ナンパ
少しでも読み易くなるようにと、不要な行間が多数あります。読みにくくて、すいません。
私は普段から、自分には他とは違う何かがあると確信してきた。整った容姿と類まれなる運動神経、そして学力。私は俗に言う天才である。
けれど、そんな私だが生まれてから一度もモテたことがない。
理由は明白である。私の常人には到底理解できないであろう人格の所為である。私は一切悪くない。私ではない、周囲の女子が悪いはずだ。
と、現実逃避もそろそろ終わりにしよう。私は現在、とある不思議現象に立ち会っていた。その不思議現象とは――超能力である。
「ふむ、とうとう私も目覚めたか! これこそ私の力! 女子からモテモテさ」
事件が起きたのは、今朝だった。
まず私は爽やかに起床した。そして、いもしない妄想の妹が起こしに来るシチュエーションを空想して、一人楽しんだ。そうこうして、ようやく布団から脱出したのは八時三十分。遅刻である。
慌てて私は鞄を用意し、学校へと向かった。
学校へと駆けている最中、私はおそらく学校で待ち受けているであろうご褒美を想像して興奮していた。もちろん、ご褒美とは女子からの罵倒である。
と、そこで私は気が付いてしまう。慌てていた所為か、私は学校に持っていくべきノートを家に忘れていたのだ。家に帰れば遅刻してしまう、学校に向かえば先生に怒られてしまう。私は思った。
時間よ、止まれ!
もちろん、時間は止まらない。しかし、諦めてはそこで試合終了です。私は百円ショップで購入した腕時計を穴が開くほど見つめつつ、心の中で呟いた。時間よ、止まれ。
もちろん、時間は止まらない。けれど、代わりにとある現象が発生したのだ。
何と、私の手の中にはノートが握られていたのだ。私が家に忘れた筈のノートである。この汚い字、間違いなく私のものである。
そう、これこそが私が遭遇した不思議現象。ワープである。
「そこのお嬢さん。猫のように可憐なお嬢さん! 結婚を前提に、きみの両親に挨拶に行きたいのだけれど、どうかな?」
「ずっと黙っていてくれるなら、両親に挨拶に来なさい」
学校に無事到着し、自分の席に着いたと同時、私は目に付いた女子に告白した。何と、彼女は許可してくれた。黙っている代わりに、結婚してくれるそうだ。
「……」
「ちょ、ちょっと! ごめんごめん、冗談だから。鍵崎くん」
私は無言で彼女の手をとったのだが、慌てて払われた。まあ分かっている。いつものことだ。
相手の女子は半分笑いながら、
「本当に鍵崎くんはブレないね。てか、本当に女の子なら誰でもいいの? さっきの話、黙っていれば鍵崎くんモテるのに」
「ふ、分かっているとも。けれども、美しい女子の前で黙れるほど、私の人格は完成されていないのさ」
「ふふ。じゃあ、授業始まるから。またね」
「うむ。では、別れの挨拶として、きみの下着の色を当てて見せよう」
「黙れ、変態!」
脛に蹴りこみを入れられる。今日二度目の女子との接触である。真、興奮してまいりました。
と、ここで無慈悲にもチャイムが鳴り響いた。あと、数秒会話できていれば、相手の女子は落ちていただろうに。何と間の悪いチャイムだろうか。
私は大人しく席に着いた。そして、何となく腕を見てみると、腕時計がなくなっていた。百円ショップのものなので、無くなっても何ら悔しくない。
だが、いつなくしたのだろうか。そんなことを考えつつ、私は授業を受けた。
もうじき、冬休みが始まるので今日の授業は午前中で終了した。ゆとり万歳。で、友達の少ない私は学校が終わると同時に帰宅する。
ということで、学校が終わって三十分後、私は当然のように家にいた。そうしてとあることに気がつく。
「どうしてこんなところに腕時計があるのだろう?」
私が無くしたと思っていた腕時計があったのだ。それも家の中に、だ。乱雑に床の上に放置された腕時計。この安っぽさ、間違いなく私のものである。
「やや、もしや、これは……」
私は腕時計を持って、小さく呟いてみる。
「ノートよ、来い」
腕時計が消えて、ノートが現れた。
「なん……だと?」
若干パニックになりつつも、腕時計を探す。腕時計は、当然のように鞄の中に入っていた。
ミラクルである。これは超能力である。
もちろん、多少は驚いてしまったが、私は如何なる時でも落ち着いた紳士なのである。この程度のことで慌てる私ではない。
「どどどどどど、どうしよう! 何これ、私って」
だから、この慌てている少年は私ではない。私ではなく、私の裏人格であるジェームスンである。だから、悪いのは全てジェームスンだ。全国のジェームスンさんは反省していただきたい。
「落ち着け、私。クールになれ!」
自分を怒鳴りつけて、私は冷静になった。この切り替えの速さ、素晴らしい。女子の諸君は、素晴らしすぎる私に惚れてもよろしい。
私はどうやら、超能力を使えるようだ。だとしたら、考えることは一つである。
「さて、この力はどういうエロイことができるのかな」
私はあくまで思春期の男子なのである。全世界の女子は、私を助けてくれてよろしい。
一日考えた挙句、正義の味方ごっこをすることにした。それ以外の考えが思いつかなかったのだ。
私の考えはこうだ。女子が困っている。私助ける。きゃー、素敵、好き、抱いて! よろこんで。
「ふふふ、完璧だ。完璧なのだよ!」
幸いなことに、今日は休日である。今動かずに、いつ動く。私は困っている女子を探して、街を歩き始めた。もちろん、こんな人の不幸を探すようなやり方は不本意である。けれども、これ以外にこの力の使い方が分からなかった。
家で色々と試してみたところ、私の能力は素晴らしいものだということが証明された。
私の能力。私が一度触れたもの同士の位置を交換する。それが我が力の正体である。交換する物の大きさは問わず、腕時計とノート、電池と机など同士も交換できる。
最強だ。最強すぎる。今ならば、神にでも勝てる。
興奮を抑えきれず、私は眼深に被ったキャスケット帽子を抑えつけた。さあ、すぐに行くから、待っていなさい、可愛い女の子ちゃん。
現在、歩いている町の名前は朱蔵町。この土地は比較的新しい土地であり、若者がお遊び感覚で犯罪的行為をしている可能性が高い。女の子にモテる為はもちろん、普通に人さまの迷惑になる奴は許せない。私自身を含めて。ということで、張り切って、女の子を救おう。
複雑に入り組んだ道は、一般人からは死角になる場所が多い。普通に歩いているだけでは、陰で行われる犯罪行為に気づくこともできないだろう。
だが、私は違う。違うのだよ、一般人とは。
力を持った厨二病程怖いものはない。
自信満々に、朱蔵町を闊歩する。今は午前九時。流石に一日中探せば、事件の一つや二つ見つけられるだろう。もし仮に事件を見つけられなくとも、それはこの町が平和だということで喜ばしいことだ。
「できれば、事件が無いほうがいいなあ」
実のところ、事件が無いほうがいいと思っている。私には友達が少ないから、休日は暇で仕方がないのだ。今回も事件を解決する為、というよりも暇潰しの側面が大きい。今日だって、実はただの散歩感覚でこの町にきていた。
そもそも、事件なんてそうそうある筈がないだろう。
「や、やめてください。離してください! 困ります」
「いいじゃねえかよ。暇だよな、暇暇。俺らと遊ぼうぜ? ささ」
強引なナンパに遭遇した。私もよく、ナンパする。けれども、ここまで酷くはない。そもそも、私はよく知った人以外はナンパできないチキン野郎だ。
チャラチャラした男達は三人いる。そのうちの一人が女の子の腕を無理につかんで、何処かへ連れ去ろうとしていた。
女の子は本気で嫌そうな顔をしていたが、あまり本気で抵抗すると暴力をふるわれる可能性があることを知って、最小限の抵抗に抑えていた。チャラ男、A、B、Cはそれに気を良くして、強引に連れ去る魂胆だ。
場所は入り組んだ路地裏。私以外にこのナンパに気が付いている人はいないだろう。となると、ここは紳士として私が行かなくてはならない。
一歩踏み出す。
「待ちたまえよ、諸君。無理やりはよくない」
「あん? 誰だよ、お前」
「その女子の彼氏さ!」
もちろん、未来のである。現在の鍵崎文人の恋愛遍歴は零である。彼女いない歴と年齢がイコールの関係で結ばれている。今こそ、イコールの縛りをほどくとき。
「誰ですか、貴方は?」
女子が半目でこちらを見てくる。女子を拘束していた男達が、私の登場に動揺して力を緩めたのだろう。彼女には若干余裕が生まれていた。
「はあ? お前、この女の知り合いじゃねえのかよ? マジで誰?」
「私が誰だなんていうこと、どうでもいいだろう? 名前は鍵崎文人、以後お見知りおきをお嬢さん!」
「俺ら無視してんなよ!」
「違うね。私が無視しているのは、きみだけさ」
チャラ男Aが露骨に激怒した。もう少し、感情を隠すのが紳士だと思う。まあ私もよく鼻の下を伸ばしているから、人のことは言えない。
チャラ男Aは密かに拳を堅く握りしめて、私へと向かってくる。強い震脚と同時、チャラ男Aのパンチが飛んできた。それに対し、私の行動は単純だった。
自らの顔を守るように腕を構える。そして、
「いってええ!」
チャラ男Aが泣き叫ぶ。私は片手にフライパンを構えていた。能力により、腕時計とフライパンを入れ替えたのだ。結果、チャラ男Aは無遠慮に全力でフライパンに拳を当てたこととなる。痛いだろう。
「どこからそれを出した!」
チャラ男Bである。言葉と同時、Bも駆けてくる。私が持つフライパンを警戒し、僅かながら距離を詰め方が慎重だ。向かってこないならば、こちらにも考えがある。
私は両手を大きく広げて、胸を張って口を開いた。
「まあまあ、落ち着きたまえよ。私は別にきみ達に危害を加えるつもりは――」
チャラ男Bの腰の入った拳が、私の顔面に突き刺さる。一切の遠慮がない拳の破壊力は、私を数メートル吹き飛ばしたり吹き飛ばさなかったり。ともかく、後ろへと飛ばされた。
鼻に違和感を覚えて、手をやってみると、血がドクドクと流れていた。やはり殴られたようだ。
「人が話している時に、暴力とは!」
「うるせえ!」
向かってくるチャラ男Bに対して、こちらはフライパンを振りかぶる。フライパンの殺傷能力たるや、一発食らえば即死である。危ない。という訳で、こちらも色々と力を加減しないといけない。
だが、私の心配をよそに、チャラ男Bは、
「そんなの当たらねえよ」
あっさりとフライパンを回避した。私の大振りな一撃は、さぞかしかわし易かっただろう。彼はフライパンの脇を抜け、新たな一撃を繰り出してくる。拳がまたこちらの顔にめり込んだ。
「あう」
顔を抑えて、私はその場に蹲った。フライパンはもうすでに手放していた。そのフライパンをチャラ男Bが拾い上げる。
「死ね」
冗談ではなく、本気の顔で彼はフライパンを振り上げた。そして、振り下ろす。思わず、私は目を瞑ってしまった。
パシン、という間の抜けた音が路地裏に響いた。
「何だ、これ? ハリセン?」
「その通り!」
私の能力は物を交換すること。相手の武器ですら、触ってしまえばこちらのもの。フライパンをハリセンに換えることなど、造作もない。
何が起こっているか理解できていないチャラ男Bの腕を掴む。殴られた分は返さないといけない。という訳で、
「ごめん!」
全身全霊の拳をチャラ男Bに叩きこむ。勢い余って、地面を転がっていくチャラ男B。けれども、私は容赦しなかった。一発殴られたら、二発殴らないと気が済まない。二回殴られたのだから、四回だ。チャラ男Bが落としたハリセンを拾い上げて、私はそれで三回チャラ男Bを叩いた。満足する。
さて、敵はあと一人。ここまで、手を出してこなかった所をみると、相手はかなりの紳士である。紳士同士の対決という訳である。腕が鳴る。
と思い、敵に視線を移してみると。
そこにはボロボロになった男がいた。私が倒すべき、最後の敵の筈だが。彼はもうすでに満身創痍だった。瞳には涙が溢れて、服は所々が破けている。どうしたのだろうか。
思考してみよう。相手は三人いた筈である。そのうち二人は既に倒した。一人は拳を抱えて悶えて、もう一人は地面を転がっている。では、最後の一人に視線を移してみよう。泣いている。うん、ボロボロだ。
「弱いですね、貴方」
「え?」
話しかけてきたのは、無理なナンパをされていた少女だ。ナンパされるだけあって、かなり可愛い。好みである。
彼女は静かに、自らの服に付いた埃を音を立てて払っていた。優雅な仕草ではあるが、どこか荒々しいものを感じる。
「それに余計なことをしてくれましたね。貴方が来なければ、私が一人で終わらせていたというのに。倒れた人に追い打ちをかけるほど、私も非道ではありません。ですから、もうこれ以上この恥知らずな男達に制裁を加えることができないじゃないですか」
「い、いや、そう言われても……」
「暴力を振るう人は……嫌いです。では、これから家に帰って栞を作りますので、さようなら」
「怪我とかしていないか?」
「別に、私は怪我などしていませんが」
「そうか、よかった。さようなら」
「……貴方、助けた女子にこんなこと言われて、悔しくはないのですか? 自分の好意を無下にされて、私をうざったく思わないのですか?」
「きみは何か勘違いをしているね。私にとって、美少女からの罵倒とは――屈辱ではない。美少女と会話できる、これだけで私は満たされるのだよ」
「変態ですね」
「ふ。変態に変態といっても、それは罵倒ではないのだよ。いうなれば、きみは人間に対して人間! そう叫んでいるだけなのさ」
「面白い」
それだけ言って、彼女はこちらに冷たい視線を投げかけてくる。私はその視線を真正面から、堂々と受けていく。ふ、と彼女は破顔して、
「さようなら」
ペコリとお辞儀して、去って行った。
三人のチャラ男たちを介抱した。彼らは私にお礼を言うとそそくさと消えていった。何ていう恩知らずなチャラ男達だろうか。
と、ここで私は本来の目的を思い出した。私の目的――モテモテ生活。しかし、ついつい本来の目的を見失っていた。男を介抱している暇はなかった。
うな垂れて、あの少女について思考する。作戦通りにいかなかった。考えが浅はかだったと言えば、確かにその通りである。しかし、しかしだ。
あの少女には多くの違和感を覚えた。まず私の能力を見たというのに、まったく驚愕していなかった。それに普通の女の子がチャラ男を瞬殺できるものだろうか。
彼女に対する謎は深まるばかり。我が煩悩多き頭脳は、彼女のことでいっぱいになった。彼女は実にかわいらしかった。短く切り揃えられたショートヘア、視線だけで人を殺せそうなほど冷たい目付き、見惚れてしまうほどのスタイル。どれをとっても、一流の女の子であった。
だからこそ、惜しい。私の作戦――『きゃー、鍵崎くん素敵!』作戦が失敗に終わるとは。あと少しだったというのに。
悔しいが、今日はここで諦めるとしよう。私も数発殴られて、今日はもう疲れた。