第52話 何して遊ぼう
▼26.08.23誤字修正
素材屋さんを出て、僕は真っ直ぐ商店通りへ戻った。角栓を売ったお金で約束どおり買い物をするためにね。
先ずウンディーネ族の美味しいお水屋さんで、お洒落な瓶に詰められた高級魔力水を買って一気飲み。
「ほわわ〜。魔力染み染みだねぇ〜」
これはクランバイア魔法王国にある深い深い樹海を移動する清らかな泉から汲んだエデスタッツ水っていう天然水で、とっても濃い森と水の魔力がこれでもかってくらい混ざってるんだ。しかもウンディーネ族の力で水精霊の魔力も込めてある特別製。
あまりにも美味しいからおかわりしちゃったよ。ちなみに片手で持てる大きさの瓶一本でリローナ小金貨七枚。僕を見る店員さんの目が一瞬だけ狩人みたくなってたね。でもすぐにこやかになって「今後ともご贔屓に」って言いながらおまけのアクアキャンディをくれたよ。
そして揚げ本屋さんでは、色々迷ったけど蠍兎図鑑の唐揚げを頼んだ。原初の大迷宮図書館でのみ入手できる食べられる本の丸揚げは、表紙がバリバリしてて食感が楽しいし、他の部分はジュワッと美味しい本汁が溢れてきた。特に挿絵のあるページは蠍兎の丸焼きがぽいんっと出てきて最高も最高。
僕はもう大満足で、これもおかわりした。二個でリローナ金貨一枚。超高級品だ。どうりで誰も並んでないわけだよ。
それからおかわりをもぐもぐ、ぐびぐびしながら町を色々見て回る。
「何して遊ぼうかなぁ?」
よく考えたら僕って遊びっていう遊びをしたことないんだよね。しいて言うなら、録音の魔道具に爆弾仕込んだり、蝶々畑にアオミノイモムシを放ったりくらい……う〜む。
歓楽街へ行こうかな。いやでも、そういうとこって遊びとはちょっと違う気がする。
「遊ぶって難しいんだなぁ」
とりあえず広場にあったベンチに座って揚げ本を平らげる。お洒落な瓶はロイとオルへのお土産にするからポケットにしまっておいた。ユックには火属性のものがいいだろうから別のにするつもり。
それから、遊びについてああでもないこうでもないって考えてると、女の子が走って行くのが見えた。少し遅れて追いかけるお父さんは必死の形相だよ。たくさん汗もかいててさ。子守って大変なんだなぁ……。
「あ、そうか!」
遊びといえば子どもじゃん。子どもにどんな遊びがあるか聞いけばいいんだ。なんなら一緒に遊んでもいい。相場は知らないけど、遊び代は一人につきリローナ大銀貨一枚でいいんじゃないかな。
「よ〜し!」
僕はベンチからぴょんっと降りて走った。平民の居住区を目指してね。そこの路地裏とか広場に、遊んでる子どもがたくさんいると思うんだ。
貴族街に行かないのは、貴族の遊びをするには金貨数十枚じゃ心許ないと思ったから。あと偏見かもだけど、なんか嫌な生意気さがありそうなんだよね、貴族の子どもって。
「あ、でも待てよ……」
ふと、気付いて止まる。
見知らぬ子供に突然声をかける大人って、はたから見たら完全に不審者だ。絶対良からぬことを企んでるとか思われそう。
「いやでも、ちゃんとお金を払うわけだし……」
きっとお礼の他に、そういうことじゃないよって示す為のお金でもあると思うんだよね、遊び代。ヒトの町はお金がすべてってつまりそういう意味も含んでる気がする。
まあそれでも誰かに何か言われたら、そのヒトにもお金を渡せばいいか。
ヒトとのトラブルの九割はお金か暴力で解決可能って本に書いてあったからね。お金でダメなら殴って黙らせればいいんだよ――と、思った瞬間、テント生活の中でロイたちに言われたことが頭をよぎった。
『記憶の連結を活かそうって気がまるでねぇな』
『この世間知らずが』
『ガキでもわかるっての』
どれも僕の非常識を責める言葉だ。
一人ならまだしも三人が口を揃えてそう言うなら、そうなのかなとも思う。
でもさ、言っちゃなんだけど、ゴロツキと不良と子どもスリ師の常識が、世間一般のそれと合致してるとは到底思えない。
う〜ぬ……と、考え込んだ僕に声をかけてきたヒトがいた。やたら身なりの整ったお兄さんだ。隣にお姉さんもいる。見たところ二人はちょうど馬車から降りてくる高そうな服を着た夫婦のお付きっぽい。
「道を空けていただけますか?」
言われて気付いたけど、僕は入口も窓もない十六階相当の建物に挟まれた裏路地へ続く道のど真ん中に立ってたらしい。そりゃ邪魔だよね。
「あ、ごめん」
そう言って道を空けると小さく礼をされた。
お兄さんたちは夫婦を守るようにして裏路地へ進んで行く。
それなりの身分だろう夫婦がこんな裏路地に何の用が……って眺めてたら、歩いて行く四人の姿が陽炎みたく揺らめいてスッと見えなくなった。
「はわぁ、ルタン式浮遊魔法だ」
転移したと見せかけて、透明になって高速上昇するあの浮遊魔法はルタンっていう金属系スライムの固有魔法。つまりあの中にヒトに化けたルタンがいたってことになる。屋上に何があるんだろう。遊べる場所かな。
「……ん?」
気になって見上げた先、というか途中に小さな看板を見つけた。十階部分だ。ほとんど壁と同化してるけどコニュ商会って書いてある。
確かコニュって異世界の言葉だと有名って意味だはず。あんなわかりにくい場所にあるのに「有名な商会」だなんてちょっと可笑しい。
まあ商会名を付けたヒトは絶対知らないはずだから、違う意味なんだろうけど……げっ、違法奴隷のお店だ。
コニュの正しい意味を知ろうと看板を解析したら、嫌な情報を得ちゃったよ。
違法奴隷かぁ……気分がさがるなぁ…………あ、閃いた。僕、閃いたよ!
こういうお店は絶対たくさん子どもを商品にしてるはず。そういう子たちに遊びって何すればいいか聞けばいい。そしたら周囲から変な目で見られないよ。だってお店の中は見えないもん。
「入り口は屋上かな?」
さっきの四人みたく僕も浮かんで屋上に来てみたら
、どデカい立派なツリーハウスがあった。同じものが裏路地を挟んだ向こう側の建物の屋上にもある。ツリーハウス同士は吊橋みたいな渡り廊下で繋がっててて……なんだ。コニュ商会とはまったく関係ないのか。
解析したら伯爵令嬢の隠れ家だってわかった。
わざわざこんな所に隠れ家を作るなんて、貴族の考えることはわかんないね。
屋上には階下へ降りる階段とかもない。僕はさっきの看板の所へ来てみた。う〜む、看板だけか……あや? 看板の隅っこに1ミクロンくらいの模様が掘ってあるぞ。
「この模様は……」
フラテリス教会のシンボルだ!!




