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店主は語る

 雨の降る中、貴方は何故傘を差さずに歩いていたのでしょうか?


 いえいえ、喋りたくなければ沈黙で宜しいのです。


 ――ようこそ、忘れられた本屋へ。

 私の名前は……、いえ、名乗るのもおこがましいでしょう。店主と呼んでいただければ、それで結構です。

 さてさて、貴方はこの本の山を見て何を思うでしょうか?

 まとめる時間が欲しい? いいですよ、ゆっくりと悩んでください。

 ……おや、こんなところに砂時計が。丁度良い、引っくり返すとしましょう。


 しかし……、時計とは実に残酷な物です。削られゆく余命を、ありありと見せつける。見たくもない現実を、眼にじわりじわりと焼き付ける。

 秒針の音が、焦燥と狂気を煽り、首を締め付け殺していく。

 耳を塞いでも、それは意味を為さない。


 おやおや……、いつの間にか砂が全て落ちてしまったようですね。

 さて、答えは見つかりましたか?


 実はですね、答えなんて無いんです。


 ――酷く、傷んでいる。それは、腐り果てた林檎のように醜く、臭いは鼻が曲がりそうだ。


 ――所々輝かしい黄金色が剥がれ落ちて、赤褐色の染みが露出している。禍々しい狂喜の感情は、隠し通せなど出来ない。


 ――その本にページは無い。何故なら、全て他人に奪われたからだ。ただ虚しく、表紙だけが残っている。


 全て、正しい。


 彼はね、殻に篭って出てこようとしなかったんです。気付いたときには、――遅かった。

 周りの建物が、自分を潰そうと迫ってくる感覚が襲う。人の喋り声が、無慈悲に心に杭を打ち付ける。彼は耐えきれずに、呆気なく死を選んだ。


 彼女は、愛より金を選んだ。その蠱惑的な輝きは彼女を縛り付けた、でも本人は気付かない。

 多くの男を惑わせ、言葉巧みに毒を飲ませて殺した。そして、何かを恐れるように金を集めたのです。

 貧乏にはなりたくない、餓えたくない。そう考える時点で餓えている。結局、彼女が満たされる事は無かった。

 勿論、今も満たされてなどいない。


 その人は全てを奪われた、何も見ぬままに。生まれることさえも、奪われたんです。


 さてさて、これも何かの縁です。この一冊、買っていきませんか?

 なになに……。内容が全く分からない、説明が欲しい、と。

 残念、私も分からないのですよ。


 ――それに、一番詳しいのは貴方でしょう。

 本当は分かっているのでしょう、この本は貴方を映す鏡だということは?


 認めない、それも良いでしょう。

 では、最後に一つだけ。



 何故、貴方の足元の床は濡れてないんでしょうか?


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