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序 1/2

「…本当に行くのか?」


硬い声音(こわね)が問いかければ、暗闇の中、風に紛れてそっと諦念を含んだ息が漏れた。


「何を今さら…君がそう望んだんだろう?」


「っ違う!俺は…!」


「なにが違う?相容(あいい)れない、と私を爪弾(つまはじ)きにしたのは他ならぬ君だろう?」


肩を竦めて答える声は侮蔑と、嘲笑(ちょうしょう)を含んでいる。ぱちぱちと、時折火が()ぜる音がして、明るい炎が揺らめいている。炎が人影を照らす。男だ。長身で、炎が照らす肌は健康的。たくましい体躯(たいく)の青年だ。髪は肩に届くくらいの長さだが、ざんばらで整ってはいない。色は深紅(しんく)色。顔は精悍(せいかん)そのもので、すっきりとした双眸(そうぼう)(いろど)るのは緑黄色(レモンイエロー)。衣服は黒いローブを纏い、中央を紅玉が彩っている。


ぱちりと火の粉が舞う。揺らめく炎が反対側の人影を照らした。見た目の背丈は青年と同じくらいだ。上背(うわぜい)はある。肌は白くやや、 不健康にも見える。髪は長く、首の辺りで一括りにしており、その色彩は闇に溶けるような漆黒(しっこく)。切れ長の双眸(そうぼう)は髪と同じ漆黒だが、灯りが照らす眸には金線(ルチル)が浮かんでいる。(まと)う衣服は同じような黒いローブだが、中央の装飾だけは異なる。翠玉が炎の明かりを弾いて煌めく。


「…セヴェーロ、俺は…!」


「…グレン…君がなんと言おうとここで終わりだ。私たちの道が交わることは二度とない」


黒針金線(ブラックルチル)緑黄色(レモンイエロー)射抜(いぬ)く。冷たい、温度のない眼が、そのままセヴェーロの心情を表していて、グレンは無意識に下唇を噛んだ。


どうしてこうなってしまったのだろうか、と目の前にいる友を見る。同じ志で、共に歩んで来た道は今、別たれようとしている。他ならぬグレンの手で。


ぱちり、と炎が揺らめく。風がざわめいて、まだ若い木々たちを揺らす。何度も何度も話してきた。その度に、口論になり他の友人たちを巻き込んだ。グレンは、ぐっと覚悟を決めるように息を吐いた。(おもむろ)に手を(かざ)すと、淡い光が煌めき形を成す。細い杖のようなものが現れて、一瞬でその形状を変えた。剣だ。柄頭(ポメル)は丸く、美しい金色。握りはグレンの手にぴったりと馴染んでいる。(キヨン)剣身(けんしん)に対し、造りは繊細だ。剣身は繊細な鍔に比べるとやや、無骨だ。銀色が(にぶ)(きら)めく。


くつり、とセヴェーロが喉を鳴らした。本当に、実直な男だと。清廉潔白(せいれんけっぱく)を是とし、曲がったことを嫌悪する。好ましかった彼の性情(せいじょう)が今は憎らしい。セヴェーロも(なら)うように手を(かざ)す。緑の光が煌めき、形を成した。グレンのように細い杖は同じだが、そのあとの形状が異なっている。杖だ。先ほどまでの細いものとは違い、しっかりと形を成している。


素材は木の枝を使用されているが、滑らかな光沢感があり、その色彩(しきさい)は持ち主同様に漆黒。肩に届くか届かないかの長さで、中間辺りがカーブを描き、持ち手の部分に何やら動物の頭部になっていて、その少し下には緑と銀の飾りが風に(なび)いている。奇妙なのは杖下だ。地面についている先端はまるで鍵のような形をしている。


とん、とセヴェーロが地面を叩く。その音を皮切りに、周囲の空気が震え出す。ざわざわと風が吹き(すさ)び、木々がざわめく。杖を通して、セヴェーロの全身から緑の光が立ち上がった。長い髪が揺らめき彼が(まと)うローブが(ひるがえ)る。グレンは剣を握り直し、中段に構えた。それと同時にグレンの全身からは紅い光が立ち上がる。


閃光が弾け飛ぶ。同時に、グレンは地面を蹴ってそのまま、構えを上段に切り替え袈裟懸(けさが)けに振り下ろす。


セヴェーロは舌打ちとともに、振り下ろされた剣撃を杖で弾いた。ぎぃん、と鈍い音が(とどろ)く。


グレンの剣から紅い光が斬撃となり、セヴェーロへ襲いかかる。


「ッ…守護せよ(アルジズ)!!」


舌打ちとともに、セヴェーロが呟く。その瞬間、緑光が(ほとばし)不可視(ふかし)の壁がセヴェーロを包んだ。


爆発せよ(フラルゴ)!!」


剣を再び上段に構え、不可視の壁を薙ぎ払うようにグレンが叫ぶと同時に、周囲が爆発に包まれた。

木々が燃え盛り、そこにいた動物たちが鳴き声を上げて逃げ惑う。


「…なんということを」


ぎり、と歯噛む。この森にはたくさんの生き物がいる。動物も、そうでないものも(・・・・・・・・)

彼らは無事ではすまないだろう。その際のことを考えてセヴェーロは(かぶり)を振った。考えてはいけない。杖を一振りすれば緑光(りょくこう)が立ち上がり、水流が迸った。


凍てつく吹雪(イス・ヒエムス)よ!!」


杖をグレンに向け、唱えれば水流が瞬く間に細かい氷に変わり、辺りを吹雪(ふぶ)かせた。たちまち、辺りが凍てつく。


「…くそっ」


一瞬で変わった景色にグレンが舌打ちした。相性が悪すぎる。彼の実力は知っている。嫌になるほどに。だからこそ、残念でならない。なぜと、問いただしたくなる。そのたびに交わらぬ返答にぶつかり合ってきた。それ故の今だ。


グレンは息を吸い込んだ。そのまま八相(はっそう)に構える。呼吸を整えて、前を見据(みす)えた。黒針水晶がまっすぐに見てくる。グレンが持ち得なかった(・・・・・・・)もの。覚悟を決めると、グレンはそのまま剣を振り上げた。紅光が奔流(ほんりゅう)する。


「セヴェーロォォォォォ!!!!!!」


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