一
世界には最初、1つの国があった。
その国の領土とは即ち世界であったが、たった一つの王によって、山を越えた先、海で隔てられた地でさえ等しく統治されていた。貧富の差こそあれど餓える者も虐げられる者も在りはしない。泰然とした平和がそこにあった。
しかし同時に、其処には"変化"がなかった。それは即ち水が流れないのと同義である。変化がなければ水―人は腐る。腐敗はやがて国中へと広がり、結果として貴族の反乱という形で現れた。火種は国の中心から瞬く間に世界へ広がり、国を縦断して2つの国を創った。
後のリュネブルク王国とヴァロア王国である。
その後の2国は互いに正義を掲げ、争いあう。
削られる大地。減り続ける国庫。次々と死んで行く人、人、人。
絶え間なく続く戦いにより消耗していく2国は端から徐々に崩壊し、やがて数多の小国が生まれた。しかし、例え自国が崩壊しようと彼等が止まることはない。奪われた国民の血を相手の血で購えるまでは。
今も続く争いの名はリュネロア統一戦争。
始祖の血族同士が己の正義を掲げて殺し合う、"聖戦"である。
†迷子になった彼女の選択†
初めは1つ。
数年後には2つ目が、キラキラ光るそれが転がり込んで、相変わらず目がチカチカするくらい綺麗なそれに、私の視線は釘付け。
けれど、初めにあった1つは何処かに無くしてしまったから、結局1つ。
それだって、恐る恐る手を伸ばしては引っ込めて、へっぴり腰に指先で摘まんでは壊さない様そろそろ下ろして、ろくに触われなくて、まるで小さな子供みたいで。
そんなあたしを、上手に出来ないあたしを、君は仕方ないなあって笑うんだ。
それにふて腐れたあたしは顔をしかめてそっぽ向くけど、本当はとっても暖かくて。込み上げる熱に戸惑いを隠せず泣きそうで。嘘みたいに、愛しくて。
でもやっぱり、伸ばせる手は持ってなかった。
こんな情けない私だけど、2つ3つと増えたんだ。
どんどん、どんどん。目まぐるしく目が回りそうな程に。
溢れそうなくらい貯まったそれは、気付けば人のそれより沢山で、なのに、わざわざ洗った私の手は、人のそれより小さくて。支えるのも精一杯で。
重ねてくれるあなたの手が無かったら、とっくの昔に全部落としていただろう。
でももう、ない。この指先から落ちた1つは見えなくなった。
其々光を発する中で、特に輝いていたそれは、手も伸ばせぬ愚か者の心に存在を刻み付けて、消えてしまった。
それは私の絵具。それは私の光。私の世界は急速に色を失う。
他では代わりにならなかった。
だから、覚悟を決めよう。
今まで集めた大切な全てを投げ棄てて
見会うようにと洗い流した手を染めて
爪先から見えない指先まで張り詰めて
例えお前に触れた先から朽ち果てるのだとしても
あの時伸ばせなかった手を伸ばそう
それこそ此の身が尽きる、その時まで
ずっと