第1章-8 白い家族
転生してから10年目の今年、ようやく一人で大老の森へ入る許しをもらう事ができた。父さんは8歳を迎えた頃からいいと言っていたのだが、母さんが強固に反対したため10歳まで延びたのだ。ただし夕方までには必ず帰って来いとのことだった。
そのため、8歳からの2年の間に『飛行』の魔法を覚えることにした。
風属性の飛行魔法だけだと直線的な動きしかできないので、それに時空属性の飛行魔法と浮遊魔法を組み合わせたオリジナルの『飛空』魔法を創り出した。
この飛空を使い前回進んだ所まで飛んで行き、その場所から探索を進めるという感じで経験を積むことにした。
そんな感じで半年程過ごしていたある日、自分を中心とした半径10kmを『探索』で調べると探索範囲の端の方で大きな二つの反応があった。
その反応を鑑定してみると、
名前…ゴールデンフェンリル
性別…オス
ランク…A
種族…幻狼種
名前…シルバリオフェンリル
性別…メス
ランク…A
種族…幻狼種
と出た。今の俺の位置が村から20km程、村から魔物までは30kmも無い。それに徐々にこちらに近づいている。森の中とはいえ獣型の魔物にとって30kmなど2時間もあれば余裕でたどり着くだろう。
そう思い、最悪でも追い返す事ぐらいなら出来るかもしれないと、出来るだけ気配を消し、気付かれないように上空から近づくことにした。
10分程飛び続けると見つけることが出来た。100m程の上空から観察してみたが両方とも黒ずんでいてやや動きが鈍い。じろじろと見ていたせいだろうかその内の一頭と目が合ってしまった。
奇襲を仕掛けて一気に倒せばよかったと悔やみながら上空からの急降下と、魔法による一撃離脱の作戦を取ろうと勢いよく飛び出した。
氷魔法の『アイスランス』を放とうとして不意にスラリンの時と同じ感覚が湧いてきた。
慌てて魔法を解除し、いつでも魔法で障壁を出せるようにして二頭の狼の前方30m程先の木の後ろ側へと降りた。
気を抜かずにゆっくりと木を盾にするように近づく、近づいてみて分かった事だが二頭とも体長は4mくらいあり、自身の血なのか返り血なのかは分からないが大量の血によって黒ずんでいるようだった。
二頭は警戒はしているようだが敵意は抱いていないようだった。
15m程の距離で5分近く互いに見合っていたが、意を決して二頭に近づこうとしたその瞬間、二頭は突然立ち上がり自分たちの周辺に向けて唸り声を上げた。
俺は驚き後ろへ飛び距離を取ろうとしたが、着地点に横から何かが大口を開けて飛びついて来た。
とっさに土魔法『アースニードル』を繰り出し、頭の下から串刺しにする。串刺しとなった物の正体は、『ドラゴンスネーク』と言うB+の魔物であった。
ドラゴンスネークは単体ではB+の魔物である上に、たちの悪いことにこの魔物は複数の群れで行動することが多く、大体4~5匹の群れで行動し獲物を狩るのだ。複数の場合は危険度がA~A+に上がる。全長が大体7~8m、大きいものだと10mを超す場合もある。
探索で調べた結果、周囲には串刺しにされて絶命している個体を除き8匹が隠れている。飛空で空へ逃げようにも奴らの全身を使った跳躍力は軽く10mを超える。タイミングを間違えれば無防備なところをパクリとやられるだろう、そうなるよりは二頭の狼がいるうちに一匹ずつ倒した方がいいだろう。狼達が共闘してくれるならの話だが。
こうしてドラゴンスネークの乱入による乱戦が始まった。
(俺に3匹、狼達に5匹かこれなら逃げられるか)
と考えたがここでもし天馬が逃げれば狼たちは殺されるだろう。それよりもドラゴンスネークが狼達で満足しなかった場合、最悪村まで襲いに来る危険性もあった。
(何だってこんな魔物が森の浅い位置までやって来るんだよ!)
広大な面積を持つ大老の森では、森の切れ目から30km程のこの位置はまだ浅いと言われるような所であり、通常魔物もCランクぐらいまでしかいないような場所であった。本来ならAやBランクの魔物は100km以上進んで稀に見ることが出来るといったものなのだ。
そう思いながらも天馬は魔法で攻撃しようとするが、ドラゴンスネーク達は天馬から距離を取り、囲んで逃がさないようにするだけで襲い掛かろうとしてこない。
(何だこいつら?さっき魔法で返り討ちにしたのを見て躊躇しているのか?それとも何か狙いが…)
「ギャン!」
その時、天馬の後方から狼の悲鳴が聞こえた。天馬が振り返ると狼達が劣勢になっていた。一頭は体当たりを受けて倒れており、もう一頭はドラゴンスネークの頭部へと噛みつき砕いているようだが、別の個体に喉を噛みつかれ絶体絶命の状態だ。
天馬が狼達を気にした瞬間をチャンスだと思ったのであろうか、天馬を囲んでいた三匹が一斉に襲い掛かって来た。
「なめるな!」
天馬は一喝すると三匹に向けて障壁を展開し、攻撃を受け止め風魔法『ウインドカッター』を三発放つと三匹のドラゴンスネークは着地と同時に首が落ち絶命した。
切られたことに気が付いていないのだろうか、三匹のドラゴンスネークの頭部と胴体部分は動き続けていたが天馬は放置して狼の方へ走った。
狼達の近くで絶命している個体は、腹部を食い破られているものが一匹と、頭部をかみ砕かれているものが一匹の計二匹。
「これでもくらえ!」
天馬は生き残っている三匹に向けて空気を圧縮した弾を発射する『エアブリット』を狼に当たらない角度で放つ。
狼の首元に噛みついている個体は頭に3cm程の穴が開き即死こそしなかったが激痛と衝撃により、地面をのたうち回っている。もう長くはもたないだろう。
残りの二匹は倒れている狼を襲おうと飛びかかる寸前だったが、エアバレットにより出鼻を挫かれた際に他の6匹がやられたのに気付き、一目散に逃げていった。
天馬は狼の様子を見たが喉を噛みつかれていた方はすでに息絶えており、倒れていた方もいつ死んでもおかしくない状態であった。
血の流し過ぎやダメージで回復魔法も効かないとみた天馬は、せめて楽にしてやろうと近づいたところで狼の様子がおかしいことに気付いた。
お腹が大きいのだ、太っているとかでは無い。血が溜まっているのかとも思ったが、間違いに気付いた。乳が張っているのだ。つまり赤ん坊がいるのであろう。
そう思っている天馬の目の前で狼は力を入れて息み始めた。出産が始まったのだ。
天馬は他の肉食獣が近づいて来ないか警戒しながら狼の様子を見守っていた。
狼が息み始めてから10分くらい経っただろうか。一匹の白い赤ん坊が産まれた。
狼はどう見ても危ない状態で体もろくに動かせないようであったが、わずかに顔と目を動かし天馬を見つめる。
天馬は狼と目が合うと咄嗟に子狼を抱き上げ、狼の目の前へと差し出した。
狼は動くこともできない状態で舌を出し、力を振り絞って我が子をきれいにしていく。
やがてきれいに舐め終わると再び天馬を見つめる。天馬は子狼を今度は乳の所へ連れていく、子狼は必死にしゃぶりつき母乳を飲んでいった。
子狼が母乳を飲み終えた時には、すでに狼は満足そうな顔で息絶えていた。
天馬は二頭の狼の死体と6匹分のドラゴンスネークの死体をディメンションバッグへと入れると、子狼を抱き上げ眷属化した。
「俺があの狼達の代わりに家族になってやるからな」
そう子狼に語り掛け、
「お前の名前は…シロウ…そう、志狼丸だ!」
「キュ~ン」
「よろしくな、シロウマル!」
こうして天馬に新たな眷属…いや、家族が増えたのだった。
今回天馬の眷属が新たに増えました。
本当は親の狼を二頭とも眷属にして、気が付いたらいつの間にやらもう一頭増えていた、みたいにしようと思いましたが、親の狼は二頭とも死んでしまいました。
子狼改めシロウマルの活躍にご期待ください。
---ステータス---
名前…シロウマル(志狼丸)
年齢…0
種族…幻狼種(ゴールデンフェンリル×シルバリオフェンリル)
称号…天馬の眷属
HP…100
MP…200
筋力…きたいしないでください
防御力…うえにおなじ
速力…いかどうぶん
魔力…なにそれおいしいの?
精神力…わかりません
成長力…がんばります!
運…まだでません
スキル…なく10・あまえる10
加護…じゅうしんのかご
こんな感じです。