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迸る紅光にセヴェーロは何度目かの嘲笑を零す。―――どこまでも実直で愚かな男、とセヴェーロは内心息をついた。どうしたって交わらぬものはある。喩え、長きを過ごした友であったとしても。あの陽だまりで、セヴェーロとグレンは友だった。確かに、親友であった。待っていたのがこの今であったとしても。
セヴェーロは杖先をグレンに向ける。迫りくる紅光に築いた不可視の壁がみしみしと音を立てた。息を整えて集中すればつきり、とどこかが傷んだ気がした。セヴェーロの口元が歪む。凄絶に、冷酷に。アレはなんだ。セヴェーロは自問する。アレは―――。敵だ。セヴェーロは自答する。
ならば、答えはひとつだ。
みしり、と木々がざわめく。風が、雲を連れて行き、闇が顔を見せる。ヴァルプルギスの夜が―――。炎が揺らめく。紅光が、緑光が迸る。
セヴェーロの杖下が、何も無い空間に突き刺さる。
「ッ!?」
その感覚にセヴェーロは目を瞠った。かちり、とどこかで錠が開く音がした。―――そう、確かに開いたのだ。
♦ ♦ ♦
ひどく長い刻だったように感じた。ねっとりと重く、絡み付いてくる澱んだ気が漂う闇の中、それは眠っていた。その時が来るまで。それがいつかなどわからない。
どれほど長い刻だっただろうか。その闇にそれはどれほどたゆたっていただろうか。ふいに、その眼開いた。
くつり、とその口元を笑ませてそれは嗤う。――――ああ、はじまる………。
それは嗤う。嗤う、嗤う。ねっとりと昏い澱みに、闇にその瘴気に抱かれて、それは嗤う。
……ああ、はじまるのだ。
ヴァルプルギスがはじまる。
それは歓喜した。これでようやく、叶う。それは嗤う。うっとりと、その美しく艶めかしい血のように赤い口元を笑ませて。うっそりと愉しそうに嗤う。
声が聞こえる。………、せ。
「………ええ。」
それは応えた。甘くとろけるような声音で。それを取り巻く闇が霧散する。長い長い漆黒の髪が翻って踊る。それはそれは愉しそうに。
……せ。頭の中に声が響く。ずっと待っていた声だ。それは、女は嗤う。その口元を、まるで恋をする少女のように笑ませて、嗤う。
「仰せのままにいたしますわ……我が君……」
風が舞う。雲が踊り、木々がざわめく。女は闇のなか、舞い始めた。優雅に、あでやかに。降魔の舞を。
それは悪霊を、悪魔を、闇の眷属を喚び出すものだ。
女は舞う。それはまるでワルツのように。まるで神に奉げるように、女は舞う。
それは例え昼日中であってもひとの目に映ることはなかっただろう。そこは深い谷だった。深い、裂け目のある底の見えない数多の骸が打ち捨てられた呪われた地。
ひとびとが、忌むべき場所なのだから―――。