第43章 読み上げ
夜も更け、エドモント西区のフランクリン邸はますます賑わいを見せていた。絹のカーテンが夜風に揺れ、水晶のシャンデリアが照らす黄金の広間では、詩と理想がワインの香りに乗って交差していた。
「……では次、ピーターセン教授の『帝国の挽歌』です」
評論家エリック・スノウが一枚の羊皮紙を取り上げると、場の空気がほんの少し引き締まった。
「鷲の翼、鐘楼をかすめ、血のような夕暮れに空を染める……」
静寂が支配する。詩の冒頭から放たれる荘厳な比喩、歴史の崩壊を描く語り口に、客たちは思わず聞き入っていた。
「ふむ……これはまさに壮大な崩壊美ですね」
マクシム教授が顎髭を撫でながら頷いた。
「古典的なカロシア様式とは一線を画しているが、悲劇の中に気品がある。まさにサリム派の影響を感じさせる、重厚な叙事詩だ」
「ピーターセン教授らしい風格ですわね」
イザベラ・ホワイトがうっとりと微笑んだ。
「帝国の黄昏を描きながらも、単なる嘆きに終わらず、“残響”を残す……。こういう詩は、心の奥に残ります」
「……にしても、ちと格式ばってる感も否めませんな」
エリックが渋い顔で言う。
「この雰囲気、サロンというより大学の講義だ。もう少し、熱のこもったものが欲しい」
「それなら……こちらはいかがでしょう?」
マクシムがもう一首取り上げた。今度は短い、軽快な四行詩。
「“港の猫は潮の味を知る だが魚は詩を知らぬ 詩人は空を仰ぎ 財布の中身を忘れる”……」
場内にくすくすとした笑いが広がった。
「これは……誰の作品?」
「カロシア南部の若手、止水氏のものだそうです。形式は新大陸の風刺詩に近いが……ユーモアと皮肉が見事に調和していますね」
イザベラも小さく笑った。
「海の味を知る猫に詩人の財布……。皮肉の効いた風刺ですわ。まるでリチャード年鑑の一節のよう」
「ですが、内容だけならともかく、技巧的にはやや荒いかと」
マクシムは真面目に眉をひそめる。
「四行詩は本来、短くとも一点の鋭さが要る。“面白い”だけでなく、“残る”詩こそが上質です」
フランクリン博士はその様子を静かに見守っていた。彼にとって詩の議論はただの娯楽ではない。そこには時代の感情が、精神が、そして未来への兆しが宿っている。
「さて……次は、少し異質な詩ですね。こちら、『黎明の誓約』……筆者名、ウェーバー?」
エリックが首を傾げる。
「この男、商人では? 詩なんて書けるのか?」
マクシムも驚いたように顔を上げた。
「彼の名前で詩を見るのは、初めてですな」
「読むか、スノウ先生?」
「ええ、もちろん」
エリックが咳払いし、読み上げを始めた――




