。
「グガァァァーーー!」
自分よりも小さな奴に邪魔されたせいで、ワイバーン亜種は完全に頭に来ていた。
自然界において、ワイバーンが自分よりも種族として格上のドラゴンに突っかかって行く事はあり得ない事だ。
しかし、このワイバーン亜種は普通の考えを持ってはいなかった。無論、テイマーからの命令があった事も関係している。だが、それ以上にこのワイバーン亜種は自分の力に自信を持っていた。
『自分はただのワイバーンでは無い』
このワイバーン亜種は、生まれた時から強者であった。それは種としてのワイバーンが強い、では無く、自分が特別である、という事実であった。
ワイバーンという種は、ドラゴンに近い種だと言われている。
しかし、子育てにおいてはドラゴンのそれとは程遠い。
知能の高いドラゴンは、よほどの事が無い限り、子供が一人で生きて行けるまで親がそばで面倒を見る。
しかし、ワイバーンは子供がある程度まで大きくなると、そこからは子供では無くなり、ただの同種の生き物という認識となる。
なので、親が自分の子を餌とする、という事は珍しくない。餌にしなくても、親は子に興味を無くしたかのように見捨てていく。
このワイバーン亜種も親の餌となるところであった。しかし、このワイバーン亜種は逆に親を食い殺した。そして、同種の味を覚えた為、近くにいたワイバーンを食い殺して回った。
さらに、ワイバーン亜種の住んでいた周辺には、ワイバーン以上の強さを持った生き物がおらず、まさに無敵の王者であった。
そのようなことがあって、このワイバーン亜種は力に絶対の自信を持っていた。
ただ、そんなワイバーン亜種にも誤算があった。それが首に嵌められている『薄汚れた首輪』だ。これのせいで、王者の筈の自分が、猿の様な生き物の奴隷となっている。
逆らおうにも、この首輪のせいで思うように動けなくなり、更に強烈な痛みまで襲ってくる。
そのような理由もあり、ワイバーン亜種はストレスの為、捕まる以前よりも凶暴さを増していた。
そんなワイバーン亜種に、同じような生き物が突っかかって来る。
自分だけの領域で、自分と同じように飛び回るソロモンに、ワイバーン亜種は自分でもわからないほどの怒りを覚えた。
それはワイバーンとしての本能が、種として格上のドラゴンに対して恐怖を感じているという事が分からず、自分の知らない感情が心に針の様に突き刺さる感じが、いらだちの原因となっている事に由来する。
その事をワイバーン亜種は、『自分より小さな生き物が、不遜にも自分の領域で逆らっているからだ』、と思い込んだ。
ソロモンはワイバーン亜種に体当たりをした後、テンマから離れるように飛んで行く。
頭に血の上っているワイバーン亜種は、すでに目の前を逃げるソロモンしか目に映っていない。
空の追走劇は、速さでやや勝るワイバーン亜種が、ソロモンを射程に捉えるたびに噛みつこうとし、その攻撃をソロモンは巧みにかわしていく、という図式が続いた。
火を吐けばいい、とも思えるかもしれないが、高速で飛んでいるので下手に火を吐くと自分に火が降りかかってしまうので、得策ではない。最も、今のワイバーンにとって、火を吐いてダメージを与えるよりも、噛みついて直接ダメージを与える方が相手に自分の強さを示せる、との考えがあるみたいだ。
逃げるソロモンは焦りが出始めたようで、動きに若干の乱れが出てきた。
今の所全ての攻撃を躱してはいるが、後ろを取られている為、ソロモンにはワイバーン亜種を攻撃する手段が思いつかなかった。
その為、回避に集中する事が出来なくなり、ついにワイバーン亜種の牙がソロモンの尾をかすめた、慌てて回避に集中するソロモン。
しかし、攻撃を受けた事でバランスを崩してしまい、ワイバーン亜種の攻撃範囲から逃れるのが遅れてしまう。
ワイバーン亜種は、口を思いっきり開けて噛みつこうとするが、その時……
「ウガッ!ウガーー!」
下からサイクロプスの焦ったような声が聞こえてきた。そして次の瞬間……
「魚式、はどーほーーーー」
そんな少し間延びした声と共に、地上からワイバーン亜種目掛けて閃光が走った。
—―——SIDEナミタロウ————
(なんや、歯ごたえのなさそうなやつらやのう)
ナミタロウは、テンマが素手でトロールを圧倒しているのを見てそう考えていた。
まあ、テンマ(&ナミタロウ)とトロールでは、強さの格が違い過ぎるので、そう思うのも仕方が無かった。
なお、この会場に居る者の中で、現在ナミタロウに勝てる者はおそらくテンマ一人である。
(おっと、そんな事考えている間に、ソロモン追いかけられてるやん。シロウマルとスラリンは……魔法使いで遊んどるな……ご愁傷さまやね)
ナミタロウにとってテンマは友人であり、ある意味で家族でもあった。その為、テンマの家族は自分の家族、という図式が出来上がっており、スラリン達は自分の弟分だと(勝手に)思っている。
なので、テンマからソロモンのフォローを頼まれた時、当たり前の様に引き受けたのだ。
(ってなわけで……)「ナミタロウ、行きまーす!」
ナミタロウはソロモンを助ける為に発進した。
言うまでも無いが、ナミタロウは鯉だ。ただの鯉ではないが、あくまで種族は鯉だ。なので、当然空は飛べない。
しかし、ナミタロウには神達から貰った力がある。
そして、ナミタロウには、テンマに話していない、神達とナミタロウだけの秘密もあった。
ナミタロウは前世で千年以上の時を生きた野鯉であった。野鯉であろうと、千年以上生きれば妖怪の類に変化する。
しかし、ナミタロウは違った。なんと、神格を得て、ある意味で神獣と呼ばれる存在になったのだ。
そして、神獣の力を使って世界各地の池や湖、川に海を泳いで回った。
その頃は楽しくて仕方が無かったが、やがて科学が発達してくると、自由に泳ぎ回る事も出来なくなっていく。
それでも、深海に逃げていれば自由に泳ぎ回れていたかもしれない。しかしながら、深海はナミタロウには合わなかった。
深海魚達は生きる事に必死で、ナミタロウを見ても、餌か捕食者としか認識せず、更に根暗な魚が多く、陽気なナミタロウの話し相手は皆無に近かった。
そして何よりも、食べ物が合わなかった。
深海には山の幸など落ちて来る事は無く、山育ちのナミタロウには辛かった。
なので、最後の方は山奥の池に移り住んでいたのだ。
退屈な日々が続く中、やがてナミタロウにも死が訪れる。
そして、死んだ後に神達に拾われた。
神達はテンマと同じように、ナミタロウにも新たな体を与えようとした。新たな体の選択肢には人間の体も存在していたが、ナミタロウは慣れ親しんだ魚の体を選んだ。
その為神達は、ナミタロウに一番相性のいい、前世の体をベースにして新たな体を創り、ナミタロウに与えた。
そのせいでナミタロウは、この世界で一番神に近い鯉、なのである。最も、この世界に転生した事で、前世の力は失われてはいるが、それでもある意味でテンマ以上に高性能な体なのである。
そのナミタロウの隠し技の一つが炸裂する。
闘技台の上を泳ぐようにして、狙いやすい位置に移動したナミタロウは、口に魔力を集中させて技の名を叫んだ。
「魚式、はどーほーーー」
元ネタはもちろんアレである。本当はブレスの一種なのだが、ナミタロウ的にはこちらの名前の方がやりやすいので、この名前を付けたのだ。
ネタの様な技の名前だが、これを本気で数発放てばこの王都は陥落する。
テンマの『テンペスト』並みの威力を持ち、貫通力においてはテンペストを凌ぐ、ナミタロウの最強奥義である。
まあ、流石に本気で放てばシャレにならないので、威力は数十分の一以下まで落としてある。
『はどーほー』はワイバーン亜種にだけ命中し、墜落まではいかなかったが、大きなダメージを与えた。
「しもた……手加減しすぎた」
一撃で決めるつもりだったナミタロウは、もう一度はどーほーを放とうとした。
だが、ナミタロウよりも早く、ソロモンが空中で縦に大きく旋回し、勢いをつけてワイバーン亜種の背中へと体当たりを食らわせた。
それによりワイバーン亜種は地面に落とされ、空中戦は決着となった。
墜落したワイバーン亜種は完全に気を失っており、この試合中の復帰は無理であろう。
「よーやった、ソロモン!」
ナミタロウの言葉に、ソロモンは一鳴きして旋回飛行を行った。
—―——SIDEスラリン&シロウマル————
テンマが飛び出した後、シロウマルはスラリンを背中に乗せて走り出した。
狙いは魔法使いである。
途中でサイクロプスの脇を走り抜けた際に攻撃をされたが、勢いに乗ったシロウマルのスピードにサイクロプスは着いていけず、攻撃は見当違いの所へと外れた。
そして、そのまま魔法使いに接近し噛みつこうと口を開けるシロウマル。しかし、魔法使いも迎撃の為の魔法の詠唱を終えていた。
放たれた魔法はファイヤーストーム。これは、シロウマルに確実に当てる為に範囲攻撃を選んだからだろう。
絶妙のタイミングで放たれたファイヤーストームは、シロウマルを飲み込んだ。
いくら、魔法耐性のある毛に包まれたシロウマルとて、直撃ではダメージは免れない……筈であった。
シロウマルが炎に包まれたと思った瞬間、炎がはじけ飛んだ。
炎の中から現れたのは、半透明の球状の物体……エンペラースラリンだ。
スラリンの体の大半は水分で出来ているので、体を大きくしてシロウマルを護ると共に、炎を消し飛ばしたのだ。
しかし、その反動でスラリンの体はわずかにしぼんだ。水分が蒸発した為だ。
それを見て、魔法使いは火属性の魔法を連発するが、シロウマルはこれらを巧みに躱していく。
スラリンは瞬時に小さくなり、振り落とされない様にシロウマルの体にへばりついていた。
魔法使いの攻撃が当たらないのを見て、テイマーも攻撃に参加し始めた。テイマーの決断は遅かったが、参加した事でシロウマル達を徐々に押し始めた。
魔法自体はシロウマルには効きにくいレベルの攻撃ではあるが、スラリンには厳しいものがある。
なのでシロウマルは魔法使いを倒す事よりも、スラリンに攻撃を当てさせない事を選んだ。
シロウマルが回避に専念すると決めると、テイマーと魔法使いの攻撃魔法はかすりもしなくなっていく。
一度はテイマー達に傾き始めた天秤が、再び元に戻り、一種の膠着状態が生まれる。
だが、しかし……
「ウガッ!ウガーー!」
突然のサイクロプスの叫び声と共に、ワイバーン亜種が閃光に飲まれ、ソロモンに叩き落とされた事でいとも簡単に崩れた。
その為、テイマーと魔法使いの意識は反射的にワイバーン亜種に向き、シロウマル達から外れた。
「ぐふっ」
「くそっ!」
意識が外れた瞬間、魔法使いはスラリンのファイヤーボールの直撃をくらい倒れ込む。
ファイヤーボールはテイマーにも襲い掛かったが、これはあと一歩のところでかわされてしまう。
シロウマルは倒れ込んだ魔法使いに素早く近づき、前足で叩いた。
魔法使いは、シロウマルの肉球と台の石畳に挟まれて気絶し、今年の大会を終える事となった。
「トロール!サイクロプス!俺を助けろ!」
自分の周りに誰もいなくなった事で焦ったテイマーが、叫びながら助けを呼んだ瞬間、大きな地響きを立ててサイクロプスが仰向けに倒れたのだった。
――――SIDEテンマ――――
ソロモンが空でワイバーン亜種と戦い、スラリンとシロウマルが魔法使いを相手にしている頃、テンマはサイクロプスとトロールの攻撃を躱し続けていた。
(意外とこのサイクロプス、戦い方がうまいな……)
俺がトロールへの止めをサイクロプスに邪魔された後、トロールはすぐに立ち上がってサイクロプスと共に襲い掛かっていた。
しかし、ノックアウト寸前であったトロールはそれほど怖くは無く、すぐにでも倒せそうな位に弱っていたが、それをサイクロプスがうまくフォローしていた。
予想外のサイクロプスの奮闘に、俺は思わず感心したが、さほど危機感は感じてはいなかった。
襲い来る二体の巨人の拳に対し、俺はコツコツと打撃を重ねていく。
例えば親指の付け根に、小指に、手首の関節に……攻撃を集中させる事で、あまり力を入れていなくても効果は大きくなり、次第に二体は俺に殴りかかる事を恐れるようになっていった。
何せ、拳を振るう度に痛みが増していくのだ。いくら知能の低いトロールとて、痛みを伴えば自然と学習する。トロールでさえそうなのだから、サイクロプスに至っては当然だ。
二体に迷いが出た所で、突然サイクロプスが空に向かって大声を出した。それは、何かの警告の様にも聞こえる。
そして、閃光が走り、ワイバーン亜種が落ちてきた。
ワイバーン亜種が落ちたはずみに、トロールが中途半端な攻撃をしてくる。おそらく、反射的に動いてしまったのだろう。
俺は振り下ろされたトロールの拳を踏み台にして飛び上がり、大まかに狙いを付けて胴回し回転蹴りを放つ。
人間相手なら、当てにくく使い辛い技ではあるが威力は高いので、大きく動きの鈍いトロール相手には打って付けの技だ。
俺の目論み通り、蹴りはトロールのこめかみに直撃した。
さすがのトロールもこれには耐え切れず、その巨体はまるで糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。
俺はトロールの様子を確認する事無くサイクロプスへと迫り、攻撃を仕掛けていく。
サイクロプスも応戦してきたが大きな体が災いし、近距離で足を使って戦うと、次第に一方的な展開となった。
そろそろ勝負を決めようと、飛び跳ねるしぐさを見せると、サイクロプスは先ほどの蹴りを警戒し、頭部を護るように腕を交差させてガード体勢をとった。
しかし、俺は上に跳び上がらずに前に跳び、サイクロプスの懐に潜り込んだ。
そして、しゃがみこんで腕を上にあげながら勢いをつけて飛びあがる、いわゆるカエルパンチを繰り出した。
サイクロプスは上からの蹴りだけを警戒しており、下からの攻撃は予測していなかった様で、顎ががら空きになっており、俺の拳はサイクロプスの頭を下から打ち抜いた。
頭を縦に揺らされたサイクロプスは一撃で意識を失ったようで、大の字になりながら仰向けに倒れた。
サイクロプスが倒れる瞬間、テイマーが何かを叫んでいたようだが、サイクロプスが倒れた音にかき消されて俺の耳には届かなかった。
こうして、デンドロバテスで戦う事が出来るのはテイマーだけとなり、俺達はテイマーを囲むような位置に移動していった。
テイマーは俺達に囲まれない様に、墜落したワイバーンで背中をカバーしようと近づいていた。
その様子を見たシロウマルが、テイマーに攻撃を仕掛けようと動いたが、後2~3歩でテイマーに飛びかかれる位置まで迫った時、シロウマルは何故か踏ん張って急ブレーキをかけた。
そして次の瞬間、悲劇が起きた。
「グルァーーー」
「は……」
急に目を覚ましたワイバーン亜種が、飼い主であるはずのテイマーの上半身に噛みつき、そのまま食い千切った。
この光景に、会場は一瞬の静寂に包まれた。
その間ワイバーン亜種は、食い千切ったテイマーを咀嚼して飲み込んだ。
「グウォォォーーーーー!」
食事の終わったワイバーン亜種は、立ち上がって翼を広げて咆えた。
その声を聞いた観客達の大半が叫び声を上げて、会場から逃げようと出入口に殺到し、辺りは騒然となっている。
そんな観客達の声に反応したワイバーン亜種が、観客席の方へと顔を向けて火の玉を吐き出した。
火の玉の数は3つ。ワイバーン亜種が口を開いた瞬間に俺は駆け出したが、一番遠い所に居た為間に合わなかった。
3つの火の玉の内、一つはソロモンが体当たりで打ち消し、一つは観客席から逸れた。
最後の一つは観客席に一直線に迫ったが、これは着弾寸前で魔法使い達の障壁が間に合い、被害は出なかった。
全ての火の玉を止められたワイバーン亜種は、唸り声を上げながら空へと舞い上がった。
空を担当していたソロモンは、身を盾にしたせいで墜落しており、ワイバーン亜種の行く手を遮る者はいない。
その事に気が付いたのか、ワイバーン亜種は満足そうな顔をしていた。