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Episode 2

「シリウスッ!」

叫び声でシリウスははっと我に返った。

眼前に迫るあぎと。正体は悪霊(ラルヴァ)のはずだ。そもそもラルヴァは元来悪霊の一種で正しく、冥界へと埋葬されなかったが故に地上を彷徨っている力の弱い低級の霊でこのように、まかり間違ってもひと一人をくわっと丸呑みにできるほどの大きな口を持っていたり、またその図体が天井に届きそうだったりはしないはずだ。確か。

そしてそれが大きく上下に開いて、シリウスは眼を剥いて思わず叫んだ。



冗談ではない。あんなものでざっくり噛まれてしまえば自分の胴体などあっさり分割されて、即刻冥府(めいふ)行きではないか。反射的に右足を後ろに引いたシリウスはカッソーネの裏蓋に思いっきり足を引っ掛けてしまい、見事仰向けにすっ転んだ。その頭上をラルヴァが飛び越えた。がちがちと歯を鳴らす音が不気味に響く。もしかして倒れていなければあの歯にがちがちとやられていたのではないだろうか。万歳の体勢のまま考えてシリウスの額に冷や汗が流れた。きっとこういうのを怪我の功名とか言うのだろう。ひとつ勉強になった。しこたまぶつけた後頭部と背中が結構、かなり痛いがそこは忘れよう。


「シリウス!立てッ」


鷹はシリウスのブリオーの裾を(くちばし)でくわえて、引っ張る。慌てて起き上がるシリウスをその黒い羽根を広げて思いきり、突き飛ばした。非常に小気味いい音を立てて。


「う、わっ!」


突然突き飛ばされたシリウスはごろごと横に倒れこんだ。


「なにすんだッ!この…」


たまらず文句を言おうとしたシリウスがいた場所にラルヴァが突進してきたではないか。見事カッソーネに突撃し、カッソーネは木端微塵に砕け散り、その衝撃で壁に穴は空き、天井からもばらばらと細かい欠片が零れ落ちてきた。


「………ぉお」


シリウスは思わず口元を引き攣らせた。そんなシリウスの傍らにぱたり、と鷹が降り立つ。心なしか胸を張り、その羽根を器用に腹に当てている。


「よくぞ現れたな!ラルヴァよ…今宵私たちの前に現れたことこそが貴様にとって最大の不運よ!ここで会ったが百年目!」


「おおっ!お前特になにもしてないけどいいぞベティ!もっと言ってやれ!」


なにやら口上を述べ始めた鷹に、シリウスがやんやと声援を送る。なんか前に街でこんな光景見た気がする。気のせいかもしれないけど。


「三日に渡ってこの私の睡眠を妨げ、虫と格闘させた罪は重い!貴様なぞ私が手を下すまでもない!この今は未熟極まりないが血筋だけは立派なたぶん将来的には立派な魔法使いのシリウス・ブラックウェルが見事に討伐するだろう!」


その内容にシリウスはずっこけた。鷹は鷹でどーん、と効果音でもつきそうなほどの、どや顔でその美しい黒羽根をラルヴァに突き刺している。


どういう意味だこのやろう。この鷹。


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