番外編「蒼い華」 あたしの未来。俺達の未来。
番外編 蒼い華
『今回のお話で終了となります。今まで御愛読くださりました皆様、誠に有難うございました。
今回は少し長めなお話となっております。
綺流社君と鏡夜君。正世君と綺莉香ちゃん。そして、玉倉さん。
五人のある日の日常を、少しだけ。』by作者
『あたしの未来。俺達の未来。』Dear…
『俺達の未来。』Dear…
抜けるような青空が、何処までも広がっていく。
すっかり俺達の居場所へとなっている屋上に、爽やかな風が吹く。
「もう春だね、正世。」
綺莉香の、柔らかくて透明な声が青空へ吸い込まれるように聴こえてくる。
「…うん。」
しばらく二人で、ただぼんやりと何処までも続く青空を眺めた。
「…この間」
不意に綺莉香が口を開く。
「…行ってみたんだ、図書室。」
思いがけない言葉に思わず目を見開く。
「…え」
いつも屋上で過ごしている綺莉香が、『図書室へ行った』…?
綺莉香が柔らかく微笑んで
「正世が頑張っているから。…私も、少しずつ頑張りたくて…。」
すると、ほんの少し目を伏せて
「色々な人に見られちゃった。…もう少し、だね。」
『好奇の視線』。
きっと普段、校内に来ることのない綺莉香が来たことに驚いたのだろう。
…でも。
「頑張らなくて、良いよ。」
気付いたら、俺はそう呟いていた。
「頑張らなくて、良いよ。…だって、綺莉香はもう充分頑張ってきたから。」
青空を見上げながら、大切な君に伝えた。
俺の気持ちを。言葉を、君に。
「『信じることだけが、正しい訳じゃない』から。
…それなら、俺は綺莉香の傍にずっと居るよ。
綺莉香が辛いとき、寂しいとき、ずっと。」
隣に座る綺莉香が、泣いていることが伝わる。
肩を震わせて。子供みたいに泣きじゃくって。
―もしも、神様が居るのなら。
俺は姿も、形も見えない『誰か』へ呟く。
大きな幸せなんて、俺達は望んでいないから。
だから―どうか、隣に座る大切な彼女を、どうか泣かせないで。
「…正世。」
不意に、綺莉香の澄んだ声が聴こえた。
「…ん?」
綺莉香が、真っ直ぐ俺を見つめて、言った。
「…ありがとう。」
澄みきった青空の下、凛とした声で綺莉香が言った。
―いつか、君が幸せを見付けられたなら。
君と笑い合えたなら。
俺は、隣で微笑む綺莉香へ、祈った。
―Dear You。
君が幸せであることを、俺はこれからも祈り続けます。
二人で手を繋ぎ、何処までも広がる青空を見つめた。
俺達の未来は、まだ始まったばかりだ。
『俺達の未来。』 END
『君と俺の居る未来。』Dear…
「鏡夜!帰ろう!!」
俺のクラスへと迎えに来てくれた綺流社の声が、不意に聴こえた。
「ああ。」
俺は鞄を取り、急いで綺流社のもとへ駆け寄る。
暖かいオレンジ色の夕暮れに染まる校舎の中を、ただ二人で肩を並べて歩く。
コツン、と俺と綺流社の手が軽くぶつかる。
「うわあっ、ご、ごめんね、鏡夜っ!」
そう言うと、綺流社がすすっと俺の隣から離れていく。
「…何をしてるんだ、綺流社?」
離れた距離に、納得のいかない俺がぐっと距離をつめると、距離に驚いた綺流社が思いきり転ぶ。
「うわあっ!」
―ゴンッ!
…嫌な音がした。
「…ふええ、ぐすっ、ぐすっ…」
「…大丈夫か?」
ぶつけた箇所を撫でると、綺流社の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
赤く染まるその頬が夕焼けの所為ではないことくらい、俺にも解っているけれど。
…それでも、気付かないフリをする。
「き、鏡夜…」
「…ん?」
俺が綺流社を見下ろしながら、会話していると
―ぐいっ
俺のネクタイが綺流社に引っ張られて、バランスを崩した、その時。
―ちゅっ。
可愛らしい音がして、思わず目を見開く。
「きる…と?」
思考が追い付かない。
綺流社が?俺に?何故?
すると、綺流社が真っ赤な顔で俺を見上げる。
「…大好きだよ、鏡夜。」
そう言った綺流社の声が、ほんの少し震えていた。
…だから―
「…俺の方が、綺流社の何倍も綺流社の事が好きだ。」
照れ隠しに、なんてことのないいつもの言葉。
…顔が熱いのは、夕焼けの所為じゃない。
「違うよ!僕だもんっ!」
「俺だ。」
「僕!」
いつものように言い合って、ふと頬が緩む。
そのまま綺流社の腕をひくと、とんっ、と軽い衝撃。
俺の腕に、綺流社の肩が軽くぶつかる。
「…俺も大好きだよ、綺流社。」
すると、綺流社がぎゅっと俺の腕を握って呟く。
「…いつもありがとう、鏡夜。」
そう言うと、照れくさくなったのか綺流社が走り出す。
「さっ、先行ってるねっ!」
いつものように、柔らかい笑顔で。
「…こちらこそ、ありがとう。…綺流社。」
俺の小さな呟きは、夕焼けの空へと吸い込まれて消えていった。
君と俺の居る未来は、交差しているのだろうか。
君と同じ時間を刻む未来があるのか、ほんの少し、不安になる。
…でも。
「…信じてみるよ、綺流社。」
俺と君が居る『未来』を。明日を。
だって今、君と俺は―
「鏡夜~?」
同じ時を、刻んでいるのだから。
『君と俺の居る未来。』 END
『あたしの未来。』Dear…
何処までも、平行線上に続いていく青空を眺めながら、溜息を吐く。
屋上で、二人で仲良くしているのであろう彼等の姿を想像しただけで、あたしの頭の中がぐしゃぐしゃになって、心の中が、曇る。
「はあ…。」
―溜息は、幸せが逃げるぞ。
頭の中に、笑いを含んだ昔の鏡夜の声が響いた。
あたしが鏡夜を好きな理由。
「…忘れられれば、良いんだけどなあ…。」
いつものあたしらしくない、そんな暗い言葉を吐き出す。
「やっぱり、無理だよね…。そんなの、さ。」
頭上の青空は、こんなにも澄んでいるのに。
「…はあ…」
あまりにも暗い、あたしの心と可笑しい位対照的で。
「…中庭、行こ…。」
暗い気分のまま、あたしは校内の中庭へと足を運んだ。
本当は、屋上へ行きたかったけれど。
あの二人の居る屋上へは、何となく行き辛くて。
中庭へと続く、少し汚れた廊下を歩く。
きゅっ、きゅっと楽しげに鳴る廊下に、ほんの少し元気づけられて。
廊下を歩きながら、初めて鏡夜と出逢った日の事を思い出していた―
初めて出逢ったのは、話したのは一年生の最初の頃。
あたしの落としたハンカチを拾ってくれた、なんてそんな乙女チックなシチュエーションで、鏡夜の声に、姿に一目惚れしたんだ。
―その瞬間から、恋に落ちた。
あたしは人目につかない中庭まで歩くと、声を殺してその場で、泣いた。
「~ッ!」
制服のスカートに、涙が零れ落ちて、滲む。
なんで、あたしは泣いてるんだろう。
そう思うほど、涙が溢れて止まらない。
「…忘れたくないよ…。」
思わず呟いた小さな言葉。
忘れたくないよ。大好きだもの。
あんなに、大好きだったんだよ?
鏡夜以上に好きになれる人なんて―きっと、居ないよ…。
苦しくて、辛い。
涙が溢れて、止まらない。
「…っ、ひいっく、うう…っ」
どうして、あたしは泣いているんだろう。
これは、とても狡いって解ってる。
泣いたって振り向いてくれないことくらい、あたしが一番解ってる。
…でも。
「…大好き、だよ。鏡夜…。」
呟いた想いが届くことは、無くて。
それが余計に―辛い。
頬を伝って、涙が零れて落ちる。
スカートに丸いシミをいくつも作って…。
流した涙の分、大好きな人を忘れられるっていうのは嘘、なのかもしれないってほんの少し思って。
しばらくずっと、一人で泣いて、泣いて、泣き疲れて、思わず青空を見つめた。
「…綺麗。」
何処までも青く澄んだ空が、何処までも広がっていて…。
―俺は、青空が一番好きだ。
不意に、君が言っていた言葉を思い出して。
「…それなら。」
あたしは、君の一番好きなこの青空を、護りたいと思った。
君の幸せを。君の笑顔を。
「…大好きだよ、鏡夜。」
あたしはこれからもずっと。
貴方の事を好きで居るから。
あたしは青空を見上げながら、祈った。
あたしの大切な貴方へ、あたしからの想いを。
「これから先も、ずっと大好きだよ。鏡夜。」
あたしの想いは、君へと届いたかなあ…?
…暫くは、沢山泣くかもしれないけれど。
それでも、あたしは。
誰よりも、貴方の幸せを祈っているね。
―ありがとう、鏡夜。
あたしは澄んだ青空へ笑いかけた。
あたしの未来が、変わる音がした―
以上で終了となります。
沢山の皆様に支えられて、この物語を完結させる事が出来ました。
皆様には、感謝してもしきれぬくらい、感謝しております。
皆様のお陰で、無事『蒼い華』を完結させる事が出来ました。
この場を借りて、お礼申し上げます。
今まで御愛読くださりました皆様、誠に有難うございました。
いつかお目にかかれる日が御座いましたら、宜しくお願い致します。
改めまして、誠に有難うございました。




