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Episode 1

がたがったんというやたら派手な音が彼の声に重なった。思わず立ち上がった拍子に身を潜めていたカッソーネの蓋が勢いよく、飛んで行ってしまったのだ。ぱっと開けた視界。


ときは夜半をかなり過ぎたころ。草木も眠るような時刻で、ところは今にも崩れそうな廃屋敷。かなりの年月が経過していた屋敷の壁はぼろぼろと崩れ、屋根にもぽっかりと穴が開いており、そこからぼんやりと月明かりが差し込んでいる。


暗くて窮屈だったカッソーネのなかとは打って変わった解放感で、シリウスはぎっと左後ろを睨んだ。


「なんっっっどもいうけどな、あんたの基準でものを言うな!チキンにするぞこのやろう!美味しく焼いてやるぞこの鳥!」


「己の基準以外なにを物差しにしろというのかね?お前こそその発言を改めろ 小童」


ばさり、と羽音を立てる生き物がシリウスの真横でその目が眇められた。それはそれは実に尊大に、偉そうに。その体躯は鳥にしては大きいが、パッと見の種類でいえば、鷹だ。全身を纏う羽毛は闇を溶かしたような漆黒。ぱちりとした眼には金線(ルチル)が浮かんでる。尾は長く細い。真っ黒でふさふさした胸元には翠玉が煌めく。ずいぶんと可愛らしい姿だが、これはもちろん鷹などではない。言語を操る鷹など存在しない。これは幻獣、もしくは魔獣や使い魔(サーヴァント)と呼ばれるものだ。本魔獣(ほんにん)は否定しているが。シリウスの付けた「ベティ」も不本意らしい。本人的には。だが、おおっぴらに呼ばれるよりはマシ、となにかを諦めた鷹は、不本意ながらそう呼ばれている。


ぴしり、と鷹にしては細く長い尾を揺らして鷹は目を眇めた。


「おい」


「なんだよ」


「前」


「あぁっ?!」


お前は下町のチンピラかと言いたくなるような風情で返して、シリウスはひくり、と口元を引き攣らせた。


その目と鼻の先にいる悪霊(ラルヴァ)

すっぱりきっぱり綺麗に忘れ去っていたが、そもそも本来の目的はコイツなのだ。


咄嗟に動けなくなっているシリウスを尻目に、悪霊は窪んだ眼をぎょろりと、動かしたかと思うと、そのあぎとをぐわっと開いた。

おおよそ、低級な邪霊に似つかわしくない様子で。




♦ ♦ ♦


月影歴が開始のち、およそ三百年ばかり過ぎたころ、中央の都では数多の邪霊、魔獣などがひとびとの安寧を妨げていた。その際、無力な唯人(だだびと)である人間は助けを求めた。魔力をその身に宿し、言葉に力を込め、不思議を使う所謂、魔法使い(・・・・)に。


基本的に彼らは不可侵を保っていた。唯人は魔法使いを恐れ、魔法使いは彼を見下していたが故に、だ。

ひとは、人族(ヒューマン)と自らを呼称し、魔法使いを魔法族(マギ)と呼称し、明確にその線を引いた。ひとはひとの王を頂き、魔法族は魔法族の王を頂いた。彼はそれで領域を保っていた。ただ、どうしても人族では解決できない事柄を魔法使いに依頼し、報酬のもと解決するということは行われている。そして、魔法族の中でも王家と呼ばれる家柄がある。魔力も強く、絶対的な()が。それがブラックウェル家。

その嫡孫であるシリウスは非常に名高い父と、祖父がいる。そのせいか、彼はあまり生家を好ましく思ってはいなかったが、その魔力、血筋は紛れもなくブラックウェルの血であり、覆るものではなかった。そんな彼は近々、一度目の成人を迎える。魔法族では七つまでは神の子であり、いつその身元に戻っても不思議ではないという考えがあり、そのため一度七つの年を区切りに、子の成長の儀を執り行う。その五年後に健やかな成長を祝い、それを一度目の成人の儀としている。近々執り行う予定ではあるのだが、その吉日の占術は祖父が行うことになっていた。

確かに一生に一度のことではあるので大事なことではあるが、本人にとってはそれよりも、今後大人の世界へ飛び込むにあたって言われることを考えるほうが不愉快であった。ブラックウェル家は偉大な魔法使いの家柄であり、祖父も父も非常に高名である。まだ、正式に成人をしておらず公に出ていなくともシリウスはよくこう呼ばれるのだ。あのブラックウェル(・・・・・・・・・)と。本人的には非常に不本意ではあるが。



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