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稲荷様の過ごし方。

作者: 結城夏夏

朝、ゆっくりしすぎたせいで急ぎ足で駅に向かっていた。

駅に着くと大体の人はスマホや携帯に夢中になっている。変わったな、と思った。ここ数年でガラケーはずいぶんと姿を見なくなった。そして携帯の普及率はぐんと上がった。小さな子供がタブレットを使っているのをみるとなんだか複雑な気分になる。良いのか悪いのか、そんな電子機器がはびこる世の中で、呪いやあやかしといったオカルトで非現実的なもの達は存在を忘れられつつあった。人々の暮らしが変わっていくように、あやかしの姿や生活も変化している。呪いの形も。昔は人を襲ったり、怖がらせるためにいろんな姿でいたが、今は自分の身を守るため人とほぼ同じ姿を持っている。

今日もかつて狐の神、稲荷様と呼ばれていたあやかしはせっせと満員電車に乗り込んでいるのだ。


季節は梅雨を超えて夏に向かっていた。乗り込んだ電車には半袖の人が結構多く、クーラーは強めにかかっていた。喋っている人はおらず、みんな自分の世界に入っている。そんな中、先程の稲荷様は周りからチラチラと視線を感じていた。近くの学校の制服の上に真っ赤なパーカーを着てフードもかぶっていたからだ。フードの中からは茶髪、いや金髪に近い髪が見えておりとても目立っていた。不良と勘違いされてもおかしくない。彼女の学生鞄の中には教科書やノートがぎっしりと入っているのだが残念ながら見た目ではそれは伝わらないだろう。

稲荷様は2か月ぐらいこの視線を浴びながら登校しているのだが、慣れる様子もなく隅っこで小さくなっている。

何も稲荷様は目立ちたくてこんな髪色や服装をしているわけじゃあない。髪は地毛なのだがこの髪、黒染めしても全く変わらない。一度正体の知る美容師にやってもらったことがあるが全く変わることはなかった。あの染め終わった時の気まずい空気は今でも忘れない。そしてこの堂々と校則違反しているパーカーにはちゃんと意味がある。時が経ち人間の姿を手に入れたといえど、完璧に人間の形を手に入れたわけではない。狐の神様たちはあやかしの力を強める紅色のものを身にまとって人間の姿を安定させたのだ。しかしこの神様、まだ子供であり、この特別な紅色の服を着ても狐の耳を隠しきることができない。現在、稲荷様の頭にはぴょこんとしたそれが生えている。それを隠すためなら帽子でもいいのだが、動物にとって耳は敏感な場所であるらしく、耳が押さえつけられているのは不快感が半端ないらしい。それでたどり着いたのが締め付けのないパーカーのフードだった。ちょうど耳付きのフードをかぶっているように見える。

毎朝、校門で生活指導の先生に声をかけられて逃げるように教室まで走るのが日課だ。


これは神様という非日常的な存在の日常のお話。


プールから女の子たちの騒ぐ声が聞こえだした頃、稲荷様は保健室に向かって廊下を歩いていた。

この神様、サボリ魔である。

今までこの神様が体育を受けているところは見たことがない、体操服はちゃんと買っているのかも怪しい。

見学者用のレポートだけでも出せばいいものを

不真面目な神様もいたものだ。


「失礼しまーす。一年の嵐山でーす」

「はーい、どうぞー」

「お邪魔しまっす、おっと」


上履きを脱ごうとしてよろける、反射的に両手がでて動物みたいに四つん這いになってしまう。


「どうした、あらしや、ま?・・・具合でも悪いのか?」


保健室の先生が入ってこないのを不思議に思って覗きにくる。

慌てて飛び起きた。


「い、いえ!悪くないです、なんでもないです!」


ていうか保健室に来た生徒に具合悪いのかって聞くのはどうなんだ、まぁ私は悪くないけども!


「そーかそーか、じゃあ今からでもプール行ってこい」


ぎくり、痛いところを突かれてしまった。

えとー、それは、あはは、なんて笑ってごまかそうとしていると先生はため息をついた。


「朝の会議でプール始まったって言われたからな、お前はプールもさぼる気か」


ごめんなさいっ本当は水に入るの好きだから受けたいけど水着だと尻尾まで隠せなくなっちゃう!という心の声は言わずに飲み込んで目を逸らした。


「全くどんな理由があるのか知らねーけど成績どうなっても責任とらねーぞー」


先生はなんだかんだ言ってもこうやって毎回保健室に入れてくれる。

私はぱぁーと笑顔になってありがとう!って言って中に入った。


「こら、ありがとうございますくらいは言え!」


そう怒りながらいつも小さなお菓子を一つ渡してくれるのだ。

私が言えたことじゃないがこの先生、生徒に優しすぎだと思う。


「・・・・・なあその「脱ぎませんよ」・・・」


そしてお菓子を渡された後は決まってそのパーカーを脱げと言われるのだ。

週三回のペースで通っているのだ、そろそろ慣れる。


「せめて帽子だけでも外せよー」

「いーやーでーすー」


あああ、ごめんなさい私も行儀悪いと思っていますけど耳があるんですっ

心の中ではふてこい態度にすごく謝っているのだが実際には黙って英語の教科書を広げる。先生も諦めて書類に目を落とした。私は先生がこっちを見てないのを確かめて先生を盗み見る。

この人は保健室の先生だけど白衣を着ているところを見たことがない、いっつも黒いズボンに黒いベルトだ。上は白だったり黒だったりシャツを着てくる。色素が薄めで髪は茶色っぽい。書類仕事の時は眼鏡をかけている。一度登校中にサングラスをかけているのを見たことあるけどちょうどその日は全身真っ黒だったからパッと見、保健室の先生とは到底思えなかった。


キーンコーンカーンコーン


チャイムが響く。

「嵐山-おきろーチャーイームー」

せんせーまだ眠いんですよーあと五分だけ・・・

こらっまたねんな!起きろ!

寝てしまったのか私、と思いつつ瞼を上げられずにいるとなんだか頭がスースーする・・・頭が・・頭!?急いでフードを押さえて飛び起きた

いい今フード脱げてなかった!?


「せ、せせせんせ!?いま、あた、頭」

「いや、どもりすぎだろ、頭がどうかしたか?」


先生は顔色一つ変えずに首をかしげている

あれ、この反応はみ、見られていない・・?


「い、いえ!なんでもないんです!頭は正常です!!」

「そーかそーか、ならさっさと次の授業行って来い」



いつもならこの言い方に文句の一つでもいってやりたいところだが今日は大急ぎで荷物をつめてその場を後にした。


「・・・付け根ってどうなってんだろ」


男はつぶやいて仕事に戻った。

読んでくれてありがとうございます、初投稿となります。

結城夏夏です、なつなつではなくなつかです(笑)

これからも精進していきますので活動を見守っていただければ幸いです。


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