5-1、創生
「あ、そろそろ受付だ」
列が一気に動き、前を向き直ればいつの間にか列の最前がすぐそばになっていた。エルト達の後ろにはまだまだ途切れることなく受験生が連なっている。
「こんなにいっぱい受ける人がいるんだねぇ」
辺りを見渡しながらエルトが関心したようにつぶやく。
「私の通っていた基礎学校の先生が言うには、毎年全国から四、五千人の人が集まるらしいよ」
「そんなに!?」
エンディアの全住人足しても到底及ばない人数に、呆然と周囲を見遣る。
「それでも、適性が一定以上で生命体を創れるのはその内のほんの数百人だけなんだって」
「数百人、か」
つまり大部分の人は第一の試験で不合格になってしまうということだ。
「難しい試験なんだね」
「まーこればっかりは努力で何とかなる問題でもないし」
あ、ほら、次だよ!苦笑気味にエルトに同意したメイシャが声を上げる。いよいよ、試験が始まるのか、とエルトの手にも力が入った。
「次の者」
「はい!」
生術師の制服を着た係官に呼ばれてまずはメイシャが並んだ机の開いたスペースに進んでいく。すぐにエルトも呼ばれて、メイシャと少し離れた机に向かい、係官と対面した。
「ほう、君は生命体連れか」
「はい、僕の名前はエルト・シュプルング。この子が僕の生命体のティーアです」
「ふむ。エルト君だね。出身は?」
エンディアです。住所は―――
目の前に来たエルトの頭上のティーアを見つけて満足げに頷いた係官の質問に聞かれるがままに答えていく。ティーアがいるからか好意的な雰囲気で、緊張していたエルトは密かにほっとしていた。
「では、これで受験書類の完成だ。この紙を持ってまずは第一試験の会場に入りなさい。試験の詳しい説明は会場入り口の係官が行うが、まあ君には必要ないだろうね。立派な生命体を連れているようだし、第一試験会場は通過するだけで問題なかろう。会場の出口についたら、係官にこの紙を渡すように」
「あ、ありがとうございます!」
「またいつか、生術師として会えるのを楽しみにしている。勉学に励みたまえ」
厳つい顔をした係官がわずかながら顔を綻ばせてエルトに頷いて見せる。エルトはもう一度お礼を言うと、お辞儀をして受け取った紙を片手に示された、大きな建物の、やはり巨大な入り口を目指す。
メイシャも受付が終わったのか少し離れたところで待っていてくれていた。
「待っててくれてありがとう」
「ううん。さ、じゃあ行きましょうか」
第一の試験へ!
緊張した顔の受験生たちに交じってエルトとメイシャも歩き出す。すでに生命体を連れている二人と違って、他の受験生はこれからの試験で生命体を創らなければならない。創れなければそこで試験終了だ。
「ねえ、第一の試験が終わったらその後は?」
「えっと、確か第二の試験があって、そこで力を測られるの。その結果で行く学校が決まるんだって」
「ということは、生命体を連れていれば生術学校には入れるってことなんだ」
「そういうことね。まあそれが難しいんだけど、私たちはフライングしちゃってるし」
「あはは、確かにフライングだね」
エルトはリートを、メイシャがティーアを見て、二人で笑う。その緊張感の無さに、周囲の受験生に少し睨まれてしまった。適性の高い人の中にはエルト達が生命体を連れているのに気付いて舌打ちしていく人もいる。
(みんな一生懸命だ)
少しの気まずさから視線を上に向け、見たことのないほど高い天井や、そこに施された彫刻、描かれた絵画などの豪華な建物にエルトが気を取られているうちに、人の集まる扉の前に到着した。厳しい顔をした係官が数人その扉の前に立ち、受験生を並ばせている。
「ここが、第一試験会場?」
「そうみたい」
緊迫感漂う張りつめた空気にエルトとメイシャの声も自然と小さくなる。
「えー。受験生の諸君、これから第一試験の説明を開始する」
扉前にかなりの受験生が集まったところで、一度に試験を受けられる人数に限りがあるらしく背後の扉がしまる。微かに聞こえていた話し声も係官が話し始めると同時にピタリと止まり、辺りが静寂に包まれた。
「この説明後、諸君の前にある扉が開く。中に入ると外界ではありえない密度に生力が満ちた部屋がある。もう知っていることとは思うが諸君に課された課題は、その部屋の中で自身の力で生力を集め、自身の生命体を創ることである」
ごくり、と誰ともなく息を飲む音が聞こえてくる。
「制限時間は半刻。生命体が出来たものは入った反対側にある扉前にいる係官の元にむかうように。第二の試験への案内があるだろう。もちろん時間内に生命体を創れなければ試験失格となり、部屋から退出してもらうことになる」
以上だが、質問があるものは?
見るからに強そうな生術師のおじさんの声に、手をあげる者も声を出す者もいなかった。
そんな受験生を見渡して一つ頷くと、強面係官が左右の若い係官に指示を出す。
「それではこれより国立生術学校、第一試験を開始する。諸君の検討を祈る」
この声と同時に重厚な扉が開いていく。係官が退くと同時に受験生が入り口に殺到した。