Episode20
「俺は未確認魔法生物かッ!!」
後から後から見物にきた魔法使いの多いこと。多いこと。
「ま、仕方ないな。そもそも刺激が足りないんだ 物珍しいものがあったら見に来るだろうさ お前だって街の新発売の変わり種のサンドウィッチとか見に行くだろう?諦めろ」
話の肴にされるのは仕方ないという慰めなのだろうが、もう少しマシな喩えはなかったのだろうか。サンドウィッチって。鷹が一応、たぶん、そう慰めるとシリウスは斜に構えて肩を竦めた。
「ハッ 別に構わねぇし?将来俺が大魔法使いって呼ばれようが、当主になろうがあんな奴ら助けてなんざやらねぇだけだ」
口元を皮肉気に、酷薄とも取れるように笑ませて、口にするシリウスの相貌は恐ろしく整っていた。こういうところは、カストル殿の孫だよなぁこいつ。と鷹はひっそりと息を吐いた。
「まぁ、そうなるように努力が実を結べばいいな」
ぽんぽんと羽根でシリウスの肩をたたいて、鷹はたたんであったシリウスのシャツを持ってきてやった。ローブを脱いで、上衣を脱ぐとシャツに着替えた。真っ白い無地のものだが、生地は上質なので着心地はいい。これからは魔法寮ではローブを着て過ごさなければならない。ローブの中央に留められた宝石はシリウスが生まれた時に手にしていたものだ。祖父はブラックオニキス、父はスモーキークォーツ。母はアメジストだ。ブラックウェル家はその家名に似つかわしく、大体のものが黒い宝石を持って産まれる。なのでシリウスの宝石は実は珍しい。その所為か心無いことをいうものを一定数はいた。そんな輩は人族、魔法族問わずにカストルとオリオンが、処したらしいが詳しくは知らない。そもそも顔が親子三代揃ってそっくりなのに、よくもそんなことを口に出せたものだと、呆れたものだ。客を見送るのにもう一度ローブは着なければならないが、シリウスは中央の宝石の場所がどうにも気に入らずに、他の場所ではだめなのかとあーでもないとこーでもないと思考しているところで、ふいに、ひとの近づく気配がして、気づいた鷹が顔を上げると同時に、ルーカス・アウストルが顔を覘かせた。酒が入っているからだろうかほんのりと紅い顔をしているが、彼が本来持っている精悍さは失われてはいない。後見人の手続きが終わった後も、なにくれと世話を焼いてくれ、人族のことには疎いシリウスにいろいろと教えてくれるルーカスにシリウスは素直にいいひとだなぁという感想を抱いた。人族にはやや、辛口な鷹も「こいついい奴だな」と思わずつぶやいたほどなので相当なのだろう。
「ルーカス殿?どうしたんですか?」
応接間を覗くと、ルーカスは眼を瞬かせて首を傾げた。
「いや、君と誰かの話し声が聞こえた気がしたんだけど…誰もいないから…」
室内には着替えたシリウスだけだ。
「私の気のせいだったようだ…そんなに飲んでないはずなんだがな」
ルーカスは唯人なので、とくに鷹が視えるということはない。鷹はルーカスが視えていないのをいいことに、なにやらシリウスの肩に乗って、無駄にその周囲をうろつきだした。
「ふーむ…やはり人族には基本的に視えないようだな。 この美しい黒羽根が視えないとは業腹だな……少しは努力したらどうかとは思うが。シリウスと話ていたのもこの私だというのになんて残念なのか…特別に魔法使いの屋敷に招かれた稀有な人族に積もる話でもしてやろうと思ったのだが」
なにが積もる話だ、と突っ込みたいのは山々だが、ここで突っ込むわけにはいかない。アレッサンドロとのやり取りの二の舞になってしまう。あのときはオリオンがうまく取り成してくれたから、ことなきを得たが、ここには生憎シリウスと元凶の鷹しかいない。ここで下手に怒鳴り散らして、頭のおかしい魔法使い認定されて折角決まった後見人に距離を取られてしまったら中々に切ないものがある。




