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Episode 4

大体、まだ正式に魔法寮へ入寮したわけでもなんでもない半人前どころか、卵の殻でも被っていてもおかしくない十二歳の魔法使いを悪霊退治に狩り出すとはどういうことか。それもちょっと街にクコの実でも買ってこいとお使いを頼むぐらいの気安さで、だ。


「それを孫にいうのがどうかと思うんだがッ!?くそっ!あの爺、絶対帰ったら毛根死滅する呪いかけてやる!!」


ラルヴァに追いかけられながら、鷹に祖父の無情を訴える。



「わかったから反撃しろぉ!!馬鹿者ぉぉぉぉお!!!!」



羽根が舞い散る勢いで鷹も鷹で全力飛行している。いくら廃墟といっても元々はいずこかの貴族が暮らしていたのか屋敷はそれなりの広さを保っていた。ぼろぼろになった置時計や彫像を蹴飛ばし、色の薄くなったカーテンを撥ね退け鷹とシリウスは逃げ惑う。


その後ろをラルヴァが追いかけてくるのだから、なかなかにぞっとする状況である。

屋敷を支えているであろう柱もぼろぼろと何本か真っ二つに折れており、その度に天井からもばらばらと石屑が舞い落ちてくる。


「う、わっ!」


すると、突然シリウスがつんのめって倒れた。暗くてわからなかったがダイスのようなものに引っかかったようでつまずいてしまったのだ。


「あいてて…くそ」


もろにぶつけた額を押さえて涙目になるシリウスの頭上を、急停止はできないラルヴァが飛び越えて行って柱にぶつかる。その衝撃で劣化した石壁にひびが入り、ばらばらと天井から先ほどよりも多めに落ちてくる。

どう見ても倒壊寸前だ。


「おいおい、しっかりして頂きたいものだな?嫡孫殿」


呆れ顔の鷹にひと睨み返すと、シリウスは跳ね起きるとラルヴァと対峙した。

振り返って、かちかちと大きな歯を鳴らして、ラルヴァが近づいてくる。

シリウスは呼吸を整えて、魔力(マナ)(めぐ)らす。


「……静寂せよ(イス)


ぴたりとラルヴァが動きを止めた。シリウスは胸元にかけていた石をはずすと、しっかりと手に握りこんだ。


闇よ去れ(エクスペリノクス)!」


痛いほどの霊気がラルヴァから迸る。それは、刺すように鋭くシリウスへ襲い掛かる。が。彼の手の中の石が輝き、銀光が波動を跳ね返す。


「ほー…少しは上達したか?」


茶々をいれる鷹に裏拳をお見舞いして、シリウスは懐から一枚の呪符を取り出した。


浄化(フェブルオ)せよ!!」


呪文もろとも放たれた符は、ラルヴァのちょうど額にあたると、まばゆい閃光を放った。

凄まじい咆哮が響き渡った。ラルヴァが叫んでいる。


「………喉なんざとっくに腐っているだろうにどっから声を出しているのだ?」


「どうでもいいわッ!!」


きょとんと首を傾げて鷹が素朴な疑問を口にすると間髪入れずシリウスが怒鳴った。


瞬間、ラルヴァの輪郭がぼやけた。大きなラルヴァ。大きなタウンハウスの天井に届きそうなほどな、そのラルヴァの実体は。


「はっ?ちょっと…おい待て!」


さすがに驚愕したシリウスは後ずさる。ラルヴァはもともと正しく埋葬されなかった者や、生前に悪行を働いた者の霊であり、通常であればひとと同じ姿かたちをしていることが多い。間違っても屋敷の二階まで届きそうなものではない。ただ、今回この屋敷に現れたラルヴァはその彷徨ってる数多のラルヴァが集まり、負の感情などで、変化したものだった。悪霊、怖い。


「ほらな、シリウス 低級(ざこ)だっただろ?」


「こんな時に暢気(のんき)だな!」


巨大化ではなくなったが、無数のラルヴァが窪んだ眼でこちらを凝視しているのも空恐ろしいものがある。


「なにも問題などない。お前がさっき放ったであろう呪文でこいつらは変化が保てなくなったのだから、ほっといたらまた勝手に墓地をうろつくだけの存在に戻るだろうさ」


羽根を竦める鷹に呼応するように、無数のラルヴァは奇声のような咆哮と黒い煙を出すと、あちこちの調度品と彫像を吹き飛ばして、四散していった。


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