3/4
3. いなくなったのは
その日、駅前のガラスに映った自分の姿を見て、ふと立ち止まった。
スーツを着て、スマホを握って、笑顔の仮面をかぶった「自分」。
でも、その中に、あの夢で見た草原の風のような、自分の“声”はなかった。
そうか。
いなくなったのは――誰かじゃない。
あの頃の自分自身だったのだ。
人を笑わせるのが好きで、音楽を聴いて泣いたり、空を見て意味もなく立ち止まったりしていた、
そんな、誰よりも自分のことを生きていた「わたし」。
社会の流れに合わせて、失くしたまま気づかないふりをしていた。
でも、本当はずっと、あの頃の自分が、風になって、呼びかけてくれていたのだ。