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1. 誰かを探している
気づけば、毎日同じような景色の中にいた。
駅までの道、コンビニの店員の声、カフェのカップから立ちのぼる湯気。
すべてがそれなりで、どこかに綻びがあるような、でも見つけられないような。
「……誰かを忘れてる気がするんだよね」
同僚にそんなことを漏らしたら、曖昧な笑みが返ってきた。
「最近、疲れてるんじゃない?」
違う。そんなことじゃないんだ。
胸の奥が空洞みたいで、そこにいた“誰か”の名前も、顔も、思い出せない。
でも、風が吹くたびに、かすかにその人の声がする気がした。
「大丈夫だよ」
「ここにいるよ」
そんな声が、確かに耳の奥で響いていた。