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脱走ゴーレムは働きたくない!  作者: 173号機


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第9話 ロイが見たもの

 う、ん……騒がしい。

 目を開けると檻に閉じ込められていた。隣には全裸で手足を拘束されて震えるオルがいる。ついさっきまで、俺たちは坑道へ続く石扉を開けようとしていたのに、まったく状況がわからなかった。


「さてさて、残る商品はあと一つ!」


 聞き覚えのある声と台詞に飛び起きる。が、俺も全裸で手足を拘束されていたらしく、芋虫のように転がってしまった。


「起きたか。お前も運が悪かったな」


 檻の外にはオホー商会の金庫番、顔に大きな傷のあるヘンズの親っさんが立っていて、俺たちが売り飛ばされたのだと言う。


「まさかお前らが希少種族だったとはな」


 親っさんが俺の下半身に視線をやり下卑た笑みを浮かべる。気色悪い……はっ、イコルアがいない。


「おい、もう一人いたはずだ!」


 まさか落札主の元へ送られた後なのか!?


「もう一人ぃ? お前らは持ち込まれたときから二人だったぜ」


 親っさんは言いながら檻の乗った台車を押し始めた。


「さぁ、ご覧下さい! なんとクォーターエルフとシロウミウシ族の義兄弟です!」


 司会のタイミングはバッチリだった。俺たち(商品)の紹介と共にステージへ出される。俺たちに注がれる視線とどよめきがあまりにも不快で吐き気がする。


「あ、兄貴ぃ……」


 オルは涙目で、すがるように俺を見てくる。当たり前だ。ここで落札された者は誰にも知られることなく社会の闇に葬られてしまう。何としても逃げ出さなければ……だが、こんな格好ではどうすることもできない。

 司会のキッシュナーに助けてくれと叫んでも無駄だろう。普段は良いやつだが、ステージ上のこいつはオークション完遂だけを考えている。


「ではガルベール金貨1200枚から!」


 キッシュナーのかけ声で競りが始まってしまった。

 明るいステージ上にもかかわらず、次々と入札していくやつらの顔がハッキリ見える。愉快そうに大金を提示しやがって殺してやりたくなる。中には勃起させろとか二人でおっ始めさせろなんて言う輩までいやがる。


「おおっ、71番様がガルベール金貨8万枚!! ガルベール8万枚です!!」


 俺が一生かかっても稼げない金額を容易く提示されて、屈辱と惨痛で死を選びたくなる。


「他にいらっしゃいませんか!? いらっしゃらなければ――」


 再びオルを見れば、真っ青になって涙を流していた。俺と同じくなすすべ無しと悟っているのだ。

 途端にぐらっと視界が揺れたような錯覚に陥る。

 ああ、これが絶望か。

 20歳でようやく自由になってオルとも出会えたのに、また誰かの所有物に……イコルアも似たような気持ちだったんだろうな。

 今さらながらイコルアを売り飛ばしたことを後悔する。馬鹿丸出しで世間知らずだが良いやつだった。こんな世界に引っ張りこんで悪かったなとつくづく思う。


「では、ガルベール8万枚で71番様のらくさ――」


 俺たちを落札するのはあのジジイか。おっ始めろとか言っていたやつだ。変態臭がプンプンしやがる。いつぶりだろうか、また(・・)視界から色が失われていく――その時だった。


「はいはいは~い!! オルゲルタ金貨8万!!」


 会場中に馬鹿丸出しの声が響き渡った。

 ガバッと顔をあげると、客席の上で凄まじい貴族感を放つ顔色の悪いガキがぴょんぴょん跳び跳ねていた。信じられないくらい楽しそうだ。

 不思議なことに、どう見てもイコルアではないのに、イコルアに思えて仕方ない。と、ガキが俺秘蔵のエロ本を取り出しこっちに向かって振り始めた。


「は、はあぁぁぁぁぁ!!?」


 思わず縛られた手で檻を掴んでしまった。あれは確実にイコルアだ。確信した。


「オ、オルゲルタ金貨……ですか?」


 キッシュナーが戸惑っている。聞いたことのない金貨だからだろう。


「そうだよ! 世界三大金貨の一つ、オルゲルタ金貨! ガルベール金貨なんかより何百倍も価値があるんだよ!!」


 イコルアの得意気加減は異常だ。

 ていうか良いとこのお坊っちゃんだと思っていたが、そんな金貨を8万枚もポンと出せるなんて、実はどっかの王子かなんかだったのか?

 にしては放置され過ぎている気もするが……いやいや、それより姿が変えられるってことは高位魔法使いの可能性が高い。


「ええと……」


 キッシュナーがヘンズの親っさんの方を見た。すると呆けていた親っさんが高速で頷き始める。金の知識が豊富な親っさんには、イコルアの言っていることが本当だとわかるのだろう。


「で、では、オルゲルタ金貨8万枚で156番様の落札です!!」


 歓声とも困惑とも取れるざわめきの中、イコルアもとい顔色の悪いガキは、悠々とステージ袖へ歩いていった。

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